御約束
パフィアさん達が新たに村に加わって数日。
多種族の集まりだからこそ、受け入れるのも早い。御互いに大変な経験も有るし、過去も有るという共通点も有りますから共感する部分も大きいんでしょうね。
そんなパフィアさん達、ミルキシア族ですが、ミルクの提供という大役以外ではどうなのか。
その特性からなのかミルキシア族は体幹が強く、肩から腰に掛けての筋肉が柔軟であり強靭。肩凝り・腰痛知らずだそうでパフィアさん達が「腰が立たなくなるという経験は私達が一族としては初めてだと思います」と蕩けた表情で言っていたのが印象的でしたね。エロかったので追撃しましたが。
そんな訳で、敏捷性には欠けますが、身体は力強くて丈夫。ローザさん達と同様に狩りも得意でした。意外。
大体の事は【加工】【熟成】で出来ますが、スキル頼みだと技術的な確立には成りません。だから、色々と試している中で醤油・味噌造りを御願いする事にしました。
妻達ばかりだから、御互いに話し易いですし、何か有った時にも連携し易いからです。
まあ、一番の理由は力仕事であり、継続が大変だからですがミルキシア族は妊娠中でも問題無く働ける程、強い身体なので中断等の心配をしなくていいからです。
……はい、本当はパフィアさん達から「遣りたい!」という希望が有ったから任せたんです。味に感動したから。
まあでも、どうしようか悩んでいた所だったので、遣りたいという気持ちを尊重した形です。誰かに託さないといけない事でしたからね。
……ああ、それから素朴な疑問も解決しました。
パフィアさん達が胸が晒されている様な格好だったのは単に着る物が限られており、簡単には入手出来無かった為でした。出来れば隠したかったそうなので、ジステラに服を頼む際には強調していました。
あと、俺の視線に対して動じなかったのは鍛練──イメージトレーニングの成果であり、本当は恥ずかしかった、と本人が語っていましたが……その姿は卑怯なまでに可愛かったので、沢山可愛がってしまいました。てへ。
──という様な感じで特に問題も無し。
俺は今日もネーレイア族の探索隊を率いてダンジョン探し。今は休憩の為に砂浜に上がっています。
海中でも休憩は出来ますが、気分的に海から上がって太陽を感じたかったから。
ネーレイア族の皆も、ずっと海中に居るよりは普段は陸上で生活している方が、海の有難さや大切さを感じるからと言って海に居る時間は僅かです。
決して、長い放浪を思い出すからではないそうです。
「判ってはいた事だけど、中々見付からないな~」
「そうですね、村長。我々も長く海の中を放浪してきましたが海中にダンジョンが有るという事自体が、先日の件が初めての経験ですし、初耳の事でした」
「普通に考えると、ヒュームの勇者に潜って探すなんて真似は難しいし、遣ろうとも思わないだろうしな~」
「私達でも海の中に存在するとは考えた事が有りませんから」
「……そう考えると、やっぱり不思議だよな~……」
「──と仰有いますと?」
「あのダンジョンもそうだけど、元々、其処に存在していたのだとしたら何も可笑しくはない。その可能性を考えて探すか、ネーレイア族の様に海中を探索出来る者に協力して貰える様な勇者であれば、見付け出す事は出来るよね?」
「そうですね」
「でも、もしも、あのダンジョンが後天的な理由──例えば、俺が【領主】に成った事で出現していたとしたら?」
「…………それはつまり、村長の為のダンジョンだと?」
「勿論、ダンジョンだから他の勇者も攻略は出来る筈だけど、攻略しても勇者の力を高めるだけだからね。領地を得られる訳じゃないから……」
「そこまでしては探さない、という事ですね?」
「そういう事。だから、結局は領地を得るという目的が無いと探さない様に場所だったと思うんだ」
「確かに……ですが、そうなると、他も普通は行けない場所や探さない様な場所に有るという事に?」
「そう単純ならいいんだけど……裏を掻かれる気もするしね」
「ダンジョンを探し出す事も一つの試練、という事ですね」
「そんな感じなんだろうね」
そう言って、空を見上げる。
神様が居て、でも、天に居るとは限らない。
それでも見上げるのは、人が自分よりも偉大な存在に対して見上げるというのが染み付いているからなんだろうな。
そして、回答の無い問いを投げ掛ける時、見上げるのもね。神様が答えてくれないって判ってるから。
……まあ、答えられたら、それはそれで困るんですけどね。だってほら、絶対に魔王討伐を遣らされるんでしょうからね。だから無回答でいいんです。今のままでいいんです。
「────ぅわあぁああぁぁぁっ!?」
──と、唐突に聞こえた叫び声──悲鳴に身構える。
側に居た皆も立ち上がり、俺を守る様に位置取った。
そして、目に入ったのは──
「…………クラゲ?」
ネーレイア族の男性の下半身を飲み込む様にして取り込んだ半透明な巨大なプルプルの物体。
場所が場所だから、直ぐに思い浮かんだのが、砂浜に行くと偶に打ち上げられていたクラゲの姿だった。
だから、深い意味は無い。
「いえ、そんな筈は有りません。クラゲなら──」
「──って、助けないとっ!」
思わず、「……え?」ってなったけど、冷静に訂正してきた女性の声を遮って駆け出す。
──が、そのクラゲ?は男性を接近しようとした俺に向けて吹き飛ばしてきた。
ペッ! ──という感じで。
脱出しようとしていた男性は「ええっ!?」と驚く。俺もだ。そして背後からは「村長、避けて下さいっ!」という女性陣。彼の扱いが酷くない?
そう思いながらも避け──擦れ違い様に男性の腕を掴んで、往なす様に回転して砂浜に着地させる。
「あ、有難う御座います!」
「走れるな? なら、一旦距離を取る」
男性を救助出来た為、直ぐ様、方針転換。
皆の所に下がり、警戒しつつ観察する。
「村長、恐らくですが、アレはスライムではないかと」
「ああ、そうか。確かに、それっぽい──って……え?」
「疑問に思われた通りです。通常、スライムはクリーチャーでダンジョンの外には存在しません」
そう、この世界でのスライムというのはクリーチャーであり生物──モンスターではない。
だから、此処には存在する筈が無い──んだけど……確かにダンジョンで見たスライムと特徴は合致する。
意味不明な状況だけど。
取り敢えず、特殊な存在である事には間違いが無いので俺が倒す事に為りました。
決して、皆が捕まっていた男性がベタベタになっていたのを見たから、嫌がったという訳では有りません。違います。
翌日、その場所を訪れてみたら、全裸の美少女が居ました。はい。やっぱり、こうなるんですよね~。
「“スラヴィス族”のミイムで~す。宜しく御願いしま~す」
世が世なら、その口調を真っ先に指摘され、直す様に厳しく指導されているんだろうな……と思う。ノリが軽い。
水色の肌に髪、赤い眼、身長は140台半ば位と小柄。
気になる特徴は肌の色よりも、まるでジェル状の何かの液を被った様な髪。しかし、触ってみると、一本一本バラけるし、サラサラしているから面白い。何コレ。
話を聞いた所、ミイムは遠い昔、ダンジョンで勇者を殺しに殺していたら、気付いたらダンジョンの外に放り出されていたらしい。そんな事が有るんだ。信じ難いけど。
その後、最初は勇者を探して殺していたけど──飽きた。
うん、ちょっと返す言葉に困った。
アルビナス、同意しなくていいから。勇者の悪口や酷評等で盛り上がらないで。事実だとしても複雑だから。
え~と……それで、ミイムはどうしたんだ?
…………遊び相手を探した? …………え? 遊び相手?
「は~い、そうで~す。全力で遊べる相手を探して彼方此方と移動したので~す」
「…………ミイム、ダンジョンの外に出た時、最初に居たのは何処だったか覚えてる?」
「ん~~~~…………………………あっ! 何か変な奴が一杯居て群がってきてた場所だったので~す」
「変な奴? どんな風に?」
「勇者と戦っていたので~す」
「勇者と? それって……」
「ミイムよ、其奴等だがな、此処──額の真ん中に灰色の角を持ってはおらなんだか?」
俺が一つの可能性を思い浮かべ、しかし、確認する術が無く悩むと、アルビナスがミイムに、そう訊ねた。
鼻筋の縦線と、眉と生え際の真ん中辺りの横線が丁度、交差するという所を指差しながら。
「は~い、持っていたので~す」
「主様、ミイムが見たのはインベーダーじゃな」
「そうなの?」
「インベーダーは色や姿形等は様々じゃが、それだけは全てに共通しておるから間違い無い」
「それじゃあ……」
「ミイムが最初に居たのは中央──北大陸じゃろうな」
北大陸……オルガナ族の国が有った地か。奇妙な縁だな。
ただ、北大陸は殆どが魔王領──インベーダーに征服された場所だから、其処に有ったダンジョンに居て、潜って来ていた勇者達を相手にしていたのなら……ミイムが強くなるのも当然なのかもしれないな。最前線なんだから勇者達も強い筈だし、返り討ちにしていれば……ねぇ……
「それで、ミイムは遊び相手が見付かったの?」
「ぶ~~……見付からなかったで~す」
「それじゃあ、ずっと探していたの?」
「それも飽きたので寝る事にしたので~す」
…………どうしよう。滅茶苦茶で自由過ぎる。いや、無邪気だから仕方が無いんだろうけど……純粋過ぎるな。
そして、だからこそ怖いし危ういと思う。
……アルビナス? …………自分達が教育するから大丈夫? 信じる・信じないって事じゃなくて、逆に歪まないかな? それも含めて任せろと……判った。宜しくね。
「ミイムは寝ていたんだよな? それがどうして彼処に?」
「判らないで~す。気付いたらプカプカしていたので~す」
「プカプカ……海に浮いてたって事?」
「そうで~す」
「ミイムよ、其方が眠っておった場所の事なのじゃがな、人が何と呼んでおったか覚えておらぬか?」
「ん~~~~……………………………………しゅぽっぽぽ?」
「機関車?」
「きーかんしゃって何で~す?」
「あー……それは……」
「ミイムさん、“シュプッペルポ”では有りませんか?」
「そうソレで~す!」
「マリアナさん?」
「南大陸の南東にある王国です。規模は確か、カロナオ王国と大差が無かった筈です。ミイムさん、どんな場所で眠っていたのか景色等は覚えていますか?」
「おっきな岩山の上の方で~す。森と草原の中に綺麗な七つの湖が見えていたので~す」
「間違い有りません。王国の北岸に面した“ワチャド尖峯”がミイムさんの眠っていた場所でしょう。南側には“ピリパ七湖”が有りますから条件が揃います」
「……ミイム、どんな風に眠ってたんだ?」
「真っ白い冷たい土を食べて穴を掘って寝ていたので~す」
真っ白い土……冷たいんだから石灰とか、白土じゃなくて、雪って事かな?
雪なら食べて穴を掘るのは簡単だろうから。
「マリアナさん、その山って積雪は?」
「山頂付近だけは、ずっと白かったので……恐らくは」
確か、聞いてた話だと南大陸って温暖な地域だったよね? 有ってる? それじゃあ、其処で年中白いって……標高が滅茶苦茶高いって事だよなぁ……ミイム、恐ろしい娘。
当時はスライムだった訳だけど。
ミイムに御菓子とジュースを与え、話し合う。
「つまり、ミイムは眠っていたけど、その間に本人──本スラ自体が氷結するかして、何かしらの要因によって山頂付近から移動──落下して、海に落水。そのまま海を漂流している内に氷が溶けて、気付いたら浮かんでいた、という事?」
「まあ、主様の言った通りじゃろうな。正確な事は判らぬし、確かめれぬが」
……何と言うか、壮大な感じがするのに、何処か間の抜けた愛らしさを感じるのは…………ミイムだからかな。
皆も俺と似たり寄ったりな感想なんだろうな。顔を見れば、そんな表情をしているのだから。
──という事で、ミイムが家族になりました。
うん、それは良いんです。俺が殺した訳ですから。ちゃんと責任を持って受け入れます。
しかし、そのミイムさん。スライムだった為、雌雄──男女関係の概念や知識が有りません。
ちょっとおっ! 名前を授ける時に、ちゃんとした知識等もセットで授けておいて下さいよっ!!
…………何故でしょうか。
「自分色に染めるのがいいんじゃない」という声が聞こえた気がして苛っとしました。
否定はしませんが、無知に突け込んでというのは違います。ちゃんとした知識と理解の上で、染めるからいいんです!
……いや、違う。違わないけど、違う。うん、違う違う。
「アイクさ~ん、此処に下さいで~す」
ミイム、止めなさい。いや、合ってますし、他の皆は確かに遣ってますけど、真似をするには早いから。
あと、誰に聞いた? …………くっ、ローザさん……何故、こういう時に、その面倒見の良さが発揮されますかね。
……正妻だからですよね。判ってます。
「今頃、主様は困っておるじゃろうな」
「……アルビナス、本当にアレで良かったのか? 私としては流石に的外れな気がしたのだが……」
「構わぬ構わぬ。ミイムも本能では判っておるからのぉ。一度主様に抱かれてしまえば、後が楽になる。自ら知りたいと思う様になれば素直に話を聞くからのぉ」
「……アイクが文句を言いそうだ」
「大丈夫じゃよ、主様は話せば判るし、きっちりミイムの事も可愛がってくれるからのぉ」




