四の噺 「お話しましょ、そーしましょ。 前編なんです。」
義元をよってたかって倒すと、六人を急激な疲れが襲った。
その余りの疲労感に、立っていることすらままならない。
「つ…かれた……」
「立っ…てらんない…」
ふらっと倒れる背中を、力強い手が支える。
「よくやったな。」
「こんなちっちぇのに、大したもんだ。」
「後は信長様に任せな。」
いつの間に近くまできていたのか、織田軍の兵士達が次々に六人を受け止め、感心したように言う。
「まぁまぁだな……だが、ド素人にしては上出来といったところか。」
ニヤリと笑いながら歩み出てきた信長に、もう返す言葉すら出ない。
「さて、公家よ。貴様の敗けだ。」
黒焦げになって、パッタリ倒れてる義元は、よろよろと起き上がる。
「貴様の獲物……名は『青柳』と言ったか。この織田 信長が確かに破壊した。」
義元の傍らに、焼け焦げ、砕け散った弓が転がっていた。
「……まろの、青柳が……」
義元の震える手が、残骸となった弓に伸び、そのままぎゅっと抱き締める。
「貴様の身柄……拘束させてもらうぞ。」
信長がそう言い、サッと身を翻した。
入れ代わりに、兵士が義元の肩と腕を掴んで引き上げる。
連れられていく義元を虚ろな目で見送り、六人の意識は完全に落ちた。
「お、桶狭間……白塗り妖怪…!」
「魔王に……喰い殺される~……」
「ハリネズミ……死ぬ……」
うんうんと唸る六人の顔を見ながら、利家は溜め息をつく。
あの後、引っくり返って気絶してしまった彼等を抱えて、城まで帰る途中の織田軍。
だが、いつまでも気絶されていては、正直邪魔である。
なので、彼等が起きるまで小休憩をはさむことにしたのだ。
「どうだ、起きたか?」
「寧ろこのまま死にそうなツラしてるッス。」
瓢箪に入った、酒だか水だかを飲みながら様子を見にきた信長に、利家は退屈そうに六人を指差す。
「……どけ、又左。俺が直々に起こしてやろう。」
「ちょ、待って下さいって!!こんなにうなされてんのに、信長様が出ていったら今度こそ永眠しちまいますよ!?」
「貴様俺を何だと思ってる……?」
慌てて信長のマントを掴んで引き止める利家にムカついたのか、信長は眉間に皺を寄せる。
「さすがの俺でも、目を開けて最初に見るのが魔王様ってのはちょっと……」
「人相の悪さなら、貴様も俺と張り合えるだろうが。」
「信長様ほど、人間離れした強面じゃない自信はあるッス。」
信長と利家が下らない話をしていると。
「うぅ………ん?」
間延びした呻き声がして、パカッと谷中の目が開いた。
ムクッと身を起こし、ぼうっとした顔で、信長と利家の方に目を向け、そして。
「ひゃああああぁぁっ!?!?何かいるううぅぅ!?!?」
文字通り飛び上がって悲鳴をあげ、連鎖反応を起こしたように残る五人も跳ね起き、口々に悲鳴をあげる。
のわーだの、ひょーだの、パニックを起こす六人を、利家は必死になだめて落ち着かせようとする。
「あ~、大丈夫だって、な?いくら信長様だって、人捕って喰ったことはねぇから、多分……多分な。」
「確実にないわ!!」
ゴスッと信長の拳骨が利家の頭にめり込む。
「ッテェ!?何するんッスかあんた!?人がせっかくあやしてやってんのに!?」
「喧しいわ、この犬又左が!!黙っておれば下らんことばかり言いおって!!」
額に青筋を浮かべて信長が怒鳴る。
今度は信長と利家の言い争いになり、それに引き換え段々と六人は落ち着いてくる。
「あれ……誰だろ?」
「犬又左って言ってたね。」
「もしかして、あの日サロでブリーチな兄ちゃんってさ……」
「まさか……前田 利家?」
信じられん、と六人は目を剥いた。
確かに前田 利家の幼名は犬千代、そして槍の又左と呼ばれている。
「率直な感想言っていいかな?」
「……なんならハモるか?」
「おーけー。」
それぞれ顔を見合わせて一言。
「「「チンピラヤンキー。」」」
ブレずにしっかりハモれた。
「誰がチンピラヤンキーだ誰がぁ!?」
「お、食い付いた。」
利家がグリンと振り向き、大声で吠える。
「意味がわかったんですか?」
目を丸くして問いかけた山中に、利家はフン、と鼻で笑った。
「何となく失礼な言葉だと思っただけだ!!」
………と、まぁゴタゴタは置いといて。
「え…と。改めまして、お初にお目にかかります…?」
こんな時だけ、部長だからお前が言えと背中をつつかれた小川が、恐る恐る頭を下げた。
それに続けと全員も一礼する。
「もうお前達は知ってるみたいだが、一応名乗っておく。俺は前田利家、こちらは織田信長様だ。」
さらりとした自己紹介を済ませて、利家は軽く身を引いた。
「俺は、小川 健といいます。」
「梅本 佑樹です、初めまして。」
「あたしは北 修子。」
「僕は、谷中 若菜です。」
「私は山中 美那と申します。」
「オレは、木下 千尋ですっ!」
それぞれ名前を言い、もう一度頭を下げた。
「さて、まずは褒めてやろう。今川との戦い……未熟だったが、よくやったな。」
微かだが信長の目元が柔らかくなり、見る者が見れば満足そうな笑みが浮かんでいることに気付くだろう。
「利家さん、こいつ偽者?」
やはりそうなるのがお約束だ。
疑うような目で、六人は信長を見る。
「貴様等……削ぎ落とされたいか?」
「「「ゴメンナサイ。」」」
どす黒いオーラを漂わせる信長に、一斉に土下座する六人。
「で……貴様等は一体何者だ?何処から来た?」
気をとりなおして、信長は底光りする目で六人を探るように見た。
「お前達が気絶してる間に、持ち物を探してみたら…こんな妙なカラクリを見つけてな。」
利家の手から、六つの携帯がそれぞれ放り投げられる。
「こんなものはこの俺も見たことがない。それにだ……何故こいつが前田 利家だとわかった?。」
信長はズズイッと身を乗り出し、彼等を見据える。
利家が正式に名乗ったのはついさっき。
「俺の幼名を、お前達みたいな餓鬼が知る筈がないしな。」
利家もズズイッと身を乗り出す。
そして二人は声を揃えて脅すように言った。
「「洗いざらい吐け…いいな?」」
魔王とその手先に歯向かう度胸は、多分ない。
「別の世界…か。」
「こりゃまた、予想の斜め上をいきますねぇ……」
これまでの経緯をかいつまんで話すと、感心したように二人はほう、と息を吐いた。
「その、何だ?この世界は、ぱられるわぁるど、っていう世界なんだな。お前達からすると。」
利家が言い辛そうに言葉を紡ぎ、六人はそれに頷いた。
今回は話が長くなりそうなので二つに分けました。
突然ですけど、場面場面にあった音楽を聞きながら書くと凄く進みますよね。
みんなのテーマソングとか決めたいな・・・・って、気が早いですね。