美味しいだけじゃない
これまではローザさん達が一番純粋──というか無知で俺の方がリードする程度で、他の皆は初めてでも本能的に理解しているのか……まあ、積極的で激しかった。
ミイムは無垢過ぎる──と思ったけど、彼女も種の始祖なんだと思わずにはいられない。
最初──と言うか、一回目こそ完全に受け身だったが、二回目からは自分が何をすれば、より効果的に俺から子種を貰えるのかを考える様になっていた。
勿論、ミイムにはその手の経験も知識も無い訳だけど、学習能力の高さと、何よりも素直さが大きかった。
……うん、仕方が無いと思う。
だって、「どうしたらもっとして貰えるで~す?」って潤んだ瞳で見詰めらろたらねぇ……
誤魔化せる男は居ないと思います。
はい、何だかんだと教えた結果、スライムらしく貪欲でエッチな妻に進化しましたとさ。
「ホッホッホッ、流石は主様よのぅ」
「文句を言いたいけど、何も言えないぃ……」
ローザさんにミイムを唆させた──いや、可笑しな事を吹き込ませたのはアルビナスの策だと判ったけど。
アレが有ったから俺もミイムに対して受け入れ易かったという事実も有る。もどかしい。
そして、ローザさんが妻の総意の決定権を持つとすればアルビナスは名参謀か名軍師だろう。
自然と最適なポジションに収まっている気がするな。
だからまあ、軽い愚痴を言って終わり。後に引き摺る事なんて有りません。俺自身が手を出した訳ですからね。
昨日の今日だけど、ミイムは村に馴染んでいるみたいで俺達としても一安心。昨日の話を聞いた感じだと不安しか無かったから……杞憂に終わって良かった。
それで、今はミイムを連れて村の皆の仕事を見て貰う。正直、スライムって食べる以外の特技が思い浮かばない。流石にゴミ処理は仕事にさせられないしなぁ……
抑、その必要が無い。俺が肥料にするから。
──ああ、でも、探索隊としては活躍してくれる筈だ。人化しているけど、ミイムは身体操作──軟体化が出来る事も有って小さな隙間にも潜り込める。元はスライムだ。どう動けばいいのかも判っている。
また、スライムには呼吸器官が無い。人化した今は有るけど、ミイムは【呼吸不要】のアビリティ持ち。その為、探索という点に関しては一番万能だったりする。
前者は始祖の力、後者は種族固有の力。
俺も【呼吸不要】の恩恵を得ているので探索力アップ。今後の活躍に期待です。
「……………………のぅ、主様」
「皆まで言うな、アルビナス。言って遣るな」
「……それも優しさじゃのぅ……」
そっと、天を仰ぐアルビナス。
目を細め、憂いを帯びた表情は儚く見え、美しく思う。思わず抱き寄せてしまった程に。
でも、手をズボンの中に入れようとするから台無しだ。いや、求めてくれるのは嬉しいんだけどね。せめて状況と場所は考えて欲しい。野外で衆人環視の中でも気にせずに平気で盛れる御猿さんじゃないから。
ミイムは赤ん坊……幼子の様に無垢だ。
だから、きちんと理解が出来る様に此方等が教られれば意外と物覚えは良い。
まあ、最初から判っていた訳ではなくて、何度かの職場体験での失敗を経て俺が気付いた。失敗続きで流石に落ち込むミイムを放っては置けなかったからだ。
その結果、失敗していた事も出来る様に。
ミイムを通して教育の在り方・難しさを感じた。
「……主様、出来る事は良いのじゃが……」
「……うん、判ってる」
アルビナスと二人、ミイムの様子を見ながら思う。
村の仕事というのは殆んどが各々の種族特性を活かした事が多い。特に俺の妻以外の住民の仕事はね。
俺の妻達──特にアルビナス達は始祖であり、一人だけという事で専門職化している。村全体の相談役ポジションであるアルビナスが特殊なだけです。
──で、ミイムの特性を活かした専門職を考えたけど、これと言って思い浮かばないんです。スライムの特性等を聞いても活かせる仕事が……うん、難しい。
取り敢えず、当面は探索で頑張って貰おう。
既に何度も経験している事ではあるけれど、海中での探索というのは気が抜けない。
地上であれば、接近されない様に注意する所というのは物陰や頭上、稀に地中となる。
しかし、海中──水中では全方位が警戒範囲となる為、気を抜けば簡単に隙が生じる。
地上とは違って水中では接近に気付き難い為、その隙は致命的に成り易い。
勿論、その為に複数人で行動している訳なんだけれど。それでも油断していい訳ではない。
──ないんだけど……現実逃避したくなる。
「…………村長、どうしましょうか?」
「う~ん……どうしようか……」
戸惑う様な、呆れる様なネーレイア族の男性からの声に俺は即答は出来無かった。
俺達の視線の先ではミイムが悪魔風のクジラと戦闘中。劣勢という訳ではない。圧倒している。
そういう意味では心配はしていない。
このクジラ──[ディープヘルズホエール]は本来なら水深500メートル以下が棲息域らしい。ただ、こうして稀に浅瀬に上がってくる個体も居るそうだ。
まあ、浅瀬とは言ってても、水深200メートル近くは有るんだけどね。
因みに、ネーレイア族は水深600メートル辺りまでは潜れるらしい。其処から先は、個人個人の力量次第の領域なんだとか。水深600メートルでも十分に凄いけどね。伝承だとネーレイア族の始祖は水深1000メートル以上潜れたそうだ。マリアナさんが出産後に挑戦したいらしいけど無理はしないで欲しいと思う。
──で、そのクジラが此方等を捕食しようとして接近。迎撃しようとして──ミイムに確認。
俺やネーレイア族の皆には判別は困難だがミイムになら可能であり、アルビナス達からも教わっている。
このクジラが皆と同じだったら俺が倒すべきですから。尤も、妻の数自体は間に合っているんですけどねぇ……
始祖化──新種族の誕生というのを知ってしまったら、ただ殺すという訳にはいかなくなったので。
──で、ミイムは「アレはでっかいだけなので~す」と言ったので、内心では一安心。
それで探索隊──海中探索の為、ネーレイア族のみだが皆に「それじゃあ、狩ろうか?」と訊いたら、顔を青くしながら「……え?」という反応をされた。
簡単に話を聞くと、過去に一族が遭遇し、喰い殺されて多くの犠牲者を出した、という話が伝わっており、一族の間では「見たら逃げる」が鉄則なんだとか。
通りで静かだと思った。
初見だけど、刷り込まれた恐怖心が混乱を招いた訳だ。知らないって、こういった弊害を生むよね。
──という訳で、ミイムが狩る事に。
俺は万が一の時の為に皆の護衛役です。立場がどうこう気にしている状況じゃないですからね。
しかし、件のクジラは巨体だ。体長40メートル以上、幅は7メートル以上、高さも5近く有る。
捕食者側には間違い無い筈だが、その鰭は鋭く、全身に薔薇の棘の様な毒針が有る。それらから推察すると、このクジラを捕食する存在が居る可能性が高くなる。規格外な生態系ですが、驚きはしません。「異世界だな~」だって思うだけです。そう思うしか有りませんからね。
ただ、そのミイムとクジラの戦闘によって、大きな渦が出来ていて、色んな魚介類や海藻等が巻き込まれている。勿論、勿体無いから【空蔵の鍵環】で回収します。
さて、そのミイムの戦闘スタイルなんですけど、以前がスライムだったからなのか肉弾戦がメイン。しかし、以前とは違って取り込んだり、齧り削るという訳にはいかない為なのか、意外と攻め切れていない様に見える。
……ああ、皆にも、そう見えるんだ。良かった。
いや、良くはないのか。長期戦となると周囲への被害が凄い事になるだろうしね。
仕方が無い。少しアドバイスしてみるかな。
「ミイムーっ、海水を吸い込んで、口からビューって勢い良く吹き出してみろーっ!」
「判ったので~す!」
返事をするとミイムは自然とクジラから距離を取って、俺が言った通りに海水を吸い込んだ。
ミイムの身体──上半身が威嚇するフグの様に膨らむ。うん、凄い格好だな。
多分、肺にではないと思うけど……まあ、肺に入ってもミイムに限っては問題無いか。
膨らむのが止まると、ミイムの尖らせた唇の隙間から、物凄い勢いで収束された海水がクジラに向かって放たれ、容易く重厚な皮膚を貫いた。
それを見た皆からは驚きの声が上がった。
水中でも軌道──直進した軌跡が残る程の高圧縮された水撃は想像を超えていたんだろうね。
俺達には馴染みの有るウォーターカッターも開発当初は常識としては鼻で笑われる様な理論だったけれど、努力し技術として確立させた人達は凄いと思う。
勿論、それは、あらゆる技術・学術に言える事。
だから、誉められたりすると居心地が悪い。それを俺は流用しただけですから。
まあ、この世界では初めてなのかもしれないけど。
ただ、それでも簡単には死なないのがモンスター。
まあ、威力が高いからピンポイントで狙わないと一撃で仕留めるのは難し……流石と言うべきなのかな?
反撃しようとするクジラを見て、ミイムは一撃で倒せる急所を狙って、仕留めた。
力無く動きを止めるクジラ。浮くのか、沈むのか。悩む様に小さく揺れている。
「アイクさ~ん! 遣ったので~す!」
笑顔で手を振るミイムに手を振り返しながら、クジラを回収する。収納出来るから死んでます。
皆は騒付きながらもミイムの強さに納得している様子。まあ、アルビナスやジステラと対峙してますしね。強いと判ってはいるんだと思います。
……そう考えると俺が一番自覚が無いのかも。
──なんて悩んでいる所にミイムが抱き付いてくるので抱き止めて誉めます。
……御褒美? それは帰ってからね。
其処、「我々の事は御気に為さらずに」とか言わない。ミイムが本気にするから。あと、俺が困るから。
──なんて言って笑いながら今日の探索は終了する。
「ほぉ……これは良いヘルズホエールじゃな」
「知ってるの?」
「妾達の様に長く生きておると、食に対する興味は一度は強くなるものじゃからな」
そう言ってアルビナスがジステラを見ると照れながらも肯定する様に苦笑する。
大丈夫、食い意地が張っているとかは思わないから。
俺自身は勿論、生きていれば、美味しい物が食べたいと思う事は当然だと思うから。
勿論、美食が贅沢なのも確かだ。その日の食事でさえも有るか判らない様な状況とは違うのだから。
それでも、美味しい物を食べられたら嬉しい筈だ。
美味しい物を食べて不快に思う者は居ないのだから。
「──とは言え、以前は生のままでの丸齧りじゃからな。どう料理されるのか、楽しみじゃ」
そう言って俺を見るアルビナス。ジステラもか。
う~ん……鯨肉って食べた事無いんだよな~……
食材として売られている事も食べられている事も一応は知ってはいたけど。中々口にはしないから。
竜田揚げ、甘辛煮、刺身……燻製?
……いや、取り敢えず、解体して、一切れ食べてみて、それから考えよう。その方が確実だから。
「実は知ってたとか?」
「いや、その様な感覚は無かった。それに妾達には影響は全く出ておらん。影響が有ったのは……」
「……男だけか」
それも経験者の成人男性のみ。
子供達には影響は見られなかった。
……まあ、その……何か、バッキバキになったんです。其処、俺の場合は変わらないとか言わない。これでも結構焦ったんだから。
今は絶倫な自覚が有るから、鎮まるか不安になったし、相手をした皆の事も心配だったから。
俺も皆も大丈夫だったけど。
だからと言って、クジラ肉を欲しがらない様に。
食材・料理としては美味しかったけど。俺以外の男性の疲労困憊具合が目に見えて判るから。勘弁してあげて。
抑、影響は無かったんだよね?
……それはそれ? 夫の逞しさを前にして我慢が出来る訳なんて無い? 仲睦まじい事で。
取り敢えず、強制──いや、精強効果が高いと判った。今後は村の発展に役立ってくれる事だろう。
……今、纏めた所だから……今朝の火照りが?
判ったから、外で取り囲むのは止めてね。それを許すと歯止めが効かなくなるから。




