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四十七の噺「面倒×(横槍+好奇心)-争事=祝事。」

 ズラーッと並んだ平伏姿は、圧巻の一言に尽きた。その中には、あの兼続の姿も見える。


「……お前、何やらかしたんだ?」


片手で額を押さえて、小川は北に尋ねた。


「いやぁ、マッキーの糸って、ホンマに便利やでな。」


にたぁと笑う北の一言に、五人は成程、と納得する。


「盗聴秘技、糸電話の技だな!」

「この上なく下劣な秘技だけどね。」


木下の勝手な命名と、谷中の痛烈な感想に、マッキーこと真田 昌幸は、イラッとした表情で噛み付いた。


「おれの品性が疑われるような言い方するなっての!!!」

「何言うてんねん、ハナからないやろ、んなモン。」


お前らー!!と喚く昌幸をスルーして、六人は龍虎に向き直った。


「……真田さんの糸のせいで、ぜんぶ筒抜けだったみたいですね。」


軽く苦笑する小川に、二人は少し恥ずかしそうに目を伏せた。


「いいえ……真実を、きちんと聞いてもらえてよかったと思います。皆を騙していたという後ろめたさが、なかったとはいえなかったですから。」

「儂は、ちと照れるがのう……だが、これでお主の肩の荷も降りよう。」


互いに微笑みかける姿を見て、六人はやれやれと安堵の息を吐いた。

 謙信は家臣達の前まで歩み寄ると。



「皆……話は既に聞き及んでいると思う。私は今まで、皆に偽りを申していた。今日まで皆を騙し続けていたことを、この場で詫びたい。」


いきなり地に手と膝をつけ、頭を下げる謙信の姿に、家臣達は驚愕のあまりどよめいた。

さらに、信玄も同じように頭を下げる。


「儂からも、頼む。上杉の為に、皆の為に、謙信は今まで己を殺してきたのだ。その想いを、どうか汲んでやってくれんか……このようなことを言える資格など、儂にないのかもしれんが。」


二人の謝罪に、家臣達はもう大慌てしていた。


「殿!なりませぬ、どうかお顔を上げて下さいませ!!」

「お館様!お館様の御気持ち、しかと我等に通じました!!」


わーわーと口々に叫びだす家臣達を、六人はゆるい態度で眺めていた。


「ったくよぉ……マジで疲れたぞオレ。」

「ほんとにね。でも、これで一件落着じゃない。」


へたっ、と座り込む木下に、谷中が苦笑しながら言った。


「にしても、よく兼続さんが納得してくれましたね。」


山中は、静かに黙したまま、謙信と信玄を見つめる兼続を見て、不思議そうに首を傾げている。

あのときの激昂ぶりは、一体何だったのかと思うくらいだ。


「あぁ、カネゴンならあたしとマッキーとうさみーとで説得という名の説教を……」

「八割マッキーとうさみーの働きだろ。絶対お前は何もしてねぇよな。」


最もらしい顔をして、えらそーに胸を張る北を、梅本はコンコンと小突いた。


「……俺は、どこかで寝たいんだが。」


小川は半分目を閉じて、実に眠たそうな様子だ。

さて、とりあえず……脇目もふらずに、引っくり返ろうか。















~その後の(更なる)色々~


両軍共に大団円と相成りし候。

秘め隠したる胸の内を打ち明け、晴れて通じ合った龍虎と、それを受け入れた互いの家臣達。

 彼等が此度の多大なる功労者の存在を思い出したのは、あれから幾分後のこと。

礼を尽くさんとそちらに目をやれば、彼等は泥水と汗と血の汚れもそのままに、仰向けに倒れ伏して死人の如く眠っている。

張って張って張りつくした緊張の糸の、最後の一本が切れたのだろう。

龍虎は直ちに六人を手厚く介抱するように命じ、同時に撤退の準備に取り掛かった。

彼等が目を醒ましたのは、翌日の朝方。

朝御飯の匂いに惹かれたのか、次々に目を開けて跳ね起き、状況の確認を求めた。

今、両軍が進もうとしているのは、甲斐である。

本来ならば、勝者である六人が行き先を決めるのだが、肝心の彼等がぶっ倒れているので、双方の意見を出しあった結果、六人が最初にいた甲斐へと向かうことになったのだ。

大勢の軍を引き連れて数週間後、ようやく甲斐に到着することができた。

躑躅ヶ崎館は、自軍だけではない帰還に大慌て、武田の武将達は、話をつけるのにまたまた奔走するハメになる。

すったもんだの数日後に、やっとのことで和議を結ぶところまで漕ぎ着けられた。

六人の立ち会いのもと、無事に和議の締結は完了し、親睦の宴が開かれることになる。

まぁ、おおっぴらに端折るのはここまで。宴の席、彼等の様子はどのようなものなのか。









~祝いの席、お酒入りまーす~


「おら、こんなもんなんかこのドブロク野郎。」

「うるせぇ、ドブロク舐めんなド変態。」


お互いに酒をつぎ、潰し合いを始める北と小川。

すでに、数本の徳利(サイズ大)が転がっている。


「どーした梅?お前飲まねーの?」

「座れ。喰うか喋るかどっちかにしろっての……俺まで飲んだら、収拾つかないだろうが。」


もしゃもしゃと口を動かしつつ、器用に喋る木下を、呆れた目で眺める梅本。


「あははー、収拾なんか、梅が飲んでも飲まなくってもつかないよ。」


そこに、横からにゅっと登場したのは谷中だ。

片手に徳利を握り、ほろ酔い状態なのかとっても機嫌がいい。


「殿下さん、腕離してください。それから握り締めないで、痛いです。」


ずるずると谷中に引き摺られる山中は、無表情でこんなことを繰り返していた。


「皆さん、いい具合に出来上がってますね……。」


おずおず、と辰市が魚の干物を持って現れた。


「よー、タッちゃーん。オッツー!」

「お、おっつー?」


あげた片手をひらひら振って笑う木下へ、ワケのわからない挨拶を律儀にかえす辰市少年。


「あ、これ肴に皆さんでどうぞ。」

「悪いな、辰市。」


梅本の礼に、辰市は恐縮したように頭を下げた。

そんな感じで若干和みかけた空気を、ガッツリぶち壊して登場するのは。


「おら、なァに今回の主役共がこんな隅で固まってやがんだァ?」


いつも以上にヘラヘラ笑っている昌幸だ。


「お前ら、潰し合いなんざしてる場合かよ。ほらこっちこいこっちィ。」


よく見ると目が据わっている。

こういう状態のヤツに逆らわないほうがいいというのは、今までの中で経験済みだ。

ずるずると何人かで引き摺られ、何故か部屋の真ん中で座らされる。


「……さて、そろそろ白状してもよろしい頃合いではないか?貴殿等の正体を。」

「「「え」」」


肌に巻かれた包帯が未だ痛々しい勘助だが、爛々と底光りする眼で六人を見据える。

一瞬、何を言われたのか理解が遅れ、彼等は目を丸くした。


「惚けるのはここまでに致しましょうぞ、六武衆殿。既に我等は、貴殿等が「普通」の者ではないとわかっておるのだ。」


信方の言葉に、冷や汗が背中に滲み出る。

 バッと昌幸の方を見れば、ニタリと笑う顔と目があった。


(コイツまさか……!?)


 あの中で、自分達が「普通」じゃないと気づいているるのは、この男ただ一人。

 ぶっ倒れている間に、あんなことやこんなこと、とにかく色々と喋りまくったに違いない。


「両軍の策を見透かし、私達を誘い込み、山本殿の危機を察知し……まるで貴殿方で示しあったように戦場を駆けたその秘密、是非とも教えて頂きましょうか?」


ラスト、定満のトドメに、最早観念するしかない。

六人は頭を抱えて、降参だと呟いた。







~六人自白中~


「……フム、さしずめお主等、異世の民といったところか。」

「我々の住まう世と類似した過去をもつ場所、と考えてよいのですね。」


長い長い自白が終わると、何やら納得したような顔で龍虎がそう言った。

あっさりと六人の言うことを信じた二人に、当人達は逆に驚いた。


「よくもまぁ、そんな簡単に信じるね。僕達、みんなのこと騙してたんだよ。」


谷中は呆れたように言い、他の五人もこくりと頷く。


「確かに、騙されたのは騙されたわ。しかし、もとよりこうなるように思うてのことだろう……それに、言うていたではないか。この戦、必ずよい方向に向かわせると。」


そういえば、調子にのってそんなことを言った気がする。


「……それとこれとは別だ。俺達が言いたいのは、こんな突拍子もない話を、どうして信じるのかってことなんだが。」


空になった徳利を置き、小川は眉を寄せて溜め息をつく。


「信じますよ、私は貴殿方のことを。第一、私達を欺くのに、そんな嘘だと一瞬でわかるような話を大真面目に話しますか?」


くすくすと笑う謙信に、バツが悪そうな表情を浮かべる六人。


「なんや、拍子抜けしたわ。せっかく証拠も持ってんのに。」


つまらなそうに呟いた北の手には、この話を裏付ける唯一の証、携帯が握られている。


「それは?」

「ここいらでは見ぬ形でございますな!南蛮のものでござろうか?」


虎泰と虎昌の、トラトラコンビが物珍しげに携帯を覗き込んだ。


「これは携帯電話っていってね。これと同じものを持ってると、このからくりを通じて、離れた場所からでも話をしたり、文書を送ることができるんだよ。」

「そうか、それで互いがあれだけの情報を得ていたのか。」


谷中の説明をきき、昌幸が成程と手を打った。


「何はともあれ、アレだなっ!終わりよければ全てよしってヤツだ、もういいだろ。俺様いーちぬーけた!」


ゴタゴタする話がめんどくさくなったのか、木下はそう言ってさっさと戦線離脱してしまう。


「そーいうこった。よし、俺も飲むかな……なんかどうでもよくなってきたし。」


梅本も伸びを一つすると、その辺りにある徳利を掴んだ。

木下を皮切りに、六人は次々と話の輪から抜け出してしまう。


「あ、こら待たぬか!まだ終わっては……」


慌てて引き留めようとする勘助だが、信玄は彼の肩を軽く掴んでそれを制した。


「お館様!何故!」


勘助の不満そうな表情を見つつ、信玄は苦笑する。


「最早何も話すまい。あの者達にも、越えてはならぬ一線があろう。」


謙信も静かに頷き、口を開く。


「彼等の身の上を聞けただけでも充分と、そう思わねばいけませんよ。」


場所は違えど、先の世からきたという六人。

未来を知っている、というのは、便利なだけではないのだ。


「しかし、お主のことについては感謝せねばなるまい。勘助よ、あの者達出逢うてなければ、お主今頃脱衣婆と格闘するハメになっておろうよ。」


ニマッと笑う信玄に、勘助は気まずそうな表情を浮かべた。


「……ならばこれ以上聞きませぬ。某にも感謝の思いはありますゆえ。お館様、謙信公……おわかりで御座いましょうが、このことは。」


不意に声を低め、勘助は鋭い視線を送る。


「勿論、口外無用に致しましょう。少しでも外に洩らした者には、厳罰を。」

「幸いここには、信用のおける者達しかおらぬ。だが、なるべく口外せんように厳重に申し付けておかんとな。」


龍虎は顔を見合わせ、深々と頷きあった。

もしこんなことが他国に知れたら、これからの旅路は安寧でなくなるだろう。

ただでさえ色々と噂の多い六武衆だ、その彼等を欲する国は少なくはない。



「彼等は、自分達の価値があまりわかっていません……それを利用されないようにしなければ。」


どんちゃん騒ぎをする六人を眺め、謙信はぽつりとそう呟くのであった。










~真夜中、いい子も悪い子も寝る時間~


あれだけやかましいかった宴も、時が過ぎれば静まり返る。

あちこちに散らばる徳利、皿、その他色々……そして、 部屋中で爆睡する武将達。六人も然り。

武田 信玄は、そんな酒気漂う部屋を出て、煌々たる月明かりを浴びる庭の中で、ひっそりと晩酌を楽しんでいた。

謙信は、当てがわれた部屋へと戻り、休んでいる。


「……お主もどうだ、直江殿。」


目を細め、月を眺めながら、穏やかに信玄が口を開く。


「おわかりになられたか。」


少しばかり悔しげな表情を浮かべた兼続が、暗がりの中から歩み出てきた。


「こんな時間に、斯様なところで何をしておる。獲り損ねた儂の命でも狙うておるのか。」


信玄のからかうような口調に、兼続はふん、と顔を横に向けた。


「舐めるな、甲斐の虎。私を何だと思っている。」


舌打ちする彼女の顔が、苦々しく歪む。

どうやら、喧嘩を売りにきたようではないらしい。


「ふふ、それを聞いて安心したわ。それならば、儂に一体何用だ?」


杯を傾け、信玄は静かに問い掛けた。


「……私は、貴様を認めていない。だが、謙信様が貴様を慕っているのなら、貴様と共に在ることが謙信様の幸せなら、私は何も言わないつもりだ。」


 ここで謙信は言葉を切るや否や、己の神器を喚び出して、信玄の喉元に突き付けた。

信玄は驚きもせず、怒ることもなく、黙ったまま兼続を見詰めた。


「覚えておけ、甲斐の虎。もし、貴様が謙信様を裏切ることがあれば……私は容赦しない。貴様の神器を破壊し、その首を切り落としてやる。」


一気に言い切り、兼続は刃を信玄の喉から放した。

返事は、というような視線を送る彼女に、信玄は肩を震わせている。

聞こえたのは、低い笑い声。


「見上げた忠義よ……よかろう、そうするがいい。しかし、中々大胆な宣言だ。儂の首を落とすか、なんとも猛々しい。」


笑う信玄の姿を、兼続は舌打ちと共に眺める。


「なんだ、北の奴め……まったくビビっていないではないか。」

「え、ちょっと待って。さっきの脅し文句、全部北殿の案…?」


何か聞き捨てならない名前を聞き、信玄は思わず目を剥く。

そうだと頷く兼続を見て、ふかーい溜め息が口から洩れた。


「とにかく、私が言いたいのはこれだけだ。邪魔したな。」


くるりと踵を返して、足早に兼続は去っていく。

残された信玄は、それを苦笑と一緒に見送ったのだった。


えー、お久しぶりです皆々様。

今年入って初の投稿です・・・・・二月だよ今!?

長い間ほりっぱなしでした、ゴメンナサイ。

あ、あと一話で終わります、もう宣言します、くどいぞコノヤローです。

とりあえず目指せ五十話、お気に入り外さないでくださいね(泣)


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