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ハズレ勇者の気まま暮らし  作者: 桜惡夢
~Another World Life~
33/34

御仕事


 この世界に来てから四ヶ月。120日が経った。

 まさか、童貞だった自分が50人以上の妻を持ったり、妊娠する事になるとは想像もしていなかった。

 うん、最初はね。途中で開き直ったのは言うまでも無い事です。そうじゃないと無理ですから。

 そして、もう二ヶ月もすればローザさんが出産を迎え、俺の最初の子供が生まれる事になる。



「…………ん?」



 懐かしむ様に振り返っている中で。ふと、其処で何かが引っ掛かった。

 何が引っ掛かった?

 妊娠の進行が倍速なのは可笑しいけど、母子共に異常や悪影響は見られない。問題は無い。

 ……其処じゃない?



「………………あ」



 何に引っ掛かったのか判った。気付いてしまった。

 そして、思わず頭を抱えたくなった。


 普通、妊娠したと判るのは受精卵が着床してから一ヶ月程度は経過してから。それまでは判り難い。

 今の俺には【鑑定】という手段が有るけれど。


 ローザさんは現在、妊娠六ヶ月(・・・)相当。

 通常なら、三ヶ月という所だ。


 ──が、よくよく考えると可笑しい。

 妊娠が判ったのが(・・・・・)、三ヶ月前。

 つまり、本来なら、今は妊娠四ヶ月(・・・)

 倍速だと、八ヶ月(・・・)相当でなければ可笑しい。

 そして、それはローザさんだけではない。妊娠している全員が同じ状態だと言える。


 何故、そんな事が起きるのか?

 俺が勇者だから──ではない。俺のスキルが原因だ。

 恐らく、スキル【種蒔き】は人体にも有効なんだろう。ジョブスキル【耕す】が夫婦の営みを介しローザさん達、母体の状態を整えて、子種が確実に育つ様にする。

 その為、着床した翌日には妊娠が確定する。

 ある意味、種が繁栄する為のスキルだ。


 ──が、恐ろしいのは、其処ではない。

 多分だけど、【耕す】と【種蒔き】の効果は種族的には勿論の事、年齢(・・)という壁にも有効な気がする。

 そう、ファナさん達も妊娠が可能という事に。


 ……それは流石に困る。

 いや、ファナさん達はマリアナさん達の母親だけど年齢自体は三十代後半から四十代の半ば。見た目も綺麗だから全く問題無い。問題無いから問題なんです。

 だってほら、仮にファナさんが妊娠した場合、その子はマリアナさんの弟妹になる訳なんですけど、俺の子供でも有りますから、マリアナさんにとっては子供という事にもなる訳なので……ややこしい事に。

 どう考えても、子供達が混乱します。その前に俺もね。だから、そういう事態は避けたい。

 孫を可愛がる方向で落ち着いて貰いたいと思います。

 その為、この事実は俺の胸の奥に秘めて置きます。




 はい、何故かバレました。何故だーっ!?

 ──という展開には成らず。あー、良かった。

 まあ、ローザさん達の様に人数が少なくて、年齢が上の種族の女性が相手となれば、妊娠した時点で、その事はバレるんでしょうけどね。それまでは黙っていましょう。自分で自分を追い詰める趣味は有りませんから。



「旦那様?」


「ん? どうした、エメ?」



 何かを察した様なエメの反応に、何も無かったかの様に知らんぷりをする。

 すると、「何でも有りませんの」と笑顔で返すエメ。

 我ながら上手く誤魔化せたと思う。


 エメは妊娠した事で今は畑仕事──作物の管理と調整を任せている状態です。勿論、俺もチェックはしています。任せきりにしてしまうと、俺の仕事が本当に子作りだけになってしまいますからね。


 そんな俺達の今の一番の目的は品種改良。

 エメの能力では、この世界に存在する、或いはしていた植物であれば何でも生み出せるが、品種改良は出来無い。俺の能力も同じだ。

 また、【領主】としての権限でも生命の創造は不可能。支配力は絶対でも、出来る事は万能ではない。


 しかし、一般的な品種改良の方法は可能。

 通常なら、数年、或いは数十年を費やす所を、俺とエメによる共同作業で大幅に短縮する事が出来る。

 実際に、幾つかの品種改良は成功しているし、現在品種改良中の物も数多く有る。


 ただ、野菜や草花等とは違い、樹木系は時間が掛かる。主に果樹関係の品種改良になる。

 まあ、それでも圧倒的に早いんだけどね。


 因みに、同じ様に品種改良という意味では難しいのが、食用肉となるモンスターの方だろう。

 元の世界の牛や豚や鶏等みたいに家畜化するアイデアも出たんけど、全員が戦闘能力の低下を懸念した。

 うん、俺とは気にするポイントが違った。

 ただ、皆の言っている事は理解出来る。

 この世界は弱肉強食が基本であり、全てだと言える為、懸念した理由は自分達ではなくて子供達や未来の事。

 有事の際に抗う力が無ければ。力が有っても、力を使う為の技術や経験が無ければ。待っているのは滅亡だ。

 自分達が直面していた問題だからこそ、憂慮する。

 当然と言えば当然ですね。俺とは違う訳です。


 話し合った結果、当面は現状維持。しかし、家畜にする事に適した種類──草食で、大きさや繁殖力等が飼育する上で村の負担にはならないモンスターが居たら、要検討。将来的には安定した供給が出来る方が良いですからね。

 皆、飢餓や味気無い食事を知っています。

 そして、村の食事を知っています。

 ええ、もう戻れませんし、失いたくはない。

 だから、家畜化に反対は誰もしていません。飽く迄も、憂慮しているだけなので。



「それよりもミイムに仕事が出来て良かったですの」


「まあ、そうだな」



 エメが話題を変える様に話をするので逆らわずに乗る。墓穴を掘るつもりは有りませんから。


 皆が妊娠している為、水中でも活動が可能なミイムには暫くは探索隊には参加して貰う。

 だけど、村の中でミイムにしか出来無い仕事──役割が有る方が良いのは間違い無い。

 ──で、一応だけど、見付かった。まあ、現状は一時的になんですけどね。何も無いよりはマシなので。

 それが、この前のウォーターカッターを活かした石材の加工作業をして貰うという事。

 加工の対象が石材だけなのは仕方が無いんです。現状、他には特に使う素材が有りませんから。

 また、威力が威力ですから、専用の作業場を新設して、其処でしか使わない様に言って有ります。

 戦闘でも使用を制限しました。だから、この加工作業はミイムの威力調整の練習も兼ねています。


 ──で、ミイムが加工している、その石材なんですが。かなり、大量に有ります。

 何故、そんなにも必要なのか。

 それは色々と苦労も有ったけど、こうして現在が有り、未来が繋がったという事を皆が神様に感謝し、その祈りや供物を捧げる為の神様を祀る──崇める為の祠──は地味だからと神殿を建造する事になったから。



「私は旦那様を崇めたかったですの」



 そう不満そうに呟くエメ。

 はい、そうなんです。最初は神様ではなく、俺を崇める為という意味不明な理由から始まりました。

 そういうのって、俺の死後に遣るんじゃないの?

 そう言ったら、「それだと私達の感謝が示せません」と言い切られた。

 「いや、感謝は毎日、感じていますよ?」とは思っても言えませんでした。皆の眼が恐かったので。


 しかし、俺は嫌だった。マジで。

 だから、この世界へと俺を導いた神様に、となった。

 ……結構、渋られ、抵抗された事は闇に葬る。

 もし、神様が見ていたら嘆いていそうですけどね。

 大丈夫。後世には残しませんから。

 事実は伝えても、全てを伝える必要は有りませんから。知る必要の無い事は消し去るだけです。


 個人的には後々の修復等も遣り易いので木造も有りだと思ったんですけど、石造りに決まりました。

 その後、切り出しや加工の話となり、俺がミイムが活躍出来ると考えて提案した、という流れです。




 エメと雑談をしながら建設現場に。

 木製の安全ヘルメットを被った作業員達を、同じく安全ヘルメットを被ったアルビナスが指揮している。

 俺以外だとアルビナスが一番、建築物に詳しかった為、アルビナスが現場監督に決まった。


 まあ、神殿の設計図は俺が描いたんだけどね。

 基本は古代神殿風の前方後円墳型。

 村の地面から5メートル程高く土を盛り石階段を設置。それを上ると神社の様に大鳥居が参拝者を出迎える。

 鳥居は[真朱海砂]という海底から採取した綺麗な砂を固めて造った接ぎ組み無しの物。材料は砂だけど、風化で崩れたりはしない。鮮やかな朱色も色褪せたりはしない。個人的にも気に入っているし、良い出来だと思う。


 大鳥居からは50メートル程の参道が延び

ており、その両脇には幅20メートル程の空き地。奥──外周部に桜や紅葉の様な落葉樹を植えてある。

 広いのは後々、お花見等が出来る様に考えての事。


 参道を進むと石階段が有り、更に5メートル程高くした場所に直径30メートル程の礼拝堂が有る。

 高さ8メートルの円筒状の上に半球(ドーム)状の屋根。

 石階段から入り口までは装飾が彫刻された石柱が並び、頭上には木製のアーチ状の屋根が有り、適度な木漏れ日を参拝者の頭上から落としている。悪くないな。

 まだ扉や内装は出来てはいないが、雰囲気は十分。



「主様、エメも来ておったのか」


「今、来た所だよ」



 「……何じゃ、エメも一緒か」と一瞬ではあったけど、アルビナスが言外に反応を見せた。

 エメも「一緒ではいけませんの?」という無言の笑顔。うん、威嚇してるね。

 「何方の気持ちも判るから、睨み合わない」と言う様に両手で二人を抱き寄せる。

 ……アルビナス、甘えてくれるのは嬉しいんだけどね。うん、ヘルメットが痛い。



「ところでさ、この世界の神様って?」


「ん? 妾に訊かれても困るが?」


「……え?」



 てっきり、アルビナスは何処かの国で見た事が有る、と思っていた。うん、まあ、アルビナスは一言も神様の姿を知っている様な事は言ってはいなかったね。

 だから、更に年長者であるエメを見るけど、静かに首を横に振られてしまう。



「私も存じ上げませんの」



 …………どうしよう。

 このままだと肝心な物が無い神殿になってしまう。

 ……何かないか?

 この際、何でもいい……訳ではないけど、こうなったら背に腹は代えられない。それらしければ妥協も出来る。



「……え~と……神像の代わり──御神体に成りそうな物とかってないよね?」


「少なくとも、妾達には無いのぉ」


「そうだよなぁ……」



 つい、この前までモンスターだったアルビナス達だから信仰心なんて無い。いや、有っても宗教的な考え方だとか遣り方──擬似的な神格化した対象を奉るなんて事を遣る文化自体が無い。

 ローザさん達は……種族毎に違うと面倒だよなぁ……

 もう、思い切って抽象化するとか?

 或いは、自然信仰にするとか?



「そう悩む事も無いじゃろう」


「何か良い考えが有るの?」


「簡単な事じゃな。主様が造れば良かろう」



 そうアルビナスに言われ、自分を指差す。

 アルビナスが頷き、エメを見ても頷かれる。

 そっか、俺が造ればいいのか。何だ、簡単な話だな。

 はははっ…………



「──はあっ!? 急に責任重大になったんだけどっ?!」


「旦那様なら大丈夫ですの」



 エメ、そう言ってくれるけど、根拠は無いよね?

 根拠の無い信頼って殺意にも等しいと俺は思う。



「まあ、妾達が造っても構わぬが……主様は出来上がった物を見て文句を言うじゃろうな」


「……俺が?」


「うむ。妾達にとっては主様こそが神に等しい存在じゃ。因って、自然と主様に近い姿になるじゃろう」



 ………………うん、そうなったら出来上がったのを見て文句を言う自分が想像出来るし、負けるって言い切れる。そして、「俺が造れば良かった……」って思うな。

 そう考えると、最初から俺が造るべきなんだろうな。



「それに妾達よりも主様の方が、その存在を感じ取り易いじゃろうからのぉ」


「どうして?」


「妾達の人化は世界の定めた掟であって、神の力に因ってではない。元は神の力によるものじゃったとしてものぉ。それよりかは勇者として召喚され、認められた主様の方が神の存在を感じ易い様に思う」



 そうアルビナスに言われ、考えてみる。

 確かに、俺の方が神の姿を成し易いのかもしれない。

 …………いや、上手く誤魔化されてない?

 ………………誤魔化してなんていない、と。そっか。

 …………仕方が無いか。

 此処まで造ったのに、別の用途を考えるのも悔しいし、皆にも申し訳無いしなぁ……

 気が重いけど、頑張るしかないか。



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