五の噺 「お話しましょ、そーしましょ。 後編なんです。」
「ぱられるわぁるど…か。ならば、多少の違いは生じるにせよ、貴様等は未来を知っているということになるのだな。」
信長は思慮深い顔になり、何かを考え込んだ。それに、ギクッと六人の肩が跳ねる。
もしかして、自分達を利用するつもりか、と六人は身構えた。
「……案ずるな。俺は、先の知れた未来など望まん。」
しかし、彼等の思いを見透かしたように、信長は笑ってみせた。その笑みの渋さに、しばし見惚れる。
「ですがねぇ、世の中こういう人ばっかりってワケじゃねぇッスよ。」
利家の言葉に、信長は頷いた。
「厄介な人間も多いからな。気をつけよ、あまり言い触らすものではあるまい。」
たとえ異世界と言えど、この世界は六人の住まう世界の歴史をモデルにしたものだ。
「あの…今度は俺達から質問してもよろしいですか?」
小川が遠慮がちに口を開いた。
「いいだろう、答えられるものは全て答えてやる………又左がな。」
「って、何で俺ッスか!?」
ビシッと利家からつっこみが入るが、信長は偉そうに腕を組んで一言。
「そんな面倒なことは、家臣である貴様がやれ。」
「聞かれたのはあんたでしょうが!!」
「……給料削るぞ。」
究極の脅しに、あえなく利家は撃沈した。
「わかりましたよ、やりゃいいんでしょ!!」
ああもう!と投げやりに言い捨てて、利家は六人に向き直った。
「で、何だよ。」
苦笑いしつつも、梅本が最初の質問をする。
「カミツキって俺達の事を呼んでましたけど、あれは何の事ですか?」
「お前達が使える能力のことだ。ちなみに信長様は炎、俺は水だぞ。」
利家はそう言って、掌に水球を出してみせた。
「じゃあ今川は風なんやな。大概の人が持ってんの?」
次は北が尋ねる。
「いいや、神憑きは普通の人間にはなかなか宿るモンじゃないぞ。」
よっこらせ、と利家は座り直して、更に詳しく説明を始めた。
「神憑きには『位』ってモンがあってな。上から「将位」、「官位」、「兵位」の順位がつけられてる。「将位」は『率いる資格がある者』しかなることが出来ない位だ。「官位」は『将を護り、支える資格のある者』が、「兵位」が『二つの位の手足となる者』って具合にな。」
懐から帳面を取り出すと、そこに小筆で位の名を書き記して見せ、六人は帳面を覗き込んだ。
「それじゃあ、大名で殿様な人は「将位」、軍師や配下の武将は「官位」ってことになるんだ。「兵位」は……文字通り、歩兵や弓兵?」
「下位だと例外でな、わりと兵の中にもいるぜ。」
谷中がヘェ、と感心したように相槌を打つ。
「はいはーい、次はオレ。何で今川を討ち取らなかったんですか?」
木下が手を上げ、不思議そうに尋ねた。
そう、疑問はそこだ。信長は義元の弓を壊しただけで、その場で首をとることはなかった。だが利家は怪訝そうな顔で首を傾げる。
「何言ってんだ?ちゃんと討ち取ったじゃねぇか。」
「…もう、首を跳ねてしまわれたんですか?」
少し悲し気な顔で山中が問う。そこに信長が口を挟んだ。
「首などとって、何に使うのだ?」
「…………あれ?」
間。
「成程、首を塩漬けにするのか。まるで漬物だな。」
「でも後始末大変そーッスね。夏場とか。」
負けた武将は首を落とされるのだと説明された信長と利家。というか、漬物だとか夏場大変だとかそういう問題ではないような気がする。
「こっちだと、神器を破壊することが「討ち取る」ってことになるんだ。」
神器と聞き、いきなり北と木下が口を開いた。
「洗濯機、テレビ、冷蔵庫やったな。」
「八咫鏡、草薙剣、八尺瓊勾玉だぞ!」
「どうでもいいから黙ってろ!」
すっぱーん、と梅本が二人の頭をしばき倒した。
「すみません、気にせず続けて下さい。」
頭を押さえて呻く二人を白い目で見やり、小川は溜め息をつきつつ先を促した。
「お、おう。神器ってのは…まぁ簡単に言えば、神憑きが使う武器だ。でもタダの武器じゃねぇ。己の分身……魂の片割れみたいなモンだ。」
急に利家は表情を変え、自分の左胸に手を当てる。
「それを壊されるってことが、どれ程デケェ事か……考えただけでも、心の臓が抉られるような感覚だぜ。しかもテメェにあう神器は、一生に一つしか得ることが出来ない。」
六人にはその感覚がまだわからないが……利家の言葉は岩のような重みを含んでいることだけはわかった。
「ですが、他の武器で戦うことも出来るのでは?」
山中がそう言うが、利家は首を振った。
「無理だな。自分にあう神器じゃないと、どんな名器でも神憑きの力に耐えられず壊れちまうんだ。」
そこで、利家は六人を見る。
「ちなみに、お前達も神器はあるぞ。鍛冶屋で造ってもらえるからな。」
「近々必要になってくるやろうな。あたしらが帰れるまで。」
ゲームのクリアが、元の世界に戻る条件ではないのかと六人は考えている。それはすなわち、戦いに身を投じなければならないということだ。
「武器だけではないぞ。戦い方も貴様等に叩き込んでやろう……フフフフ。」
とりあえずは、魔王様は協力してくれることになった……のだろう。
信長の黒い笑いに、ムンクのような顔で後退る六人。それに哀れな視線を送る利家。
「さて、話は一度終わりだ。……先に行っていろ。」
脱け殻のようになりながら、フラフラーッと漂うように歩いていく六人を見送り、利家は声を潜めて信長に言う。
「…あいつら、鍛え上げれば化けますね。」
「曲がりなりにも「将位」である今川を、神器なしで潰したのだ。彼奴等の位は、俺にもわかりかねるわ。」
信長の目は好奇心に爛々と光っている。
その様子を見ながら、利家はあの不幸な六人に心の底からエールを送るのであった。
(頑張れよ、餓鬼共……。)
話を終えた六人は、馬に乗り城までの道のりをガクガクと揺られている。
「あんたら見事だったぜ、今川軍をあんなに短時間でやっつけちまうとはな!」
「神憑きが六人も加勢してくれるたぁ、俺達運がいいぜ!」
親しみを込めて、口々に兵士達が話しかけてくる。
「あ、あの…ありがとうございます。」
「兄ちゃん達もカッコよかった!!」
「………どうも。」
馬鹿丁寧にお辞儀したり、人懐っこく話しかけたり、居心地が悪そうにしたり……それぞれのリアクションをとりながら、織田軍一行は帰路を急ぐ。
目指すは恐らく、伝説の名城『安土城』。魔王が君臨する幻の城……その全貌は如何に?
次はいよいよ安土城です。
そろそろ他の人も出せそうになってきました。