歩みは止まらず
ジステラが加わり、村は更に発展している。
生活の三本柱が“衣食住”である様に、衣を担うジステラの活躍は特筆すべきもの。
運命って凄いな~。そう思わざるを得ません。
そして、妻達が一層貪欲で肉食系に。子供が必要というのは確かなので否は有りませんが、時と場所だけは選びませんか? ……無理ですか。そうですか。
まあ、夫婦仲も良く、問題らしい問題も無し。
勇者としての力が失われる心配が無くなった為、はっきりと言って俺にダンジョンを攻略する必要性は無くなりました。
別の理由が出来ましたが。
勇者の力が此処での生活の要だっただけに諸々の不安が解消された訳です。俺の死後への備えをする時間は十分に有りますから繋いでいける筈です。
だから、そんな顔をしなくてもいいんだからね?
「……判ってはおるのじゃがのぉ……」
「……自分の無力さが悔しいですの……」
目の前で、探索隊を交代で指揮しているアルビナスとエメが滅茶苦茶落ち込んでるんです。
ええ、毎日探索しているのに手掛かりすら見付からないから気落ちしています。それを口実に甘えてくる辺りは強かだとは思いますが。それはそれ。二人と共に行動する探索隊の面々も落ち込んでいるから雰囲気が暗い。それを見ても何も出来無い他の皆が「どうにかして」と言外に訴える程にです。
だからと言って、「気にするな」「気長にね」等と軽々しい事は言えません。言葉って難しい。
取り敢えず、出来る事は一緒に悩む位かな?
ただ、俺が探索隊に参加するのは駄目らしい。探索隊だけで見付けた成果じゃないといけないから。
せめて、其処は譲歩して欲しいんですけどね。
だからまあ、出来る事は当たりを付ける位かな。
んー……例えば、【領主】と成ったから判る事。与えられた領地は攻略したダンジョンが在った所を中心とした均等な円形の範囲という訳ではなくて、パッと見では判らない。不揃いなパズルの1ピースと言った方が判り易いと思う。
だから、中々見付からなくても可笑しくはない。領地の規模が必ずしも均一、或いは近いとは限らないから。
つまり、当たりも付け難い訳ですけど。
領地に近いかもしれないし、遠いかもしれない。見付け易い所に有るかもしれないし、見付け難い所に有るかもしれない。それは誰にも判らない事です。判れば苦労はしていません。
だから簡単には見付からないのは当然の事だけど……何とか見付けさせて遣りたい。アルビナス達が頑張ってるから。
しかし、アルビナスとエメが居て見付けられないから発見は本当に難しいとは思うんだけど……
「………………あ」
翌々日の夕飯前。ダンジョン発見の報告が来た。
「おおっ!」と俺を含め、側で聞いていた者からも歓喜する声が上がった。「良かった」と一安心──したかった。
ただ、当のアルビナスとエメは不機嫌だ。
仕方が無い。ダンジョンが見付かった場所は海底だからな。
海に潜れるアルビナスが率いての探索だったが活躍したのはネーレイアの皆。うん、御苦労様。
「あんな場所、勇者が見付けられると思うか?」
「絶対に嫌がらせですの」
最初に仕込んだ、出来上がったばかりのワインを飲みながら二人が左右から愚痴ってくる。
絡み酒? 蛇と植物だけに?
「主様?」
「旦那様?」
余計な事を考えてはいけない。こういう時の女の勘は普段の何倍にも鋭くなるのだから。そう学ぶ事が出来た。
翌朝、アルビナスとエメの妊娠が判明した。
昨夜、あんなに激しかったけど……大丈夫? それだったらいいんだけど、気を付けるようにね。
さて、俺は発見された海底ダンジョンに向かう。
【絆晶帝環】のお陰でス~イスイ。海中散歩は楽しいな~。
──という感じで、さくっと攻略は終了しました。
ジョブが【豪農】から【聖農】に。
エクストラスキル【収穫】を入手。
スィンがモーラ族の、ジステラがタラテア族の長に認められ各々に力を得ました。俺もです。
そして、新たな領地を獲得。陸地だけなら最初の領地と同じ位なんですが、今回は海も含まれています。
はい、超安全に養殖が出来る様に為りましたし、これで楽に海との往復も出来る様になった為、ネーレイアの皆も大喜び。やっぱり、海は恋しいんですね。
「ふむ……主様、この感じゃと新たに得た領地の東側にも別のダンジョンが在りそうじゃな」
「そうだな──と言うか、ダンジョンと領地がセットって事はダンジョンを攻略する程、平和で安全な場所が増えるよな?」
「そういう事になるのぉ」
「偉大な旦那様に相応しい事ですの」
「流石ですも!」
「嗚呼、神々しいのですぅ」
「ははは……でもさ、それって何処まで有効なんだろ?」
「それはどういう意味だ?」
「人──ヒュームの国に有るダンジョンを俺が攻略した場合、手に入る領地って既存の国の領土って事にならない?」
「………………なりますね」
「ふむ……これは本気で世界征服も出来るかもしれぬな」
「いや、そんな気は無いから」
「旦那様の血こそが世界の未来だと思いますの」
エメの言葉に賛成多数の声が上がったので物理的に抑える。夫婦だから出来る事ですが、これも世が世なら不同意性交扱いなんでしょうね。面倒臭い世の中じゃなくて良かったです。
「俺が言いたいのは、既存の国に有るダンジョンを攻略しても領地には出来無いんじゃないのかなって事」
「国が有るとは言え、それは人が勝手に決めた物であろう?」
「そうなんだけど、もしも仮に領地化が出来るんだとしたら、俺が【領主】になった時点で他の勇者って不要に成らない? 俺が既存の国を全て領地にすれば、インベーダーでも例外無く手出しは出来無くなる訳だから」
「……確かに。アイク以外の勇者が存在する理由が無いな」
「でも、そういう報せが無いって事は勇者達は健在って事で。それは言い換えれば、俺とは違う役目が有るから、という事になると思うんだ。そうなると、勇者を召喚する国が無くなる事自体を避ける様になってる可能性は高いと思う」
「成る程のぉ……そう考えると既存の国は領地化は出来ぬか」
「勿論、絶対に不可能って訳じゃないんだとも思うよ。例えば王族の統治権の放棄や譲渡の後、ダンジョンを攻略するとか」
「鏖殺すれば手っ取り早いのでは有りませんの?」
エメ、そんな過激な事は言わない様に。ほら、何人か本気で遣ろうか悩んでるから。
まあ、こんな話をすれば、世界の征服──統一を考えるのは当然だとは思う。
思うけど、早めに話をして置きたかった。
俺には、そんなつもりは無いから、と。
うん、だって面倒臭いから。
それはまあ、皆の様に住む所を失ったヒュームを受け入れるといった事は全然構わないんだけどね。
ただ、自分から侵略する様な真似はしたくないんです。
俺は皆と、生まれてくる子供達との未来が一番大切だから。余計な怨恨を自分から抱える気は有りません。
「主様は他の勇者共の様な野心が無いのぉ……」
「野心ねぇ……勇者として魔王を、インベーダーを討っても、その後の立場は面倒なだけだと思うしなぁ……」
召喚した国が担ぎ上げ、他の国に恭順を強要したり、断れば攻め滅ぼそうとするだろう事が想像出来る。
インベーダーという各国共通の最大の脅威が居なくなれば、次に起きるのは国同士の衝突──覇権争いだ。
その時、勇者を有している国は最有力だとは思うけど……
「……けど、何じゃ?」
「勇者の力が魔王を倒す為に与えられた力なら、魔王を討った後は不要になるよな?」
「まあ……そうじゃろうな」
「勿論、魔王を討った事で“何でも1つ望みが叶う”みたいな御褒美が有るとして……その時、勇者が力が失われる可能性を考えて、力の存続を求めると思う?」
「………………先ず、無いじゃろうな」
「俺もそう思う。さっきアルビナスが言った様に野心や欲求が先に来るだろうから、力は失うだろうね」
「成る程のぉ……その無駄に強い欲が己を破滅に誘うか」
あと、元の世界に帰る可能性も有るだろうしね。
魔王を倒せたとしても、パーティーの全員が生き残っているとは限らないから、何を望むかも判らない。
まあ、抑として、そう簡単に魔王を倒せるのなら疾うの昔に勇者によって魔王は倒されていると思う。
少なくとも、自分の同級生達が、そこまで優秀な存在だとは思わないしな。全滅する可能性の方が高いだろう。
それと単独行動をする可能性も低いから、俺の様に独立する可能性も無いに等しいと言える。
弱い者である程、群れたがるものだから。
次のダンジョンを探す事は構わない。俺自身が強くなる為に必要な事でも有るからね。
ただ、その前に確認して置きたい事が有る。
……確認するだけだから、そんなに緊張しないで。
「す、すみませんも……」
スィンと数名──妻と妻以外とが俺の前でガチガチになって動きそうになかったので緊張を解す。
別に、どうこうしようって訳じゃないから。
単純にスィン達──モーラ族が放浪してた時の話を聞きたいだけだから。気楽に話してくれたらいいよ。
「放浪中の話ですも?」
「そう。此処での生活にも慣れて落ち着いたみたいだからね。ちょっと話し難い事──思い出したくはない経験とかも多少は有ったんじゃないかとは思うけど……話せる範囲でいいから、聞かせて欲しいんだ」
もう少し言うと、次のダンジョンを探す上で参考にしない。スィン達が何処を通ってきたのかで色々と判るから。
「判りましたも。御先祖様の話からの方がいいですも?」
「そうだね。出来れば順を追って知りたいかな」
「モーラ族は当初、祖国モーラントを失った後、当時の王族の数だけ分かれと近隣諸国に身を寄せていましたも」
「窮地の中で仲違いをされたのですか?」
「マリアナさん、そう思うのも判るけど、きっと当時の王族は一族の血を残す為に分散した方が可能性が高いと考えたんだ。ネーレイア族は海という逃げ場が有るけど、モーラ族は地上で生きるしかないからね」
「アイク様の仰有る通りですも。実際、その時に一番遠い地に避難していた末の王女が私の御先祖様ですも」
「そうでしたか……申し訳有りません、スィンさん」
「いえいえ、仕方無い事ですも!」
それは種族の差だし、価値観や文化的な違いだから仕方無い事なんですよね。
ただ、だからこそ、こうして話を聞く事に意味が有ります。御互いを知るという意味でもね。
スィンの話ではモーラントが有った辺り──西大陸の北東部というのは一気に奪い取られ、その後は膠着状態らしい。
その唯一生き残った王女と一族だけど、実は当初は西大陸を放浪していたそうだ。
しかし、モーラ族には日の光を苦手とする体質が有る。
これが他の人々──ヒュームからすると、光を嫌う、転じて闇を好む、というイメージに繋がり、迫害される様に。
祖国を失ってから約五十年。世間から祖国やモーラ族の存在自体が忘れ去られた影響だった。
そこでスィンの曾祖父は海を渡り、東大陸に活路を求めた。凄い決断だと話を聞いていて思う。
何しろ、モーラ族は泳げない。水は天敵だ。
それでも、その可能性に縋らなければ一族が絶えてしまう。そこまで追い込まれている状況だったのだろう。
異世界人とは言え、同じヒューム。そして、そういった話が向こうの世界にも有るから、申し訳無く思う。
十年を掛けて準備し、一族は西大陸から東大陸に渡った。
それから四十年近い間、モーラ族は未知の環境の中で抗い、生き抜いてきた訳だ。
それはまあ、種の保存の為の本能が強くなりますよね。
そう思っていると、スィン達の雰囲気が一気に暗くなった。テンションが先程までと雲泥の差。正直、何も言えない。
「ただ……私達の代は大変でしたも」
「何か遇ったのか?」
そう訊いてくれたローザさんに心の中で感謝する。ちょっと訊き辛い雰囲気だったので。
「同じ場所に長くは留まらない事が慣習化していた為、私達の親世代も移動していたのですも。ですが、十年前、食糧不足が問題となり、無理をして慣れない狩りに挑み、父達は全滅し、母達も私達を生かす為に亡くなりましたも……」
「……ん? 十年前って事はスィンは五歳?」
「はいですも。私達の中で一番歳上でも当時十歳ですも」
「…………よく生き残れたのぉ……」
「運が良かったんですも。母達が亡くなり、私達──子供だけとなって当ても無く彷徨っていた時、偶々、実りの良かった森に辿り着けたのですも。私達は其処で命を繋ぎ、皆で考えて、力を合わせて生きてきましたも」
「それでは、旦那様はモーラ族の救世主ですの」
「はいですも!」
「それを言ったらジステラが一番の切っ掛けじゃない?」と言いたくなるけど、此処は飲み込む。
その話を持ち出すと御互いに困るだろうしね。
今、こうして一緒に笑って居られるけど……つい、この前の事ですからね。触れない方がいいんです。
「スィン達は放浪中、他の種族に会った事は?」
「有りませんも」
「そっか……まあ、そうそう居ないか」
「──も、ただ、此処から北東──東大陸の北端になる場所は滅茶苦茶寒い場所だと聞いていますも」
「そうなの?」
「私に聞かれても困る。私達は、この辺りしか知らないしな」
「そういう話を聞いた事も?」
「無いな」
「それなら、行く時には要注意だね」
「それと……確実な話では有りませんが、その北の地で白くて大きな影を見たという話も有りますも」
そのスィンの一言に食い付くのは仕方が無いのだろう。
未知の種族か、或いは、可能性を有したモンスターか。
何方等にしても、次の目標は北の地に決まった。




