表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/53

三十八の話「げっとだうん・えねみーず!巻き込まれたいヤツだけかかってこい!前編なのだよ。」

~side上杉~


あれから少しも動くことなく、上杉軍はのほほんと妻女山で時間を潰していた。

しかし、三人だけはそういうわけにはいかなかった。


「……どうだ、降りそうか?」


近くの川辺にて、小川は辺りを警戒しながら北に訪ねた。


「雲の出は充分や。後はあたしの力次第やな……」


唸るようにいう北は、片手を空に、もう片方を川に向けて、何やら必死に念じている。妙なポーズだが、笑ってはいけない。

 今彼女が必死で行っているのは、「雨喚び」という技である。簡単な話、これは雨乞いだ。


「ここで俺と殿下が粘らなくちゃならないんだ、絶対少しくらいは降らせろよ。」


そんな梅本の言葉に、北は忌々しげに舌打ちした。


「よう言うわ、しんどいんやでこれ。」


この技は、いつぞや携帯に載っていた自分達のデータから見つけた技だ。

雨を喚ぶ技なんて、あんまり使うことはないだろうと思っていたが、案外早くその時はやってきた。

うんうん呻く北の額や首筋に、幾つも汗の筋が出来ている。

次第に、彼女の頭上から雲の色が黒みを増していく。雨雲に変化していっているのだろうか。


「ッ~、もう無理や!これ以上やったら、あたしが使い物にならんくなるわ!!」


力尽きたのか、ベタッと北はその場に座り込み、大きく息を吐き出して汗を拭った。


「ほれ、水。」


竹筒を手渡し、梅本は空を仰ぎ見た。

雲の黒さは出てきたので、後は雨が降るのを祈るばかりといったところか。


「……雨が降れば、妻女山の戦いでの時間が短縮される。運次第だな。」


涼しい顔で言う小川を、ジットリと北は睨んだ。


「あいつだけ倍は働かしたろ。」


そう呟く声を梅本だけは聞きとったが、あえて聞こえないフリをしてやり過ごした。余計なことは言わない方が得なのだ、何事にも。

 とりあえずやることをやって、本陣に何食わぬ顔で戻ると、どういうワケか空気がピリッと張り詰めている。

 何事かと急いで近寄れば、彼等の姿を見つけた兼続が声をかけてきた。


「何処をほっつき歩いていた。軍を移動させるぞ、早急に準備しろ。」

「はぃ?」


思わず間抜けな返事で返せば、定満が更に説明を加えた。


「海津城から通常より多く、炊き出しの煙が上がっていましてね、どうやら武田に動きがあるようなのです。」


ああ、始まったなと三人は目配せをした。


「……わかりました。すぐに馬の用意をします。」


小川はそう言い、北と二人で直ちに愛馬の元へと走った。


「やっと来よったな。」

「……ああ。」


声を低め、二人はそう言った。

川中島の戦いの目玉、『啄木鳥の戦法』がついに始まるのだ。

馬に乗り、小走りに本陣に向かうと、兵卒から白い布を渡される。


「……これは?」


布を受け取り、小川は首を傾げる。結構分厚い布だ。


「馬の蹄にお巻き下さい。物音を立てられませんので。」


成程、と合点が行った。消音効果か。

二人は素早く布を巻き付けた。


「それでは守衛部隊。後を頼んだ。皆の者、武運を祈る。」


 支度をしながら聞かされた作戦は、守衛部隊をここに残し、本隊は山を下る予定だ。


「恐らく信玄は、明朝までに動いてくるだろう。私の考えが正しければ今夜、ここに夜襲がかかる筈だ。だが信玄にとってここは地形的に不利な場所……攻撃は見せかけよ。決戦はどこか別の場所で行うつもりだろう。我が軍の動きを読み、待ち伏せをしている筈だ。」


 謙信の考えを聞きながら、小川は口を開いた。


「およそ先に戦地におりて敵を待つものは佚し、後れて戦地におりて戦いに赴く者は労す。故に善く戦う者は人を致して人に致されず、よく敵人をして自ら至らしむる者はこれを利すればなり、だな。」


 これは孫子兵法の一説である。簡単に言うと、相手より先に戦地に布陣して、敵が来るのを待っているものは楽だが、後れて到着し、戦に赴くものは苦労するだろう。

 戦争巧者は主導権を握って相手を思いのままに動かし、自分は相手に惑わされないようにする。相手自ら行動にまで至るようにするには、利益を見せて誘うのである……ということだ。


「そんじゃ、梅。生き残れよ。」

「うるせーよ。ハナからそのつもりだ馬鹿野郎。」


 軽口の挨拶を交わして、梅本は遠ざかっていく本隊を見送った。


「……コンティニューは効かないんだよな。」


強張った顔で、ポツリと梅本は呟いた。







~side武田~


同時刻、武田軍も本隊と別動隊に別れて支度をしていた。


「海野さん、出陣するときに飲ませてくれた薬ってまだ持ってる?」


改めて武器の確認を行っていた六郎は、顔を上げて声をかけてきた谷中に目をやった。


「……持っては、いますが。」


淡々と答え、彼は腰に着けていた袋から薄紙に包まれた薬を取り出した。


「それ、またもらえないかな?」


申し訳なさそうに谷中は言うと、僅かに六郎は顔をしかめた。


「あまり多用するのは勧めませぬ。後がお辛くなります。」


そんな彼の表情を、谷中は苦い笑みを浮かべて見ていた。そして、押し殺した声で呻くように言う。


「わかってるよ。けど、今回だけお願い。僕の役目、マッキーから聞いてるでしょ?何かで気分を上げとかないと、まともに動けそうにないんだ。」


顔の前で両手を合わせ、谷中はお願いと頭を下げた。

彼女の役目は、六郎も知ってはいる。

だが例の薬は、少量なら問題ないが多量服用すると肉体への負担が大きいのだ。長時間効果を持続させるには、それなりの量が必用である。

しばらく六郎は考え込んでいたが、仕方ないと言わんがばかりに薬の包みを彼女に渡した。


「……あの方々の分も、余分に渡しておきます。貴女様がお決めになったことだ、私に逆らう権利はございませぬ。」


ですが、後々覚悟してください、と六郎は付け加えた。

薬を数個手渡され、谷中は軽く溜め息を吐いた。


「ごめんね。今はこうでもしないと、本当にヤバイんだよ。」

「私も微力ながら、お側でお力添え致します。貴女様お一人ではありませぬ、それをお忘れなきように。」


常に無表情でいる六郎が、励ますように微笑して谷中の肩を叩いた。


「……うん、ありがとう。」


谷中は六郎を見上げ、ポツリと言った。


「さぁ、早く持ち場へ参りましょう。」


彼に連れられ、谷中は皆のところに戻る。


「殿下、大丈夫か?」


気遣わしげに木下は谷中に近寄り、顔を覗き込んだ。


「うん。いけるよ、心配しないで。はい、これ二人の薬。」


緊張しているときは、少しでも平気そうなフリをすれば平気になるという。

谷中は薬を渡しながらへらりと笑ってみせるが、やはりぎこちない。


「本当に大丈夫ですか?」


山中も傍に寄り、心配そうな顔で彼女を見つめた。


「大丈夫ったら大丈夫!ほら、いつまでも僕の回りにいないで、本隊に行く!」


谷中はわざと大声を出して、緊張と不安を振り切るようにピシリと言った。

これ以上心配をかけては、二人にもよくないし、作戦にも支障を出す。


「谷中様には私がついております。どうかご安心を。」


六郎にも言われ、二人はやっと谷中から離れた。


「……谷中殿、そして全ての者。策の成功と、無事を祈る。全員、死ぬのは許さぬ。必ず儂の元に戻ってこい!」


信玄の激励を受け、応、と勇ましい声があがる。

啄木鳥の戦法、これより始動する。








~side谷中~


本隊と別れ、谷中は勢いよく自分の頬を叩いた。


「……ッ! よし、行こうか黄麟おうりん!」


愛馬、黄麟の首をぽんっと叩き、手綱を握り締める。


「谷中の嬢ちゃん、動けるかい?」


別動隊の元に向かうと、赤と朱の戦装束を纏った昌幸が声をかけてくる。


「行けるよ。僕、先頭だったよね。」


隊の先頭へと谷中が馬を進めると。


「進軍開始!」


号令一発、全軍が一斉に進み始めた。

相手に気取られないように、こちらも蹄に布を巻いている。

谷中は腰に下げている袋に手を突っ込み、中で携帯を広げた。


(ショートカット設定にしておいてよかった。)


内心でほっと一息つき、谷中は指定された番号を押して梅本に電話をかける。これは進軍を梅本に知らせる合図だ。

ワン切りして、谷中は携帯を閉じた。


「薬、そろそろ飲んでおこうかな。」


揺れる馬の背で、谷中は器用に六郎から貰った薬を口に含み、水筒の水で流し込んだ。







~side梅本~


ブルブルと携帯の震えを感じとってからしばらく経ち、梅本は人知れず深い息を吐いた。


「どうなされた、梅本殿。」


隣で座っていた兵士が、彼の様子を見て声をかけてきた。


「いえ、緊張してるみたいで……何か落ち着かなくて。」


肩の辺りを擦り、梅本は真っ暗な夜空を見上げた。

まだ、雨が降る様子はない。

待機を始めてかれこれ数時間、耳を澄ませてみるが物音は聞こえない。

やれやれと肩を竦めたそのとき、再び懐の携帯が震え、すぐに止まった。

梅本の顔色が変わり、彼は弾かれたように立ち上がって呟いた。


「……来たんだ。」


様子が激変した梅本を見て、他の兵士にも緊張が走った。

そして、聞こえてくるのは蹄鉄の音。

漆黒の夜を引き裂いて、金色の稲妻が唸りをあげ突き刺さる。谷中の一撃だろうか。

 瞬く間に怒声が飛び交う中、梅本は静かに地国天を喚び出した。




~side谷中~


「これはどういうことだ!?」


どう見ても、目の前の敵が最初の狙いであった本隊に見えない。

虎昌や昌信は思わずそう叫んでいた。


「これは一杯食わされたなァ!上杉の野郎、読んでいやがったか。」


昌幸は苛々と舌打ちした。

上杉の本隊はここにはいない、いるとすればそれは……。

引き返すか、という昌幸の考えを、彼の真横から放たれた雷の矢が消し飛ばした。


「引き返してどうなんのさ!?余計なことを考えてる暇があんなら、一刻も早く相手をぶちのめせばいいんだよ!!!」


完全にスイッチが入っているのか、谷中の目は爛々と光っていて、さながら虎のようだ。


駿雷矢しゅんらいや!」


電王が目映く輝き、弦から雷が湧き出る。

それは矢の形に姿を変えると、バンッという音を残して発射された。

空を斬って飛んだ金色の矢は、五本に分かれて敵地に襲いかかった。

ドン、ドンと矢は爆発し、それを見届けずに新たな矢がつがえられた。


「おーおー、血気盛んなこって。」


昌幸は苦笑すると、片手を横に軽く振る。すると、彼の神器、光糸こうし白蜘蛛しらくもから細い光の糸が流れ出た。


「そんじゃあ、ちょいちょいっと片付けちまうか。」


昌幸の手首や指先の動き一つで、硬質化した糸が相手を切り裂いていく様は、まるで舞を舞うかのようだ。


「あの雷の神憑きを先に仕止めろ!!!」


最も厄介な人物がやっとわかったのか、数人の兵士達が谷中に武器を向けるが。


「……退がられよ。」


煙のように現れた六郎の投げる手裏剣に、ことごとく阻まれる。

そうしている間にも、谷中は脅威的なスピードで敵を撃破していく。


「払う露も頂けませんなぁ……」


虎昌は目を丸くして、雷の爆発に巻き添えを食わないように距離をとりながら呟いた。







~side梅本~


「うーっわ~……殿下がいっちゃってるよ……」


地国天をぶんまわし、梅本は顔を引き攣らせて呟いた。

何やらミョーな薬でもキメたのか、目付きが怪しい。


「ま、俺もドン引きしてる場合じゃないな……よっと!」


大地を叩きつけると、メキメキと岩が突出し、鮫の背鰭せびれのような形になった。


「おニューの技、威力はいかほどに……土地鮫どちざめッ!」


地国天で背鰭岩をぶん殴れば、それはまさしく鮫が獲物に急接近するが如く、猛スピードで大地を疾駆した。

敵の神憑きが放つ攻撃も何のその、岩の背鰭は次々に何十人もドカドカと撥ね飛ばしていく。

が、それで終わりではない。

動きが止まり、迂闊に近付けば………。


「あ、それバーンってなるんで気を付けろよ~。」


ケラケラと笑う梅本の背後で、バーンと爆ぜる音。

岩の背鰭が爆発し、幾つものつぶてがひゅんひゅんと弾丸のように辺りに飛び散った。


「にしても、マンボウのヤツ……本当に雨降るんだろうな。こっちとあっち、だいぶ人数に差があるぞ。」


上杉の守衛隊は、武田の別動隊に比べれば結構人数が少ない。加えてあの状態の谷中が暴れているのだ、そう長くは保たないだろう。

 それに、こちらの守衛隊にはそこまで強力な力を持った武将はいない。武田と戦うべく、皆本隊に移動している。


「真田さんはともかく、飯富と高坂をここで足止めしないといけないんだよな。くそっ、雨さえ降れば……」


何十本も飛んでくる矢や炎や風の塊を、防ぎ、避け、梅本はどうするかを考えた。

完全に倒せなくてもいい。動きさえ何とか出来ればいいのだ。


「おニュー技その二なら、何とかなるか?」


おニュー技を使うには、どうしても雨が必要だ。

 頼む、雨よ降ってくれ。

梅本は祈るように、暗黒の空を見つめるのであった。




やぁ、皆様。

やっと続きが出来たよ、うんしんどかった!

戦闘シーンは本当に難しいね~・・・・・・・あぁ、これから更にうpスピードが遅くなると思うよ。

だってほとんど戦闘だもの。

・・・・・で、お気に入り登録がいつのまにか150件越えててビックリしますた。

ありがとうございます、次の目標は200ですね。

感想・一言・質問、いつでも受け付けしております。

どんな短い御言葉でも、尻尾を高速に振って喜びますんで、是非どうぞです。

ではでは、これにて御免ッ!!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ