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三十三の噺「こっちも決めよう、大事なこと!」

~side越後~


「成程な……あ~、にしてもどうすんだよ。」

「……味方が一人、増えたのはいいとして。」

「参戦するって、謙信さんにも伝えんとあかんわな。」


 甲斐の三人から届いた、戦に出るという決意表明メールを読み、越後の三人はボケーッと午後のお茶を飲みながらそれぞれ呟いた。

 ついさっきまで、鍛練という名の忍いじめをして遊んでいたところだ。

 まぁこれには理由がちゃんとある。

 軒猿、という上杉の忍隊、三人が上杉の重要な秘密を握ったことを知った兼続に命じられて、昼夜問わず三人に張り付いているのだが……如何せんTPOがお粗末なのがいただけない。


「トイレや風呂や着替える時までくっつかれたら、流石にキレるよな。」


 梅本の言葉に、二人は何度も頷いた。

 まずは地国天と陽炎丸が忍の潜む壁or天井をぶち破り、凪鮫が彼等を叩きのめすか水に叩き込む。

 誤解してほしくない、これは最終手段だったのだ。


「……何度も止めろ、程々にしろと言ってやったのにな。」

「まぁ死んでへんからええやん。」


 ズズッ、と年寄り臭く茶を啜り、小川と北はヘッと笑った。

 現在、この部屋の付近には、忍っ子一人存在しない。

 全員直ぐ様見つけ出され、いじくりまわされ、完膚なきまでにブッ飛ばされ、泣きながら逃げ帰っていったのだ。

 とりあえず、ナニをどうされたのかは、忍達があんまり可哀想なので察してやってほしい。


「アレやな、灰と山椒の粉末は忍でも効くな。」

「……お前、二度と室内で使うなよ。」


 一体何をやらかしたのか、北の納得したような口振りに、梅本は胃に当たる部分を押さえて呻き、小川は心底嫌そうな声で釘を刺した。

 さて、こちらも決めようじゃないか。


「向こうが出るなら、こっちも出ないとなぁ。」


 湯飲みを置き、コロンと梅本は仰向けにひっくり返った。


「一応、上杉にも参戦してくれと言われてるしな。だが、色々と知った後になると、請われたから戦に出たという理由だけじゃ、少し気が悪い。」


 甲斐の三人の考えは、メールにもしっかり書いてあった。


「参戦の理由は十分あるんやけど……問題は戦そのものやな。桶狭間んときと違って、今回は武器もあるし能力だって強なった。人ぐらいあっさり殺せるで。」


 心配の種はそれだ。人を殺すつもりで戦うのは簡単、だが人を殺さないつもりで戦うのはどうも難しい。

 どうしたもんか、と頭を悩ませるが、ふと先程の忍いじめのことを思い出した。

 あらかじめ仕込みを行っておく、というのはどうだろう。

 兵士や武将も、皮を剥いでしまえばタダの人間である。鍛え上げられた肉体がどうのとご託を並べあげても、弱点は必ずある。


「こりゃ、ウチの悪戯帝王様にご提案だな。」


 ニマッと笑って、梅本は携帯を開いた。素早く打ち込み、送信完了。


「……弱らせれば大丈夫そうだな。それに、いつぞや盗賊とやりあったときのように戦えば、なんとかなるか。」

「力加減さえ間違わへんかったら、多少の怪我くらい平気やわな。」


 小川と北は、そう結論付けて立ち上がった。

 相変わらずのテキトーさだ。


「さて、と。それじゃあ謙信様に、遅くなった参戦のお返事を伝えに行くか。」


 三人はのほほんとした顔付きのまま、謙信の元へと向かった。








~謙信の部屋~


「失礼します、小川です。」

「入れ。」


 短い返事を聞き、三人はそっと謙信の部屋に入った。

 謙信の座る机の前には沢山の書簡があり、お仕事中だったようだ。


「すんません、俺等出直した方がいいですか?」


 それを見て、梅本は少しバツが悪そうに言った。


「いや、構わんよ。今、一段落ついたところなのだ。」


 散らかっているがな、と困ったように謙信は微笑み、申し訳なさそうに足の踏み場を作り出した。


「……手伝ったほうが、よさそうですね。」


 至るところに、何かよくわからない色々が置いてあり、ぶっちゃけとても座れたもんじゃない。

 小川はそう呟くと、あちこちに散らばる書簡をまとめ始めた。それに、残る二人も加わる。

 程なくして、なんとか小さなスペースを作り上げ、ちょっと一息。


「ぎょーさんあったなぁ……何や、仕事でも溜めとったんか?」


 ちょこんとそこに座り、北は平積みにされた書簡だかなんだかを見回した。


「そろそろ忙しくなってくる頃だ。終わらせておける仕事は今片付けておこうと思ってな。」


 忙しくなる、という言葉の意味を、三人は間違うことなく捕えた。


「……戦の話ですが、答えを持ってきました。」


 小川がそう口を開けば、謙信は少しだけ驚きに目を見開いた後、表情をキリッと引き締めた。


「そうか、長い間悩ませてしまったが……。」


 一度座り直し、謙信は話を聞く体勢に入る。


「遅くなりましたが、俺達は戦に出たいと思います。」


 小川があっさりと告げると、謙信は微かに目を見開いた。


「何か不都合でもありますか?」


 眉を寄せて、梅本は怪訝そうな表情をつくった。

 それに、謙信はいや、と首を振る。


「最初、この話を持ちかけたときはえらく困っていたように見えていたのでな。今が随分とあっさりしているような……」


 三人はへらりと苦笑した。

 そりゃ、甲斐とのタッグがあるからだ。


「嫌やな、本来これが目的であたしらのこと拐ってきたんちゃうんか?」


 ニヤーッと意地の悪い笑い方をして、北は謙信を眺めた。


「……それを言われると、少々耳が痛いな。」

「おい、それはこの人のせいじゃないだろ。」


 申し訳なさそうに俯いてしまう謙信を見て、梅本はフォローを入れた。

 事実、あれは兼続の独断で、謙信が命じたものではない。


「とにもかくにも、礼は言わねばならないな。感謝する、六武衆の方々。」


 謙信は三人の方をしっかりと見ると、軽く頭を下げた。


「大将になる人が、簡単に頭なんか下げていいんですか?」


 苦笑を浮かべて梅本が問えば、彼はニヤッと笑って言った。 


「何、今は私しかいない。越後の龍も一皮剥けばただの人間……そなた達の前では、私は一人の人間なのだろう?」


 北に笑みを含んだ目を向け、皆でくつくつと笑いあった。


「何や、覚えとったんか。」

「中々響いた言葉だったのでな。」


 北との会話が終わるのを待ち、今度は梅本が付け加える。


「ただし、条件があるんですよ。」

「条件、か?」


 梅本はしばらく間を空け、一つ息を吸い込み、おもむろに口を開くと。


「俺等を、自由に動かせてくれませんか。」


 甲斐の三人と同じ願いを、申し出てみた。


「あたしら、あれこれ命令されんの嫌いやねん。せやから、戦んときは自由にさせてほしいんよ。」


 きょとん、とした顔で自分達をみる謙信。さて、このお願いは無事に通るのだろうか?


「わかった。そなた達の希望通りにしよう。」


 いや、それ無理。と答えられたらどうしようと身構えていたが、さらっとOKが貰えて拍子抜けする。


「……マジですか?」

「まじ?」

「……本当ですか?」


 思わず出た現代の言葉を何食わぬ顔で言い直し、小川は確認をとる。


「全ては毘沙門天の導きのままに。どうしてそれを疑えようか。」


 胸の前でそっと合掌し、謙信はニコリと微笑んだ。


「あー……何かよくわかんないですけど。」


 これは自分達もやっといたほうがいいのか、と梅本に続き、二人も微妙な表情ながら手を合わせる。

 ハタから見れば、ちょっと変な光景だ。


「失礼しま………何をやっておられるのです?」

「あ、うさみー。」


 スッと空いた襖から顔を覗かせた定満は、それを見て無意識につっこんでしまった。


「ちなみにうさみー、とは?」

「……宇佐美からとった呼び名ですね。」

「ウサミミよかマシだな。」


 真顔で言い合う小川と梅本。それにどう反応したものか、若干困った顔の定満。

 堪らず謙信は吹き出し、腹と口元を押さえて笑いだした。


「……殿?」


 笑われてますます情けない顔をする定満に、ちょっとタンマとばかりに謙信は掌を突き出した。


「いや……すまん、定満……!うさみーなど……あんまり愛らしい、呼び名だったので……つい……!」


 ハー、と息を吐き出し、謙信は無理矢理笑いを押し込めた。


「……もううさみーなり何なり、お好きにお呼びになってください。私は気にしませんので!」


 珍しく投げやりな口調で、定満は出来上がったのであろう書簡の束を抱えた。


「大変やなぁ、うさみーも。」

「原因の方が何を言いますか。」


 ジロッと定満は北を睨み付け、やれやれと言わんがばかりに部屋を出ていってしまった。


「ちなみに、兼続は?」


 何やら期待に満ちた目で謙信が尋ねる。北は暫しの間考え、ポツリと一言。


「カネゴン……とか。」


 小川と梅本の脳裏に、カエルとカタツムリを掛け合わせたような怪獣の顔が浮かび、ブハッと息を吐き出した。


「カネゴン……ぷ、くくくくくっ……!」


 謙信は謙信で、奇妙な文字の響きに再び笑いの波が押し寄せる。

 一頻り笑って、痛くなった腹を擦り三人は立ち上がった。


「どこへ?」


 そう尋ねる謙信に、肩を回しながら北は言った。


「ちょっと鍛練や。戦に出るって決めたぶん、強おなっとかんとあかんしな。」


 思えば正式な初陣なのだ。本番でヘマをしないように、出来る限りのことはしておかなくてはいけない。


「では、兼……いや、カネゴンにでも手合わせを頼むといいだろう。恐らく、一人で鍛練場にいるだろうから。」


 悪戯っぽく謙信は微笑み、鍛練場の方を指差した。

 三人は楽しげに頷くと、一つ礼をして部屋を出ていった。


「……殿。」


 それを見送った後、謙信の前に一人の忍が降り立つ。


「兼続から聞いた。あの者達に随分とやられたようだな。」


 からかうような謙信の声に、忍はガックリと項垂れる。


「お恥ずかしい限りです。」


 彼も被害者の一人だろう、陰鬱とした声でポツリと言った。 


「フフ……まぁそう気を落とすな。して、武田の動きは?」

「躑躅ヶ崎館内が少しずつ慌ただしくなってきております。それに、上田の知将、真田 昌幸が参上いたしました。」


 真田の名を聞き、謙信の口元がふわりと弧を描く。


「やはり来たか。表裏比興の者……」


 忍はその様子を見、それから、と言い辛そうに報告を続けた。


「これはまだ断言は出来ませぬが、甲斐にいる六武衆の三人も…戦に加わるとか。」


 謙信の目が険しさを帯び、みるみるうちに尖った。


「恐らく……それは断言していいだろう。」

「わかりました。」


 謙信のきっぱりした返事に、忍は同意を示す。

 そして、すぐに顔を曇らせてしまった自分の主に、気遣うような視線を向けた。


「……彼等は、そのことを知っているのだろうか。」


 少し沈んだ謙信の声に、忍は自分が出来ることを口にしてみる。


「……よろしければ、私が伝えておきますが。」


 謙信はそうしてくれと言うと、忍は小さく頷き姿を消した。

 それを見送り、謙信は溜め息をつく。


「……予想していたこととはいえ、やはり躊躇いを隠せぬ。毘沙門天よ、これでよかったのでしょうか。」


 複雑な感情が滲む問い掛けに答える者は、この場にはいない。


はい、どうも皆さんおはこんにちばんわ。

越後の三人も参戦決定です。

何かもう秋ですね~、朝晩のさっむいことさっむいこと。

風邪ひかないようにしないといけませんね。

ではまた次回。


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