四十の噺『げっとだうん・えねみーず!巻き込まれたいヤツだけかかってこい!後編なのだよ。』
混戦の中、昌信が声を張り上げた。
「弓兵!構えよ!」
昌信の命に従い、一斉に弓兵が弓を引く。
一人二人なら大したことはないが、何十人、何百人といれば話は別だ。
「放てッ!!!」
数百本は下らない数の矢が、映画でしか見たことのない光景のように、自分に向かって飛んでくる。
「ヤ、ヤベッ!?」
喰らえば針ネズミ、梅本は慌てて壁を立ち上げようとして、ふと思い直す。
自分だけではなく、周りの兵達も守らなくては。
おニュー技の出番か、と舌打ちした。
「あーあ、あんまり早い段階で見せたくないんだけどな……うまくいけよ、龍隆岩ッ!!!」
地国天が地面を殴り付ければ、字の如く大地が龍の背のように、長く隆起した。
思ったより広範囲に技が効いて、出した本人である梅本自信も目を丸くしたくらいだ。
降り注ぐ矢の嵐から仲間を守る中、ふと梅本の頭の天辺にぽつりと感じた滴……これはもしや。
最初はぽつり、ぽつりと頼りなかった滴も、たちまちザァザァと勢いを増していく。
「雨だ……!マンボウの野郎、遅いんだよやっとかよ!」
水滴を荒々しく拭い、愛馬の地角を呼ぶ。
直ぐ様駆け付けた地角に跨がると、ハイヨーシルバーと言わんがばかりに駆け始めた。
先程起こした岩の隆起に地国天の槌部分を押し付けて、沿うように。
すると、彼が進むにつれ、土煙と地響きを立てて隆起が横に伸びていく。
「地角、もっと早く頼む!」
愛馬の首を叩いてスピードアップを促せば、地角は一声嘶いて加速する。
血の薫る戦場を突っ切って、彼が進むとそれの後を追うように、大地の隆起が両軍を囲む。
「っしゃあ!箱庭だコノヤロー!殿下っ、一発デカイの頼んだぞッ!!!」
なるべくその場所から距離をとるため、駆けながら梅本は叫んだ。
「まっっってましたァー!!!お前の罪を数えろオオオォ!!!!」
谷中はフッ飛んだ答えを返すと、電王を天に掲げ弓を引く。
天候は雨、頭上には真っ黒な雲、この状況で狙うのはたった一つ。
「元気ハツラツぅ!?駿・雷・矢!!!!」
雷の弦から眩い稲妻が溢れ、馬鹿デカい矢を作り出す。
限界まで引かれた弦が手を離れ、金色の矢が発射された。当然、物凄い轟音と衝撃を伴って。
震える空気、天に突き刺さった一撃は雲を照らし、梅本の囲った巨大な箱庭の戦場に幾つもの稲妻となって落ちてくる。
雨で濡れた大地に落ちた雷、そこにいればどうなるのか……予想はつくだろう。
爆音と激しい光を、梅本は馬上で耳を塞ぎ目を瞑って何とかやり過ごした。
愛馬の耳も、必死で身を乗り出し肘を使って塞いでやる。
やがて音も光も治まり、やっと感覚が戻ってくる。
耳鳴りと目のチカチカを堪え、カムバックしてきた視界に映るのは、見事に全滅した両軍だった。
岩の囲いは先程の一撃で壊れている。
「おいおい……死んでんじゃないのかよ、これ。」
「いや、見事に気絶してやがるぜ。あれだけ派手に落としたってェのに、器用なモンだ。」
青ざめた顔で呟いた彼の背後から、うっそりと答える声。
「あ……あんたが、真田さんか?」
恐る恐る振り返ると、呆れたような顔をした昌幸がいた。
「よォ、お前が六武衆の片割れの一人だな。知ってるだろうが、一応礼儀として名乗っておくぜ。おれは真田 昌幸だ。」
「話は聞いてます。俺は梅本 佑樹、今は武田に寝返ったことになってます。」
お互い軽く一礼して、改めて戦場を見回す。
「……あンの雷娘、大丈夫かァ?おい、六郎!」
「ここに。」
昌幸の背後に、スッと六郎が現れた。
「おい、谷中嬢はどこに置いて来たんだよ?」
「………。」
無言で六郎は一点を指差す。そこには……。
「ちょ、何で殿下までピヨってんだよ!?」
バッタバタ倒れている有象無象の中に混じって、頭にピヨピヨひよこを回らせている谷中がいた。
「六郎……?」
溜め息を吐いた昌幸に、六郎は淡々と言う。
「ただ単に、自分の力にあてられて目を回しているだけにございます。」
「で、お前は巻き添え喰う前にとんずらした、と。」
慌てて谷中を引き起こす梅本を眺め、昌幸は疲れたように肩を落とした。
「あぁ、もう!起きろこのアホ!」
谷中をずるずる引きずりながら、梅本はギャンギャン喚いた。
早く八幡ヶ原に向かわないと、皆が心配だ。
「忍さん、コイツ運んでもらっていいですか?」
六郎はこくりと頷き、谷中を受け取った。
傍には黄麟が控え、六郎が乗るのを待っている。
彼が谷中を抱えて黄麟に乗るのを確認すると、昌幸は一度首をゴキリ、と鳴らした。
「さーて、行くかい………真田忍隊、いるな?」
低く呟くと、何処からともなく答える声。
「然るべく。」
梅本はギョッと昌幸の方を見た。
「真田さん……忍隊、いたんですか?」
「おうよ。いくら何でも、おれと六郎とお前だけじゃあ、突っ込むにゃあちょいと無理がある……あいつらには、この時まで潜伏するのが大変だっただろうがな。ま、これくらい出来ねェと、真田の忍は務まらねェよ。」
からからと笑って、昌幸はあっけらかんと言い放った。
「……忍隊の皆さん、潜伏お疲れ様です。あと、これからもう一頑張りお願いします。」
溜め息をつき、梅本はそう言って頭を下げた。
「昌幸様、梅本様……早く参りましょう。」
六郎の言葉に二人は頷き、愛馬に跨がった。
~side八幡ヶ原、武田軍~
彼は、山本 勘助は、胸を抉るような後悔を必死で押し殺していた。
まさか、自分の策が見え透いていたいたとは。
「何と言う失態か……このままではお館様に申し開き出来ぬ……!」
なんとか軍の乱れを律し、ようやくまともに迎え撃てるようになったが、攻め込まれ厄介なことになっていることに変わりはない。
「某も撃って出らなければ……!」
勘助が握るのは、鞘も柄も鍔も漆黒の野太刀。
刀身だけは美しい白銀で、名は『不影・郷義弘』という。
神器と同じ漆黒の馬に跨がり、敵地をギリッと睨み付け、勘助は疾風のような勢いで駆け出した。
その後ろで、信玄が呼び止めるような声がしたが、敢えて振り返らずに。
勘助が一人無謀にも突撃したころ、木下と山中は二人背中合わせで敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返していた。
「やったぞミナちゃん!雨も降ったし、後は梅と殿下の到着を待つばかりだなっ!」
俊敏な動きで放たれる攻撃を避けつつ、影蜈蛸を振るう。
ちなみに、今の彼女の様子は……。
「影の腕が二本肩から生えて、生身の腕で神器を使って……壮大な言い方になりますけど、どこの仏像なんですか。」
山中は苦笑を隠せない。
確かに一面四臂、ミョーに気持ち悪くも見えなくない。
「三面六臂なら、阿修羅像になれんだけどなッ!」
バキッ、と嫌な音をたてて、黒い腕が敵兵を薙ぎ倒した。
そのとき、何かを思い出したのか谷中が慌てたような声をあげた。
「しまった!!忘れてました!!!」
「何だどうした何事だ!?」
それでも戦う手は止めず、二人は会話する。
「勘助さんのこと、忘れてました!!」
「あーー!?」
顔を見合わせ、何てこったいと叫ぶ。
「ミナちゃん、探そう。そうしねーと勘助、特攻して死んじまう!」
「でも、どこにいるのかわかりませんよ!」
「ミナちゃんは飛べるから、空から探してくれ!オレは白龍つれて、写楽と一緒に地上から探す!」
幸い、武田軍の混乱は収まりつつあり、もう二人が暴れなくても何とかなりそうだ。
「わかりました!見つかれば、連絡いれますね!」
「おーらいミナちゃん!」
風を巻き起こして飛び上がった山中を見送り、木下は山中の愛馬を引き連れ、自分も馬に乗って走り出した。
~side八幡ヶ原、上杉軍~
こちらは小川&北チーム。
板垣 信方と宇佐美 定満を引き合わせた二人は、降り頻る雨の中を駆けていた。
「……やっと降ったか。」
「やかましな。えらそうに言わんと、ちったぁ感謝しいや。」
互いにジロッと睨みあい、ジトジトと言葉を交わす。
「……で、俺達はこれからどうするんだ?」
「知るか。ただでさえ行き当たりばったり作戦やろ、テキトーにすりゃええんちゃう?」
戦場でもこの緊張感のなさは、どういうことか。
いや、もう既に緊張感のメーターが振り切れてしまったのだろうか。
二人とも、若干青ざめた顔色をしており、浅く早い呼吸を繰り返している。
メンタル的に、そろそろキツくなってきているのだろう。
「……おい、あれ……」
「あぁ?」
ふと、小川はある方向を見やり、見覚えのある姿を捉えて北を呼んだ。
「なんや、何かおったか?」
「あれ……ヤマカンじゃないか?」
「あ、ホンマや……って、ヤバイやんけあいつボロボロやん!」
北はゲッ、と顔を強張らせた。
漆黒の装束は破れ、背中や腕には矢が突き刺さり、血みどろだ。
同時に、彼の握り締める神器も、恐らく上杉軍のものであろう血を浴びて紅く染まっていた。
「……今、あたしら行ったら、どうなると思う?」
「確実にアレの錆だな。」
即答した小川は、おもむろに掌を空に向けた。
「発火弾ッ!」
ボンッ、と爆音がして、紅の炎弾が空に撃ち出された。小川の合図だろう。
「……あっちにはミナちゃんがいるんだ、多分探してる筈だ。」
小川はそう言いながら、手を下ろした。
そのまま、二人は勘助を見守る。
彼がやられそうになったら、何とか助けに入れるように。
~side八幡ヶ原、武田軍~
空を飛び、山中は必死に勘助を探した。
途中、自分を狙って飛んでくる矢やら雷やら炎やらを、最小限の動きで避けながら。
「早く見つけないと……!早くしないと、ヤマカンさんが討死しちゃいます!」
だが、地上からみた戦場は何が何やらわからない状態だ。
そんな中からたった一人を見つけるのは、恐らく無理。
しかし放っておけるわけがない。
諦めそうになる気持ちを叱咤して、山中が高度を下げたとき、ボンッ、という爆音と紅い光が視界の隅に入る。
「……もしかして、王子さん?」
まさか、と山中はその方向に向かうと……。
「いた!」
血まみれで、今にも倒れそうになりながらも戦う勘助がいた。
慌てて携帯を取りだし、木下を呼ぶ。
『ミナちゃん!さっきのってもしかして!?』
ワンコールで電話に出た木下は、喧騒に負けじと声を張り上げている。
「はい!勘助さん見つけました!」
『オッケー!オレも近くにいるんだ、すぐ向かうぞッ!』
会話を切り、山中は急いで勘助の元に急降下する。
「退いて下さい、鎌鼬!」
舞風を振るい、勘助を取り囲む敵を一掃する。
「ご無事ですか!?」
着地すると、彼女は急いで勘助の元に駆け寄った。
「山、中…殿……申し訳…ない……」
「申し訳なくないです!何勝手に死にかけてるんですかあなた馬鹿ですか!?」
途切れ途切れの声で謝る勘助を、山中は叱り飛ばした。
彼に肩を貸していると、派手に敵兵をフッ飛ばしながら木下が到着する。
「生きてっか勘助!」
「半死にですけど生きてます!」
木下は安堵の表情を浮かべると、直ぐ様山中の愛馬の背に勘助を乗せる。
「すぐ本陣に連れて行こう。」
「はい。」
顔を見合わせて頷きあっていると。
「応急措置、いるか?」
「……おい、ここでできるのか。」
ここのところ聞いていなかった声がして、弾かれるようにそちらの方を見る。
「王子!」
「マンボウさん!」
そこには、上杉に身を置く小川と北が、悠然と立っていた。
久しぶりの更新です。
やっと次に進める・・・・・・・長い、長すぎる道のりですだよ。
今回も戦場でどたばた、次回はもっとどたばたさせたいなー。