表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレ勇者の気まま暮らし  作者: 桜惡夢
~Another World Life~
16/21

変わりゆく日々


 ローザさん達と暮らし初めて早十日。この世界に遣って来た日に出逢っていれので異世界生活的にも同じ日数になります。

 元の世界での生活と比べれば大変な事も有るけど毎日の充実感と楽しさは雲泥の差です。

 素敵な奥さんも出来ましたしね。奥さん達です。はい、ちゃんと判っています。



「私も早くアイクちゃんと子作りしたいな~」



 そう言いながら抱き付いて、キスを強請ってくるラシアさんは強敵です。自分でもね、よく自制心が働いていると思いますから。


 ローザさんとの初夜の後、ラシアさん達とキスは日常的にする事に為りました。夫婦の証として。

 でも、子作りは無しです。其処は変わらず。

 ただね、ローザさんからも「皆としたくなったら我慢はするな。私達も望んでいる事だ」と言われ、許可は出ています。しませんけどね。


 それは兎も角として。

 試しに作った畑は今は倍の広さになっている。

 【種蒔き(スキル)】の効果に加え、ジョブのアビリティが上乗せされている為、種を蒔いた翌日には発芽し、その翌日には花を咲かせて、種類によっては最短で三日目から収穫が可能に。

 トトマを食べた時のローザさん達の驚きと感動の表情は生涯忘れる事は無いと思います。まあ、俺も自分の力とは言え、驚きましたから。


 それとは別に少し困った事も。

 この世界の農作物は大きく五つに分けられます。一つ目はトトマの様に見た目や味・食感も略同じで名前が違う物。問題らしい問題は無し。

 二つ目はキュウリの様に名前も含めて略同じ物。これは判り易くて助かります。

 三つ目は名前は同じなのに見た目だけが違う物。まあ、味・食感は略同じだからいいけど……青色のニンジンって……ねぇ……。

 四つ目は、その逆で名前も見た目も略同じなのに味・食感が全く違う物。だから、思わず騙されたと思うのも仕方が無い。この世界の[ナス]は果肉が滅茶苦茶水分が多くてドロッとしている。だけど、美味いから文句も言えません。

 そして、五つ目は全てが未知の物。ある意味では一番何も気にしなくていい物です。


 まあ、【農者之眼Ⅳ】の御陰で、そんなには苦労してはいませんが。少し愚痴りたくは思います。


 そんな畑ですが、野菜とは別に、最初と同じ位の広さの専用地で森で採取した薬草を育てています。ローザさん達は傷薬となる薬草しか知らず、野菜を使った料理を食べ過ぎて腹痛を起こした年下三人に俺が採取していた薬草を使った事が切っ掛けです。特にルッテちゃんが興味を示して勉強中。

 ただ、知らなくていい事は教えません。精力薬や媚薬的な物とかね。


 ローザさん達と生活していて気付く事は色々と。例えば、衛生面での意識は高く、手洗いや歯磨きは普通ですし、毎日朝夕に身体を拭いていて全身浴は川に行っての水浴び。湯を沸かし、入浴する習慣は流石に有りませんでした。

 だから作りました。二日目に。少人数とは言え、ゆったりと入りたい。だから頑張りました。

 因みに、湯は魔法で水を生み、沸かせますけど、余裕が有る今は川から汲んで来ています。翌日からローザさん達は毎日楽しみにしています。


 衛生面という事では、トイレも元々有りました。まあ、汲み取り式の物ですが。

 それを少し改良し、水で流す形に。トイレからは離れた場所に肥溜めを作って、其処に流し入れる。最終的な出口を三つに分け、仕切る事で順番に溜め分けられる様にして有ります。

 これには【耕すⅢ】が関係しています。


 “耕す”というと土を掘り返す、或いは、農業に適した状態にする、という風に考えると思います。俺も同じ認識でした。

 これは偶然でしたが、廃墟を片付け、地面を鍬で耕していた時、埋まっていた木材に刃が。気付いた時には止まれず──木材を(・・・)耕していました。

 はい、吃驚です。

 ──が、気付きました。蚯蚓等が食べて分解して土を肥やすのと同じ様に、【農具】と【耕す】でも出来るのではないのか、と。

 実験した結果、動植物由来の物は問題無く耕せ、岩でも時間は掛かるけど耕せます。何しろ、廃墟を綺麗さっぱり、土に還しましたからね。

 ただ、金属は不可能。壊れて使わない鎧を試しに耕そうとしましたが、無理でした。疲れただけ。


 そんな訳で、肥やら何やらを纏めて耕し、肥沃な土に変えて畑に使う為、そんな仕組みにしてます。臭い等は気合いと根性と我慢と忍耐です。

 ああ勿論、自分も鍬等も仕事後は綺麗にします。頻繁に遣る事ではないから遣れます。


 それから、俺が買って持参していた調理器具等は一番料理をしているラシアさんが喜んでいます。

 農具もそうなんですが、使えても造れはしない。だから大切に使わないと、壊れた時が大変です。

 その為、簡単な鍛冶場を作る話も出ていますが、原材料となる鉄鉱石──かは判りませんが、それが有りません。はい、流石に採掘は農業の範囲外。

 尚、鍛冶場を作る事は可能です。体験程度ですが自作の包丁を造った経験も有ります。包丁の出来に関してはノーコメントで。


 魔法の練習は順調。地味ですが、楽しいです。

 ローザさん達の話によると、どうやら俺は相当に魔力量が多いみたいです。それが判った時は、再び黒ルッテちゃんが毒を吐いて嘲笑っていました。

 あと、ローザさんが喜んで、激しくなりました。はい、強い子が出来るからだそうです。

 因みに、回復魔法は存在しないみたいですから、薬草の事が判る【農者之眼】には感謝です。


 ああ、それから、俺の荷物──リュックに大蛇の白い鱗が一枚入っていました。あの時、手鎌により剥がれ飛んだのが紛れ込んだみたいです。

 ローザさん達が一目見て顔を青くしていました。ええ、鱗一枚で30センチは有りますからね。その大きさを想像すれば……という訳です。


 その事も有り、毎日戦い方を教わってもいます。しかも、「筋が良い」と誉められるから頑張れる。我ながら単純だと思います。

 でも、自分の無力さを、死の恐怖を知っている。だから、必死に頑張れます。生きる為に。

 ……まあ、格好付けても手にするのは農具です。ええ、それが自分の力を最大に発揮出来る術なので仕方が有りません。見た目を気にするのなら鉈で、リーチ的には斧や鎌が良いですね。

 あとは、農具を持ったままでの体術。実は地味に有効で、ローザさん達を相手にも善戦出来ました。はい、直ぐに対応される程度なのは経験・技術不足なので自分が原因。活かせない己が不甲斐無さには悔しさから涙が出そうです。だけど、男の子だから泣くもんか。涙は飲み干すのさ。


 ──といった感じの日々を過ごしています。

 ……ああ、それから、ウォウギュの荒森ですが、本当にギスリベス以外の植物は見当たらず、動物は虫一匹も居ない。農作物に悪影響が無いですけど、蜂が居ないから受粉とかは人力になるのかも。今は必要無いんですけどね。


 陸が駄目でも水中──川の中なら?

 そう思いましたけど、此方等も現実は綺麗な水が流れているだけです。魚は勿論、虫も居ないですし水草や苔の類いも有りません。水は綺麗です。


 はい、謎過ぎます。意味不明です。でも、それが安心して住める状況を作ってもいますから複雑。

 もしも、その原因を突き止めてしまったが為に、安全な生活圏を失う事になったら……笑えません。だから多分、オルガナ族は奇妙ではあってもソレに触れなかったのではないでしょうか。

 ──という事にして置きます。好き好んで危険なパンドラの箱を開けようとは思いませんから。



「此処が、そう(・・)なんですか?」


「ああ、そう(・・)聞いている」



 今日の狩りを終えたローザさんが戻り、昼食後、皆で一緒に出掛けた先は住んでいる所から真っ直ぐ南に進んだ場所。断崖絶壁と呼ぶに相応しい岩肌が数百メートルもの高さを誇り、人を近付けはしない秘境“ドリィセック大山脈”の麓。

 麓と呼ぶには、斜面などは無いんですけどね。


 其処に、不自然な小さな岩山が有ります。


 この岩山が目的地。ローザさん曰く、「この中にオルガナ族の秘宝が眠っている」との事。

 はい、当のローザさんも忘れていたんです。

 昨日の夕食時、普段の会話の流れで何気無く俺が皆に「オルガナ族って、ずっと此処に居るの?」と聞いた事から、その話を思い出したんです。

 ローザさんもね、小さい頃に一度聞いただけで、実際には初めて来るんだそうです。忘れてたから。当然ですが、言わないのが優しさです。


 取り敢えず、下手に壊したりはせずに調べてみて考えましょう。壊すと直せませんから。






「──で、見付かったのが、この破片だけか……」


「流石に秘宝には見えないわね~……」



 皆が言い難い事を、さらっと言える最年長の姉。そんな貴女が頼もしい。

 まあ、それはそれとして。

 レーナちゃんが見付けた破片はオルガナ族の伝統模様の施された石造りの何かの欠片。

 拳大程の大きさで、立体彫刻の一部というよりは壁画や装飾された物の一部が欠け落ちた様な感じに見える。考古学って面白いんですよ?


 しかし、見た限り、遺跡らしい痕跡等も無い。



「レーナちゃん、これって何処に有ったの?」


「彼処の土の中です。手前の石で足が滑った拍子に地面を掘った形になって……」


「その程度でか?」


「アタシも何ヵ所か軽く掘ってはみたけどさ、特に何も無かったけどなぁ……」



 ローザさんもリンゼさんも不思議そうにするけど気持ちは判ります。俺やラシアさん達も多少だけど自分達が調べていた場所の土を掘り、何か無いかは確かめていますから。勿論、レーナちゃんも。

 その結果が──何も無し。

 だから、この一つは重要な手掛かりなんだけど、他に何も見当たらないから、困ってしまう。

 レーナちゃんにしても、見付けたけど、他に無いという事が悩ましい所。破片を見付けた場所を掘り下げても他には何も出なかったから。



「どうするんだ? 掘り返してみるか?」


「そうだな……」



 言外に「辺り一帯を手当たり次第に遣るか?」と訊く意味も含めて、指示を求めているリンゼさんと遣ってもいいのかを悩むローザさん。

 それを見詰めるレーナちゃんも複雑そうな表情。レーナちゃんが悪い訳ではないんだけど……。

 今は下手な慰めよりも、何かしらの手掛かりだ。何か見落としている事は無いか?

 岩山は元々有った形が崩れたり、大山脈の方から落下してきた様には見えないし、大岩周囲の地形も土砂等に埋まったりした様にも見えない。

 あの破片が比較的浅い所に埋まっていた事から、埋まったのは最近? 或いは、埋まっていた破片が風等の影響で地面が削れて露出し易くなってた?

 ……何方等にしても、この破片一つだけなのは、不思議と言うよりかは不自然(・・・)に思える。

 ………………不自然?



「────あ、そうか」


「アイク?」


「この破片の模様って、全体像は判ります?」


「ああ、判るが……」


「ちょっと地面に描いて貰えますか?」


「……判った」



 一々説明しなくても俺の要望に応えローザさんが地面に模様を描いてくれた事で確信が持てた。

 その模様はオルガナ族──鬼を模した様な形で、右手には槍を、左手には楯を持っている。

 それは狩りに出る際のローザさんの武装と同じ。その事からも伝統的な意味を持つ事が判る。



「この破片、全体で見ると模様の左足ですよね?」


「ああ、そうだな」


「もし、この破片が意図的に(・・・・)一つだけしか此処には置かれていなかったとしたら、その意味は?」


「……──っ! 此処が基点(・・)か!」



 多分、ローザさんが気付いた通り。

 これは言わば宝の地図の切れ端(・・・)。だが、全体像が判らない者には単なる模様にしか見えず、地図とは思わないだろう。これは、そういう仕組み。

 そして、一族の者にだけ(・・・・・・・)示す為で、何かを伝え、遺そうとする意志を感じる。



「地図に準えるなら北を上にして模様を重ねた時の槍の先──」



 その方向を皆で見詰める。













「……あの、有難う御座います」



 岩山から移動しようとした時、服を引っ張られ、振り向いたら、恥ずかしそうなレーナちゃんが。

 別に彼女はツンデレではない。

 普段から感情も表情も豊かで、ムードメーカー。最初こそ、あんな反応だったけど、実の妹みたいに馴付いてくれている。

 まあ、実の妹とキスしたりはしませんけど。


 彼女は気遣いが出来るし、よく見ている。だからと言って自分を抑えて我慢したりはしていないし、負けず嫌いで、努力家。

 ただ、一番は自分も含めた家族の為に。


 だから、これも「自分を庇ってくれて」といった意味ではなく、「皆をガッカリさせなくて」という意味での言葉でしょう。

 その気持ちを受け取り、無言で頭を撫でる。

 擽ったそうに上目遣いで見る彼女に笑顔を返し、言外に「さあ、行こうか」と促す。


 照れながらも、そっと繋がれる手の温もり。

 握り締めれば、握り返される確かな繋がり。

 「俺、良い御兄ちゃんしてるな~」と思う。


 因みに、それを見てレーナちゃんは揶揄われるが暫くは手を離しはしなかった。

 反対の手をルッテちゃんが取るのはいいとして。ラシアさん、背中から首に腕を回して乗っかる様に抱き付かないで下さい。貴女の母性は存在感と自己主張が凄過ぎますから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ