三十四の噺「仲間同士が戦いあうって? やるワケないじゃん、めんどくさい。」
「そおらっ!」
「はっ!」
ギンッ、と噛み合う小太刀と大槌。
片や地国天を降り下ろそうとする梅本、それを下から防ぐのは兼続だ。
「がーんばれカ・ネ・ゴン!つーよいぞカ・ネ・ゴン!」
ギリギリと鍔迫り合いの最中、思いっきり間抜けな声援が聞こえ、思わずずるっと滑る二人。
「ちょ……おまっ、本人の前でそれはムリッ……ぶはははははっ!!!」
「何だそのふざけた呼び名はっ!?」
堪らずゲラゲラ笑う梅本、目を白黒させながら怒鳴る兼続。ちなみに、その声援の送り主はやっぱり北だ。
「何って、兼続さんの呼び名や。かねつぐ、でカネゴン。ええやろ?」
ぬぼーっとした顔で、北は淡々と言った。相変わらずムカつく真顔である。
「どこがだ!今すぐ止めろ!」
「細かいことイチイチ気にしいなや~。そんなんやからいつまで経っても独り身なんやで?んな狛犬みたいな顔しとったら、男一人寄ってけーへんやん。」
そして相変わらず相手の一番痛いところを的確に突いてくる。
顔を真っ赤にして唸る兼続の隣を、ぜーぜー息を切らした梅本が通り過ぎた。
「あー、腹筋が死んだ……王子水くれ。」
小川は竹筒水筒を梅本に差し出し、兼続にもそれを渡す。
「……流石に強いな。その小太刀、名前は『鳳・三条宗近』だっけ。」
小川は感心したように言い、まじまじと兼続の神器を眺める。
柄は濃紺、鍔は翡翠のような色合い。刃の造りは少し変わっていて、切っ先から数十センチは両刃、そこから鍔までは片刃という構造だ。
木下がいれば、それはバスターソードという西洋の剣の造りと同じだ、と言うだろう。
「突き刺すんも、斬るんも出来るんやな。で、カネゴンは風の神憑きか。」
確認するように尋ねる北に、兼続は頷く。もう呼び名の訂正は諦めたようだ。
「そうだ。にしても……お前達、中々に出来るな。」
兼続は兼続で、噂に違わぬ三人の強さに内心舌を巻いていた。
一通り相手をしてみたが、それぞれ特徴があり面白かったのは秘密だ。
小川は神器の長さを考え、常に一定の距離を保ったまま素早い斬り込みを入れてくる。
梅本は技の手数は少ないものの、神器を巧みに操り、一発一発が強烈な重みを持つ。
北は普段の鈍い動きを一変させ、ワン・ツーの攻撃を常に密着した状態で放つ。
(……とても子供の腕とは思えんな。)
と、感心する兼続。
お気づきの方も多いだろうが、この世界に来てからというものの、六人は一度も自分の歳を口にしたことはない。
つまり、周りの人間は誰も彼等が二十歳過ぎだと思っていないのだ。
そんなに自分達は年相応に見えないのだろうか、と苦笑いする三人だった。
(まぁ…面白いし、都合のいいこともあるからだまっていよう。)
ひっそりそう思い、三人は再び鍛練を開始するのであった。
その日の夜。
「おら、起きや野郎共。」
「「んがっ!?」」
すやすやと気持ち良く眠っていたのを手荒く蹴り起こされて、目を覚ます。
寝惚け眼で見上げた先に、偉そうな態度の北がいた。
「お前いきなり何すんだよ!?」
「っていうか、普通他人の頭蹴るか……?」
梅本と小川は青筋をたて、北に掴みかからんばかりに詰め寄った。
「あたしは何べんも声かけたわ。起きひんかったお前等が悪いんやろーが。とっとと着替え、行くで。」
「「何処にだよ!?」」
用件も何もなく、いきなり行くぞと言われても。
「うるさいな、謙信様のトコに決まってるやろ。」
面倒くさそうに言う北は、もうすっかり着替えていて準備万端だ。
二人はいきなりの招待に面食らいつつも、とりあえず寝間着の上に一枚着物を羽織り、帯を無造作に巻き付ける。
「何なんだよ、一体。」
「……俺達は、行っても大丈夫なのか?」
今時分、謙信は「彼」から「彼女」に姿を変えている頃だ。
北は別として、自分達はそのことを知らないという設定……の筈。
「大丈夫や、ええから来い。」
モタモタする男二人に痺れを切らし、ついに北はするりと部屋を出ていってしまう。
二人は慌てて後を追い、北の左右に並ぶ。
「軒猿がな、何か呼びに来たんよ。今日はお前等も一緒で行けって。」
暗い道を、北はスタスタと歩いていく。
「……本当に暗いな。よく歩けるもんだ。」
一寸先は闇、小川は足下に注意しながら進んでいく。
やがて、見たこともないような中庭に辿り着いた。そのど真ん中に佇む、小さなお堂。
「ここ、がそうなのか?」
北に続き、恐る恐る足を踏み入れる男二人。
「まあな。謙信さん、入るで。」
北は戸を開け、すたすたと中に入っていく。
「お待ちしていましたよ、北殿。」
柔らかな声と、奥に座する姿に、小川と梅本は絶句した。
「……謙信さん、か?」
頭巾に隠されていた濃紺の、長く美しい髪と胸元の膨らみに唖然とする。
「この姿でお会いするのは初めてですね。お初にお目にかかります、小川殿、梅本殿。」
静々と頭を下げて、謙信は言った。
「お前等いつまでそこに突っ立っとるんや。案山子やないんやから、さっさと座り。」
北の呆れたような声に我に返り、二人はぎこちなく腰を下ろした。
「あの、これは一体……?」
怪訝そうに、梅本は謙信を見る。
「おや、北殿から私のことを聞いていないのですか?」
「いやそういうことじゃなくて。」
小川のつっこみに、きょとんとした顔で謙信は北に視線を向けた。
「あー、つまりはあたししか知らんっていう設定の筈やのに、自分達にその姿を見せてええんかっていいたいんよ。」
早速足を崩し、北はそう説明した。
「北殿は、彼等に何も言っていないのですか?」
「いや、一応言ったし。コイツらが気ィ使っとるだけやで。」
ヘラヘラと笑って、北は二人を指差した。何だろうこれもしかして馬鹿にされてる?
とにかく、今は何故自分達がこの場に呼ばれたのかを聞かなくては。
「……どうして俺達をここに?」
小川がゆっくりと尋ねると、謙信はスッと目を伏せた。
「昼頃、そなた達が兼続の元へ行ったとき……軒猿から知らせが届きました。甲斐にいるそなた達の仲間が、もうじき始まる戦に加わる可能性が高いと。」
なあんだ、そんなことかと内心で思う三人だが、一応ここでは初めて聞いたことになっている。
そんなことを思っていると、反応が遅れたのを別の意味に捉えたのか謙信は困惑したような目を向けてきた。
「驚かないのですか……?」
「ま、そうなるやろうと思ってたしな。別段びっくりする必要ないやろ。」
さらっと答えた北に、謙信は眉を寄せる。
「しかし……友なのでしょう?私は」
「あのさ、俺等がやろうとしてるのは殺し合いじゃないから。」
彼女の言葉を遮って、梅本は苦笑を浮かべた。
「……俺達はちゃんと自分の目的の為に動いている。それは、あいつらも同じことだ。」
胡座を組み直して、淡々と小川は言った。
そうだ、自分達は殺しに行くんじゃない。
どうにもならないと誰もが思い込んでいること、出来っこないと決め付けていることを、どうにかなるんだ、出来るんだと見せつけてやるために戦に出るのだ。
「それにさ、俺等、武田にも上杉にも世話になってんだ。一宿一飯の恩くらい返したいだろ。」
「一じゃすまんな、何宿でもしとるし。」
冗談めかして梅本が言い、北も笑いながら答える。
そんな彼等を、謙信は目を丸くして見ていた。
「……驚きました。此度のこと、やはり軒猿より直接私の口から言わねばならないと思い、そなた達をここに呼び寄せた次第ですが……。私が言うより先に、そなた達は既に心を決めておりましたか。」
やがて、感嘆の溜め息と共に謙信はそう言った。
「……そんな大層なもんでもない。ただ単に、自己中心的なだけだ。」
ふん、とそっぽを向いて、小川は居心地が悪そうに言い捨てた。
「自己中心的、ですか。私にはあまりそうは見えませんよ?」
口元を袖で隠して、謙信は淑やかに微笑んだ。
さて、真面目な話はもう終わり。
「さて……こうも早くこの話に決まりがつくとは思いませんでしたね。お二人には悪いことをしました。」
「謝ることあらへんよ、一昔前は平気で夜更かししとったしな。」
眉を下げ、申し訳ないと謝る謙信の肩をポンポンと北は叩いた。
「……むしろ俺はお前に是非とも謝ってほしいな。」
さっきの起こし方とか何かもう色々、という小川の呟きを、北は明後日の方向を向いて無視した。
~side甲斐~
日が過ぎ、次第に騒がしくなっていく躑躅ヶ崎館。
そんな中で、甲斐の三人は何をしているのかというと。
「殿下ー!山椒の粉、調達できたぞ!」
「こっちも唐辛子を調達してきました。」
せっせと戦の為の下準備に精をだしていた。
梅本からメールを受け取った谷中は、嬉々として戦の「仕掛け」に応じた。
「いいねいいね~、山椒に唐辛子!後はこれをいい感じに調合して、目眩くスパイシーな世界が広がれば最高だよね~!」
うふっ、うふふふふ、と谷中は二つの袋をもみもみしながら怪しく笑う。
「でも……これ、私達は被らないようにしないといけませんね。」
布の切れ端を風で細かく操る練習をしつつ、山中は呟いた。
目潰しを自分達まで食らっていたら、それこそお笑いである。
「あとは、川中島の地形を知っとかないとなっ。」
「地図はまだかな?今日辺りに、現場周辺地図が出る筈なんだけど。」
木下の言葉に、やっと我に帰った谷中が顔を上げた。
第四回川中島の戦いでは、最終的に両軍は八幡原という場所で衝突する。
しかし三人は、戦場所がどのような所なのかを知らなかった。
どこに何があるのか、利用できそうなものはあるのか、それを知っておかねばならなかった。
「忍さんを脅し……こほん、お願いして、現場の下見に行ってもらってるんですよね。」
何やら物騒な言葉を咳払いで誤魔化し、山中は遅いですねと風をくるくると回した。
すると、小さな気配がして、天井からコンコンと音がする。
「お、噂をすればだな!お帰りー、八嶋の兄ちゃん!」
木下の楽しげな声を入室の合図に、板がコトリと動いて、旅人の姿に化けた忍の青年が降り立った。
「お疲れー。どうだった?いい感じに描けた?」
三人は膝を使って忍の青年、八嶋ににじり寄った。
「……このような感じで宜しいでしょうか?」
八嶋は懐から折り畳んだ紙を取り出し、広げてみせた。
「うん、キレイキレイ!流石忍だね!」
そこに描かれていたのは、上空からみた戦場の地図。
「おぉ~、スッゲー!」
「これならわかりやすいですね。」
正確に的確に描かれた地図に、木下と山中は感嘆の声を上げた。
「あの、山中様……例の件ですが、その……」
三人の満足そうな反応を見て、おずおずと八嶋は口を開いた。
「ああ、そうですね。ちゃんといいお仕事をしてくれましたので、「あの出来事」は私の記憶から抹消しておきますね。」
にっこりと山中は女神のような笑みを浮かべて言った。
顔は笑っているが、その裏側の表情は八嶋にとって物凄く恐ろしいものだろう。
「ほ、本当ですね!?本当に、忘れて下さるんですね!?」
八嶋の顔付きがガラッと変わり、必死な様子で山中に詰め寄った。
「約束は守りますよ。「あの話」は私が死ぬまで誰にも他言しません。」
「お願い致しますよ!!絶対ですからね!」
山中は眩しい笑顔を少しも崩さない。それに若干退き気味になりつつも、八嶋は何度も念を押して、逃げるように天井から出ていってしまった。
「……ミナちゃん、一体あの人の何をネタに揺すってたの?」
引き攣った顔で谷中が尋ねるが、彼女はニコニコと笑ったまま何も言おうとしなかった。
「ま、まぁ気を取り直してだ。作戦会議するんだろ?」
場を仕切り直すかのように、木下は手をぱんぱんと鳴らす。
これ以上聞かない方がよさそうだと判断した谷中は、素直に引き下がって地図に目をやった。
「史実だと、武田で使われた策は『啄木鳥の戦法』だったよね……ある意味有名な。」
「それを上杉 謙信が見破って、両軍がドンパチやり合った、っていう話だぞ。」
「たしか、上杉が最初に布陣したのが妻女山……あ、ここですね。そしてここには載っていませんが、武田は海津城に入ります。」
さぁ、ここからが未来を知る者達の見せ場だ。
三人は一体全体、どのような邪魔を・・・・・・いや戦い方を頭に思い描くのだろうか?
はーい、仕事も見つからないまま十月になりましたー!
おはこんにちばんわ、夜さんです。
いやー、やっと作戦を練るところまでやってきました!
ここからがめんど・・・・ごほん、難しいところですよね。
よくわかる戦国時代っていう本片手に、あーだのこーだの考えてます。
そして、多分「いや、駄目だろお前」っていうような作戦が出てきます。
ええ、ホントに。
ところで、「異世界戦国大乱記 短編集」ってのに短編纏めました。
なのでお気に入り登録&評価お願いします。
そして短編の量増えました。
で、十月三十一日ハロウィンに向けてハロウィン短編制作中だったりします。
ハロウィン当日にうp出来るといいのになー、そーだったらいいのになー・・・・・。
じゃ、さいならーさいならー。