四十二の噺「切り札もヒーローも、後から出てくる。」
あーあ、やっちまった。
龍虎の前に立ち塞がった四人は、後に退けぬこの状況に舌打ちしたい気持ちだった。
目の前で燃えたり凍ったりした人間を見て、飛び出さないヤツがいるんだろうか、いやいない。
「……そなた等が、小川殿と北殿の仲間か。何のつもりだ?」
冷え冷えとした眼で、越後の龍は山中と木下を見据えた。
「別に疚しい考えはねーぞ。オレ達、自分のしたいことしてるだけだし。」
汗が首筋を伝うのを感じながら、木下は出来るだけ落ち着かせた声で言った。
「私と信玄を……戦わせないつもりか。」
尚続く謙信の問いかけに、今度は山中が答える。彼女も木下と同様、淡々とした口調だ。
「それも一理ありますが、八割は私達個人の願望ですね。」
謙信は訝しむような目付きで、無謀な二人を見詰めた。
そして、甲斐の虎と向かい合うこちらの二人も。
「……行くぞ、武田信玄。」
「ナメとったらエライ目見るで。気ィつけや?」
山中と木下を一瞥して、小川と北は宣戦布告を信玄に言い放つ。
「……仕方ない。だが後悔するなよ。儂等は今、ちぃとばかり加減が出来んぞ。」
荒々しく言う信玄に、四人はごくりと固唾を飲み込んだ。
本来なら、膝が震えまくっているんだろうが……不思議なことに、恐怖心はあまり感じられなかった。
そのかわりに、どくどくと全身の血が沸き立ち、何か熱いものが胸を突き破ってしまいそうだった。
戦経験の浅い神憑きに起こる症状、というものだろう。
この症状に感謝して、四人は目の前のラスボスこと龍虎に、果敢にも挑みかかるのであった。
~vs信玄~
「……炎狐ッ!」
陽炎丸の剣先が信玄に向けられ、そこから三発、紅蓮の彗星が尾を引いて飛ぶ。
「面白い、儂と炎を競うか!」
豪快に信玄は笑うと、来国長をぶん回し、襲いくる炎を叩き潰そうとしたが。
「競うんは炎だけちゃうで。飛氷柱!」
凪鮫の片方で来国長を止めた北は、もう片方から信玄の腕を狙って氷柱を撃ち出した。
そして、いきなり地面に膝をつき、上体を伏せる。
タッチの差で、伏せた彼女の背中の上を、小川の放った炎が通り抜けた。
「ほう、やりよるわ!」
信玄は楽しげに叫ぶと、片手に炎を宿らせる。
気合いを込めた声と共に、文字通り燃えるストレートが北の放った氷柱にヒットし、氷柱は砕け、水となり地に落ちる。
そして来国長も同様に、刀身に纏う炎で、小川の炎を切り払おうとする。
だが、三発の炎は同時に信玄の身体に被弾する。
切り払えたのは一発だけ、しかも予想外に重たい攻撃に、信玄は目を見開いた。
「やっぱ氷はあかんな……水流弾!」
「うおっ!?」
被弾の勢いに、ぐらっと揺らいだ信玄の足元から、新たに北の攻撃を宣言する声がした。
下から吹き上がる水鉄砲が信玄の肘に当たり、神器を握る腕が真上に上がった。
「せ―のっ!」
神器は跳ね除けられ、隙ありとばかりに、北の凪鮫が彼の反対の腕に叩き込まれた。
来国長を持つ方の手ならば、凪鮫を防ぐこともできただろうが、残念ながら狙われたのは武器を持たぬ方の腕。加えて水と炎とでは、勝敗は明らかだ。
ゴツッ!と凪鮫の先端が、信玄の腕にヒットする。
北の扱うこの旋棍、先端には鮫の牙のような棘がついている。
それに殴られれば、当然流血沙汰になるワケで。
肘の下を強かに抉られ、血の飛沫が飛び散る。
「ッ……!中々よのう、六武衆!」
「そいつは恐悦至極でッ!!」
するりと北がそこから退くのを確認し、小川は勢いよく陽炎丸を振り下ろした。
金属の打ち合う音と、炎が舞い踊る。
ギチギチと刃が噛み合い、睨み合う小川と信玄。
「……っ!!」
小川の喰い縛った歯の隙間から、細い吐息が漏れる。
体格は信玄の方が厳つく、純粋に腕力では小川の方が圧倒的に不利だ。
「おい、大丈夫か!?」
徐々に押される小川を見て、北が急いで加勢に加わろうとする。
「……大丈夫だ、問題ない。」
「いや、あるやろ大問題やろ。お前はアレか、○ルシャダイか?」
彼女が盛大につっこむという、非常に珍しい光景だ。
「うるさい、んなわけないだろ……こっち来んな。」
ギラッと光る眼が、信玄を捕らえる。
途端、熱気が二人を包み込むように蠢いた。
胸の鼓動が、身体を苛む熱が、一際激しさを増す。
ゆらりと小川の周囲に昇るのは、陽炎だろうか。
彼の様子が変わったことに、信玄が気付いて眉を寄せた。これは、この雰囲気はもしかして。
「来るか……!?」
信玄が呟いたと同時に、小川の声が響く。
「火輪尾ッ!!!」
彼の背後に、紅蓮の炎が立ち昇る。
それは狐の尾のような見た目をしていて、円を描きながら信玄に襲いかかった。
対する信玄も、それを相殺せんと吼える。
「瓔珞火!!!」
頭上から、炎が流星のように降り注いできた。
その名の通り、瓔珞のような炎の雨が、美しく尾を引いて二人の上に落ちていく。
「こらあかんわ!!」
上も下も、真っ赤な火の海だ。
北は舌打ちして、小川の元に急いだ。
いくら彼が炎に強くても、あんなものをノーガードで喰らっては無傷で済むわけない。
「あっつ!ちょ、あたしまで燃えるやんけ!」
メイドイン・妖怪の戦装束は、素晴らしい防火性を示してくれたが、熱はそれなりに肌に伝わる。
幸いにも、雨上がりの地面には、水気がたっぷりと含まれている。
彼女は地面の消火をしながら走った。
炎の雨はまだ降り止まない。
その中で、必死に信玄と打ち合う小川を見つけ、北は慌てて加勢に入る。
「まだまだじゃのう!それでは儂に勝てんぞ!」
「「うるさいオッサン!!!」」
かか、と笑う信玄に二人は悪態をつくが、悔しいことにそろそろヤバかった。
これはリアルに死ぬかもという考えが頭をよぎったとき、救いの手は唐突に大地から現れる。
~vs謙信~
さて、時を少しばかり巻き戻して、謙信との戦いはどうなるのだろうか。
「そんじゃ、頑張ろうぜミナちゃん。」
「はい、頑張りましょうね。」
パシリ、と二人は互いの手を打ち合わせ、励まし合うかのように笑った。
その時、第三者の声が割り込んでくる。
「謙信様ッ!!!」
何だとその方向を見れば、見たことのない女武将が一人。
「手を出すな、兼続。」
ピシリと言う謙信を見て、あの女武将が『愛の人』こと直江兼続だとわかった。
「しかしっ、一対二では……!」
兼続はキッと二人を睨み付けるが、謙信は彼女の加勢を許さなかった。
「彼等は、私に戦いを挑んでいる。私はそれを受ける覚悟だ……それが『将位』たるものの務め。案ずるな兼続、私は負けぬ。」
きっぱりと言い切る様に、おおーっと内心感動する二人。
「……御意。ならば手出し致しませぬ。」
兼続はまだ何か言いたそうだったが、黙って引き下がった。
「話は終わりましたか?」
山中がそう尋ねると、謙信はこくりと頷いた。
「なら、行くぞ。いーち、にーの………」
木下のカウントに双方、神器を構えて。
「さんっ!!!」
地面を蹴り、同時に駆け出す。
まずは第一発、謙信の周囲がキラキラと煌めいたかと思うと、次の瞬間、矢のような形をした氷が六本、唸りをあげて飛んできた。
「チロさん、私が!」
「おう!任せたぞっ!」
低空飛行で木下を追い抜き、山中が前に躍り出る。
轟、と空気が荒れ、開いた舞風に風が集まっていく。
「旋風!」
山中の声と共に、小さなつむじ風が氷の矢に牙を起て、硝子が割れるような音をたてて三本が砕け散った。
「残りは此方でやるっ!縛影!」
木下の足下から、太い影が蛇のように鎌首をもたげた。
そして、飛んでくる氷の矢をそれぞれ見事に絡めとったではないか。
次に彼女がやらかす行動を読んで、山中は急いで空高く舞い上がった。
「これっ!返すぞ!」
木下がニッと笑い、氷を持った影が大きく振りかぶり――氷をぶん投げた。
謙信の頭上に振り降ろされるそれだが、剣の間合いに入った瞬間、あっという間に細切れにされてしまう。
「げ、マジで……どわっ!?」
その勢いを殺さぬまま、謙信の刃が木下を捕らえるが、何とか影蜈蛸で受け止めた。
「ぼさっとしてると、命が散るぞ。」
「散ってたまるか!」
躊躇いのまったくない斬撃を、木下はちょこまかと小回りの効くステップでかわしていく。
「くそ、はえーんだよバカヤロウっ!影爪!」
このままじゃ埒があかない。
木下は影を纏った片手を、タイミングを見計らって前に突き出した。
それに、謙信がハッと息を飲んだ。
ガキッという音が聞こえ、木下の口元が笑みを描く。
影の鎧を装着した右手は、しっかりと姫鶴一文字の刀身を鷲掴みにしていた。
「つーかまえた……!」
どんなに速いものも、掴まれてしまえば動きは止まる。
舌打ちして謙信は冷気を集めようとするが、それを彼女が許す筈がない。
冷たい空気が凍る前に、影蜈蛸を握ったままの左手が、器用に謙信の手首を掴む。そして、そのまま全身に力を入れて。
「っせえええぇい!!!」
「なっ!?」
気合い一声、謙信の身体が宙に浮いた。
否、木下に投げられたのだ。
六武衆の中で最も小柄な彼女が見せた、豪快な投げ技。
「ミナちゃん!」
「待ってました!」
パッと手を放した木下は、山中の名を呼ぶ。
空中で体勢を満足に調えられない謙信の目の前に、急降下してきた山中が迫り、その脇腹目掛けて舞風がぶち込まれた。
武田戦に比べて、なんというか力任せというか……とにかくこちらも、それなりに重たい一発を入れることができた。
地面に叩きつけられた謙信は、ダブルの衝撃で激しく咳き込む。
「ぐ……っ、魔王、め……何をどう、仕込んだ……!?」
どう考えても、並みの女の腕力じゃない。
どうやら、自分はあの二人の力を見誤っていたようだ。
姫鶴一文字を地に刺し、それを支えに立ち上がる。
「……だが、私に勝機がある。」
そう呟き、謙信は向かってくる二人を視界に入れた。
「鉄砲水!」
湿った地面から集まった水が、唸りをあげて押し寄せる。
当然かわされるのだが、それで終わりではなかった。
「爆ぜろ!」
「「え!?」」
避けようとした矢先、謙信の命令通り水流が爆発したではないか。
大量の水を頭から被った二人は、視界を遮られ思わずたたらを踏む。それがまずかった。
「凍れ、氷牢!」
しまった、と思う頃には、もう遅かった。
浴びた水はたちまち凍り付き、文字通り氷の牢が二人の自由を奪う。
「ミナちゃん、これ鎌鼬で切れねーのか!?」
「ごめんなさい、手が……!」
首を捻って木下が山中の方を見ると、舞風を握る彼女の手首ががっちりと凍っている。
「ヤッベェぞこれ!?このっ、割れろコノヤロー!」
ジタバタと暴れる木下の鼻先に、白銀の刃が突き付けられる。
「勝負ありだな……私と信玄の戦いに乱入するとは、自惚れているのか?」
冷たい目で見下ろされ、呆れたような口調で謙信が言う。
「……んだと、コラ。」
「……今、何と?」
ピキッ、と二人の額に筋が立つ。
「違うのか。ならばもう少し身の程を知るといい。甘い気持ちで戦場に立つな。」
コイツ黙って聞いてりゃ人の気も知らずに……!と二人の苛々がギュインと急上昇する。
そして、ぷちんと線がキレる音がした。
「「黙らっしゃい!あんたにだけは言われたくない(です)(ぞ)この大嘘つきの臆病者!!!」」
一瞬だけ目配せして、二人同時に腹の底から見事にハモった怒鳴り声を響かせたその瞬間、抜群のタイミングで、天から救いの轟音と閃光が降り注いだ。
二つの助けは、小川と北に降る火の雨を、大地から盛り上がった岩の塊が防ぎ、天からの稲妻は、山中と木下の動きを阻む氷の牢を打ち砕いた。
「これは……!?」
「一体何だ!?」
いきなりの事態に、龍虎の口から驚きの言葉が洩れる。
すると、もくもくとした霧だか土煙だかの向こうから、意気揚々とした声が聞こえてきた。
「一体何だと聞かれたら!」
「答えてやらんこともない!」
ビュウ、と風が吹き、土煙を払う。
「絆の破壊を防ぐため!」
「絆の平和を守るため!」
ビシッと格好よくポーズをキメて、遅れて登場する例の二人。
「愛と真実がバカを貫く!」
「グレートストレンジな救世主!」
「佑樹!」
「若菜!」
「乱世を駆ける六武衆がこの二人には!」
「縦横無尽!フリーダムな明日が待ってるぜ!」
どどーん!と何故か背後に爆発を背負い、良いのか悪いのか賛否両論ありそうな登場をした、我等が妻女山チームこと谷中と梅本。
そしてワンテンポ遅れて、引き攣った顔の真田 昌幸と無表情の海野 六郎がラストを締める。
「な、なぁーんてな……」
「そぉーなんす。」
シ――ン、と辺りが静まり返る。
痛い、その静寂がものすごーく痛い。
「「「「ア……アホかああああぁああぁ!!!!」」」」
四人の盛大かつ壮大なつっこみが、戦場にながーく長く、木霊した。
何か勢いにのって続きうpしました。
ロケット団が登場するときの台詞って名台詞だよね、異論は認めない。
次回、「口舌の刃で、人を斬らなきゃいけないときもある。」お楽しみにー。




