表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレ勇者の気まま暮らし  作者: 桜惡夢
~Another World Life~
15/21

知らぬが乙女


 ローザさん達と一緒に並んで寝るという御褒美か苦行か判らない一夜が明けた。

 ……何故、皆さん抱き付いて来たのかな?

 然り気無く聞いた感じは、そんな事は普段は無いみたいなんですけど……本能的なもの?

 まあ、最終的にはローザさんの抱き締め技によりブラックアウトしたんですけどね。天国でした。


 さて、家作りを始める前に確認したいのが、今のローザさん達の生活の状態。

 昨夜、あの狸を鍋で食べました。美味かった事に吃驚しましたよ。

 ただ、その鍋の具材がね、野菜が少なかった事が気になったんです。ええ、狸以外の肉も入っていて美味しかったんですけどね。妊娠・出産・育児と、将来的な事を考えると栄養バランスがねぇ……。


 それで、聞いてみた訳です。

 普段、野菜──食用の植物はどうしているのか。

 その答えが、森で採取、でした。



「見ての通りだ。ウォウギュの荒森(此処)の土では植物は育たない。あの木々だけが特別なだけだ」



 そうローザさんが言う様に、家の周囲──里跡の何処にも雑草の一本も生えていません。

 ただ、土が異常に固いとか、荒野みたいに枯れて栄養が皆無、みたいな感じでは有りません。

 爪先で軽く突けば掘れますし、湿り気も有るので育たない理由が判りません。

 汚染されているなら、ローザさん達が住む事さえ不可能でしょうしね。

 【農者之眼Ⅱ】でも異常な感じはしないので。



「取り敢えず、適当に耕してみてもいいですか?」


「それは構わないが……本当に無駄だぞ?」


「その結果も一つの情報に為りますから」


「まあ、好きにすればいい。一先ず私は森に狩りに行ってくる。家の事は戻ってからでもいいか?」


「はい、その間に俺も試したい事を試しますから」


「判った。何か有れば皆を頼れ」


「判りました。行ってらっしゃい、ローザさん」


「ああ、行ってくる」



 何と無く、自分の価値観的には男女の立ち位置が逆な気がしますが、気にしません。適材適所です。俺に狩りは難しいと判っていますから。


 さてと、取り敢えず日当たりの良さそうな場所を鍬で耕してみましょうか。

 【農具Ⅱ】と【耕すⅠ】の効果が確かなら、畑を作る事は可能な筈なので。


 因みに、水は井戸も有るし、少し離れていますが川も流れているそうです。

 本当にね、何で植物が育たないのか不思議です。農業的には条件は良さそうなのに。






「ねぇ~、アイクちゃん(・・・)。これは何ぁに?」


「それは[トトマ]の種です」


「へぇ~、これが~」


「……アイクさん……此方等は?……」


「それは[オオニニ]の種だよ」


「……ちょっと親近感……」



 それは“(オニ)”が入ってるからかな?

 種の入った小袋を手に持ち、其処に描かれている野菜の絵をラシアさんとルッテちゃんが眺めている様子に密かに和む。

 農業が出来無かった環境で育ってはいるけれど、先祖の残した本や記録で名前だけは知っている。

 それが農作物に対するローザさん達の認識の為、ラシアさんとルッテちゃんは興味津々。


 ただ、もう少し自分達の実りを意識して欲しい。たぷったゆゆん、ふるふるん、むにゅにゅぅ~。


 意識を目の前に戻して。

 地面を耕し、畝を作り、種を蒔いて、土を被せて水を上げたら一先ずは終了。

 大体、5メートル四方の広さに、カロナオ王国の王都で購入していた野菜等の種から五種類を選んで各々に十粒ずつ。失敗しても後悔が少ない様に。

 選んだ五種類も比較的育て易い物にした。素人が高難度の農作物に手を出すのはリスキー過ぎるし、自分の力が何処まで通用するのか判らないしね。


 トトマはトマト、オオニニは玉葱。多少の違いは異世界という事での誤差だと割り切る。

 全く同じで有る訳がないんだから。


 それはそれとして、何だかんだでラシアさん達と打ち解ける事が出来た──と言うか、壁や距離感は最初から無いに等しい。

 レーナちゃんも驚いていただけで、積極的に色々聞いてきたり話してくれたりしているから。

 少なくとも、夫婦──家族としての心配は無い。俺の体力や精神力が何処まで頑張れるかは別で。


 まあ、畑に関しては要経過観察という事で。

 今度は家を建てる為の基礎造りをします。

 勿論、鍬で──なんて事は無く、ローザさん達は使ってはいなかったそうですけど、道具は色々と。寧ろ、使い方が判らなかったみたいです。


 先ずは、鍬で大雑把に家を建てる場所──範囲を指定する様に耕し、小さな溝を掘ります。

 大体、縦10メートル、横20メートル。

 はい、大きいですよね。理由は有ります。

 実は、今住んでいる一軒家って、昔話に出てくる古民家みたいな感じで、部屋の仕切りとか全く無い造りですし、よく見たら傷んでるんです。

 それなら、大きめの長屋に、と提案しました。

 家の中央に出入口を設け、1LDKに。その右にラシアさん達の寝室、左に夫婦の……まあ、子作り部屋を設ける、という形に。

 部屋一つ分の空間を挟むだけでも違いますから。防音素材なんて有りませんから工夫しますよ。


 因みに、区切ったのは目安であって、そのままのサイズで造る訳では有りません。家族六人ですから広過ぎても持て余すだけなので。


 それが終わったら、スコップと大木槌を使っての本格的な基礎造り。農業は初心者なんですが、実は大工仕事には慣れてます。叔父がDIYとか好きで手伝っている内に覚えましたから。


 それから【農具Ⅱ】ですが、農具って実は意外と広範囲が対象になる事を知りました。

 でも、よくよく考えれば農作物を貯蔵・保管する建物を造る事も、広義で言えば農業の一部なので、その為の道具も広義では農具に含まれる。

 はい、物凄く強引な理屈ですが、否定も難しく、否定する理由も有りません。

 まあ、後々細分化されたと考えれば、元を辿れば農具──農業に関わる道具は多いと言えます。


 また、ジョブとアビリティの御陰で農具を使った作業は捗りますし、作業中の疲労も軽減されていて自分でも驚く位に進んでいます。

 手伝いに来てくれたリンゼさんとレーナちゃんが俺を見て「……え? 力仕事が出来無いって昨日は言ってなかった?」という顔をしていました。

 はい、その辺りを説明します。自分も遣りながら気付いたという事もね。


 だからね、小柄なレーナちゃんが持ち上げられる岩も俺には無理。でも、この大木槌なら軽々と扱う事が出来るの。農具扱いだから。



「勇者って凄いんですね」


「戦えないけどね~」


「けどさ、生きてく上では戦う以上に凄いよな」


「そう言って貰えると嬉しいな。有難う」



 そう返すと照れるリンゼさん。可愛い。

 レーナちゃん、揶揄うと仕返しされるよ?


 一通りの基礎造りが終わった辺りでローザさんが帰宅し、皆で昼食。昼は軽めなんだそうです。


 食後の休憩中。色々と話をして判った事。

 この世界──ローザさん達が知っている範囲での事ですが、東西南北の四大陸が有り、魔王の本拠は北大陸になるそうです。

 つまり、オルガナ族の国は、最前線・最激戦地に存在していた、という事に。子孫で、敗れた一族と言っても根本的に強い訳です。納得。


 あと、魔法の存在は知っていましたが、習う様な余裕は無かったので訊いたら、皆さん使えるそうで教えて貰える事になりました。楽しみです。



「……本当に遣るのか?」


「はい。あ、一応、離れてて下さい。万が一の時、危ないですから」


「それは御前も同じだと思うが……気を付けろ」


「それは勿論。安全第一で行きます」



 そう話し、俺から離れるローザさん達。

 目の前に有るのは、直径1メートルは有るだろうギスベリスの巨木。高さは10メートル以上。

 俺の手には普段は薪割りに使っている斧。

 深呼吸し、躊躇せず、斧を振り抜く。


 甲高い音を響かせ──斧の刃がギスベリスの幹に確と食い込んだ。


 それを見て、ローザさん達が騒めき、駆け寄る。そのまま斧を抜いた切り口をマジマジと見る。



「……凄ぇ……ははっ、マジで入ってやがる……」



 半分呆れながらも笑みを浮かべるリンゼさん。

 まあ、驚く気持ちは判ります。俺も出来るだろうとは思っていましたが、事前にリンゼさんが実際に伐ろうとしても小さな傷一つ付かなかったのを見て不安にも為りましたから。

 それだけ、このギスベリスは樹皮が固くて滑り、鋸の刃も引っ掛からないもの。

 だから、こうして斧が食い込む所は初めて見る。それは驚くし、興奮もしますよね~。



「……アイクさんを手離した王は無能です……」



 ──と、意外にも毒を吐くルッテちゃん。

 尊敬の眼差しを向けてくれているのは嬉しいけど自分の実力とは言い切れないから少しばかり複雑。勿論、俺に与えられた力では有るんだけど。

 この場の雰囲気を壊さない様に、そんな気持ちを誤魔化す様に口を開く。



「でも、その御陰で此処に居る訳だから感謝かな」



 そう言ったら、ローザさん達に抱き付かれた。

 うん、柔らかい。喜びは伝わりましたが、男子の煩悩を刺激するので控え目に御願いします。


 え~と……取り敢えずは、足りない木材を近場で調達出来るので助かります。

 しかも、このギスベリスは乾燥させる必要が無く直ぐに木材として使用出来るみたいですから。


 斧を振り、伐り倒し、枝を落として、皮を剥ぎ、鋸で切り分け、鎚と鐫で加工し、鉋を掛ける。

 うん、大工道具って知らないと使い方が判らない物って多いですよね。最初は俺もそうでした。






「…………まさか、一日で家が建つとはな……」



 何と言う事でしょう。道具も材料も有るとは言え実質的に半日と掛からずに長屋が建ちました。

 まあ、大分簡素な造りにしていますし、ガラスが無いから窓も換気用で必要最低限しか設けていない事も有って、ですけどね。

 ああ、それとベッドも造りました。両方の寝室に必要ですから二つ(・・)。ダブルキングサイズというべき大きさですが何か?

 現実的な話、シングルサイズで造ると数が増え、その分の手間も材料も必要になるので。

 元々、一緒に寝ている為、誰も抵抗が無い上に、ベッドという寝具の存在自体を知らなかったので。異世界だからではなく、この環境が特殊なんだなと改めて思わされました。


 一応、落としたギスベリスの枝葉を使って作ったマットレス擬きを敷いてますが……ローザさん達は十分に感動してくれているので良しとします。

 一族の残した服や布等を繋ぎ合わせているので、見た目にも不恰好ですけど。

 空気を読める男は余計な事は言いません。


 ただ、服や布が有るのに、何故、けしからん姿をしているのかが謎です。怖くて聞けませんが。


 新居の完成祝いで賑やかな夕食に。

 ベッドで眠るのを楽しみにして貰えると、造って良かったと思います。


 ──が、一つ、失念していました。

 家が建ち、寝室とベッドも出来た訳なので。



「アイク、私は経験は勿論、知識も無い。だから、全て御前に任せる。どうか宜しく頼む」



 そう、ローザさんとの子作り(初夜)です。

 遣ってて楽しくなったし、皆の反応も嬉しくて、ついつい調子に乗って頑張り過ぎた結果が、コレ。いや、嫌では有りません。寧ろ、嬉しいです。ただ出来れば、今少しの心の準備の期間が欲しかった。今更「もう少し待って下さい」とは言えません。

 俺も男として覚悟を決める時でしょう。



「……正直に言います。知識は有りますけど、俺も経験は全く有りません。だから、不快感や痛み等を伴う事は無いとは言い切れません。勿論、少しでも感じない様に頑張ってはみますが……」


「判っている。それに何事も初めては有るものだ。少なくとも私は御前になら信じて身を委ねられる。だから、一緒に成長して行こう」


「ローザさん……有難う御座います」


「礼を言うのは私達の方だ。有難う、アイク」



 そう言って見詰め──御互いに笑い合う。

 何だか可笑しくて。でも、胸の奥は温かくなる。そんな感覚を感じながら、俺はローザさんの頬へと左手を伸ばし、触れる。

 自分でも緊張しているのは判る。

 ただ、それはローザさんも同じ。触れただけでも小さく震えているのを感じる。

 それなのに、不思議とローザさんを求める感情が高まってゆく。その姿を可愛いと、愛しいと思う。気遣いたい筈の自分が欲求に染まってゆく。


 名を呼び、見詰めながら顔を近付け、唇を優しく触れ合わせる。

 それだけなのに、体温が急上昇し、ローザさんの事以外には考えられなくなる。


 潤んだ瞳、蕩ける様な表情、紅潮した頬。

 言葉には出来無い、本能的な何か。

 その衝動(スイッチ)が御互いに入った様に思う。














「ね、姉様、その……い、如何でしたか?!」


「ぅ、まあ……その…………アレだ……何だ……」


「ぶぅ~……それじゃあ、全然判らないわよ~」


「ぅぐ……」


「……こんなローザ御姉ちゃん、初めて見ました」


「つまり、それだけの事って訳か……」



 翌朝、四人に詰め寄られるローザさん。

 まあ、自分達の番が来た時の為に色々と訊きたい気持ちは理解は出来ます。

 ただ、ローザさんの戸惑う気持ちも判ります。

 ぶっちゃけ、頭で考えるより、直感的に動いた。そう言うしかなかった感じなので。


 正直、声や音が聴こえない様に考えて家を造ったつもりですが……果たして効果が有ったのか。

 昨夜のローザさんを、自分達を思い出すと何とも言えません。


 まあ、取り敢えず、ローザさんが嫌な思いをする事は無かったみたいで良かったです。

 何しろ、朝から……ゴホンッ、さあ、しっかりと朝食を食べて今日も一日頑張りましょう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ