表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/53

二十三の噺「武田ファミリーと一緒、やっぱ交友って大切だと思うんだな。」

 強制鬼ごっこがしばらく続いた後、やっと二人は奪い取ったものをかえしてやる。


「はー、面白かった!はい、返してあげるね。」

「捕まらなかったから、オレ達の勝ちだなっ!」


 首筋に「うっすらと」かいた汗を拭い、谷中と木下はすっきりした顔で言った。


「くそ……この俺がッ……良いように……振り回されるなど……!」


 ゼイゼイと息をきらし、男は悔しげに二人を睨み付ける。


「随分遊ばれたようですね、空蝉。」


 笑いを押し殺したような、しかし柔和な声がして、二人は振り向く。


「あ、甘利様に山本様!?」


 空蝉、と呼ばれた男は、急いでその場に跪いた。


「見た目によらずお上品な名前だなー。」

「喧しい!!!」


 やっとわかった名前に、木下が茶々を入れ、谷中は二人の重臣に一礼した。


「お初にお目にかかります、六武衆のお二人。私の名は甘利 虎泰と申します。以後お見知り置きを。」


 いきなり丁寧に自己紹介されて、二人は目をぱちくりさせた。


「某は山本 勘助と申す。貴殿等の噂はかねがね聞いておるぞ。」


 続いて勘助にも名乗られ、急いで二人も一礼した。


「谷中 若菜です。」

「木下 千尋です!」


 勘助は身を少し屈めて、まじまじと二人の顔を見つめた。


「お主等、歳は幾つだ?」

「スゲー!ホントに眼帯だぜ殿下ー!」

「本物はやっぱかっこいいよね!萌える萌えるー!」


 二人も勘助の顔を見て、口々にはしゃぎだす。


「………っ!」


 勘助の困惑したような表情に虎泰は横を向き、吹き出しそうになるのを堪えた。人の話を聞いちゃいない。


「虎泰さんの髪の紐って、やっぱり自分の名前から虎柄にしたの?」

「はっ……?い、いえそういうわけでは。」


 すごくどうでもいいことをいきなり聞かれ、虎泰も勘助と同じ表情になる。

 この後、勘助と虎泰は二人の質問攻めにあうのだが……他のメンバーはどうしているのだろうか?








 飛び出して行った二人を追った北と山中は。


「……どこや、ここは。」

「私に聞かれてもわかりません。」


 まぁ、案の定というか、定番のオチというか…迷子になっていた。


「何であいつら、こーいうときはあんなに足早よなんねん。」

「体力もつきましたから、以前より質が悪くなってますよね。」


 ブツブツ言いながらその辺りを歩いていく。


「もし、そこのお嬢さん。」

「あたしも暇やから、何かしたろと思ってたのに。」

「マンボウさんの「何か」は嫌な響きを持ってますよね。」


 ああだのこうだの、言い合い歩いていると、後ろから声がかけられる。

 しかし「お嬢さん」というガラではない二人〈特に北は〉は、右から左へと聞き流す。


「そら、色々出来るやろ。」

「具体的な例をあげないところが嫌ですね。」

「あの、そこの二人のお嬢さん?」


 もう一度呼び掛けられ、やっと自分達のことだと認識する。

 振り向いた二人は、その声の主を見て盛大に顔を引き攣らせることになった。

 その人物、多分男だと思うのだが…如何せん、キラキラしていた。ふんわりとした飴色の髪、透けるように白い肌、明るい鳶色の瞳。美青年という言葉がしっくりくるその容姿に、山中の脳裏にある人物の名が浮かんだ。


「もしや貴方は……高坂 昌信様? あの、『逃げ弾正』といわれる……?」

「私の名をご存知なのですか?」


 大当たりだったのか、青年は驚いたように目を瞬かせた。


「はい、有名ですから。」

「これはこれは、貴女のような愛らしいお方に知っていただけているとは光栄です。」


 高坂 昌信、「武田四天王」の三人目だ。

 常に慎重な采配と引き際の良さから、『逃げ弾正』と称される名将だ。また大変な美男子で、衆道が日常的だった戦国時代に信玄の「お気に入り」だった。


「私は山中 美那と申します。こちらは北 修子さん、私達の仲間です。」


 北は無言でぺこりと頭を下げ、昌信はニコリと笑って口を開いた。


「貴女方が、『六武衆』でございますね。噂とは随分とかけはなれたお姿だ。」

「あのさ、さっきから気になってんのやけど……どんな噂なん、それ。」


 あんまり噂噂と言われるものだから、どういうふうに噂されているのか気になる。


「ここで立っているのもなんですから、よろしければお茶でも飲みながらお話いたしましょうか?」


 魅惑的なお誘いに、二人は当初の目的を忘れてあっさりと頷き、正信の後に続いたのだった。

 彼の部屋は直ぐ近くで、昌信は通りかかった下男にお茶の支度を命じて、二人を中に招き入れた。


「めちゃくちゃ綺麗に片付いてんなぁ……性格細かいんやな、高坂さん。」


 書物から筆、書簡の一つに至るまできっちりと整理整頓されつくした部屋に、北は思わず感嘆の息を吐いた。


「私達の部室も、こんなふうだとどれだけいいでしょうか……。」


山 中はいつでも凄惨極まりない大学の部室を思い出し、やれやれと肩をすくめた。


「どうぞ、お座り下さい。」


 昌信の勧めに従い、二人は部屋をキョロキョロ見回しながら腰を下ろした。


「他に、あと四人の方々がここにいると聞きますが……」

「ああ、野郎二人は部屋で寝とる。残りの二人は、忍のオッサンからかってどっか行ったわ。」


 大雑把な説明をして、北は早速足を崩す。

 ちなみに、袴を穿いているから見える心配はない。


「忍をからかう、ですか?」


 昌信は目を丸くした後、くすくすと笑いはじめた。


「真面目そうな人でしたし、今頃盛大に遊ばれてそうな気がします……。」


 忍の顔を思い出して、山中は少しだけ呆れたような顔をした。

 そのとき、失礼いたします、と部屋の外から声がして、先程の下男がお茶を持って入ってきた。

 二人が礼を言いながら受けとると、下男は驚いたように目を見開き、直ぐ様に引き下がってしまった。

 何だありゃ、と首を傾げていると、昌信はまた笑いながら口を開く。


「魔王の戦を助太刀し、悪鬼羅刹(あっきらせつ)の戦い振り、将位の神憑きすら一撃の元に打ち砕き、その姿は根の国より出でし鬼のようだと言われた『六武衆』……本当に噂はアテにならないものですね。」


 しみじみ言う昌信に、二人は聞き捨てならないとばかり食い付いた。


「何か前に聞いたときより酷くなってへんか、それ?」

「その噂を流した方々に、是非ともお会いしたいものですね。」


 北は嫌そうに顔をしかめ、山中は笑顔だが目が笑っていない。

 尾ひれどころか、背びれ胸びれまでくっついているではないか。


「私も驚いているのです。どのような方々かと想像していたのですが……。」


 今自分の目の前に座り、お茶を美味しそうに味わう二人を見て、昌信は苦笑を隠せない。

 何ともポアッとした、平和そうな顔をしているではないか。


「なあなあ、お茶菓子とかあらへんの?」

「出来れば甘いものを頂きたいですね。」

「……… (汗)」


訂正、想像よりもド厚かましい。








 北と山中が、正信の部屋でお茶を味わっているとき、小川と梅本は……ぐーすか寝ていた。そりゃもう、大の字になって。


「失礼しまーす!」

「あやめ姉さん、もう少し丁寧に入りましょうよ!」


 安らかな午睡の静寂を破ったのは、やたらと元気な声と慌てたような二つの声。辰市とあやめだ。

 そのおきゃんな高音に、よく寝ていた二人はスッと目を覚ます。これも安土城で叩き込まれた覚醒法だ。


「んっだよ、うっせーなぁ……。」

「……辰市、と…誰だ?」


 ふわあっと大あくびをして、二人はのっそり起き上がった。


「あやめだって名乗ったでしょ!?もう、覚えといてよ!」

「あやめ姉さん、騒いじゃダメですってば!」


 あやめは顔をしかめて喚き、辰市は必死で姉を抑えようとする。


「……で、お前等何しに来た?」


 目を擦りつつ、小川は二人に尋ねた。

 もし、何も用がないのに来たなら、遠慮なく二人を叩き出すつもりだ。

 寝起きってのは、誰しも機嫌が良くないものだから。


「残りの方々は何処に行かれたのでしょうか?」

「知らね。二人ずつに分かれて、好き勝手してるぞ。」

  

 溜め息をつき、梅本は床をつついて、忍二人に座るよう促す。

 恐縮しながらちょこんと座る辰市と、遠慮無しで座るあやめ。

 小川は両者の性格の違いに苦笑する。


「実はあたし達、板垣様から貴方達の世話役を任命されちゃってね。で、挨拶に来たんだけど……いないなら仕方ないわね。とりあえず、お二人に挨拶しておくわ。」

「忍という身分上、至らぬところもあるかと存じますが……精一杯、御世話役を務めさせて頂きます。」

「「そりゃご丁寧にどうも。」」


 深々と頭を下げる二人に、こちらも一礼する。

 すると、あやめは何か珍妙なモノを見るような目をするではないか。


「……何だ?」


 気付いた小川が問えば、あやめは不思議そうに言う。


「やっぱり、貴方達変よ。貴方達、『六武衆』なんて通り名がついてる凄い人なんでしょ?なのに、どうして私達に頭下げたりするの?」


 そんなことを聞かれても、と二人は顔を見合わせて、うーんと唸った。


「別に意味とかないけどさ。ってか、身分とか俺達よくわかんねーしな。」

「……こだわる必要もない。」


 未来の人間に、身分のどうこうなんて関係のないことだ。

 むしろどうでもいいことで、考えるようなことではない。


「だから、そんなに恐縮しなくてもいいぞ。あんまり丁寧にされると、居心地悪いから。」

「……これは辰市に言ってるからな。」


 梅本は辰市を見ながら言い、小川はあやめをジロッと見る。


「何よ、あたしだってやるときはちゃんとやるんだからね!」


 キーキー突っ掛かるあやめを小川は片手であしらい、聞こえないフリをする。


「ま、六人全員がこんな感じだし、辰市さんも肩の力抜いて、そこそこテキトーにやってくれりゃいいから。」


 身分の壁をさらっとぶち壊し、梅本はぽかんと呆けたような顔をしている辰市に笑いかけた。


「……わかりました。梅本様…いえ、梅本殿がそう言うなら。」

「ま、そういうことでよろしく頼むわ。」


 未だにワーワー言い合いを続けている小川とあやめを後目に、二人は館の内部についての話を始めるのであった。






 同時刻、甲斐と敵対する越後では、こんな会話が交わされていた。


「甲斐の虎の元に、見慣れぬ客が訪れたとの知らせが。」

「……見慣れぬ客?」


 薄闇の中、密やかな声が僅かな警戒の響きを含んだ。


「して、どのような者共だ?」

「男が二人、女が四人……何れも武士の装いではありませぬが、商人や茶人でもない様子。皆、妖馬に騎乗しておりました。」


 声の主は女と男、そして女のほうが報告を受けている。


「妖馬か……近頃、噂になっている『六武衆』という可能性は?」

「神憑きとしての気配は感じない、とのことですが……しかし、あの武田 信玄が謁見を即座に許したようです。ですが、全員がまだ年若く、もし神憑きであるならとても手練れといえるものではありません。」


 女は溜め息をつき、呆れたように言った。


「全く……『六武衆』とは一体何なのだろうな。ここのところ、話が乱されていて一向に正体が掴めない。まるで蜃気楼のようではないか。」


 噂が噂を呼び、真実が偽りに姿を変えていく。

 ここまでごちゃごちゃしているなんて、恐らく誰かが話を撹乱させているのではないのだろうか。


「如何いたしますか?」


 黙ってしまった女に、男が声をかける。


「一度、私の方からお館様に話をしてみよう。お前は引き続き知らせを私に報告してくれ。」

「……然るべく。」


 スッと消えた男を見送り、女は立ち上がった。


「甲斐の虎……一体何を考えているのか。」


 いずれ、また戦が始まる。

 その時、彼がどう出てくるのか……もし仮に、『六武衆』を手に入れていたのならば。


「私が、始末しなければいけないかもしれないな。」


 不敵な微笑みを浮かべ、女は低く呟いた。







 そんな不穏な空気を、甲斐でのほのほと過ごす六人は知る筈もなく。


「なーなー殿下、今日の晩飯ってなんだと思う?」

「チロちゃんはいつもご飯のことばっかりだねー。まぁ僕も気になるけど。」


 片や夕飯に思いを馳せ。


「ミナちゃん、これ何やろ?うわ、あたし読めんし。」

「こちらは……もしかして兵法書でしょうか?そりゃマンボウさん読めませんよ。」


 片や他人の部屋をガサゴソ漁り。


「もー大変なんだよ、あいつらは全然纏まりねぇしさ。俺何回胃を痛めたか……。辰市も色々ありそうだよな。」

「お疲れなんですね、梅本さん……。私もあやめ姉さんがあんな感じなので、大変なんです。」


 片や日々の苦労をブツブツ語り合い。


「もぉー!何であたしばっかり怒られるわけー!?板垣様ったらいつもいつも辰市ばかり褒めるのよ!酷いと思わない、小川ッ!?」

「……だから、それを俺に言ってどうなるんだ?ってかお前、呼び捨てかよ。」


 片やずれていく愚痴を嫌々聞き流す。

 さてさて、これからどうなることやら・・・・・一寸先は闇、ということだろうか?



ちょこっとだけ出てきました、越後の人々。

さぁ次回はどこまで進展するかなー・・・・・・。

早く進めたいけどなかなか進まないんですよね。

でも気長に待っていてくださいまし!

そしてお気に入り登録が50件になりましたー!!!

祝・50件、皆様このようなまだまだ未熟な作品をお気に入り登録してくださってありがとうございます!

評価のほうも順調に上昇しておりありがたいかぎりです。

これからも頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ