三十二の噺 「ラブストーリは突然に、ピンチだって突然に。」
スッと襖が開かれ、三人は飛び上がりそうになった。
木下や谷中に至っては、神器を喚び出して身構えている。
「待った待った!おれだよ、マッキーだ!」
今にも強烈な一撃を喰らわされそうな状況に、慌てて昌幸は両手を挙げて部屋に入ってきた。
「……いつから聞いていたんです?」
神器をしまわず、木下と谷中は昌幸をいつでも攻撃できるように取り囲む。
山中はそれを見ながら、静かに口を開いた。表情、声共に、とんでもなく冷たい。
「あー……謙信殿のことをどう思う、ってとこうがっ!!?」
「ほとんど最初からじゃねーかよッ!!!人間なら、自分の言ったことに責任持てよッ!!!」
ガンッ、とすかさず影蜈蛸が昌幸の頭をぶん殴った。頭を押さえて呻く昌幸。
「い、いきなり殴んないでくれ…!」
「ふざけたこと言ってんじゃないよ、マッキー。盗み聞きは好かんとかカッコつけといて、何をあっさりやっちゃってんのさ。」
バチッ、と谷中の持つ電王に電気が走る。にしてもおかしい。
自分達は、気配を消している筈の忍でさえも見つけられた筈だ。なのに、何故わからなかったのだろう。
「そ、それは謝る!ちょいと気になっちまってなァ、神器でちょこっと。」
「神器で盗み聞き?方法をお聞きしても?」
ジロリと山中が昌幸を睨み付けて、彼に詰め寄る。
昌幸はバツが悪そうに両手を出すと、そこに白い光が集まり、弾け飛ぶ。現れたのは、肘の辺りまでを覆うガントレットのようなもの。先程みた光と同じ色をしており、ガッチリとした丈夫そうな造りだ。各指の付け根にあたる部分には、小さな突起物がそれぞれついている。
「光糸・白蜘蛛……まぁ、糸でおれは戦うんだがね……」
「ああ、大体わかりました。」
深々と溜め息を吐いて、山中は腕を組む。
「糸って、音を伝えるもんね。」
「糸電話の応用編たなッ。」
三人はジリジリ、と昌幸を囲む距離を縮めていく。
どうする?人の口に戸は立てられぬと言うが、今まさに三人の心中はそれだった。
先程の会話だけでは、詳しいことはわからないだろう。だが、確実に自分達が戦に関わることについて、何かを企んでいることだけはわかる筈だ。
「あー、何だ……その……」
口ごもる昌幸に、三人はササッとアイコンタクトを取り合った。
「知りたそうな顔ですね?」
山中がそう言えば、昌幸は居心地悪そうに視線を逸らした。
その目に、明らかな好奇心の色が見え隠れしているのを、彼女は見抜いていた。
元々山中は、他人の顔色や感情を読み取るのが上手い。
「罪悪感があるときは、表裏比興というわけにはいきませんか。」
昌幸はやれやれと肩をすくめると、次には表情を一変させた。
赤銅の瞳は鋭く細められ、能面のような無表情になる。
「勝手に話を聞いたことは、謝る。だがな……聞いちまった以上、おれァお前達に聞かなきゃなんねェんだよ。何を企んでやがる、ってなァ。」
三人は頭を抱えて叫びたくなった。ああ、もうややこしい!
真っ先にそんな気持ちを口に出したのは、木下だった。
「もうヤダ!お前めんどくさいッ!!!何だよこの変態野郎!お前ホントめんどくさいマジで存在自体めんどくさい!!!」
「いきなりおれの存在全否定かい。」
ビッシィと昌幸を指差し、木下は憎々しげに叫ぶ。そして残る二人も。
「ほんっと最悪……いい年してんだから、空気読めよって感じだね。」
「最悪で最低ですね。挙げ句の果てには脅すとか、人間の風上におけないです。」
どよーんとした空気を背負い、シラーッとした目で眺められる。
あれ、何これ?おれ今コイツらを尋問してるんだよね?
何やら自分が凄く悪い奴、もしくはどうしようもない奴のような扱いをされて、昌幸はちょっと毒気を抜かれた。
「……おれァ、一体どうすりゃいいんだ?」
思わずそう呟いてしまった。
そうこうしてる間に、三人は額を寄せて話し込む。
「どうする、話す?」
「テキトーに話しても見抜かれそうですよね。」
「とりあえず核心の核心はハズして言えばいいんじゃね?」
仕方ない、そうしよう。三人はコクリと頷いた。
やけにあっさりしているが、彼女等の勘が多分大丈夫だと告げている。さしずめ「囁くのよ、私のゴーストが」と言ったところか?
「マッキー、今から話すこと、聞いてくれる?」
後は好きにしていいから、という谷中の言葉に、昌幸は何ともいえない表情を作った。
「あのね、僕達は、この戦をいい方向に向かせようとしてるんだ。」
「いい方向、だと?」
昌幸は一瞬、虚を突かれたように目を見開いたが、すぐに嘲笑うかの如く、口元を歪ませた。
「戦に、良いも悪いもあるのかい?馬鹿げたこと言っちゃ」
「そんなもん、あるわけないだろッ。」
彼の言葉を遮って、木下がきょとん、とした顔で言った。
「どんな理由があったって、喧嘩や戦争や小競り合いはよくないことだぞ。けどさ、起きちゃったもんは仕方ないよな。」
話の辻褄が全然あってない。
「でも、その中で上手く動けば……起こらなくていいことを回避できる。逆に、起こってほしいことを起こすことが出来るぞッ!!!」
意味がわからない。何が言いたいんだコイツ。
「要するに、私達は武田と上杉に、「戦って欲しいけど戦って欲しくない」気持ちを持ってるんです。」
山中の言うことも、昌幸には余りにも曖昧過ぎてわからなかった。
「さっぱりだ。おれにも解るように言ってくれ。アレかい、上杉に拐われたお前達の仲間も関係してるのかい?」
困惑したように眉根を寄せ、昌幸はそう言った。
「それもそうだけど。でもさ、よく考えてみてよ……越後の三人は、謙信様のとこで世話になってるでしょ。僕達はお館様のとこで世話になってるよね。恩義がある人同士が戦い合うの、見てて気分いいと思う?」
肩をすくませて、谷中は溜め息交じりに言った。
「……これァ戦だぞ。そこんとこ、わかって口きいてんのかい。」
格段に低くなった昌幸の声に、怯むことなく三人は頷いてみせた。
彼は頭が痛むのか、額を手で押さえた。正直、ふざけるなと言いたい。お前達戦をナメてんのか、とも言いたい。
「で、お前達はどうしようって算段なんだい?」
そんな気持ちを抑え込んで、昌幸は質問を続ける。
「だからな、戦はしてもいいけど、潰し合いはしてほしくないから、今どうしようか考えてんだ。」
腕を組み、神妙な顔で木下は言う。
つまり、『戦うこと』と『殺すこと』とは別物という考え方をしているのか。
「要するに、お前達は双方に害がないようにしたいってことか。そいつァスゲェ。」
未だ、昌幸の嘲るような表情は消えることはない。
その様子に、やれやれと三人は溜め息をつく。
最も、最初から理解を得ようなどとは思っちゃいなかったが……。
「あのさぁ、何でそんなに意固地なの。僕達のやろうとしてることって、悪いこと?そんなに間違ってる?」
あまりの頑なさに、若干疲れ気味の谷中。
「善か悪かで言えば、間違っちゃァいないな。けどな、武士としては間違ってる。」
そんな昌幸に、すかさず山中が言い返す。
「武士よりも何よりも、私達は人間です。人の道に反してまで、私達は戦をしたいと思わない。人道に比べれば、武士道なぞ大したものじゃありません!!」
「じゃあ何故戦に出るんだ!?何故武器をとる!?お前達の志は何なんだ!?」
鞭打つような怒声が昌幸からあがるが、それでも怯まずに木下は喰い付いた。
「お前等、志がなけりゃ何にもできないのかよッ!!!オレ達はやりたいからやるんだ!!自分が正しいと思ったようになッ!!!」
自分達現代の人間と、戦国の人間の考え方が途方もなく違っているのは認めよう。
だが現代人には現代人としての意地や信念がある。暫し昌幸と三人は睨み合い、目には見えない火花を散らした。
やがて昌幸の方から目を伏せ、額を手で覆った。
「……本気なんだな。」
その手の下から、低い問いかけが流れる。
三人は静かに頷き、次の言葉を待った。重苦しい沈黙が続き、やがて。
「ああ、畜生!わかったよ、勝手にしな。」
今までの中で一番大きな溜め息を洩らし、昌幸はやけくそだと言わんがばかりにその場に座り込んだ。
「いいんですか?私達は、戦を邪魔しようとしているんですよ?」
少し困惑したように、山中は彼の顔を覗き込む。
「両軍に被害は出ないんだろ?なら好きに動けばいい……何だ、認めてほしくないのかい?」
三人は慌てて首を振った。
しかし、さっきまであんなに反対していたのに……これは一体どうしたことか。
三人の表情を見て、昌幸は続けた。
「もう腹決めちまった奴相手に、何を言おうと無断だろォが。それになァ、悔しいがお前達なら大丈夫なんじゃないかって、頭のどこかで思うおれがいるんだよ。不思議なことになァ……」
自分でも、腑に落ちないと言いたげな昌幸。
「にしても、話に聞いた通りの曲者揃いだねぇ。おれ達「武士」って存在を、こうもきっぱり否定されるたァ思わなかったぜ。」
彼はゆるりと口元に苦笑を浮かばせた。
今まで、自分は幾多の人間を見てきたが、彼等は逸そ馬鹿馬鹿しいまでに真っ直ぐな物の考え方をする。
恩義があるから戦ってほしくない、だから戦をどうにかしたい。
自分に何か徳かあるわけでもなし、何かの野望を抱えているわけでもなし。
「で、おれは何をすればいいんだい?」
「「「は?」」」
しみじみした表情を消し去り、昌幸はキラキラした目で三人ににじりよった。
「何をって……何を?」
谷中の唖然とした顔に、彼はにんまりと笑いかけた。ああ、嫌な予感……。
「何ボケた面してるんだ?お前達の企み事に、おれも入れろって意味さ。見張りも兼ねてるが、たった三人だけで仕掛けようってェのは、些か無理があると思わねぇかい?」
「……マッキーさ、結構騒ぎを起こすの好きだろ?」
決して善人面とは言えない笑顔を見ながら、木下は呆れた顔で言った。
さて、何やら思わぬ協力者が現れたのはいいのだが、果たして昌幸をあっさりと信用しても大丈夫なんだろうか?三人は首を捻って考えた。
「マッキーさん。私達は貴殿方と違って、策略を巡らせる頭もありませんし、相手の本質を見抜くことも素人です。ですから、貴方がもしこの件について何か別のことをお考えになっていても、それを知ることは出来ません。協力者として、貴方を信用するしかないんです………この意味、お分かりいただけますよね?」
そう言う山中の声は、どこか困ったような様子だった。
そうだ。自分達は、戦のプロである彼等とは真逆の生活を送ってきた人間。もし裏切られても、どう対処すればいいのかわからない。
「……おれの要望は二つだけさ。一つ、両軍はともかく、武田が不利になるような動きだけは絶対すんな。二つ、隠くしごとたァ感心しねぇぞ。以上だ……これだけできたら、おれァお前達に力を貸すよ。」
昌幸の言葉に、がっくり項垂れる。何で隠し事があるってばれたんだ。
つまりは、最初から話せとそう言いたいんだな。
「……わかったよ。全部教えてあげる。」
谷中は深々と息を吐き出し、今自分達が知る全てのことを、昌幸に語り始めた。
~数十分後~
「………こいつァ驚きだ。」
「だよなー。オレもびっくりしっぱなしだったぞッ。」
とりあえず全部話し終えると、昌幸はその細い目を真ん丸にしてみせた。それに、木下がうんうんと同意する。
「というか、どうやってその話を聞いたんだい?出所は勿論、越後に拐われたお前達の仲間なんだろ?ここから越後ったら……」
「あはは~、だってほら、僕達『六武衆』だし?」
「……そういうことにしといてやるよ。」
谷中のワザとらしい言い方に、昌幸はジト目で言い返した。
「わかっているとは思いますが、くれぐれも秘密にして下さいよ。」
険しい顔で念を押す山中に、昌幸はこくこくと頷いてみせるが、何だろうこれでよかったのか?と思わざるをえない。
「しっかし、何ともたまげた話だよ。あの軍神が実は女で、ウチのお館様にホの字たぁな。で、お前達は川中島の戦を利用して、両軍の大将同士に話をさせようって魂胆だ。上手くいけば武田と上杉にゃ太い繋がりができる……そんなことは前代未聞、成功すれば天変地異でもおこるんじゃないのかい。」
そう言いながらも、昌幸の顔は楽しみで仕方がないというようにニヤニヤしている。
「マッキー、何でそんなにわくわくしてんだ?変わり身早いな。」
木下が問えば、昌幸は嬉々として答える。
「わくわくもするさ。考えてもみな、とんでもなく突拍子もない計画なんだぞ。それを、たった四人でやろうってんだ。楽しくもなるだろうが。」
「そーいうモンなのか……?」
きょとんとする木下の頭を撫でて、昌幸は谷中と山中を見る。
「ま、表の動きはおれに任せときな。お前達は策が決まったら、なるべく早くおれに教えるんだぜ。じゃあな。」
よっこらせ、と昌幸は立ち上がると、三人が止める間もなく、するりと部屋を出ていってしまった。
「ミナちゃん、大丈夫かな?」
心配そうな谷中の声に、山中は微妙な顔で肩をすくめた。
「わかりません。ですが、多分他言はしないかと……。」
全く、本当に表裏比興という表現がぴったりな奴だ。二人がやれやれと溜め息をついていると、木下があっけらかんとした調子で言った。
「ま、いいんじゃねーの?何とかなるぞ、絶対。マッキー、色々考えてるだけでさ、変なことはしないと思うぞッ!!」
勘だけどな、と呑気に笑う木下に、二人はもう一度、溜め息をついた。
九月です。うおぉ、もうこんな季節ですか!?
皆さんこんにちは、夜です。
えー、ハイ・・・・・取りあえず昌幸パパを引きずり込んでみました。
うーん、戦の心構え?をつらつらと考えるのは実に難しいですな。
悩みまくった結果がこれです、キャッホーイお粗末だー。
理屈ってメンドクセー!
えー、次は越後でのスタートですよっと。
あ、もうじきしたらキャラ設定があがる・・・・・・かもしれません。
今更?今更ですよ。
まぁそういうワケで次回もこうご期待!
そうそう、活動報告?っぽいの始めました。
皆様よければコメント残して下さいまし、すっげぇ喜びますんで。