因果応報
生存競争というのは言わば生命の大原則。全ての生物、種の根幹に有る本能だと言える。
だから、仕方が無い。
そう言われては、否定も出来ません。
はい、あの白い大蛇との闘いの後、更なる激闘が待ち受けていようだなんて誰が考えられますか! 此方は一杯一杯の状態だったんですから。
ローザさんも、妊娠してるの参加して……え? 妊娠初期だと大丈夫? 誰に……御義母さんさん……
まあ、済んだ事です。仕方が有りません。
あの日から既に十日。日々の暮らしに異常無く、変わった事と言えば、マリアナさんが妊娠した事。ネーレイアの皆の尊敬度が高まった事。うん、俺は拝む様な存在じゃないから。
「ふむ、やはり此処は賑やかな所じゃな」
『────服ううぅぅーーーーっっっっ!!!!!!!!』
そして、あっさりと平穏な日常は崩れていった。
うん、何かね、朝の畑仕事に行こうとしてたら、自宅の前に全裸の美女が立っていたんです。
だから、俺以外の女性陣が誰かと気にするよりも全裸である事を気にした。
ローザさん達にしろ、マリアナさん達にしても、そういう所を気にしてくれる様になったんですね。ズレてる自覚は有りますが……その成長に感動。
「人が服を着る事は知っておったが、生憎と妾には手持ちが無くてのぉ……で、どうであった?」
「どうとは?」
「自分で言うのも何じゃが、主様の囲うておる雌と比べても見劣りはしておらぬと思うのじゃが?」
「え~と……」
服を着せられた謎の美女さんは再登場するなり、そんな挑発的な事を宣う。
いやまあ、確かに凄かったですけどね。
──なんて言えませんよ。火に爆薬です。
──が、察したのか、謎の美女さんは嬉しそうに頬を赤めならが微笑む。
「うむ、ちゃんと妾にも雌としての魅力は有る様で安心したわ。さあ、主様、妾とも子を成そうぞ」
「いや、意味が判りませんから」
「ぬ? 可笑しいのぉ……人の雄は己が好みの雌を見れば子を孕ませると聞いておったのじゃが……」
「そんな事は無いから!」
正確には、存在が出来無いから。
だって、そのままの人だと単なる犯罪者です。
──と言うか、何? この謎の美女さん。何故、こんなにも独特過ぎるの?
滅茶苦茶スタイルは良いし、新雪みたいな純白の長い髪は神秘的で。でも、同様に白い肌は健康的な赤みを帯びていて妖艶。綺麗な紅玉の眼は──
「────え? まさか……あの白い大蛇?」
「ほほっ、流石は主様よ。よくぞ気付かれた」
『……えぇえええぇぇーーーーっっっっ!?!?!?!?』
俺が言った一言を肯定し、得意気に微笑む。
それを見て、この場に居る全員が驚愕する。
いや、俺も自分で言ったけど驚いてる。
ただ、彼女の姿を見た時から、違和感と言うか、既視感の様なものを感じていたけど……だからか。いや、さっぱり意味は判らないんだけどね。
「な、なな何故、あの大蛇が人にっ?!」
「ん? 何故も何も可笑しな事を……其方等の祖も妾と同様、その身を人へと転じた存在ではないか」
「なぁっ!?」
一早く我に返ったローザさん。だが、その言葉に更なる衝撃の事実で切り返されてしまう。
そして、ローザさんだけではなく、オルガナ族のラシアさん達も、ネーレイア族のマリアナさん達も黙ってしまう。
そうなるのも仕方が無い事だろう。
ただ、俺は一人、静かに納得していた。
ずっと、気にはなっていた。
オルガナにしろ、ネーレイアにしろ。
その祖先は何処から来たのか、と。
皆の知る話を聞いた限り、何方等の種族も世界に最初から存在していた様には思えなかった。
何しろ、ヒュームと比べて格段に優れているのに種族全体の数が少な過ぎる。
ローザさん達との……まあ、アレだ、夫婦の営みからしても繁殖力が低いとは思えない。
それなのに数が少なく、ネーレイアにしてみれば差別・迫害されていた歴史が有る。
この世界に最初から存在していた種族であれば、それは立場が逆なのが正しい。
弱肉強食。ネーレイアの方がヒュームより優れた種族だと言えるのだから。
だが、実際には違う。
だから、矛盾していたが──その答えが判った。オルガナも、ネーレイアも、モンスターから転じた亜人族──新しい種族だったからだ。
「ふむ……主様は驚かぬのじゃな」
「正直、気にはなっていた事だからね。ヒュームが多いのは判る。召喚された俺達がヒュームだから。でも、そうだとすると、ヒュームよりも優れているオルガナやネーレイアが、ヒュームよりも国力等で劣る理由が判らなかった。魔王やインベーダーとの戦いで衰退したにしても、それ以前に疑問が残る。でも、今の話で、その理由が理解出来た」
この世界のモンスターが強力なのに、第三勢力の立ち位置に在る理由も。
モンスター達にはモンスター達の専用のルールが存在していて、それにより、高位に至れる。
更に、その中の、限られた存在が人へと転じて、新たな種族の始祖と成れる。
そういう仕組みなんだろう。
「ふふっ……やはり、妾の見初めた雄よのぉ」
「その雄雌表現は止めて。あと、主様って?」
「自慢ではないが、これまで長い時を生き、数多の人を屠り、喰らってきた。当然、勇者ものぉ」
「知ってた……いや、気付いてたのか」
「妾とも成ればのぉ。そんな妾に、久しく無かった傷を本の僅かとは言え、刻み、更には生き延びた。判るか? それを理解した瞬間から、妾は主様の事だけしか考えられなくなったのじゃっ!」
あー……うん、まあ、何と無くは。弱肉強食の、戦闘民族的な価値観ですよね?
それよりも……何故、皆も強く頷くのかな?
…………ああはい、強い男を求める、という意味でだったら、同じだと。其処で共感するんだ。
「妾を女にしたのは主様よ。その責任は、しっかり負って貰わねば困る」
「それはまあ、俺が殺した結果なら……ん? 今、何て……え? 大蛇の時は雄だったの?」
「失礼な。妾は元より雌じゃ。主様が雌蛇であった妾を殺し、“人の女にした”という意味じゃ」
そう言って拗ねる様に頬を膨らませる彼女の姿を可愛らしいと思っている時点で、答えは出ている。
まあ、異世界人生の諸先輩方に倣い、自分のした事に対する責任は背負わないといけないしね。
「俺はアイク。名前は?」
「この姿と共に“アルビナス”の名を賜った」
名を賜った、か。
誰に何て訊くまでもないし、訊いても無駄かな。多分、アルビナス自身、それ以上の事は知らないし判らないだろうから。
まだまだ世界は未知が溢れてるな~。
因みに、アルビナスは“ナーガス族”の始祖。
だから、初夜から滅茶苦茶貪欲。うん、激しいんじゃなくてね。そのギャップは狡い。俺の遣る気を刺激しまくるんで……大丈夫、皆ともしますから。アルビナスだけを特別扱いはしません。
「私、“トレニト”のエメツェリと申しますの。旦那様、どうぞ末長く宜しく御願い致しますの」
アルビナスが家族に加わってから五日目の朝。
そう言って三つ指を付いて頭を下げている美女が俺達の目の前に居ます。
現王者のアルビナス以上の挑戦者。
葉で編んだ様なワンピースの上からでも判る。
ローザさんと同じ位の身長で、180センチ近いアルビナスよりも階級が上とか……怪物かっ!?
……ゴホン、失礼。
緩やかなウェーブの長い髪は頭の天辺から毛先に掛けての鮮やかで綺麗な緑のグラデーションで有り思わず見惚れてしまう。肌の色は自分と似ていて、少し眠そうにも見える円らな橙色の眼。耳の辺りに小さな茶色い突起が見えるが……耳? 髪飾り?
何にしても、一度見れば忘れないと言える。
はい、言って置きますが、俺には全く心当たりは有りませんから。初対面です。
そして、他の誰も面識は有りません。
──が、アルビナスが自分を指差す。
……知り合い……家族? ……いや、種族が……
……種族? …………え? そういう事?
半信半疑ですが……考えても仕方が無いですから率直に訊く事にします。
はい、原因は俺でした。
詳しい話を訊くと、先日の闘い、俺が大蛇だった時のアルビナスに放った【一輝農閃】が飛んで行き眠っていた彼女を殺したんだそうです。
「……え?」って感じで目覚めた瞬間に、自身の死を理解し、殺した相手を探し──俺に一目惚れ。うん、異世界の強者よ、チョロインで良いの?
「でも、眠ってたって……何処に居たの?」
「此処からでしたら北東の山の中になりますの」
「北東……“ユマデェ山”か。そんな所に……」
「…………? 眠ってたんだよね?」
「そうですの」
「空中に浮かんでたとか?」
「私、その様な事は出来ませんの」
「妙に拘るのぉ……何が気になるのじゃ?」
「あー……あの時の一撃、一応は余波を考えた上で放ってたから発射線上には何も無い筈なんだ」
「……其方、以前の姿は?」
「とぉ~~~~っても大きくて立派な樹でしたの」
「樹……ああ、だからかぁ……」
「主様?」
「あの一撃は生物なら確殺出来る。普通なら、樹の彼女は一部が傷付いた位なら死なないけど、俺には掠っただけで殺せてしまう。相性的にも覆せない」
そう、彼女が樹──植物だったから、俺の一撃に抗う事すら出来ず、殺された。
流れ弾に当たってって程度じゃなく問答無用に。何と言うか……うん、責任は取ります。妻になると望むのなら受け入れます。殺した以上は。
よく見ると髪型が樹木のシルエットっぽい。色も合わさると尚更に。アルビナスもだけど、元の姿の面影が強く残ってるんだな。
ただ、角度は付けた筈なんだけどなぁ……余程、大きな樹だったんだろうな。
…………ん? 樹? え? 樹が?
「エメツェリ──」
「“エメ”と御呼び下さいの」
「判った。それで、エメは樹なのに、ウォウギュの荒森の様に影響は受けていなかったの?」
そう訊いたら、笑顔が引き吊り──汗を滝の様に流し始めた。あ、コレ、展開が見えた。
はい、ウォウギュの荒森の謎が解けました。
エメツェリが原因だそうです。
エメツェリ──“魔大樹”だった彼女は動く事は出来無かったが、周囲の生命──人以外なら生気を吸収する事が出来るらしい。ただ、長く生きてると暇だから眠る様に。誰も来ないから。
うん、生きる為だけど、自業自得だね。
しかし、それなら何故、ギスベリスだけが?
「私も元はギスベリスでしたの。まあ、今の種とは違いますから、今のギスベリスは私の遠い親戚、と言った所ですの。だから、眠っていた私も無意識に見逃していたのだと思いますの」
そう説明され、納得。
知らない方が良い謎って有るものですね。
「──と、それだったらエメも以前の自分の身体を回収した方が良いか」
実はアルビナスが大蛇だった自分の骨や臓器等の一部を回収──取り込む事で、権能を得た。
元々の力を取り戻したと言うべきかな。
だから、エメツェリも同じだろう。
「御心配要りませんの。既に吸収済みですの」
「あ、そうなんだ」
「見倣うべきは見倣い、同じ失敗は致しませんの」
そう言いながら、エメツェリは着ている服の裾を小さく摘まんで見せる。
……ああ、成る程。マリアナさんやアルビナスが服を着ずに俺の前に居たから…………あれ? まだマリアナさんが来た時は眠ってたんじゃないの?
……へぇ~、他のギスベリスが端末機器みたいな役割をしてるのか。凄いな。
まあ、眠りながらだから偶々らしいけど。
しかし、アルビナスやエメツェリの様な存在から世界は多様性を拡張させていくんだろうな。
そう言ったら、二人が顔を見合せ──苦笑。
え? 今、可笑しな事言った?
「妾達の様に至れる所まで至れても、その先に至る為には不可欠の鍵が必要となる。それが勇者じゃ」
「勇者によって殺された時、最後の鍵を得ますの」
「……それじゃあ、オルガナやネーレイアの始祖も勇者によって?」
「殺され、そして、愛した」
「その愛の結実こそが種の確立ですの」
……勇者って魔王を討つ事が役目じゃない?
いや、まさか、そんな事が………………止そう。考え始めたら切りが無い。
うん、それは考えないけど……何してるの?
何で二人して服を脱ごうとしてるのかな?
「見た目は兎も角として、寿命は生まれたてじゃ。二十人は子を産むので宜しくのぉ、主様」
「沢山産みますから沢山御願いしますの、旦那様」




