七の噺 「感動の再会?おかしいよね絶対。」
着替えを済ませると、濃姫が口を開いた。
「そう言えば、殿がお呼びでしたわね。もし、この方々を殿の元へとお連れして下さいな。」
「畏まりました。」
侍女にそう言い、濃姫は嫌そうな顔をする六人に微笑みかける。
「安心なさって。殿は確かに、お顔は怖いですけど……本当はお優しい方ですわ。ただ、厳しい面だけが目立ってしまうだけで。」
そりゃ嫁にはそう映るだろ、とは言えずに、一つ頷くだけしかしなかった。
濃姫と別れ、再び侍女に案内されて、とある部屋に辿り着いた。
……何故か雰囲気が重々しく感じる。
「失礼致しまする。お連れ致しました。」
「うむ。入れ。」
信長の声がして、スッと襖が開いた。そこに広がる光景に、六人は絶句する。信長をはじめ、ズラッと並ぶのは……重臣、と呼ばれる家来だろう。
「何なのアレ!?何であんなのがワラワラ雁首揃えて座ってんのさ!?」
真っ青な顔で、谷中が梅本に声を潜め食ってかかる。
「いや、俺のせいじゃないから!?殿下、落ち着けって首がとれる!!」
襟首を捕まれ、ガクガク揺すられながら、梅本は彼女の肩をペシペシ叩いた。
「そこに座れ。」
おっかなびっくり部屋に入ると、信長が座る場所を指定する。
視線が物凄く痛い、と、思うことは六人一緒。緊張する身体を叱咤して、何とか腰を下ろすことが出来た。
「ほぉ、少しはマシな姿になったようだな?」
ビビっている彼等の姿を楽しんでいるのか、信長はにやにやと笑っている。
「お、お陰様で……。」
答える小川の声は上擦っていた。
「そうか……。貴様等をここに呼んだのは他でもない。貴様等を俺の家臣共に紹介してやろうと思ってな、ここに呼んだわけだ。」
信長は、自分の前に並ぶ重臣達をぐるりと見回す。
「此奴等が、先程まで俺が話していた者達よ。此奴等はこう見えて神憑きでな…今川を討ち取ったのは俺ではなく、此奴等だ。」
途端、大きなざわめきが波打った。
「神憑き…!?そんな馬鹿な!!」
「このような子供らが…!?」
それを気にもとめずに、信長は悠々と、重臣である彼等にとってはとんでもない言葉を言い放つ。
「彼奴等をこの城で暫し飼うことにした。」
重臣達が唖然としたのが、黙ったまま話を聞いている六人までもが、手にとるようにわかった。次の瞬間。
「何を言っておられるのですか殿!?」
「なりませんぞ!もし間者であればどうなさるのです!!」
否定の言葉が次々と飛び出し、部屋は騒然となるが。
「……黙れ。」
鶴の一声、氷のような信長の声に、一斉に口を閉ざした。
「俺の決めたことだ。口出しは許さぬ。」
圧倒的な眼力で彼等を黙らせ、信長は続ける。
「こやつらには、命を賭しても成さねばならぬ使命がある。その為には、神憑きとしての戦いを知り、学ばねばならない。だが、一つだけ言っておく。」
そこで信長がすっくと立ち上がった。
「妙な誤解をするな。こやつらの成さねばならぬことは、決して俺の天下布武を邪魔するものではない。」
そう断言し、チラリと六人の方に目を向けた。
怪しさ満点な存在である六人は、なんという紹介の仕方だ、と頭を抱えたい気持ちだった。そんな含みのある言い方で、疑いが晴れるとは到底思えない。
「俺は信長様の言うことを信じるぜ。こいつらも認めてやる。」
今まで黙って腕を組み、話の流れを見守っていた利家がおもむろに口を開いた。嘘も方便、心強い援護射撃だ。
重臣達はしばらく、困惑と戸惑いの視線を交わしあっていたが、やがて一斉に信長に向かって平伏した。
「殿の、お言葉のままに……。」
声を揃えて言う重臣達に、信長は満足そうに笑い、再びその場に腰を下ろした。
「まぁ、少々変わった餓鬼共だが…戯れるには申し分ないだろう。しっかりしごいてやれ。」
そういうわけで、無茶とも言える命令が利家の後押しにもよって通り、とりあえずは不審者扱いされることはなくなった……表向きは。
六人は気疲れのせいで、溜め息を吐き出しながら部屋を退出する。何だか、疲れが倍増しになったようだ。
「っていうか……眠っ…。」
廊下を歩く彼等の瞼は、今にも落ちそうだった。
無理もない、普通の一般人が体験するには、余りにも濃すぎる出来事を連続で味わってきたのだ。
空腹もあるが、今はとりあえず夢も見ないで眠りたかった。
「どうぞ、こちらへ。」
彼等にあてがわれた部屋だろうか。襖を開けると、そこには楽園とも言える光景が広がっていた。
「おぉ……ふ、布団……!!」
白くて柔らかそうな、六つの布団が敷かれている。
フラフラとそれに近付くと、まな板が倒れるように布団に倒れ込む。もう身動ぎ一つ出来なかった。
一分もしない間に、彼等の意識は暗い眠りの海の中へと落ちていった。
どれだけ眠っていたのか?うっすらと意識が戻ってくる。
ゆさゆさ、と肩が誰かに揺すられて、呼び掛ける声が聞こえた。
「もし、起きてくださいまし。もし、神憑き様……。」
重たい瞼をこじ開けて、軋む背中をぐいっと伸ばし、モゾモゾと起き上がる。そこには、薄紅の着物をきた、双子の侍女の姿。
「お目覚めですか?」
「うぃ……」
ポケッとした目で、六人はぼんやり宙を眺めている。まだ完全に目が覚めていないのだろう。
「さぁ、しゃんとしてくださいまし。お腹がすいていらっしゃるでしょう?ご飯を用意致しましたよ。」
「ご、ご飯!?食い物っ!?どこどこ、どこにあるんだ!?」
小柄だが、食べ物への執着心は誰よりもしつこい木下が真っ先に反応する。
「そりゃありがたいな。ろくなもん食べてなかったから。」
梅本はそう言って、腹を擦る。
移動中の食事とくれば、質素を通り越して嫌がらせかと思いたくなるようなものだった。
「その前に、わたくし達の名前を申し上げておきますね。」
双子の侍女はきちんと正座すると、丁寧に頭を下げた。
「わたくしは春と申します。」
「わたくしは夏と申します。」
次は、二人声を揃えて。
「「貴殿方のお世話役を勤めさせていただくことになりました。どうぞよろしくお願い致しまする。」」
流石双子、寸分の狂いもないシンクロ率だ。
「「「あ、よろしくお願いします。」」」
六人も正座して、同様に頭を下げる。そして立ち上がろうとするが、春と夏に止められた。
「お待ちを。実は、殿御の世話役もいるのです。」
「俺達のですか?」
小川と梅本は顔を見合せ、再び座り直す。
春と夏は頷くと、お入りください、と襖の方に呼び掛けた。すると、襖がするすると開く。
「しばらくぶりじゃの。まろがそちらの世話役おじゃ。」
「こ……この声は…!?」
めちゃくちゃ聞き覚えがある。というか、嫌でも知っている。
現れた姿に、六人はあっ、と驚きの声をあげた。
何と、部屋に入ってきたのはあの今川 義元だった。
まさかの今川さん再登場。
可愛くないですかね、この人・・・・・ゲームとかでは。
ちなみにここの今川さんは見栄っ張りで弱いけど、意外と気持ちの割り切りは早くて潔い人です。
次回の投稿はもう少し先になりそうな予感。
まぁ気長に待ってくださいまし。