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二十八の噺「ほら、どんな人でも苦手なモンは必ずあるワケで……」

~信玄の部屋~


武田 信玄は、いつになく真剣な表情で何事かを考え込んでいた。戦のこと、好敵手・上杉 謙信のこと、そして彼等……六武衆のこと。


「さて、どうしたものかの。」


誰に聞かせるでもなく、そう呟くと。


「お館様。入ってもよろしいでしょうか?」


入室を伺う声がして、返事をする間もなく障子が開いた。


「おお、美那殿に若菜殿。」

「「お邪魔します。」」


二人は真っ直ぐに信玄のところまで来ると、彼の目の前にストンと座った。


「どうかしたかの?三つ者達の情報ならまだだが……。」


山中は信玄の目をジッと見据えて、静かに口を開いた。


「それはいいんです。幾ら優秀な忍と言えど、こうも短時間でお仕事をするには、無理がありますから。」


山中は淡々と続ける。


「お館様、単刀直入に聞きます。此度の戦のこと、教えて貰えませんか?」

「ちょ、いきなりすぎない!?」


谷中は驚いて山中の肩を掴んだ。


「……聞いてどうする?お主等も、戦に加わるつもりか?」


表情を変えず、信玄は穏やかに問い掛けた。


「上杉にいる仲間が、参戦を求められているというのは、先程の報告でご存知の筈です。上杉が参戦を無理強いすることはない、とは思いますが、もし万が一……何かしらの理由で戦うことになれば、私達も打って出るつもりですよ。」

「仲間同士で戦う気でいるのか?」


信玄は困惑したような顔を山中に向けた。しかし、彼女は首を横に振る。


「いいえ、私達は私達のやりたいように動きます。恐らく、軍に乱れを生じさせる可能性もありますし、参戦において、少し無理なお願いをすることもあるかもしれません。私達は自分の為にも、お館様が此度の戦でお考えの策を知らなければならない。」


谷中は固唾を呑んで、二人のやり取りを見守った。そして、このピリピリする空気を味わわなくて済んだ木下を、心の底から羨んだ。


(っていうか、僕空気?空気だよね絶対。)


内心でやれやれと肩を落として、黙ったまま見守ることにする。


「それはならん。正式に戦に加わるのではないというのなら、お主等には教えてやれることは少ない。それに、そのような勝手を儂が許すとでも?」


信玄はスッパリとそう言い切り、厳しい顔をして山中を見詰めた。


「許してもらわなければ困ります。」


山中が毅然とした態度で言い放った瞬間、ドタドタと足音がして、勢い良く障子が開いた。


「燃え尽きたよ……真っ白にな……!」

「ホントに真っ白になってんだけど!?」


ふらふらっ、と今にも倒れそうになりながら登場したのは、小さな木の箱を持った木下だった。何をしてきたのか、着物の袖口が土で汚れている。


「殿下あああぁっ!!オレ頑張ったぞおおぉ!やってやったぞバカヤロー!!」

「ふぐぁっ!?」


 そしてびぃびぃ泣き喚きながら、谷中にタックルをぶちかましてきた。その様子を呆然とした顔で見ていた信玄は、山中がにこりと微笑んでいるのに気付いた。


「チロさん、お疲れ様です。それじゃ、それをお館様に見せてあげてください。」

「う~、りょーかい……」


 キュッと木下は顔を引き締め、懐から箸を取り出した。


「お館様……御免!」


 勇ましく言うや否や、木箱の蓋を開けて何かを摘まみ出し、信玄の鼻先に突き出した。

箸の先でうねうねとのたくるように蠢く、「対信玄用最終兵器」。黄色味を帯びた白い体はぶよぶよしており、茶色く平たい頭に、ソーセージの先のような尻。それは、まごうことなき「芋虫」。種類は多分、コガネムシの幼虫だろうか?


「え、虫?何で虫!?」


 虫が嫌いな谷中は猛スピードで距離をとり、訳がわからない、と言うように山中を見ようとしたが。


「ッ―――――!?!?」


 一気に顔から血の気が引き、文字通り真っ白な顔になった信玄のあげた声なき悲鳴に、谷中は目が釘付けになる。


「え?ちょ、え?どういうこと……?」


 何が何やら、谷中は説明を求めて山中の隣ににじりよった。


「やはりそうでしたか……。チロさん、そのまま抑えておいてくださいね。」


 陸に挙げられた魚同然の信玄を眺めつつ、山中は面白そうに話し始めた。


「武田 信玄には、芋虫が大の苦手という逸話がありましてね。その苦手っぷりは、相当のものだったらしいんです。ですから、私達の中で唯一虫に耐性のあるチロさんに頼んで、芋虫を捕ってきてもらったんですよ。」


 谷中はそれを聞いて、頭を抱えた。


「また…何つー大それたことを。もしその逸話と違ってたら、どうするつもりだったわけ?」


 若干咎めるような響きを含んだ声に、山中はきっぱりと言い切った。


「歴史モノのゲームには、大概逸話が練り込まれてるもんですよ。」


 要するに、結果オーライということだ。


「ミナちゃんミナちゃん、お館様が大変なことになってるぞっ!?」


 幼虫を突き付けていた木下の、慌てたような声が飛び込んできて、二人がそちらに視線を向けると。


「わーー!?出てる、何か出てるから!?」


 口から今にも魂が抜けそうになってる信玄がいた。

 谷中は急いで背中に回り込み、思い切りひっぱたくと、何やらふわふわしたモノがしゅぽっと口に引っ込む。そして目の焦点が戻り、信玄は這うようにして木下から離れ、何事かを喚こうとしたが、間髪入れずに木下の袖の中から伸びた影が口を塞いだ。


「いやはや、これはこれは素晴らしい話のネタですねぇ。このことを「色々な」方々に教えて差し上げれば、もっと素晴らしいことになりそうですよね……。」


 むぐむぐと呻く信玄に近付き、山中は囁くように言う。そして更に、谷中から追い撃ちが。


「これさー、甲斐の庶民さん一同は知ってるのかな?」


 ラスト、木下からトドメの一撃。


「もう指疲れたぞ……虫、落としちまう……」


 みるみるうちに、信玄の身体が強張っていく。

 要点を纏めると、芋虫のシャワーを受けたくなければ、このことを誰彼構わず吹聴されたくなければ、この三人の要求を呑め、ということだ。

 信玄が死人のような顔で、コクコクと頷いたのは言うまでもない。





side越後


 チーム・the甲斐の見事な脅迫をメールで知った越後の三人は、馬鹿笑いしたいのを必死で堪えた。


「芋虫でここまで効果があるなんてな……!」

「なっさけないヤツ…!甲斐の虎なんぞ辞めて、甲斐の虎猫にゃんにゃんにしたらええわ!」


 梅本と北は口を押さえて、ヒィヒィと変な息を吐き出した。

 晩御飯を食べた後で、これはキツかった。満腹になった腹が痛くて、二人はピクピク痙攣している。


「……にしても、流石ミナちゃんと言うべきか。」


 小川はその様子を見ながら酒を煽り、ニヤニヤ笑いながら呟いた。


「まぁ、これで参戦の下拵えが済んだな。後は、俺等の答次第ってワケか。」


 やっとこさ復活した梅本は起き上がり、痛む腹部を擦りつつ胡座をかいた。重要なところはそこなのだ。しかし、遊び半分ではいと言える事ではない。


「……元の世界に帰る為に、やらなくてはいけないことでもあるしな。」


 小川は猪口を置いて、二人に向き直った。

 最大の問題点でもある、「帰る為の方法」。ゲームクリアの条件は『天下統一』、仲間達の間では、様々な天下統一のパターンがあるかもしれないという考えが挙がっているが、この方法が一番無難ではっきりしているのかもしれない。


「とりあえずは、死なへんように技術もあるしな。ヤバなったら逃げたらええんやし。」


 ゴロリと横になった北は、右手から凪鮫を喚び出して眺めた。そう、魔王様のお陰でなんとか生き延びる為の力は備わっている。


「試しに、出てみるか?」

「……明日考えようぜ、俺はもう寝る。」


 一体どれだけ飲んだのか、小川の周りには徳利が散乱している。そりゃ眠くもなるだろう。

 徳利をがらがらと脇に押しやり、布団に潜り込んでいく小川を呆れたように一瞥して、梅本と北は携帯をパタンと閉じた。そして明かりを消して布団に入り込み、眠りに就いた。


今回はちょこっと短めでした。

武田 信玄が芋虫大嫌いという逸話を見たとき、うんうんわかるわかるって思ったけど・・・・・・意外と乙女なんだねお館様。

感想よろしくお願いします~!


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