ダンジョン
ささっと準備して、アルビナスに抱き上げられてユマデェ山を目指す。帰りはエメにです。
ユマデェ山まではウォウギュの荒森が続くので、エメの力の影響下にある為、モンスターは居ない。だから護衛とかは本来は要りません。
ただ、ムムナちゃんが一緒なのは鉱物探しの為。リンゼを選んだのも遣り方を知っているから。
ダンジョンには俺しか入れないので、待ち時間を考慮した結果です。
そのユマデェ山ですが……うん、村からの見た目よりも実物は大きくて高い。……エメ、「旦那様の方が大きくて立派ですの」とかは止めて。此処には妻しか居ないけど、それはそれで恥ずかしいから。男としては嬉しい言葉なんだけどね。
周囲が開けていて比較対象が無いから、遠目だとサイズが狂って小さい様に錯覚するのでしょう。
動物は勿論、植物も一切無い険しい岩山ですから見た目から死を連想させます。だから余計に此処は人が近寄らなかったんでしょう。恐怖心や畏れから信仰対象の様になったりもしますからね。
頂上──ではないんだけど上からの眺めは絶景。自分の登山経験と比較すると……3000メートル以上は有る様に思う。
俺を抱えて軽々登ったアルビナスは勿論、三人も余裕綽々なので彼我の身体能力の差を実感。絶対にレベルを上げて強くなろうと思う。ベッドの中では無双出来ても現実で弱いのはねぇ……
「旦那様、彼方等がダンジョンですの」
山を登り、窪地となる内側に向かって、下りでも険しい道を進み、以前のエメの生えていた場所に。今は大きな穴が出来ているが、形からエメが如何に巨大だったのかは判る。
其処に立てば、火山の火口の様に周囲を山という壁で外界と隔絶された空間だとも。うん、暇だね。そして生きる為に、そういう力を持ったのも納得。移動出来無かったというのも大きいかな。
そんなエメが居た場所の畔に。
ポツンと存在する長方形の黒い存在。
縦3メートル、横2メートル程の黒い板が其処に置いてあるかの様に。
だが、全く光を反射せず、微かに動く事も無い。その異様さから、一目見て判る。
これがダンジョンの入り口なのだと。
「へぇ~……本当に勇者以外には無意味なんだな」
そう言うのはダンジョンの入り口に腕を突っ込み通り抜けてしまったリンゼ。ダンジョンには入れず身体の一部だけが切断されたバラバラ死体みたいに見えるから止めて。あと、迂闊に触れたら駄目。
──とは言え、やはり不思議な光景ではある。
「エメ、このダンジョンって何時から此処に?」
「………………少なくとも、オルガナ族の方が森に入るよりは以前だと思いますの」
「マジかよ……」
「此処に勇者が来た事は?」
「有りませんの。ああ、ですが、森に踏み入れた事でしたから…………大昔に有った筈ですの」
「それはオルガナ族よりも?」
「勿論、前の事ですの」
エメの話に驚くリンゼの反応も当然だと思う。
しかし、重要なのは、その後の話だ。
オルガナ族が移住してくる以前に森に踏み入れた勇者が居た事には驚かないが、ユマデェ山にまでは来なかった──いや、来れなかった。
そう考えた方が納得はし易い。
如何に勇者だろうと無敵でも万能でもない。
エメの影響を俺が受けないのはジョブの御陰で、相性が良かったから。他のジョブだったら、エメに生命力を吸い取られて気付かない内に死んでいた。そんな可能性も有ったかもしれない。
オルガナ族やネーレイア族が平気なのは恐らく、エメの生命力を奪う対象に含まれなかった為。
人──ヒュームではなく、モンスターでもなく、勿論、インベーダーでもない。
だから、その影響を受けなかった。
そう仮説を立て、エメに確認する。
「……確かに旦那様の仰有る通りですの。私の力はオルガナやネーレイアには効いていませんの」
「そうか……だから平気だったのか」
「……エメよ、それは最初から効果対象に含まれておらぬのか? それとも其方が意識しておらなんだ事によるものなのか?」
「後者も否定は出来ませんが、前者ですの」
「主様」
「うん、判ってる」
アルビナスが何を言いたいのか。
はっきり言って、そのエメの力は反則だ。以前のアルビナスみたいな高位の存在ではない限り、先ず無抵抗のまま殺される。駆け出しは勿論、ある程度実力を持った勇者でさえ何も出来無い。
エメの所に辿り着く事さえ難しい。
仮にだ。超長距離攻撃が可能な勇者だとしても、ユマデェ山という天然の鎧であり、盾が威力を削ぎエメに致命的なダメージは与えられない。しかも、攻撃されたと判ればエメに反撃されて終わり。
うん、エメって裏ボスみたいな存在だった。
まあ、アルビナスもエメの事は言えないけどね。俺との戦いではスキルは使って無かっただろ?
……ああ、成る程ね。成長系なのか。それじゃあ戦闘中には使えないな。
そのスキルも十分に反則だけどね。
つまり、何が言いたいのか。
俺のジョブの【農夫】はハズレではなく、レア。それも魔王やインベーダーを倒す為の勇者ではなく世界を拡張させる為の勇者としての力。
そう考えれば、アルビナスやエメの様な存在達が生まれてくるのも納得が出来る。
そういう風に設計された世界なんだと。
だから、このダンジョンも、その一端。
勇者を強くし、世界を変えてゆく為の。
其処から読み取れる事は、創造者の存在。
一柱か、複数なのかは判らない。
しかし、この世界の根幹を設計し、生命を配し、後は見守っているだけ。
恐らくは、後から手を加えたりはしていない筈。それを遣ってしまうと経過観察が出来無い。
見たいのは、可能性。
求めるのは、未知。
人が作り出す、それらなのだろう。
だから、今の俺は、俺達は大注目されている筈。プライベートまで見られているのかは判らないが、間違い無く、要チェック対象になっている可能性が高いと思える。嫌だな~、面倒臭いな~。
まあ、此処で愚痴っても考えても仕方が無いんでダンジョンに入りますか。
それじゃあ、行ってきます。
四人と分かれ、ダンジョンの入り口に入る。
リンゼの時の様に通り抜けてしまう事はなくて、見えない薄い膜、或いは空気の層が有るみたいに、微かな抵抗感を感じながら、暗闇の中へ。
十歩と歩かず、暗闇を抜ける。
その先に広がっていた景色に思わず立ち止まる。正直、洞窟や遺跡の様な「これぞダンジョン!」な景色を想像していただけに、予想外だった。
「趣味が良いのか、悪いのか……」
それは“世紀末”と題しても可笑しくはない。
この世界の人々には馴染みが無くても、自分達の様に召喚された者には馴染みが有るかもしれない。高層ビル群、舗装された道路、地下鉄の出入口。
つい、この間までは日常だった景色に似ているが大災害で人間が滅亡した後の世界を思わせる。
こんなダンジョンだとは思わなかった。
ただ、建物等は有るが、車やバス、自転車でさえ見当たらないのは違和感しかない。
しかし、持ち出される可能性を考えたなら当然の仕様なのかもしれない。
此処の製作者は「いやでも、これが無いと!」と粘ったかもしれない。俺なら粘る。最後は折れるが拘りが有った事だけは示したいから。
実物は持ち出し不可能にしても、構造等の技術を持ち出される事は好ましくはない。
元の世界で既に身に付けていた知識や技術としてではなくて、此処で、となるからだ。
それは外部からの干渉を意味する。
だから、外見だけだとしても、そういう技術等は再現する訳にはいかなかったのだろう。
神が複数存在するなら、他の神々からガミガミと言われている製作者の姿が想像出来る。
大丈夫。俺には伝わりましたからね?
さて、それはそれとして。
こういう景色だから、クリーチャーもゾンビ系が出て来そうに思ってしまう辺りに、ゲームの世代が現れている様な気がします。俺はレトロゲーも好きでしたし、身内にゲーム好きが多い家系だった為、親戚の家等にも昔のゲームが沢山。
直ぐに売る人達が多い中、珍しいタイプの一族。だから、御宝も多かった……懐かしいなぁ……
「……由々しき事態で御座る」
ゾンビパラダイスとかでは有りません。
此処で現れるクリーチャーにはゾンビのゾの字も見当たりません。フラグは立たなかったらしい。
いや、そういう事ではない。
正直、何と言えば………………仕方が無いよね。此処は素直に言いましょう。
「なんて温ゲーだっ!!」
ふぅ~~~……あー、スッキリした。
ドキドキ、ワクワク、ハラハラ。ゲームとは言え初めての戦闘を迎える瞬間は胸が躍ったものです。だから、とても楽しみにしていたんです。
それなのに…………普段、グリャンギザの深淵森で狩ってるモンスターの方が強いって何っ?!
戦闘が苦手なムムナちゃんの方が強いよっ?!
──という訳なんです。責任者出て来ーいっ!!
「くっ……考えると余計に苛々するなぁ……」
深呼吸、深呼吸。す~……は~……よし。
まあ、原因は判っています。俺はレベルが1でもアルビナスが褒めてくれる程、魔法に長けているし魔力量も多いみたいだ。だから苦戦はし難い。
これは想定内。想定以上にクリーチャーが弱い。これは仕方が無い。此方も生活が掛かっているから地道に戦闘経験と技量は上がるから。
最大の問題は最初に得た宝箱。ジョブ【農夫】の専用装備品【肥耕の鍬】は何でも耕してしまえて、生物が対象なら生命力吸収効果付き。
はい、今の俺には鬼に金棒、農夫に鍬です。
更に、【清浄の福音】という特殊装備品を入手。これは聖痕という装飾品で一人一つのみ装備可能で外す事も変更も不可能。
その効果が、固有魔法【クリーンナップ】を使用可能というもので、これが状態異常も治せる上に、装備者は僅かずつだがマナが回復する。
そう、魔法を使わずに戦っていればマナは回復。その為、無双状態に。ね? 温ゲーでしょ?
まあ、レベルもガンガン上がってるから、目的は果たせてはいるんですけどね。
「──っと、宝箱だ」
入っていたのは【礫蹴の跳靴】。装備品の靴か。足元は大事だもんな~…………え? これマジ? ははっ、遣った! チート? 問題無し!
この靴、装備すると、踏んだ物を足場にして跳躍出来るんだけど、空気中の原子を意識して踏んでも足場に出来る。凄いよね!
それだけじゃなくて、踏めるのなら、蹴れる筈。そう考えて試せば──はい、大当たり~。空気弾を蹴り飛ばせる。ヤバイ、コレ超楽しいっ!!
空気弾に攻撃力は無い。だけど、当たれば影響は少なからず有る。相手の大きさや重量にもよるけど戦闘では崩し等に使える。
もう温ゲーだし、気にしない事にする。それより新しい装備品の方がテンションが上がるから。
まあ、多少は「コレ、出来過ぎじゃない?」って疑いたくもなりますけどね~。
装備品って宝箱からしか入手出来無いらしいから運の要素が有っても可笑しくはない。だから幸運が続いていると不安になるのが人の心理。
でも俺は、こういう運の良し悪しは気にしない。だから続いても嬉しいと思うだけ。悪い事の場合は良い事が起きる前触れだと考える。
何より──「運って何ぞ?」と思えば、気にする事自体が馬鹿馬鹿しくなりますからね。
占いと同じく、運も信じる・信じないは人各々。そして、運よりも自分の行いを気にしましょう。
「ん~……それっぽいから、そうかな?」
目の前には巨大で禍々しいデザインの扉。
一通りは調べ終えたから、此処が最後。この先に待っている筈なのが迷宮主。
ゲームなら序盤に来られる様な場所ではないから高難易度ダンジョンの筈。
しかし、こうもあっさりだと、どんな仕様なのか判らない。寧ろ、油断させておいて滅茶苦茶強力なボスが居たりしないだろうか?
いや、楽に攻略出来るなら、それが安全なんだし良いんですけどね。
ただ、アルビナスとの戦いを経験したからなのか自分の中に芽生えた闘争本能みたいなのが有るから強敵と戦いたいのも本心。
まあ、どうなるのかは進んでみないと判らない。だから、その扉に手を掛けよう。




