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三十一の噺「君の本心は五里霧中!?」

 昌幸に手招きされ、三人はおずおずと中に入り、少し離れたところに座る。すると。


「ここだよここ。ここに座んなよ、そんな他人行儀な。」

「いや、僕達めちゃくちゃ他人だし。」


 ぺんぺんと自分の隣を叩いて言う昌幸に、すかさず谷中が突っ込んだ。


「手厳しいなァ。ほれ、饅頭やるからこっち来なよ。」

「饅頭!?」


 ぴくっと木下が反応した。どこから取り出したのか、昌幸は饅頭をひらひらと振ってみせる。


「ほーれ、饅頭専門店、望月屋名物の望月饅頭だ。うーまいぞォ~」

「食べるッ!!マッキー、それ食べるぞッ!!!」


 目の色を変えて、木下は昌幸に飛び付いた。まるで犬だ。


「………お手。」


 ぽすっ、と木下の手が昌幸の手に乗る。


「おかわり。」


 これもまた、反対の手が乗る。


「顎。」


 顎が乗り、堪らず昌幸は吹き出した。


「……よし……!」

 

 震える声でOKを出すと、木下はがぶっと饅頭にワニの如く食らい付いた。それを見て、踞り笑い出す昌幸。


「うぅまああぁ!!これちょー美味い!!!」

「……よかったですね。」

「ていうか、マッキーって何。」


 饅頭の美味さに吼える木下を、溜め息を吐きながら山中と谷中は眺めた。


「……し、死ぬ…笑い死ぬ……!」


 ひくひく痙攣する昌幸は、ゼーゼー言いながら起き上がった。


「何かすみません。チロちゃん、食べ物には見境ナシなもんで。」

「そのようだなァ。ちなみにマッキーたぁ、おれのことかい?」


 谷中が頷き、山中が付け加えた。


「昌幸、でマッキーですね。あ、申し訳ありません!失礼なことを!」


 しかし、昌幸はいやいやと首を横に振った。


「ははっ、構わんよ。しかしマッキーか……なかなか粋な呼び名だなァ。」


 何がどう粋なのか教えてもらいたい。


「なぁなぁ、マッキー。やっぱ戦するから、ここまで来たのか?」


 饅頭を食べ終えた木下は、首を傾げながら問い掛けた。


「あー、そうだな。普段は上田の城で寝てんだよ。」

「仕事して下さい。」


 山中の呟きに、昌幸はへらへらと笑って答えた。


「いいんだよ、信と幸がやってくれっから。」

「のぶ?ゆき?」


 大体わかってはいるが、一応聞いてみる。


「おれの息子達だ。かーわいいんだぞォ、信幸と幸村つってなァ。」


 たちまち顔を緩め、昌幸は嬉しげに語り出す。ここから彼の息子自慢が続くのかと思いきや。


「む?何じゃ、お主等来ておったのか。」


 スッと戸を開け、部屋の主信玄が登場した。


「早速仲良くなったようだの。昌幸、この者達は面白いだろう。」

「ええ、そりゃもう。いいもん見つけましたね、お館様。」


 昌幸の言葉に、信玄は満足そうに頷きながら何やら文机の周囲をごそごそと漁っている。何かを探しているのか?


「お館様、何をお探しなんですか?」


 次第にあちこちをひっくり返し始める信玄に、目を白黒させて山中は尋ねた。


「……ない。」

「何が?」


 信玄の発した低い呟きに、三人は顔を見合わせた。


「お、おやつにとっておいた、儂の望月饅頭が……ない!」


 悲痛な声で叫ぶ信玄、それに木下の顔が引き攣る。


「……オレ、食べちゃったぞ……!」


 呆然と言う木下。


「謀ったな!マッキー謀ったな!!?」


 その後、我に還って彼女は昌幸に掴みかかった。


「おや、あれァお館様のおやつだったのか。悪いねェお館様、木下嬢に喰わせちまったよ。」


 白々しい口調で昌幸は言い、片手で木下の頭を撫でながら引き剥がす。


「まーさーゆーきいいいぃぃ!!!またやりおったなあ!?儂のおやつ返せ!!!」

「嫌ですねェ、御油断めされるなとあれほど言ってるのに。これが戦場なら、お館様はコレですよコレ。」


 ギャーギャー喚く信玄に、昌幸は水平にした手を首の前で横に動かしてみせる。


「それとこれとは関係ないだろうが!!あの饅頭買うのにどれだけ時間かかったと思うておる!?」

「さーあ?いいじゃないですかァ、饅頭の一個や二個ぐらい。」


 黙っていたら延々とこの不毛なやり取りが続きそうなので、そろそろストップをかける。


「はいはい、やめやめ。いつまでやってんのさ!」


 睨み合う両者の間に、谷中が割って入る。


「ごめんな、お館様。オレ、あの饅頭がお館様のおやつだって知らなかったんだ。」


 申し訳なさそうな表情で、木下はペコペコ頭を下げた。楽しみにしていたおやつを誰かに食われる程、悲しいことはない。


「いや、木下殿のせいではない。悪いのは全てコヤツ!」


 信玄は憎々しげに昌幸を見るが、本人は何処吹く風。


「まぁ、お饅頭はまた買いに行くとして。お館様、少しお話があるのですが……お時間よろしいですか?」


 山中がそう切り出せば、信玄は僅かながらギョッとした顔をする。余程あの芋虫攻撃が堪えたんだろう。


「少し個人的な話になります。つきましては昌幸様には退出をお願いしたいのですが……」

「ん?ああ、別に構わんよ。」


 昌幸からあっさり出たOKに、山中は些か驚きを見せた。


「なァにびっくりしてんだい、山中嬢。おれが素直に下がるのが、そんなに不思議かい。」


 よっこらせ、と立ち上がりながら、昌幸はやっぱりチェシャ猫のような顔で笑っている。


「……そうですね、不思議です。」


 彼女の言葉を聞き、昌幸は軽く息を吐く。


「他人様の重要そうな話に聞き耳をたてるなんて真似、おれは好かんだけさ。時が経ちゃあ、わかるんだしな。」


 羽織の裾をぱさりと翻し、昌幸はすたすたと部屋を出ていった。襖を閉める間際に、ごゆっくり、という言葉を残して。

 それを見送り、山中は静かに口を開いた。


「随分と変わった方ですね。」

「変わったを通り越しとるわ!!」


 憤慨した口調で、信玄は鼻息も荒くドカッと腰を下ろした。


「で、何の話をしに来た?」


 昌幸のせいで、外れに外れた話にやっとメスを入れることができる。


「重要な話、というわけではないのですが……お館様の口から、上杉 謙信がどのようなお人なのかを直に知りたく思いまして。」


 山中の申し出に、信玄は不思議そうな顔をする。


「何故そのようなことを聞きたがる?」

「敵を知るって、大事なことなんでしょ。僕達に態々越後まで行けっていうの?」


 呆れたように谷中が言い、隣に座る木下もそれに続けと口を開く。


「オレ達、戦に出るって決めたんだ。だから相手のこと、よく知らないといけないんだぞッ!」


 信玄はまじまじと三人を眺めた。以前に芋虫を持って、自分を脅しにきたときとは違い、何処となく真剣な面持ちだ。何かを決意したときに見せる、真摯な眼差し。

 それが一体何なのか、信玄には見当がつかないが、彼はその目が嫌いではなかった。


「ふむ、まぁ別に構わんが……。」

「お館様や謙信様程の人が、話さなくちゃお互いのことなんてわからない、なんて軟派なこと言わないよね?」


 少しばかり挑発するように谷中が言えば、信玄はふん、と鼻で笑った。


「当たり前のことを聞くでないわ。儂と彼奴を誰と思うておる。刃を交えれば、大概のことはわかるものよ。」


 三人はふんふんと頷き、信玄の話を聞く体勢に入る。


「それでは、お聞きしてもいいですよね。謙信様のこと、どう思ってらっしゃるんですか?」


 山中のストレートな問いかけに、二人は思わず声が出そうになった。


(ミナちゃん、せめてオブラートに包んでくれ……)


 二人とも、こう思った。聞きようによっちゃ、何か違う意味に捉えてしまわなくもない。


「ちょ、直球な問いだの……む~、こうもすぱっと聞かれたら、何やら答えにくい……」


 暫し腕を組み、信玄は考え込む。そして。


「刃を交えることが、あれほど楽しいと思うた相手は彼奴が初めてだ。今まで名だたる将と戦うてきたが、彼奴は……上杉 謙信は別格。」


 戦に関しての内容は、想定内の返答だ。


「つまり、謙信殿はお館様の中で『特別』なんだね。うーん、仲良くなったら、凄い組み合わせになりそうだなぁ……」


 龍虎のタッグ、是非とも見てみたいものだ。

 谷中の言葉に、信玄はふっと微笑みを溢した。


「確かに……もしそのようなことがあれば、共に酒を酌み交わしてみたいものだ。前言撤回になってしまうが、戦いの中ではわからぬことも、杯が交わることでわかるかもしれんな。」


 三人は気付かないが、そう言う信玄の眼に、何か言い知れぬ感情が宿っていた。


「そう思っても、やんないんだな?」


 木下はじっと信玄を見つめ、そう言った。


「木下殿。儂等は武人、そしてこれは戦。左様なことは、決してあり得ぬことだ。儂等は敵同士……相容れぬ者。」


 厳しい顔で信玄は言い、三人は小さな溜め息をついた。成程、やはり武将。


「よくわかりました。お館様、ありがとうございます。」


 山中はぺこりと頭を下げ、二人も後に続く。


「む?これだけでいいのか?儂はあまり話していないと思うのだが。」

「そんなことないぞッ!お館様、色々教えてくれてありがとな!」


 ニッと笑う木下に、信玄は若干首を傾げながらも三人を見送った。






「……どう思う?」


 部屋に戻ると、開口一番に谷中がそう聞く。


「ビミョーだな。はっきりしないんだぞ。」

「私も同じですね。」


 北も全く同じ理由で首を傾げているのを知るよしもなく、三人は頭を抱えた。あんまり突っ込んだことを聞いて、何かを企んでいるのかと疑われても困る。


「でもさ、好きか嫌いかでオレ達が判断すると……」

「「嫌いじゃない、(ですね)(よね)」」


 木下の言葉に、山中と谷中は声を揃えて言った。

 わかったのはこれくらいだが、もとより好きか嫌いかを判断するために話を聞きにいったのだ。これだけわかれば、後の細かいことを、ああだこうだと言い合う必要はない。

何故なら、めんどくさいから。


「まぁ、必要な事はわかりましたからいいでしょう。」

「なぁにがビミョーではっきりしなくて必要なことがわかったんだい?」


 いきなり響いた、三人以外の声。 目が驚きに見開かれ、ザッと全身が総毛立った。

 さて、この声の主は如何に……そして、どうするチーム・the甲斐。



今回は更新が早かったですね~。

こうやって更新の速度にバラつきが出てくるんですよね。

こんにちは、最近名前をちょこっと変えた夜です。

今回は武田側がメインでしたが、まだしばらくこれが続く・・・・・のかな?

ところでですね、最近ちょっと悩み事がありまして・・・・・やっぱり執筆は音楽を聞きながらが一番はかどるかと思うんですよ。

でね、自分の作品やキャラのイメージっぽい曲を聞きながらやるのがイチバンだと!

でもあんまり自分じゃ探しにくくてですね~(汗)

ですから皆様の意見をお聞かせ願いたく候、です。

お願いします、何でもいいです、何でも!

ではまた次回ッ!


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