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ハズレ勇者の気まま暮らし  作者: 桜惡夢
~Another World Life~
20/20

正式な作法




「今この時より、我々ネーレイアの民はアイク様へ永久の忠誠を以て尽くす事を此処に誓います」



 そうマリアナさんが宣言し、一斉に土下座。

 これね、ネーレイア族の正式礼なんだそうです。ええ、所謂、服従とかを示す際の。


 う~ん……一気に大所帯になったなぁ~。

 畑は拡張してたけど、もう少し拡げるべきかも。水田は兎も角として……ああ、果樹も増やさないと心許ないな。果物の人気は高いから。


 ──と考えてしまうのも、仕方が無い事。

 だって、マリアナさん、俺の奥さんに成ったし。はい、あの後ね、色々有ったんです。ああ、誤解は解けましたよ。それで、此処に新たな御姉様信者が誕生したけどね。はははっ。

 まあ、それは夫婦円満の為の新ネタとして。


 マリアナさんですが嵐で離れた一族を探そうにも向こうも何処に居るのか判らないそうで、宛も無く闇雲に探し回っても助けて貰った命を無駄にする。それよりは、あの海岸に留まり、一族の誰かが来る事を信じて待つ。そう決意した訳です。


 その流れで、「その姿で陸で生活するのってさ、大変なんじゃないか?」とリンゼさん。

 すると、「ああいえ、陸上では……」と下半身を魚型から人型に変身させるマリアナさん。

 上半身と下半身の境を隠す訳でもなし、腰の所に貝殻が有るのが気にはなっていましたけど、それが下半身用の下着代わりだったんですね。納得。

 でも、当ててるだけ。はい、丸見えです。


 流石にローザさん達が慌てましたし、怒った。

 俺が着替えを出した訳ですが……ローザさん達も俺からすれば同る……何でも有りません。


 この変身はネーレイアの種族固有の能力だそうで下半身の変身のみ可能。だから陸上で生活する時は下半身は人型になるそうですけど……ええ、まあ、そうですよね。マリアナさんの年齢だと、既に漂流している環境なので殆ど水中の生活。下着の概念が機能していないのも仕方が無い事ですよね。

 ……いや、そんな事は無いから!


 同族の男性の前では人型には成らない様にと注意されていた意味が判った?

 ……そう。まあ、良かったという事で。


 其処にね、好奇心からなのかは判りませんけど、ルッテちゃんが「……ネーレイアの繁殖は何方等の姿で行うんですか?」と訊いて。

 「交尾は人型で行うそうですよ。生まれる子供は水中出産だと下半身が魚型、陸上だと人型になると聞いています。私は水中出産での子供しか見た事は有りませんけれど」と即答。


 貴女、嫁入り前では? 恥じらいは何処に?

 そう言いたかった俺よりも早く、それを聞いて、ローザさん達が動いた。


 マリアナさんに俺の奥さんに成る気はないか、と話を振ったんです。

 はい、マリアナさん、吃驚。俺も吃驚です。


 まあ、ローザさんの妊娠も一因なんですけど。

 マリアナさん達は安住の地を求めています。

 それが叶わなかった場合、どうなるのか誰よりもローザさん達が知っています。説得力は絶大。

 更に、話を聞けば、直近で妊娠・出産を経験した女性は二年前が最後ですが、子育て中だから。

 つまり、ネーレイアの人達が俺達と一緒に暮らす事になれば、その経験者の女性達が居る訳で。

 結果、ラシアさん達も子作りが始められる。

 そう考えたからです。


 勿論、そうは言っても急な話ですからね。流石にマリアナさんも即答はしませんでした。

 俺達の自宅に戻り、野菜等を食べるまでは。

 はい、一撃で即落ちでした。頑張って育てている野菜を食べて、というのは誇らしいんですけどね。その日の夜には子作りって……それでいいの?

 諸々の事情と誘惑に負けた俺が何を言おうとも、説得力なんて有りませんけど。


 海岸に目印と伝言板(メッセージ)を残し、毎日海岸通い。

 夜は妊娠したローザさんと入れ替わる形で優先。ラシアさん達もネーレイアの長のマリアナさんには配慮した訳です。


 マリアナさんが一緒に暮らし始めて五日。海岸で再会した一族の女性達と話し、彼女達は残りの皆を呼びに戻り、マリアナさんは生活を継続。夜の方が一層貪欲で激しくなりました。


 それから八日が経過した今日、海岸に皆で来て、マリアナさん達の挨拶を受けています。

 どう返すべきか等は事前に聞いています。


 オルガナの長のローザさんが受けるのでは?

 そう思っていたのは俺だけでした。

 俺を二人──二種族が共有する形ではなく、俺が二種族を娶り、従える形に成るんだそうです。

 う~ん、異世界文化・異種族文化。


 そんなネーレイアの一族ですが、その構成人数は二~五歳の子供が十七人、その両親の二十代半ばの男女が十七組三十四人、その親──祖母達が七人。最後に十代半ばの女性(・・・・・・・)が十二人。


 うん。最後、可笑しいよね?

 「え? 女性だけ?」って為ります──と言うかマリアナさんに言いました。

 その世代が女の子しか生まれなかったのは仕方が無い事だし、その親達も亡くなっている。

 ええ、海の中には境界線なんて有りませんから、陸上以上に生存競争は過酷で、ネーレイア族は数をギリギリで保っているという状況で。今の子供達を守る為には親達は戦う。亡くなれば更に厳しくなるという事が予想出来ますから、定住は本望。反対者なんて一人も居ませんでしたよ。


 ──で、その十二人も俺の奥さんにと。一族には男性が居ますよね? ……ネーレイアの男性は妻を生涯に一人しか持たない性質? 風習じゃなく? それは流石に仕方が無いか……何故こうなる……。


 ああ、それからネーレイアの皆さんは衣服を着て下半身は人型ですが、別に生涯を陸上で過ごす事も問題無く出来るそうです。国が有った頃には一定数海に入らず、下半身を魚型に殆ど変えないで生涯を終えていた方も居たそうです。

 そうマリアナさんの母親(御義母さん)から聞きました。

 御義母さんを含む祖母世代は国が滅ぶ前後に生を受けている為、一番過酷な時期を経験しています。だから、定住出来る事を泣いて喜び感謝感謝。

 因みに、亡くなった義父(旦那さん)が王子。

 その為、長の権限はマリアナさんに有り、次代もマリアナさんの子供達にのみ有るそうです。

 その辺りの事に関しては俺は触れません。妻達に全て任せる事に決めています。


 挨拶が済めば、俺達の住む場所──今回の件で、正式に命名された“ユイノ村”に戻ります。

 はい、彼女(・・)への感謝を遺す為です。


 その村までの移動ですが、ネーレイアの人達って陸上でも下半身は強靭でした。男性は生活用品を、女性は子供を抱えて走る。御義母さん達も早い。

 ……俺? マリアナさんに抱き抱えられてますが何か? 夫婦なので問題有りません。

 単純な陸上での身体能力や戦闘能力はオルガナの方が上ですが、十分に即戦力。期待出来ます。


 さて、定住するので、各親子に一軒家を割り振り種の存続と繁栄にも励んで貰うつもりですが流石に短期間では用意が出来ません。

 其処で、今後の多目的用の大きな集会場みたいな建物を作り、一時的に集団生活。

 人手が増えてから家を建てる、という事に。

 材料は確保済みですし、基本構造を同じにすれば十八軒なんて直ぐです。

 十七組の夫婦と、御義母さん達の為で十八軒。

 マリアナさん達は増築した俺達の自宅で一緒に。逃げ場は有りません。逃げる気は有りませんが。


 それと、細々とした事ですが、ネーレイア族には入浴の習慣が有ったそうで、マリアナさんは実物の御風呂に感動していました。海中生活だと入浴って出来ませんからね。

 だから、住人用の大浴場──男女別を準備済み。皆さんの期待の眼差しが凄いです。


 マリアナさんが来てからの海岸通いに際し、色々海産物を採取して貰った中で、海藻の養殖を新しく作った貯水池で始めています。

 ネーレイア族は水に関わる魔法が滅茶苦茶得意で海水を作り出せます。勿論、大量に作るとなると、大変なんですけど。有る物を操作するのは容易い。そう、俺が収納して運べば、貯水池の海水を操作し水質・水温を管理するだけで済みます。

 直射日光が当たらない地下部分を作り、循環する事を前提にした仕組みにしておけば更に楽に。

 その御陰で海藻の養殖は大成功。外敵も居ないし本当に良く育ちます。

 マリアナさんに海水を脇に避けて貰えば、俺でも海底──地面を耕せますからね。


 そんな海藻の中に、薄みたいな形をした深紫色のモンスターも食べない[ツンシコート]という物が有るんですが、コレは良質な綿が取れるんです。

 しかも、[リーンシシコ]という椰子の実の様な海藻の藻液を混ぜると固まってクッション化。

 当然、最優先で量産し、マットレスや寝具を改良しています。睡眠は大事なので。


 一方で、魚や貝の養殖は失敗。

 何故か、直ぐに死にます。別に食べても問題無く美味しいんですけどね。

 謎が更に深まっただけです。


 食文化という意味では、ネーレイア族は海産物の生食には滅茶苦茶詳しくて技術も確か。早く醤油が出来るのが待ち遠しい。

 塩でも新鮮な刺身は美味いんですけどね。

 好き嫌いは無く、未知の食べ物にも興味津々で、挑戦的です。味も薄味から激辛まで行ける。

 ……魚類って雑食な印象が……ああいや、何でも無いよ、うん。何でも無いから。


 村の説明はマリアナさんとローザさんに任せて、俺は手土産──献上品として受け取った壺を持って村の未開拓地に向かう。

 壺は二つ有り、[ギギモギ]という小麦にあたる植物の種と、大麦にあたる[ムオーム]の種が各々厳重に密閉保存されていた。

 聞けば、亡国ではパンやビールが造られていたと伝え聞いていたそうです。

 ああ、ちゃんと、その為の酵母菌や秘伝書も同じ様に厳重に保管されていました。

 オルガナ族もそうでしたが、やはり、国や一族の復興が生きる上では大きな原動力になってはいたんでしょうね。勝手な想像でしか有りませんが。


 ああ、マリアナさん達にも国の奪還という目標は無いそうです。それよりも先ずは種の存続と繁栄を第一に考えなければ詰みますもんね~。

 はい、判っていますから、全員は止めて下さい。ちゃんと順番に。ええ、受け入れますから。


 ……ラシアさんと、例のマリアナさんの側近だと思われるミロナさん。同い年・似た立場という事で滅茶苦茶意気投合してるのが怖い。

 ……アレ、絶対に二人で一緒に来る気です。

 だが、ボス戦では逃げられない!

 ……優しくして欲しいものです。


 ──という事が有ったから、畑仕事で現実逃避。異世界人生の諸先輩方が何かしらの作業に没頭して現実逃避していたのが今なら判ります。

 先輩方、「いや、手を出しといて今更……」とか思ってた自分が愚かでした。

 どうしようもない状況って有りますよね。

 俺、先輩方の事、マジ尊敬(リスペクト)っす。


 思わず涙が出そうになり──足を止める。


 ………………アレ? ちょっと待って。

 先輩方って、その現実逃避の結果、更に奥さんが増えてるケースが多くなかったけ?


 ………………くっ、この二つを無かった事になど今の俺に出来る訳が無い!

 ビールは別に構わない。一口飲む程度の経験なら子供の頃、誰しも有る筈。でも、そんなに美味いと感じなかったし、欲しいとも思わなかったからね。俺個人は。だから、先送りにしてもいい。

 だけど、パン──と言うか、小麦は欲しい。色々使い道が有るから。

 しかし、その場合、片方だけを作るというのは、何かしらの意図が有る様にしか思えませんからね。それで不信感や不和に繋がる事は愚かなだけ。

 だからもう、作るしかない。

 森で採取した葡萄系の[レプンガゥ]でワインの試造もしているから仮に酒類が問題になる様なら、全面的に製造を禁止するだけ。

 そうは為らないとは思うけど、油断は禁物。


 酒類……異世界だから年齢制限なんてないけど、果たして俺に味の良し悪しが判るのか……だからと言って悩んで仕方が無いし、遣ってみてからだな。問題にさえ為らなければ、失敗する事は構わない。失敗も大事な経験だから。











 アイクが新しい畑を作っていた頃。その自宅ではマリアナが母親と真剣な顔で向き合っていた。

 その額からは大粒の汗が流れている。

 当然だが、マリアナは自覚している。母が怒ると判っていても話さなくてはならないのだから。

 今、母から目を逸らす事だけは許されない。



「……はぁ~……まあ、こう成ってしまったものは仕方が有りません。今更どうこうとは言いません。貴女の長としての決断であり、女としての選択を、私も尊重し、応援しましょう」


「あ、有難う御座います、御母様」



 つい、勢いと感情に任せて、色々と吹っ飛ばしてアイクと結婚──交尾した事実をマリアナは母親に説明しなくてはならず、()、話した。

 如何に自身が長でも好き勝手は許されはしない。それが長という者の責任だからだ。

 勿論、アイクの事をマリアナは愛している。

 それは動ぎ無い事だけれど──それはそれ。

 筋を通し、許しを得て、マリアナは安堵する。


 そんな愛娘の様子を静かに見詰める。

 我が娘への教育の意味も含め、威圧しておく。


 その胸中では、「アイク様、不出来な娘ですが、どうぞ末長く可愛がって遣って下さい」と願う。

 それは紛れもなく、一人の母としての想い。


 ただ、一族を背負う長である娘を甘やかせない。何しろ、亡き父親()が甘やかしたから。

 死後、再会したなら「貴男が甘やかすから!」と愚痴と説教を行うと決めている。

 逃げようものなら追い掛けてでも探し出す。

 ネーレイアの女の狩りは“一狙必殺”。決して、逃しはしないのだから。


 それは兎も角として。

 今は遣るべき事が有る。



「良いですか、マリアナ。誠心誠意、身も心も捧げアイク様に御尽くし、御寵愛を頂くのですよ?」


「はい、勿論です、御母様」


「宜しい。それでは、貴女にもネーレイアの王族に代々伝わる秘技を授けましょう」


「王族の……え? ですが、御母様は……」


「私も御祖母様──貴女の御父様の御母様から嫁ぐ際に教わった事です。まあ、貴女の場合には順番が前後してしまいましたが、今は結果が最優先です。その為には秘技が役に立ちます」


「そ、それ程のものなのですか?」


「ええ。何しろ、その秘技が有ったからこそ、私も貴女を授かったと言っても過言では有りません」


「……っ、宜しく御願いします、御母様!」




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