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二十六の噺 「Dive in越後!デリバリーは確実にね。」

side越後


「どーしたもんかな。あいつら、どったんばったんしてなきゃいいけど。」


 寝間着から着替えて、梅本は遠い甲斐の三人を思う。

 つくづく、未来の世界の便利さを痛感していた。

 とにかく、参戦の相談も兼ねて、三人だけにしてほしいと上杉主従に退出を申し入れて、今はうだうだと話し込んでいた。


「……武田との戦、と言えば、川中島の戦以外ありえないな。ということは、武田側は村上との戦を無事に済ませたってことになるのか。」


 小川はうーむと唸る。

 確か、村上との戦で「砥石崩れ」と呼ばれる痛恨の大敗を喰らったとき、武田は多くの重臣を失った筈だ。それこそ、板垣 信方や甘利 虎泰といったような大物を。


「……歴史の狂いってのは、やり難いもんだ。川中島の戦は、何回かあったみたいたが、今回では何回目だろうな。」

「四回目だったら泣くぞ、俺は。」


 五回に渡る戦の中でも、最も激しい戦いが行われたのが、第四回川中島の戦である。この戦で、軍師・山本 勘助が戦死した。

 北は両者の話を聞きながらポアッとしていたが、ふと何かが自分の太股辺りをつつくのを感じた。

 それは細い棒のようなもので、つんつん、つんつん、と一定の間を置いてつついてくる。

 普通なら、驚いて飛び上がっているところだろうが、生憎普通とは随分かけはなれた世界に来てしまったもので、あまり驚くことがない。

 この自分をつつく何かを直ぐ様理解して、北はニッと笑った。

 そして辺りの気配を探り、敵がいないことを確認すると、床を叩いて合図を送る。



「何やってんだ、お前?」

「安心し、来たわ。」


 梅本にヘラッとした笑みを寄越して、北は立ち上がり影を映すと。


「よう!大丈夫みたいだなっ!」

 

 安心したような顔で、木下がにゅるんと影から出てきた。


「……そうか、一度出入りした影から影へ、自由に移動出来たんだな。」

「おふこーすだ、Mr.プリンス!」


 グッ、と親指を立てて木下は言い、懐から彼等の携帯を渡してやる。


「おお、GJだチロ!」


 梅本は携帯を引っ掴み、懐に隠す。


「で、ここ何処なんだ?」

「ああ、ここ上杉んトコ。」


 部屋をキョロキョロと見回して、木下が肝心な事を聞くと、北はあっさりと答える。


「……は?」

「だから、上杉。越後。天地人。」


 ピタッと動きを止めた彼女に、北は更に追い撃ちをかける。


「う、上すむぎっ!?」

「はい落ち着こうな。」


 叫ぼうとした木下の顔面を、梅本はすかさずべちっと掌で押さえた。


「マ、マジで?ここ、マジで軍神ん家?」

「マジマジ。ちょいと前に、愛の人と二人セットで会ったから。ちなみに、俺等を拐えって命令したのは愛の人だってさ。」


 あんぐりと開いた口に気付き、木下は急いで口を閉じる。


「上杉のご要望は、あたしらに戦に出て欲しいんやと。」

「上杉の戦……思い付くのは一つか。川中島で間違いないな。」


 腕を組み、木下は三人を眺めた。


「理由って、オレ達が有名だからか?」

「……軍神が言うには、毘沙門天の「お告げ」らしいぞ。」

「お告げ?毘沙門天と謙信様って会話出来んのか!?」


 小川は目を丸くする木下に、深々と溜め息をついた。


「そんなもの信じられるか。だが、そうとしか言わなかったんだ。俺達が、戦に変化をもたらすとかなんとか……。」


 しばらく難しい顔をして、何やら考えていた木下だが、答は出る筈もなく放棄。


「ま、いいや。皆が無事ってことがわかったし。てなわけでオレは帰るけど、戦に出るのか出ないのかは全員で決めようぜ。もしかしたら、ホントに変化があるかもしんないし。」


 再び北を立ち上がらせ、影の上に乗る。


「じゃーな!あ、それとメールは細かく寄越せってミナちゃんが言ってたぞ!こっちもメールするから、携帯は絶対に見つからないように隠しとけって。」


 ぴらぴらと手を振り、木下は影の中に潜っていった。


「とりあえず、あたしらの居場所と拉致られた理由はチロから伝わるな。」

「連絡ってことは、やっぱ戦の情報だよな。まぁ、どうせ俺等はどっちの味方にもつかないし、躊躇うこともないか。」

「……戦に出ると決めれば、重要な情報も手に入る。やり取りしていて損はないだろ。」


 中々悪どいことを考える三人だが、本来彼等には戦云々のことは関係ないことだ。

 誰かに忠誠を誓ってるわけでもなし、必死で天下を狙ってるわけでもなし。

 三人は立ち上がると、部屋を出ていく。勿論、情報収集の為でもあるが、半分は恐らく春日山城だと思われるこの城の観光だ。


「春日山城と言えば、ほぼ空想で描かれた石垣や天守閣が見所だよな~。」


 城好きな梅本はうきうきと言い。


「越後の特産品ってなんやろ?」


 北は早速物色の姿勢に入り。


「……謙信は酒豪で有名だったな。美味い酒があるといいけどな。」


 酒と煙草が生き甲斐の小川は、まだ見ぬ美酒に心弾ませて。





side甲斐


 一方こちらでは、影に潜った木下の帰りを待ちわびていた。


「木下殿は無事であろうか…?」


 信方は心配そうに言い、庭でうろうろしている。


「板垣、少し落ち着かんか。にしても、お主等は静かだの。」


 信玄は特に不安そうな様子もなく、淡々と待っている谷中、山中の二人に目を向けた。


「……一応、心配はしていますよ。ですが、そんなに居ても立ってもいられないというわけではありませんね。」


 表情を変えることなく、山中はあっさりと答えた。それに谷中も続く。


「そーそー。皆一筋縄じゃいかないような連中ばっかりなんだよ?」


 停雲落月、なんてことはないらしい。

 二人の言葉に、勘助はフッと笑った。


「確かに、ご両人の言う通りですな。特に北殿はあんな性格故、拐った側は気が抜けてしまっているかもしれませぬ。」


 ある意味大胆不敵な北を思い出したのか、勘助は困ったように言った。


「俺はまだ、あの三人とは余り話したことはないが……きっと谷中殿のようにお強いんだろうな。」


 虎昌は目を輝かせ、一度手合わせ願いたいものだ、なんて言っている。

 そんな中、谷中の影から木下が飛び出し、着地にしくじってふらついた。


「あだっ!?」

「うわあ!?」


 当然なんの前触れなく、人間が影から出てくればびっくりする。

 谷中も然り、よろめいた木下を避けようとするが、見事に巻き込まれてその場に引っくり返った。


「……何やってんですか、二人とも。」


 溜め息をついて、山中が二人を白い目で見た。


「いや、ちょっとした戯れ?」

「どいてよ~、チロちゃん苦しいってば!」


 ごめんごめんと謝りながら、木下は谷中の上から身体を退けた。


「で、報告は?」


 信玄が報せを促せば、木下は立ち上がってピシッと敬礼をキメる。


「聞いてびっくりだぞお館様ッ!!あいつら、上杉 謙信のとこにいる!!」


 それを聞いた瞬間、辺りが一気にざわつき始めた。


「……やはり、越後の龍の元であったか。だが、実行した者は彼奴ではない。そうであろう?」


 ニヤリとした笑みを浮かべ、信玄は確信したように尋ねる。木下は頷き、報告を続けた。


「実行犯は直江 兼続だ。で、皆丁重に扱われてるぞ。拐った理由は、戦に出て欲しいからなんだと。お館様、その戦って川中島でやるんだろ。」


 きっぱりと言い切り、じっと木下は信玄を見つめた。


「何故、川中島だと断言出来る?」


 信玄は何気無い風を装って尋ねたが、目付きは何かを探るように細くなっていた。


「武田と言われれば上杉、この両者の関わる戦など、川中島以外思い付かないじゃないですか。」


 山中は木下の隣に立ち、当然だとでもいうように笑ってみせた。


「だよねぇ。それがどうかしたの?僕達、何か変なこと聞いた?」

「…いや、お主等の言う通りだ。」


 谷中も首を傾げて問い掛けるが、信玄は曖昧に答えるだけだった。


「…とにかく、今一度忍を集め、春日山城の探索に当たらせよ。武田が忍の力、日ノ本一と示すがよい!!」

「「「はっ、お館様!」」」




side越後


「見ろよ、凄いぞ!春日山城も良い城だよな~。大きさや派手さは安土城に軍配が上がるけど、雰囲気的だと、こっちの方が上品だ。」


 三人は揃って春日山城を見物中だ。

 北はバラバラでもいいんじゃないか、と意見を……いや、ゴネたのだが、敵地での単独行動はよくないと二人に諫められて、渋々言うことを聞いたのだ。


「なぁ、もうええやん行こうや。あたし飽きた。」

「……酒が飲みたい。」

「お前等学科は何処か言ってみろ!」


 後ろでブーブー文句を垂れる二人に、梅本は苛々と一喝した。ちなみに、文化財学科である。


「わーったよ、行きゃいいんだろ行きゃ。」


 舌打ちして梅本は歩き出そうとする。

 すると、彼を呼び止める声がした。


「見ない顔ですね?」


 振り返ると、そこには初老の男が一人立ち、物珍しそうな視線を送っていた。

 髪は真っ直ぐで長く、色はロマンスグレー。一つに纏められた髪は、片側に寄せられ、ほっそりとした肩に垂れていた。柔らかな琥珀色の瞳は、強い好奇心を色濃く湛えている。

 漂う雰囲気は、上品で穏やか。


「…誰や、あんた。」


 腕を組み、北が相変わらずな調子で尋ねると、男はおっといけない、とばかりに佇まいを正した。


「これは、とんだ失礼を。私は名を宇佐美 定満と申し上げまする。」

「……ウサミミ?」

「「違う!!!」」


 北がまた、ふざけたことをへらっと笑って言うと、梅本と小川の二人はダブルで後頭部をしばきあげた。


「……? ウサミミとは」

「いーえ何でもないんですよあはっはははは!」


 食いついた話題を、梅本は高笑いで無理矢理強制終了させる。


「……は、はぁ。」


 何か納得いかなさそうな顔だが、この話は流れた。


「……宇佐美 定満、と名乗られましたか?」


 仕切り直して、小川が確かめるように問えば、彼は頷く。

 宇佐美 定満、彼は謙信が若かりし頃から傍に仕えていたが、詳しいことはあまりわかっておらずミステリアスな存在の軍師とされている。


「はい。宜しければ、貴殿方のお名前を伺っても?」


 何処か見透かしたような口調に、もう既に名前なんか知ってるんじゃないか、と三人は言いたかったが、名乗らないわけにもいかない。

 それぞれ名を告げると、定満は琥珀の眼を軽く見開き、微かな微笑みを見せた。


「貴殿方が……殿のお告げによって招かれた『六武衆』なのですか。」


 話の伝達の早いこと。定満の視線を受けながら、三人は同じことを思った。


「なぁ、あたしお腹空いたわ。何か食べたいんやけど。」


 北の言葉に、そう言えば目覚めてから満足に食事らしき食事をとっていなかったことを思い出す。


「……色々あって忘れてたな。宇佐美さん、飯が食いたいんだが、どうすればいい?」


 会ったばかりの自分に、いきなり頼ってくる三人。

 定満は内心驚いていたが、それを顔に出さずにこやかに答えた。


「実は、私もまだ食事をとっていないのです。一緒に参りましょうか?」


 来たばかりで城の勝手を知るよしもなく、彼等は定満のありがたい提案に二つ返事で頷いた。

 定満は定満で、この不思議な三人と早速話すことが出来て大満足である。元より、『六武衆』には興味はあったのだ。


「それでは、行きましょうか。」


 定満に連れられ、三人は後に続いた。





 ~春日山城「食堂」にて~


「いや待てよ、食堂?食堂ってあの食堂?」


 何だこりゃ、と梅本は前に広がる光景に目を剥いた。

 そこはまさに食堂。社員食堂だとか、学生食堂だとかに当てはまるもの。


「……いつも、ここで食事を?」

「はい。殿の提案でして、こうすることで、我々や兵の統率力が増し、戦でも士気が上がるようです。」


 定満の話を聞きながら、小川は食堂の中を見渡した。

 そこには一兵卒も将も関係なく、和気藹々と食事が行われている。


「武田にはない施設やな。まぁ、斬新やろ。まさか南蛮仕様やとは思わんかったけど。」


 北が目を向けているのは、テーブルと椅子である。

 この頃、まだ海外の代物は伝わっていないのだが、流石は異世界。設定が本当に無茶苦茶だ。


「おや、北殿は中々目の付け所が宜しいようで。」

「そりゃどうも。」


 ざわざわとした中、数多くの視線が自分達に注がれている。

 それをなるべく気にしないように、三人は空いている椅子に腰掛けた。


「何か、こうも見られるといい気はしないな。」

「……居心地は良くないな。」

 

 早速顔をしかめる梅本と小川に、定満は苦笑した。


「それは仕方ないことでしょう。貴殿方は、ご自身の奇怪さを知らないようだ。」

「アホ、何処の世界に自分のことが変やと思う奴がおんねん。」


 上杉の二大軍師の一人をアホ呼ばわりし、北はフンと鼻で笑った。


「……それもそうですね。お気を悪くなされたら申し訳ありません。」


 ざわざわ、とますますざわめきが大きくなった。そりゃそうだ、あの宇佐美 定満をアホ呼ばわりする奴なんぞ、そうザラにいない。


「……まぁ、そんなことはどうでもいい。」


 小川は興味なさげに話題を終わらせて、ジャストタイミングで運ばれてきた食事に手を伸ばす。

 もぐもぐと口を動かしながら、三人は甲斐の三人に送るメールの内容を考えていた。



ウサミミさんこと宇佐見さんの登場です。

・・・・・この人ホントわけわかんない人ですよね。

さて、ここからどうしょうか。

ちょっと悩み気味です。

甲斐の三人とはここからずっとメールでやりとりします。

次回は上杉の皆とお話タイムです!


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