積み重ねて成る
それは見えない膜とでも言えばいいのか、或いは空気の層と言う方が近いのか。その辺は人によって異なるのかもしれないが。
小さな抵抗感の潜り抜けて進んだ先に。一変した景色が広がっていた。
「……これが本物のダンジョン……」
想像の中の物ではなく、現実に存在する実物。
当たり前ではあるけど、そう思ってしまう。
縦2メートル、横1メートルの長方形の出入口の先に在ったのは、高さ3メートル、横幅2メートルといった所の楕円形の岩肌の洞窟。
真っ直ぐな一本道の様だが、緩やかに上っている事も有って先は見通せない。
ただ、こういったダンジョンだと下って行く様なイメージが有るからか、若干の違和感も覚える。
それは兎も角として。
出入口が自然型だった事には少し安堵する。
煉瓦造りの通路の様な人工的な遺跡型の場合には高難度のダンジョンの可能性が高いらしいので。
攻略が困難なダンジョンに挑み続ける程、生活に余裕が有る訳ではないですからね。無理だと判れば早々に見切りを付けるのは当然。だから、存在する事を知っているだけでも、未練が生じますからね。攻略可能な方が嬉しい訳です。
「……それにしても不思議だよな……」
ダンジョンは“外部から隔離された空間”であるとされています。
その一つの要因が時間で。ダンジョンに入る前と出て来た時では時間の経過が殆ど無いそうです。
ダンジョンの中では体感的には普通に感じますが生体時間──寿命という意味では進んではいないと考えられています。確証は無いそうですが。
もう一つが、外側から見た時の出入口の特徴的。それなのに中は親切な仕様で明るい。
ただ、奥に進めば暗くなる事も有るそうなので、その場合には光源が必要になります。
「…………ああ、成る程ね、だから明るいんだ」
何と無く、【農者之眼】を使ってみると、洞窟の壁には“光苔”が付いている事が判りました。
パッと見では気付けないし、手触りも普通の岩肌なので知る術が無ければ先ず判らないでしょう。
改めて、アビリティに感謝です。
そんな事を考えながら、壁の光苔を小瓶に採取。栽培する事が可能みたいなので。
そんなダンジョンの壁を見ながら──持ってきた鍬を振り上げて──弾かれました。
“ダンジョンの壁は破壊不可能”との事ですが。もしかしたら、自分のジョブ【農夫】でだったら、可能かもしれないと思いましたが……駄目でした。
まあ、ダンジョンは勇者を鍛える試練の様なものですからね。楽をさせては貰えませんか。
気持ちを引き締めて緩やかな上り坂を進む。
他は岩肌なのに足下は土。滑ったりはしないので助かりますが、地中からの奇襲が有る可能性を常に警戒しなければいけないので何方等が良いのかとは言い切れないのが正直な所です。
「────っ!」
真っ直ぐな一本道を進んだ先──坂道の一番上になるだろう場所の手前に居座る様に見えた存在。
“クリーチャー”。
ダンジョンにしか存在しない存在であり、倒すとゲームの敵の様に魔素化して消失。魔石を残す。
稀に素材をドロップする事も有る。
何より、倒す事によって勇者は経験値を獲得し、レベルを上げる事が出来る。
モンスターや人──盗賊等のゲームでは敵であり社会的害悪の犯罪者等──を幾ら倒しても、勇者は経験値を獲得する事は出来無い。
モンスターは自然の一部であり、人の為の勇者が人を手に掛けてしまう事は矛盾でしかない。
そういう意味では当然だと言える。
その為、勇者の成長にクリーチャーは必要不可欠であり、クリーチャーを生むダンジョンも同様。
尚、ダンジョンの中にモンスターは入れない為、住み着いたり繁殖したりは出来ません。
因みに、勇者が倒す事で経験値を獲得出来るのはクリーチャーの他に“インベーダー”が居ます。
インベーダーは魔王と、その配下、或いは眷属の総称です。つまり、勇者が倒すべき存在。だから、倒せば経験値を獲得出来るのは当然。
まあ、自分には無縁な存在ですけどね。
そんな訳で、クリーチャーを初めて目にします。まあ、ダンジョンに入る事自体が初めてなんだから当然と言えばなんだけど。
初遭遇のクリーチャーは定番とも言える存在で、見た目も名前もイメージ通りの“スライム”。
ただ、スライムだからと言って弱いとは限らず、自分が勝てるとも決まってはいないので要注意。
そう本に書いて有りました。
一応は勇者なので、その辺りの事が書かれている基本知識本を貰ってので暇な時間に読んでます。
ハズレ勇者でも、ちゃんと遣る事は遣ってくれた点には素直に感謝します。
そんな訳で、初めてのクリーチャー戦。気合いを入れて行きましょう。
「────────え?」
──という事を考えていた頃が懐かしい。
まさか【ウォータースピアー】一発で倒せるとは思いませんでしたから。
「……あの本、何処まで信憑性が有るんだろ……」
そんな疑問を懐いている間にも目の前では倒したスライムが光の粒に変わって消えて行きます。
「……………………え?」
そして、魔石が残り──宝箱が出現。
その現実に理解が追い付かず、思わず思考停止。しかし、消えてしまう前に回収します。
そうなんです。この世界のダンジョンでは倒してドロップした物は全て、放置していると一定時間が経過すると魔素化して消失してしまうんだとか。
熟、ゲームとリアルは違うなって思います。
《装備品【空蔵の鍵環】を入手しました》
宝箱を開けると中から光の粒子が出現し、空中で一塊となって結晶化する様にして実体化。
蔦をモチーフにした翡翠色の指環に。
それを手に取ると、頭の中に流れる天の声。
初めての事なので少し驚きましたが。元の世界で似た様な事は有ったので違和感は無し。
気にしなければ直ぐに慣れると思います。
尚、宝箱は実体化している最中に消失するので、意識していないと気付かないんだそうです。
はい、知っていても見逃しましたので。
──で、【農者之眼】で調べて見ると予想通り。ただ、あまりにも出来過ぎな感じがします。
【空蔵の鍵環】
ジョブ【農夫】の専用装備品。装飾品。
効果:装備者は亜空間蔵へと収穫物・所有物を
収納、或いは取り出す事が可能。
収蔵量は装備者のレベルによって増大。
予想外な事が重なっていて驚き疲れしますが。
先ず、この世界の装備品とは、特別な力を持つ武具等の総称であり、装備品はダンジョンの宝箱から得られる物です。
現状、人造は成功してはいないそうです。
その宝箱ですが、ダンジョンに置かれていたり、隠されていたりするのが普通です。
また、極めて稀にクリーチャーを倒すと出現する事も有る、という話です。
なので、別に可笑しくは有りません。
ただ、最初のクリーチャーを倒しただけですから何かしらの意図が有る可能性を疑いたくもなるのは仕方が無い事だと思います。
話を戻して。
装備品は大きく二種類に分かれます。
一つ目は“汎用装備品”と総称される勇者以外も装備が可能な物。
もう一つは“専用装備品”と総称される勇者の、それも特定のジョブのみが装備可能な物。
性能等は言うまでもなく専用装備品が圧勝。
しかし、専用装備品は装備者が死亡してしまうと消失してしまうという仕様。装備していない物でも入手した勇者が死亡しても消失するんだそうです。色々と考えさせられます。
一方で、汎用装備品は入手・装備した勇者が死亡しても残り、この世界の人達も使用出来る事から、かなり重宝されているんだそうです。
また、装備品とは別に魔道具という物も。
これらは勇者の行動を補助してくれる便利な道具といった感じの物です。
汎用装備品と同様に勇者が死亡しても残りますが勇者しか使用出来ません。その為、汎用装備品程は重要視されてはいません。
一番有名なのが【収納の腰袋】。
ただ、収納出来るのは魔石等のダンジョン由来の物だけなので食料等は収納出来ませんし、所有者の勇者が死亡すると中身は全消失する仕様です。
まあ、それでも十分に便利なんですけどね。
その上で【空蔵の鍵環】は専用装備品という事で破格の性能だと言えます。早速、右手の中指に。
全ての装備品は自動調整されてジャストフィットするので問題無し。装備の可否が全てです。
因みに、装備品は一定範囲の部位別に可能ですが重複する形での装備は出来ません。
例えば、指に装備する物は片手に一つ。指毎に、という事は出来ません。また、指に装備した状態で手袋や肘までを覆う手甲を装備する事も不可能。
首飾り系を複数、みたいな事も出来ません。
また専用装備品はジョブがクラスチャンジしても装備・所有している物は自動的に更新されるので、使用不可能には為りません。
装備品等の使い方は魔法と同じなので判ります。
「収納」と念じれば、目の前にブラックホールの様な真っ黒な穴が虚空に出現。其処に魔石を入れて手を抜けば穴は閉じます。
ステイタスを確認すれば、新しく装備品の項目が追加されていて、収納品の一覧表も有ります。まだ魔石だけですが、判るのは助かります。
──と、ステイタスのレベルを見て吃驚。先程のクリーチャー1体でレベルが6に上がっています。まさかのレア種だったんですかね?。
……いや、【農夫】だからかもしれません。
魔法は個人差が有り、客観的には判断が困難。
つまり、勇者でも魔法の適性が低ければ使えず、逆に高ければ生産職でも戦う力になる。
そう考えると、偶然が重なった結果、という事で今の状況を説明する事も出来ます。
……かなり強引なのは否めないですけどね。
それはそれとして。それなりに有る荷物を収納し身軽になれる事は大きい。動き易くなりますから。これで少しは戦い易く為ります。
坂を上り切ると平坦な一本道が10メートル程。その先には違う空間が広がっていました。
無警戒に進む様な真似はせず、客観的に見たなら尾行中かと思う程、慎重に様子を窺います。
そんな自分の警戒心が正解だったと直ぐに確信。視界には彷徨くクリーチャーの姿が複数。
直径30メートルの円が描ける程には広さが有る開けた空間は高さは3メートル程。
“洞窟の中の小さな庭園”と言われても納得する事が出来る様な場所には木々こそ生えていないが、草花が生い茂っている。
正面と左右の三ヶ所に奥へと続く道が見えているのだけれど、進路上にはクリーチャーが。
体長30センチ程、一歳児位の大きさで、猫背の達磨の様なまん丸な身体と薄茶色の毛並み。座って毛繕いをしている姿からは猿の様な印象を受けるが四脚には小さな蹄が。横を向いた頭部は小さな犀。ちょこんと有る小角と円らな瞳、ピコピコ動く耳が可愛らしい。見ていると和みます。
例えるなら、カピバラの毛皮を着たカピバラより一回り小さな犀、といった感じ。
確か……“ラプイチノ”……だったかな?。
5~10体で群れを形成し、群れ単位で行動するという特徴の有るクリーチャーだった筈。その為、単体での強さは兎も角、群れで連携をしてくるので最後まで要注意、と。
そんな風に書かれていた気がする。
「こんな事になるなら持ってくれば良かった」と言いたくなるけど、予想はしていなかった状況だし本一冊だけでも荷物としては嵩張りますからね。
無い物強請りって、そういう物なので。
現実逃避は止めて目の前の事を考えます。
流石に引き返すには早いので前進は確定。
その上で、ですが、どの道を選ぶのか。事前情報なんて有りません。
ラプイチノは各進路上に群れで固まっている為、何れかの群れとは接触するので、戦闘は必須。
──とは言え、クリーチャーの多くには縄張りの様に活動範囲が定められています。
その為、エリア外まで逃げ切れば戦闘は最小限に抑える事は可能だそうです。
ただ、クリーチャーの特性や戦闘状況によってはエリア外まで追い掛けてくる場合も有るらしいので絶対ではない事は忘れてはいけません。
ラプイチノの数が最も少ないのは正面の群れで、次に右で、左が最多。
可能なら、全てを探索したいとは思いますけど、ゲームではないので無理は死に直結しますからね。だから、何よりも引き際を常に意識します。
「………………よし」
色々と考えた結果──数の違いが偶然ではなく、意図された物であるならば。
最も価値の有るのは左という事に。
そう見立てて、左の通路を目指す。
最短ルートを駆け──ラプイチノの群れが此方に気付いて一斉に振り向いた。パッと見でなら9体の揃った様子は可愛らしく思えますが、即座に殺意を漲らせた視線には寒気を感じます。
そこで、先程入手した魔石を右手で取り出すと、ラプイチノ達が動き出す瞬間に合わせて投擲。
ラプイチノ達の頭上を越え──視線を集めながら自分とは真逆の方向に落下させる。
実は小学生の時には野球を遣っていましたので。その程度の事は簡単。
本によれば、クリーチャーは魔石に反応し易く、所有する魔石が多い程、見付かり易くなり、執拗に追い掛けてくるんだそうです。
だから、収納系の装備品や魔道具は勇者にとって非常に大きな価値を持っています。
中でも、自分が手に入れた【空蔵の鍵環】の様に亜空間に完全隔離する物は、クリーチャーが魔石を感知出来無い為、垂涎の逸品。【収納の腰袋】では収納先は亜空間ですが、それ自体が外部に有る為、クリーチャーによっては感知されてしまうらしく、その差は天と地なんだそうです。
ラプイチノ達が魔石に目も意識を向けている間に途中で振り返ったりもしないで一気に駆け抜ける。追い掛けられた場合にでも体勢を整える為の時間を作り出しておける様に。
通路に入った所で壁際に背中を預けて身構える。直ぐに反応出来る様にしながら、静かに来た方向を覗いてみると──魔石に群がるラプイチノ達。
どうやら、戦わずに済んだ様です。
尚、クリーチャーが魔石を吸収しても強化されるという事は有りません。まあ、負傷や消耗、破損が回復するみたいですが。
いざという時に躊躇無く使える手段という点では些細な危険性でしょう。
強化されていたら、自らの首を締めますからね。勇者を育てる為の仕様という事なんでしょう。
そんな事を考えながら先に進みます。
本当は生えていた草花等を調べたり採取したい所なんですが……仕方有りません。
【農者之眼】は遠距離では使えないので。
気持ちを切り替えて前進──すると直ぐに分岐。左右に分かれていますがクリーチャーも居ないし、通路は岩肌で目立つ点も無し。
…………よし、此処も左に。
──と思って選んだ通路は大きく曲がっていて、進んだ先は──行き止まり。
しかも、振り返ったらスライムが複数居るとか。流石はダンジョン。悪意と試練が有ります。
6体のスライムを倒し、魔石を6つ、スライムのドロップ素材の【スライムの粘液】を2つ入手。
粘液なのにグミみたいな形状なのは不思議ですが倒した屍から採取する訳ではないので、そういった仕様になっているのも頷けます。
汚れなくて済むのは地味に有難いですしね。
因みに、素材名は収納する事で判りますが、何に使えるのかは解りません。
【農者之眼】は農業に関係していないと対象外。反応しない事から、そういう事なんでしょう。
来た道を戻り、反対側へ。
途中、ラプイチノ3体の群れに遭遇し──撃破。魔石と【ラプイチノの小角】を3つずつ入手。
やっぱり、最初の宝箱の出現は偶然とは思えない確率なので意図的な配置だったんでしょう。
「どうせなら、武器の方が良かったかな?」とも思わなくも有りませんけど、途中で攻略を断念する可能性を考えると、これで良かったと思います。
次の分かれ道を右に進み──直ぐに行き止まり、再びスライム5体との戦闘。
スライムは半透明なんですが──1体、色付が。しかも速さは倍以上。赤い事からも上位種であり、稀少種っぽいのは間違い有りませんが……本で見た記憶は無し。固有種なのかも。
でも、「スライム系は魔法に弱い」という特徴は同じだったので倒せました。【赤彗石】なる素材を入手しましたが、売却先も無いので勿体無いとしか言えません。残念。
戻って左に進むと今度はそこそこの距離が有り、通路の倍は有る場所に出ました。行き止まりですが中央には高さも直径も2メートル程の大岩が存在を主張する様に鎮座しています。他には特に無し。
「────っ、擬態っ!?」
調べようと近付いた瞬間に──大岩が撓った。
まだ距離が有ったから咄嗟に左斜め前方に跳び、地面に転がる格好で回避する事が出来た。そのまま壁際まで離れて振り返って──驚く。
先程まで大岩だった所にゴツゴツした岩みたいな身体をした大蜥蜴のクリーチャーが居て、赤い舌を出しながら此方を睨んでいる。
ただ、驚いたのはクリーチャーにではなく、その身体の下──中央の窪みに存在する宝箱に。
しかし、焦りはしない。クリーチャーがドロップした宝箱とは違い、ダンジョン内に配置されている宝箱は時間経過で消失はしない。
だから、先ずは番人のクリーチャーを倒す。
姿等から本に載っていた“ロックリザード”だと思うのだけど……サイズが倍以上も有る。普通なら全長2メートル程、体高50センチという所なのに体高は2メートル、全長も4メートル以上。全てが大きいというよりは太くなったという感じ。
また、宝箱の番人という情報は無かった筈。
そうなると、特殊個体である可能性が高い。
普通に考えて自分が敵う相手ではない。しかし、状況的に逃げ切る事は難しい。行き止まりなので、逃げる為には反対側に近い通路まで辿り着けないと不可能なのだが……逃がしてくれそうにはない。
だから、腹を括って戦う。
クリーチャーにも魔法と同様に属性が有る。
全てのクリーチャーに、という訳ではないけれど見た目からして判る場合は、その可能性が高い。
今回の大蜥蜴の場合、考えられるのは土属性。
属性は火・水・風・土の四つが基本で、上位属性として炎や氷や雷等が存在しています。
属性には相性が有り、火と水、風と土は対極で、火は土に、土は水に、水は風に、風は火に対しては相剋関係となっています。
因って、土に有利な火の魔法を試す。
「【ファイアーボール】っ!」
火の初級魔法の【ファイアーボール】は大きさが直径15センチ程の火球を生み出す魔法。省略式の場合は10センチ程になりますが、様子見ですから問題有りません。
掌に浮かべる様に顕現した火球を大蜥蜴に向けて勢い良く投擲する。
風属性でもない限り、魔法は発射する事は無く、殆どは対象に近い場所に顕現させるのが一般的で、顕現可能な距離は使い手の力量次第です。
自分は投げる事には慣れているので手元に魔法を顕現させてから、投擲するスタイルに。
【ウォータースピアー】も同様に。
自己最高が球速153キロなので、それなりには投擲速度を出せる自信が有ります。
人は勿論、モンスターやクリーチャーでも魔法を使用すると反射的に警戒したり、その場を移動する反応を見せます。だから、こんな風に手元に魔法を顕現させると隙が出来て──容易く当てられます。
不意打ちでもある為、防御体勢も不十分なので、省略式でも効果が期待出来ます。
効果が有る魔法であれば、ですが。
──どうやら、まだ運が有るみたいです。火球が当たった大蜥蜴の身体が明らかに負傷した事から、火属性が有効なのは間違い無さそうなので。
そうと判れば反撃される前に攻勢に出ます。
省略式の【ファイアーボール】の連発。加えて、手元からの投擲に限らず、大蜥蜴が動こうとしたら妨害する様に近くに顕現させ、動きを封じる。
そして、タイミングを見計らって省略式ですが、マナを込めて威力を上げた【ウィンドカッター】を首筋に出来た裂傷を狙って放つ。
普通なら、その一撃では無理な事だったとしても決定打に至る様に準備を整えれば不可能は可能に。大蜥蜴の首を両断し、勝利を齎してくれる。
「へぇ~……これが“魔玉”か……」
大蜥蜴がドロップしたのは魔石ではなく魔玉。
番人等のダンジョンに1体しか存在せず、新たに発生する事の無い存在がドロップする魔石の上位版となるのが魔玉で、魔石の百倍の性能を持ちます。自分にとっては宝の持ち腐れなんですけどね。
魔石が不揃いな原石なら、魔玉は加工された宝石といった感じなので見た目にも違いが判ります。
その他に【岩綱皮】と──【マナポーション】。思わず拳を握ってしまう程に嬉しい物を入手。
ポーションは20ミリリットル程の容量の小瓶に入っている回復アイテムで、宝箱かドロップで入手するか、必要な素材を持ち込んで魔法薬師に作製を依頼する事になります。
使用しても小瓶は残るので空の容器に入れて貰うというのが主流なんだそうです。
ポーションは総称ですが、単にポーションと言う場合には軽傷を治す効果の基本的なポーションの事なんだそうです。
一般的な所で体力回復の【ライフポーション】、疲労回復の【スタミナポーション】が有ります。
マナポーションはマナ回復のポーションで貴重。餞別として幾つか貰いましたがライフとスタミナを5つずつで、マナは1つだけでしたから。
念の為に持って来てはいましたが、貴重なだけに使いたくはないのも本音ですから、新たに1つ入手出来た事は大きいと言えます。
予想外のアイテムに嬉しくなりながら、大蜥蜴の守っていた宝箱を開けます。
出現したのは……紋章?。
《装備品【水生の福音】を入手しました》
そう告げる声を聞きながら考え──思い出す。
紋章の様な見た目の装備品が有る、という事と。それが非常に稀少な物だという話を。
それが事実で有る事を肯定する様に目の前に有る装備品の情報が示される。
【水生の福音】
専用装備品。特殊装飾品・聖痕。
効果:水の有る場所で自由自在に行動可能。
水属性の超強化。
※装備後、装備の解除・変更は不可能。
専用装備品とされる分類の中にはジョブとは全く無関係な物が存在し、それが入手者専用。
文字通り、入手した者だけが装備可能で、他者に譲渡したり、持ち帰って売却する事も出来ません。何故なら、入手した、その場で選択を迫られる為。装備しない場合、消失してしまうからです。
専用の為、入手者は効果を知る事も出来るので、装備品するか否かを選べます。今の自分の様に。
そんな入手者専用装備品の中でも更に稀少なのが目の前に有る“特殊装飾品”とされる物。
装備品は身に付ける物ですが、この特殊装飾品は身体に刻み込むという物。
所謂、刺青の様な物で、目立ちはしますが特には支障無し。ただ、何処に刻まれるのか判らない為、ちょっとしたギャンブルでも有ります。
それでも入手する事自体が極めて稀なので自分は運が良いのでしょう。
その特殊装飾品の中でも“聖痕”は最上位の物。特殊装飾品は1つしか装備出来ませんが、他の物と被らない為、入手出来れば装備するべきだと本には書かれていました。
戦闘に限らず、色々と助けてくれる効果が多い、という話でしたから、効果を見て納得。
装備する事を選択すると光の粒子となって自分の身体に吸い込まれる様にして消える。
手や腕等の直ぐに判る場所には見当たらないので何処に刻まれたのかは判りません。
ただ、ステイタスを確認すれば、ちゃんと装備欄には追加されているので間違い無いでしょう。
良い物を入手出来ましたが、行き止まりですから戻らなくてはいけません。
しかし、ラプイチノは倒せる相手だと判ったし、レベルも37まで上がっていますから確実に強くは成っているでしょう。実感したり、確かめる余裕が無いので数字上・聞いた限りでは、ですが。
最初の広場に戻り、次は右側──入り口からだと正面になる通路を目指します。
ラプイチノの群れは全て撃破。序でに気になった草花等も採取。色々と考えるのは後回しで。
最初の通路とは違い一本道で、スライム達と二度遭遇した先に辿り着いたのは地底湖。その大きさは横幅10メートル程、対面の壁までは5メートル。
はい、行き止まりです。特に目を引く物は無いので戻る事に…………いや、まさか……。
「これって、順路を間違ってたら二度手間三度手間だったかもしれないなぁ……」
そう思いながら、余計な物は収納し──地底湖に飛び込む。【水生の福音】の効果で水中でも視界は明るく水も気にならない──というか息が出来る。これは凄い。そして、超楽に泳げるし、動けます。多分じゃなくてもチート性能。大当たりです。
そう興奮しながらも視界には期待通りに宝箱が。当然、その側には番人が居ます。
体長3メートル程の鯱の様な見た目だが、背鰭はV字に二枚、尾鰭はX字に四枚、カメレオンの様な飛び出した巨眼を持つクリーチャーが2体、互いに追い掛け合う様に円を描いて泳いでいる。頭の幅が1メートル近いので口も大きく、咬まれたら間違い無く一貫の終わりでしょう。
……咬まれるよりは丸呑みにされた方が生存率は高くなるんでしょうね。現実的には。
──なんて事を考えている内に、此方に気付いた1体が勢い良く泳いで向かって来る。
しかし、自分でも驚く程に冷静で。突進して来た鯱をギリギリで躱し──擦れ違い様に此方を向いた片眼に対して【ウォータースピアー】を突き刺す。当然の様に、もう1体も突進して来て──同様に。体勢を整える間を与えずに各々の残った片眼も潰し無差別に攻撃し始める前に距離を取る。
自然・生態系の一部であるモンスターとは違い、クリーチャーは同士討ちや捕食・縄張り争いという事はしないが、混乱等による無差別攻撃は有る為、それを誘発する事で削り合わせたりする事は可能。どの程度の効果になるのかは状況次第ですが。
今回は上手く行った様です。魔素化して消え去るクリーチャーでも出血等はします。その為、水中に広がった自分達の血の臭いが嗅覚での探知を阻害。闇雲に攻撃し、同士討ちに。
此方は距離を取りながら直上に移動。マナを込め詠唱した【ウォータースピアー】で決着。
倒したので広がっていた血も無くなってくれれば嬉しいんですが……そのままです。
魔玉と【巨水鯱の尾鰭】と【マナポーション】を2つずつ回収。嬉しいのに複雑な気持ちになるのは先に進めば難易度が上がる気がするから。
取り敢えず、宝箱を開けて戻ろう。
《装備品【清浄の聖帯】を入手しました》
地底湖から出ると、先ずは周囲の確認。近くにはクリーチャーが居ない事を確認し、びしょびしょの服を着替える為に脱ぐ──前に装備品を確認。
【清浄の聖帯】
専用装備品。装飾品。腕用。
効果:固有魔法【クリーンナップ】使用可能。
これまた稀少な装備品。装備者は宿る魔法を使用可能になるのですが、普通の魔法とは違って威力や範囲といった面では固定ですが、制御力等の一切の技術面の有無が関係無いので、魔法名を口にすればマナさえ有れば魔法は発現するので、とても便利。しかも、固有魔法は通常では身に付けられない魔法ですから期待も膨らみます。
取り敢えず、試してみます。左袖を捲り上げて、左腕に巻き付ければ装備完了。
この魔法、戦闘等で汚れてしまった衣服に使えば綺麗になるかもしれないので遣ってみましょうか。失敗しても着替えは有るので。
「【クリーンナップ】」
身体──着ている衣服が光り──消えると汚れは落ちているし、解れも直り、何より乾燥している。クリーニング要らず!
いや、これで商売が出来る…………あ、駄目だ。危なくなる予感しかしませんから無しで。
でも、便利な魔法なのは確かです。
切り替えて来た道を戻り、最後の通路へ。
広場には新たに出現したラプイチノが居ましたが容易く一掃。レベルも68になっているので魔法を使わなくても戦えます。中でも鍬が大活躍。まあ、実際は【耕す】を上げる為なんですけどね。どうも鍬を使えば土を耕す以外でも伸びるみたいなので。その御陰で鍬使いも上達しています。
ですが、ゆっくりと広場を調査したりはせずに、先を急ぎます。寿命的には影響が無くても長居する場所では有りませんから。
曲がりくねってはいますが暫くは一本道が続き、再び三択の分かれ道。
今回は正面に。まあ、直ぐに行き止まりになり、スライムの群れに襲われ、その中に黒いのが1体。倒して【黒空石】を入手。
戻って左に進むと再び行き止まり。ただ、二股に分かれた先に各々【ミューズの涙花】【月雫花】が一輪ずつ咲いていたので採取。
帰り道にラプイチノの群れが出現、その中に緑の個体と青の個体が居て、【緑晶角】と【青晶角】を入手しました。
右の道を進むと暫く一本道で──
「────えっ!?」
スライムを倒した後、岩壁を触ったら右手が通り抜けたので吃驚。ダンジョンには隠し通路が有ると書いてあったので確かめながら進んではいましたが本当に有るとは思いませんでした。確率的には低いという話だったので。
警戒しながら慎重に進むと、ダンジョンの入口の通路と同じ岩肌の道が続いています。
更に隠し通路が有るという可能性も有ると考えて確認しながら進み──行き止まりに。
隠し通路や仕掛け、宝箱や目立つ物は無し。
まさかのハズレ──ではなかった様です。退路を断つ様に燃え広がった炎の壁。その中央に姿を現す体長2メートル程の燃える毛を持つ四腕のゴリラ。巨大な一つ眼が此方を睨み付けて捉えているので、戦闘は不可避でしょう。
尚、四腕は左右に二腕ずつで、二腕は巨顎の様に上下逆さまという形。捕まったら終わりです。
そんな訳で先制の【ウィンドカッター】──が、裏拳の様に振った腕で軽く迎撃て消滅。
それだけで実力差を理解しました。ヤバイ!
「【ロックアッパー】!」
土属性の初級魔法は地面から大きな岩を発生させ対象を下から突き上げる。岩は尖ってはいないので貫いたりは出来ません。
しかし、土は火に弱い。それなのに使ったのは、攻撃の為ではなく動きを阻害する障害物として。
今は2メートル程でも、立ち上がれば3メートル以上有る巨体。腕だけでも長さが自分の身長と同じ位は有ります。
ですが、現在地は開けた場所ではなくて、通路。行き止まりなだけで、狭い状況は自分の逃げ道を、ゴリラの動きを妨げている。
だから、更に動きに難くして距離を取る。
相性の悪い属性でも無効な訳ではないので。
そして、岩を利用しながらのヒット&アウェイ。チマチマとダメージを入れて行きます。
「────っ!?、しまっ──」
──が、ゴリラも馬鹿ではなく、怒りと苛立ちを攻撃力に変換したかの様な一撃──左の二腕を組み身体を傾けてラリアットの様に大きく振った剛撃は進路上の岩を砕いて自分に届く。
咄嗟に手にしていた鍬で受け止め──反撃として無防備な顔に向けて【ウィンドカッター】。
視界が霞む様に流れ──通路の奥の壁へと強かに叩き付けられ、肺の中の空気が強制排出。痛みより一時的にでも呼吸困難になる方が苦しいし危ない。そう考えて【ウィンド】で強制的に肺に空気を送り膨らませて──噎せる。
だが、ゴリラの巨眼は潰したので痛み分け。
しかし、立とうとしても身体は震え、力が入らず倒れそうになる。その状態に、餞別として1つだけ貰っていた【ハイポーション】を迷わず使用。
病気等ではないのなら重傷も即座に治せる逸品。超貴重ですが命には代えられません。
……身体に力が入るのを確認し、一安心。
怒り荒れ狂うゴリラに対し【ロックアッパー】で妨害しながら、小休止。
身代わりとなった鍬は柄が折れ──否、燃え尽き先端側だけが砕けた事で残るのみ。
直撃していたらと思うと、ゾッとする。
家には鍬も含めて予備は有りますが、此処で死ぬ事になれば無意味なので考えるだけ無駄です。
それはそれとして手持ちの武器──農具は手鎌と鉈が1つずつ。短剣なら二振り有りますが、農具と違って強化補正は無いので厳しい。
手鎌は素早く動けるが、刃が小さく致命傷にまで至らない可能性が高い上にゴリラの纏う熱に耐える事が出来無いかもしれない。そうなると無駄使い。使うべきではない。
同様に近付けば火傷する可能性は高く、呼吸すら出来るのかも怪しくなってくる。それでも接近して戦わなくては勝機は無い。
──となると鉈に頼る事になるが。鉈は決まれば致命傷になる可能性が高い。だが、その為には鉈を振り抜き、十分な威力を出す必要が有る。刺突での攻撃は鉈では出来無いから。
改めて「ちゃんとした武器って優秀なんだな」と考えさせられます。
無い物強請りをしても仕方が無いので、有る物で状況を打開するのみ。その方法を考えます。
時間が掛かれば確実に敗けるので攻める。
【ロックアッパー】で接近する為の道を作りつつ防御し、【ウォータースピアー】を潰した巨眼へと向けて投擲し──命中。ゴリラが叫びます。
耳鳴りという程度ではなく鼓膜が破れそうですが怯まず止まらず懐に入る。
右肩よりも後ろに回した左手に持った砕けた鍬をゴリラの首筋へ。砕けていても農具であれば補正の対象になるので突き刺さる。
其処に振りかぶっていた右手に持った鉈の峰側を叩き付け、より深くへと押し込む。
攻撃に苦痛を感じながらも此方等の位置を把握しゴリラの四腕が迫る中──【ウィンドカッター】を鍬を刺した傷に向かって放ち──首を刎ねる。
四腕に掴まれる寸前。ギリギリの所での勝利。
地面に尻餅を付きながらも、目の前で魔素化して消え失せるゴリラの姿に生を実感する。
出現したのは魔玉と【火猿の毛皮】と──宝箱。強敵だっただけに中身には期待します。
《装備品【肥耕の鍬】を入手しました》
ただ、先ずは戦利品の確認の前に回復を最優先。ゴリラに接近した事で衣服や髪は焦げ、肌には火傷という状態。火傷は軽度とは言え、全身に及ぶので地味に辛い。衣服は兎も角、早く【ポーション】を使って治さないと…………いや、もしかして……。
「物は試しの【クリーンナップ】」
対象は衣服と自分自身。
すると、痛みが消え──火傷が治った。
“綺麗にする”って事でなら、状態異常にも効く
かもしれないと思ったんですが、まさかの結果には自分でも驚きです。あ、でも髪や傷は治っていない事から対象外の様です。
それから、衣服の方も綺麗にはなっていますが、焼けてしまった部分は失われたまま。解れ・破れは直っても、失われた部分は戻らないみたいです。
まあ、流石に非生物に限定しても、完全修復まで望むのは贅沢ですよね。
状態異常の回復で十分です。
取り敢えず、着替え…………はしなくていいか。この先も損傷が進むかもしれないから。
それじゃあ、装備品の確認を。
【肥耕の鍬】
ジョブ【農夫】の専用装備品。農具。
効果:どんな地面でも耕し肥沃な土壌にする。
どんな物でも肥やしへと変える。
また、生きている物に使用した場合には
対象の生命を吸収し装備者を癒す。
……え? …………まさかの回復効果付きっ!? これは嬉し過ぎる! 当然、即装備!
帰り道で遭遇したラプイチノやスライムを倒して体力やマナが回復するのを実感。傷も治る様だし、疲労感も無くなった気がします。勝ち確決定!
──なんて感じで油断はしません。
隠し通路から戻り、更に奥に進む。危なくなれば引き返すつもりですが、今の所は、不安は無いので行ける所まで行こうと思います。
あと、出来れば防具の装備品が欲しい所です。
進み続ける事、2時間程。
三度、分かれ道と行き止まりが有り、戦闘に。
【怨念茸】【死骨石】【ミストミント】を採取、【銀晶角】【金晶角】【白空石】【紫彗石】を入手しました。装備品等は無しです。
そして、目の前には巨大な扉が。本の通りなら、此処がダンジョンの最奥──ボス部屋です。
此処まで来て引き返すのは慎重ではなく、臆病。ハズレ勇者でも挑戦しない者に可能性は生じない。だから前進有るのみ。
レベルは96だし、アビリティも全て“Ⅹ”に。ある意味、これが冒険の集大成です。
気合いを入れ、重──くはなかった扉を開けて、中へと入る。広がっていたのは直径が20メートル四方は有るだろう半球状の大空間。高さは中心部で少なくとも5メートルは有る。
ただ、パッと見た感じ、広いという以外には特に目立つ物は無し。──となると、ボスは何かしらの仕掛け等は無いタイプ。
そういったタイプのボスも存在するそうですが。何方等が良いとかは人各々、条件次第でしょう。
そんな風に考えていると背後の扉が自動で閉じ、岩壁となって消える。
“死んで終わるか、生きて戻るか”。
ダンジョンが勇者を試す単純で究極の問い。
その試練が中央に顕現する。
その姿を見て、思わず息を飲む。
全体像としては“トロール”。緑の肌に太っ腹。普通のトロールと比べると格段に筋肉質で頭の左右には山羊角が有るという以外は、概ね同じ。
ただ、全く違うからこそ、息を飲んだ理由が。
それが、最も高い中心部に頭が当たって強制的に前屈みになってしまう程の巨体。
それなのに、胡座を掻いて座っているのだから。一体何れだけ大きいのか。
ただ一瞬、有名な大仏像を重ねてしまった不敬は不可抗力という事で赦して欲しいです。
そんな巨人のボスは恐らくは立てない。
ダンジョンの壁等は殆どが破壊不可能。その点はボスであっても同条件。つまり、この状態のままでボスは戦う事を強いられる。
……何かしらの条件を満たすと、空間が崩落して拡張され、ボスが立ち上がるとか?
止め止め。変なフラグを立てるのは危ない。
取り敢えず、鉈を使って一撃入れて見ましょう。死角も多いから一撃なら簡単なので。
そう思って鉈で切り付けますが──掠り傷程度。あまりにも巨体過ぎて虚しくなりますし、その上に再生能力も有るみたいです。
「状態異常攻撃が出来たら……」って思います。無い物は無いんですけど。
ただ、クリーチャーの再生は損傷の修復であり、ダメージの回復ではないので与えた分は蓄積。
まあ、回復をしてくるクリーチャーも世の中には居るそうですが。今は違うので。
因みに、再生と回復の判別は単純。再生は細胞が蠢く様にして復元し、回復は魔法の様に光の粒子を伴っているので見た目で判ります。
続けて四属性の魔法攻撃を試してみますが、特に効果が有る様子は無いので無属性でしょう。
……あっ、いや、【ウィンドカッター】で出来た傷の治りが遅いので火か土の属性なのかも。ただ、水や火の効果が今一なので弱点ではないでしょう。風属性が他よりは効き易いというだけで。
それでは、と【肥耕の鍬】で攻撃をしてみれば、ボス相手にでも効果が有って吃驚。刃が削り取った部分は肥やしに。勿体無いので回収。
痛がるボスから距離を取り──鍬で攻撃した所が再生していない事に気付く。
…………あっ、もしかして【クリーンナップ】と同じで消失したから再生不可能に?
もう一度、遣って確認。
はい、どうやら当たりみたいです。勝った!
──なんて思ったのがフラグだったんですかね。気付いた時には身長2メートル程の騎士トロールが3体出現していて攻撃して来ました。
稀に、護衛や下僕としてクリーチャーがボス戦で出現する事は有るという話だったので驚きませんが遣り難くはなりました。
各々が戦斧・弓矢・大盾を持ち、動きも素早く、連携も上手いので、ボスへの攻撃回数が減少。
それに加えて、ボスも何処から取り出したのか、大剣を手にしていて、時々攻撃してきます。巨体で動けず、鈍いが、大剣の一撃は強烈。タフだけど、防御力は低いのでダメージは入っています。
だから、地道に攻撃を積み重ねて…………なんて遣ってられません。ゲームとは違い長期戦は不利。攻勢に出ないと勝機は生まれない。
先ずは弓矢持ちの騎士トロール。
ボスを倒せば、その他は消滅するそうですけど。倒して完勝したい──と言うか、鬱陶しいから。
検証して弓騎士は火属性に弱いと判っているので足止めと妨害を兼ねた【ロックアッパー】を使い、動きの鈍った所で肉薄。弓を持つ左肘を鍬で削り、攻撃不可能となった所に【ファイアーボール】。
弓騎士を倒した所に戦斧持ちの騎士トロール。
斧騎士は水属性に弱いので戦斧を避けながら隙を突いて【ウォータースピアー】で貫く。
大盾持ちの騎士トロールは土属性が弱点なので、大盾を落とし、鎧を壊して【ロックアッパー】。
盾騎士を倒した所で、3体が持っていた装備品を残したので回収──した所で大地震っ!?
──否、天井が崩れ、ボスが立ち上がった。
揺れて不安定な為、落下する岩の下敷きになってしまわないかと思いましたが──其処は演出らしく自分を避ける様に落ちていました。
そして露になるのは倍以上の広さの岩の闘技場。更に“怒髪天を衝く”と言わんばかりに金色の髪が出現し、肌も真っ赤に変化。憤怒に染まった形相で見下ろしてくるボスは迫力満点。
正直、「ミスったかな~……」とも思う。
大剣を握る右腕を動かしたのと同時に、最も遠い壁際へ向かって走り出し、振り抜こうとした瞬間に目潰しの【ファイアーボール】。大剣の威力と速度を削ぐ為の【ロックアッパー】。そう遣って出来た隙を突いて左足首を削り取る。
巨体であるが故に、支えを失えば脆いもの。
左手を着き、倒れまいとするが、その左手首へと鍬を振り下ろして削り取る。回収も忘れずに。
左に倒れ込むボス。だが、油断はせず、右手首も削り取って大剣を使えなくしてから──削り殺す。はい、遣っていて自分でもエグいと思います。
しかし、安全第一。命は1つ限りなので大事に。何より、ダンジョンでは生者こそが勝者なので。
《迷宮主“ジャイアントオーガ”との戦闘に於いて準主の“三鬼士”撃破に伴い“決闘場”が出現した事により、ジャイアントオーガは“阿修羅鬼王”に真化しました》
《隠し条件:【阿修羅鬼王の撃破】の達成により、固有アビリティ【魔法収束】が贈られます》
《レベル99で【迷宮主の単独討伐】を達成した事により、レベル00に到達しました》
《レベル00到達により、【農夫】に秘めれられたエクストラスキル【加工】が解放されました》
《レベルが上限に達した事でジョブが【農夫】からクラスチェンジします》
《ジョブが【農家】に成りました》
《ジョブ【農家】への昇級に伴い更新を実行──》
《──全ての更新が正常に完了しました》
連続した情報に考える暇が有りませんでしたが、何と無くは把握。ステイタスを見てジョブの変化やレベルが1に戻った事、専用装備品が【農夫】から【農家】に変わった事等々。
その中でも【魔法収束Ⅰ】はジョブではなくて、自分自身に備わったアビリティ。魔法を収束させる事によって威力を上げたり出来る様です。
また、ジョブから新たなスキルが得られるという情報は無かったので新発見かもしれません。
スキル【加工】は料理的な意味が強そうですが、ポーションの作製が可能かもしれません。帰ったら色々と試してみましょう。
さて、消えない内に魔晶と宝箱を回収。
魔晶はボスだけが残す魔石の最上位品で。ボスを倒すとダンジョンは消える為、1ダンジョンにつき入手出来る魔晶は1つ。超貴重。
そして、ボスの残す宝箱は高確率で装備品という話ですから期待大。
《【禁忌の解石】を入手しました》
…………あれ? ……………え? ……は?
え~と…………どういう事? あれだけ頑張って用途不明の謎の石が戦利品? ……泣きたい!
まあ、三鬼士の装備品が有ったし、成果としては悪くはなかったかな。うん、帰ろう。
「────────へ?」
──としたら、足が空振って、身体が落下する。地面が、床が崩れ落ちている訳ではなくて、消失。その為、前触れも無いし、落石を足場にして上へと跳び上って行くという事も出来無い。
まあ、そんな真似は出来ませんけどね。
──とか考えていたら、落水。落下の勢いのまま水底まで到達。
【水生の福音】の御陰なのか衝撃も無く、無傷。助かりました──が、もしかして【水生の福音】を入手している事が条件の特殊発生なのかも。
そんな事を考えながら頭上──落ちて来た方向を見てみると穴が有った様な痕跡は無し。周囲を見て確認すると直径30メートル位の球形の空間の中。隙間無く水で満たされている為、水槽に居る気分。硝子ではなく、壁は岩みたいですが。
取り敢えず、見た目には密閉空間。落ちて来たと思われる頂上が隠し通路の様になっていたとしても一方通行の可能性は高い。
何故なら、彼方等此方等からクリーチャーだろう初めて見る魚達が姿を見せているので。
【水生の福音】で呼吸や動きには問題は無いが、クリーチャーが無限に出現する仕様なら、何処かに脱出、或いは先に進む為の仕掛けが有る筈。
しかし、見た感じでは、それらしい物は無し。
そうなると、クリーチャーの数に上限が存在する持久戦の可能性も考えられる。
思い切って水を全て回収……いや、無限補充だと無意味だ。寧ろ、回収している間、他の出し入れが出来無い。そのデメリットの方が大きい。
戦闘が不可避なら、壁を背に敵を正面に集めての迎撃戦が一番確実で安全な戦い方かな。
球形なので何処に陣取っても同じだけど、重力の影響は有るから、水中に浮くよりは底に足を着いて踏ん張れる方が多少は遣り易い。
そう判断し、その場で身構える。
現時点で確認の出来るクリーチャーは4種類。
体長50センチ程のペンの様に細長く口先が鋭く尖った青魚。見るからに特攻型。
蛙の頭に蛇の身体を合わせた様な1メートル程の茶色の身体に紫の斑点を持つ魚は毒持ちっぽい。
数は少ないが、体長1メートル、幅2メートルの餃子を思わせる半月型の巨大魚。端に胸鰭、中央に小さな尾鰭、それと身体の上下に鰭が三枚ずつ。
最後に20センチ程の赤い丸河豚っぽい魚。
その見た目と予想に反せず、四方八方から此方に向かって突っ込んで来る青魚達。
それを鍬と撃ち落としながら忘れずに回収。
向こうには水の抵抗が有るみたいですが、此方は泳ぐ時に掻いたり、蹴ったりする以外では無抵抗。その差が、はっきりと動きに出る。
「この調子なら……」なんて思ったのがフラグを立てたんですかね。
丸河豚が混ざって来たと思ったら、身体が前面に向かって傘の様に開き──防御された!?
鍬の刃が弾かれた事から物理攻撃耐性に特化した守備役だったとは。青魚との連携も悪くない。
其処に蛙蛇魚が遠距離から毒の泡っぽいのを吐き飛ばしてくるから鬱陶しい。速度が無いから回避は難しくはないけど、タイミングが上手いから。
──で、他のクリーチャー諸とも餃子魚が大口で噛み殺そうと唐突に襲ってくる。
その存在感に気付けなかった事に驚き、観察して判ったのは擬態能力持ちな事。
何とも悪辣で苛烈な歓迎会な事で!
疲労困憊──には鍬の御陰で為りませんが、長く戦い続けると普通に辛い。主に脳と精神が。
倒した数も定かでは有りませんが、殺り遂げた。その達成感は生存の喜びと相俟って格別。
《特殊条件:【通路の解放前に全魚の殲滅】を達成により、宝箱が贈られます》
その言葉通り、目の前に宝箱が出現。魚達からは魔石と素材だけだったので嬉しい。
ただ、“通路の解放”という事はです。一定時間凌いでいれば良かった訳で…………宝箱ゲット!
さあ、何が出るかな~。
《【忘却の刻石】を入手しました》
………………また謎の石っ!? いや、もしかして後々関わってくる重要アイテムなのかもしれない。そうとでも思わないと遣ってられません。
でも、単なる扉の鍵だったら怒って良いよね?
出現した横穴を泳いで進み、抜けた先は同じ様な直径10メートルの球形の空間。
ただ、揺らぐ水面が上に見えている。空間全体の7割程の水位。突き出た岩底等は見当たらないし、通って来た横穴も消えています。
取り敢えず、行く手を阻む魚群を一掃します。
警戒しながら、ゆっくりと水面から顔を出すと、四方から襲い掛かってきたのは食虫──食人植物のクリーチャー。サクッと文字通りに倒します。
すると、その1体の根元の壁が崩れて道が出現。水中も確認しましたが他には道は無し。
水から上がったら先ずは【クリーンナップ】を。濡れたままなのは気持ち悪いし、動き難いので。
通路に入ると直ぐに行き止まり──ではなくて、角から下に向かう階段が。しっかりとした人工物に不思議と感動を覚えるのは何故でしょう。
そんな事を考えながら百段は下った所で出口が。そっと覗いてみると──ザ・ダンジョンの光景が。縦横3メートルの煉瓦調の通路。その様子を見れば大体の人が“人造迷宮”だと思う筈。
……これはアレかな。条件達成で解放される様な隠しステージ的な。そう考えると、2つの謎の石は何かしらの鍵である可能性は高まる。
ただ、普通にクリアしていたら、どんな装備品が貰えたのかは気になる。ゲームによっては、通常のクリア報酬の方が良い事も有りますから。稀少性や高性能さだけが全てではないので。
ボスを倒してから、半日は経過したでしょうか。無駄に広い迷宮の中をクリーチャー達を倒しながら探索し、下りる階段を見付ける事、五回。
途中に設けられた安息部屋で休憩・仮眠を取って
進み続けた結果、ジョブ【農家】はレベル92に。備わる3つのアビリティ【農者之武Ⅹ】【農体Ⅹ】【農時感Ⅹ】も最大に。
【農者之武】は農具を使った戦闘に於ける能力の強化補正と熟達促進。地味に効果が大きい。
【農体】は農具使用中や農作業中の疲労の緩和と休息・睡眠時の回復力の向上。健康面にも効果有りというのが頼もしい所です。
【農時感】は時間感覚に特化した能力で、今では意識すれば秒単位で時間の計測や現在の時刻を把握する事が出来ます。ダンジョン内だと外部時間から隔離される事を実感。現在時刻が動かないので。
固有アビリティ【魔法収束Ⅹ】の方も文字通り、魔法を収束させる事で威力や射程が向上。ですが、魔法自体が縮小される為、遠距離だと当たり難い。使い方次第ですが。あと、完ストしました。
しかし、素材は入手出来ても宝箱は1つも無し。各階に中ボスが居るのに、です。巫山戯んな!
そんな気持ちを懐きながら着いた先は、儀式場を思わせる一辺10メートルの正立方体の部屋。
床に足を着いたと同時に今下りてきた螺旋階段は消えてしまった。どうやらラストバトルの様です。
……………………? あれ? 何も起きない?
よくよく部屋を見回すと壁画っぽく見えたけど、各壁に扉が1つずつ有りました。恥ずかしい。
これと言って判断材料も無いので一番近い扉に。入った先には一辺5メートル程の部屋が有り、扉が自動で閉じたので強制戦闘でしょう。部屋の中央に有る笑顔の鬼の石像が相手っぽい。そう思いながら近付いたら予想通り、動き出しました──ってっ、石像っぽさが無い機敏で滑らかで力強い動きっ!
人に近いから今までで一番遣り難い!
まあ、此処までの経験が有るので勝ちましたが。戦利品が首級って……どうなの?
扉が開いたので戻ると──その扉が消えた。
部屋を見回して、さっきは無かった四隅に立った騎士像を発見。何かを乗せる様な上向きの左手と、入手した戦利品。悪趣味な仕掛けです。
その後、泣き顔、怒り顔、恍惚な顔の鬼の石像を倒しました。喜怒哀楽の様ですが……楽と言うより悦の様に思えたのは余談です。
4つの首級を騎士像に供えると、中央に魔法陣が淡く光りながら浮かび上がった。
これで脱出──ではないですよね、きっと。
今度こそ、本当にボス戦の筈。準備を整えたら、魔法陣の中に。立ち止まると光りが強まり──目を閉じた瞬間に、気持ちの悪い無重力感。
目を開ければ直径20メートル程の球形の空間。水は無く、特に物も無し。気になったのは壁や床の石材の大きさが不揃いという事。
──なんて思っていたら、空中に先程の騎士像が出現した──と思ったら落下して砕けて魔素化。
空中に浮かぶ鬼の頭を残して。
成る程ね。この演出の為の演出だったって訳だ。凝っていると言うか。道徳的で教育的だと言うか。まあ、色々と考えさせられます。
その4つの鬼頭が四色の焔を纏い、回り始めると中央に新たに大きな焔が生じ、大きくなって人型に成ったと思ったら──実体化。身長2メートル程の鬼神を思わせる仰々しくも神々しい風貌に。
その胸と両肩と背中に4つの鬼頭が同化したら、本体の目が見開かれ、此方を見下ろしてくる。
それと同時に揺れ動く空間。すると、彼方此方の石材が不規則に競り出し始めた。不揃いだったのは足場であり、障害物となる仕掛けだったから。
多分、出たり引っ込んだり、その程度や維持時間といった部分までランダムなんでしょうね。
鍬を構え、動き出した一番近い足場に飛び乗り、空中に浮かぶ鬼神を目指す。
──が、その前に一つ、思い付きを試してみる。無意味だったとしても構わないので。
「──【クリーンナップ】ッ!!」
それが【魔法収束Ⅹ】を使用しての浄化。
怨念っぽい演出だったので、物は試し──というつもりだったんですけどね。
通常よりもキラキラ感増し増しの光の粒子の中で頭を抱えて苦しむ様な反応を見せた鬼神。
…………「嗚呼、漸く逝ける……有難う──」と言って成仏されると……反応に困ります。
…………これ、倒した事に成るのかな?
《真の迷宮主たる“怨嗟と激荒の堕鬼”の討伐達成により、装備品【勇壮の武衣】が贈られます》
《特殊条件:【怨嗟と激荒の堕鬼の単独討伐】達成により、【迷宮核】が贈られます》
《特殊勝利条件:【不戦と慈悲の真なる勇心】達成により、装備品【双鬼刃・朧神楽】が贈られます》
《“封じられし真の迷宮”を単独にて攻略した偉業により、領地が贈られます》
《領地を得た事により、【領主】と成りました》
《【領主】と成った事で、【勇者】としての全ての能力が独立・永続化しました》
《【禁忌の解石】入手、迷宮完全攻略達成により、エクストラスキル【合成】が贈られます》
《【忘却の刻石】入手、迷宮完全攻略達成により、サブジョブが解放されました》
《サブジョブ【調合師】を獲得しました》
《レベル99で【迷宮主の単独討伐】を達成した事により、レベル00に到達しました》
《レベル00到達により、【農家】に秘めれられたエクストラスキル【熟成】が解放されました》
《レベルが上限に達した事でジョブが【農家】からクラスチェンジします》
《ジョブが【豪農】に成りました》
《ジョブ【豪農】への昇級に伴い更新を実行──》
《──全ての更新が正常に完了しました》
「────────え?」




