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十八の噺 「実戦、そして人助け……戦国は気忙しいネ。」

 さて、魔王様の城を離れて、この世界をふらつく旅に出た六人。颯爽と妖馬に跨がり城を出たはいいが。


「なぁ、これから何処にいく?」


 目的地など定まらぬ旅路だ、何処に行くかはその場のノリと勢いだけで決まる。


「一応、西にも東にも行けますけど……私は甲斐に行ってみたいですね。」


 山中は片手だけで手綱を握り、器用に懐から地図を取り出した。

 絵の上手い谷中に頼んで作ってもらった、特製日本マップだ。


「甲斐といえば、武田信玄だね。」

「お館様ー!お・や・か・た・さ・まー!!」


 谷中の一言に、木下が大はしゃぎし始める。

 彼女の好きな武将の中には、武田信玄が上位にランクインしているのだ。


「甲斐か……。俺は別に、何処でもいい。」

「じゃあまずは甲斐だね。」


 小川がそう言えば、谷中がパシリと地図中の甲斐を指先で弾いた。

 ところが、皆は北の一言に再び沈黙することになる。


「……道、誰もわからんやん。」







 甲斐へ行く道を、人間を見つける度に尋ね進むこと数時間。

 今六人は、山越えの真っ最中だった。


「ここを道に沿って行けば赤カブ村があるんだっけ?」「蕪木村だ。」


 森林浴を楽しみながらボケる木下に、小川が村名を言い直した。


「そう言やぁ、ちょっと前に道聞いた人が言ってたなぁ。この辺、盗賊がよう出るって。」


 唐突に、薄笑いを浮かべながら北が口を開いた。


「そうですね。何でも、集団で取り囲んで相手を襲うとか。」


 山中の顔にも、ブラックな微笑みが浮かんでいる。


「確か倒せば金が貰えたよなぁ!!」


 背後から何かが自分達をつけてくるのを感じて、梅本が聞こえよがしに叫ぶ。


「腕試しには丁度いいよね…そいつら。」

 

 谷中がピタリと馬を止めるや否や、掌から出した雷から神器を呼び出し、振り向き様に矢を放った。切っ先に帯電させた雷が、金色の尾を引き飛んでいく。

 それを合図に、残る五人も次々に神器を呼び出した。そんな彼等の目の前にバラバラと現れたのは、襤褸同然の着物を着た男達。


「おまえらがこの辺を荒らす盗賊だなっ!!!」


 影蜈蚣を構え、威勢良く木下が男達を睨み付けた。

 下品な笑みを顔中に張り付けた男達は、六人の煌めく神器に目が釘付けになっている。


「大将、こいつら神憑きだぜ…あの武器、高く売れる。」


 大将、と呼ばれた男は見上げるような巨漢で、質素な胴丸を身に付け、手には戦斧を握っている。


「いかにも、俺はここら一帯を縄張りにしている大盗賊、黒蜘蛛様よ!テメェら、命が惜しけりゃその神器を置いていけ。」


 ガハハハ、と在り来たりな笑い声とセリフを吐き、盗賊・黒蜘蛛は完全に舐めきった目で六人を見る。


「黒クモ…?」


 盗賊っぽい名乗りを上げる黒蜘蛛に、小川はボソッとその名を反芻する。そして。


「ダセェ……片仮名で書くと尚ダセェ…。」

「まぁ、言えとるわな。恥ずかしい野郎やなーあいつ。大盗賊とか自分で言っちゃってるトコとか特に。」


 小川と北は、哀れみをたっぷり含んだ視線を向けた。


「しかもあのオッサン、全然クモっぽくないぞ。オッサン、名前変えた方がいいんじゃないのか?」


 木下は親身になって提案してやる。

 当然、黒蜘蛛は額に青筋を浮かせて怒鳴った。


「やかましい!!ふざけた餓鬼共だ、神憑きがテメェらだけと思うな!!!」


 黒蜘蛛の背後からユラリと立ち昇る熱。


「火の神憑きですか。でも……大丈夫ですね。」


 不敵に呟く山中は、鋭利な眼差しで戦闘体勢に入る。


「そんじゃ、いっちょ腕試しと行こっか。」

「やっぱ見たいよな、自分の武器の具合ってヤツをさ。」


 興奮を隠しきれない声で、唸るように谷中と梅本は言った。

 安土城で骨の髄まで叩き込まれた武術の成果、そして大切なパートナーである神器の実力、それを発揮するときが来た。

 気持ちが高ぶるのは、やはり武人としての感覚が出来上がってきたからだろうか。

 しかし六人を「たいしたことない神憑き」としか見ていない盗賊達は、彼等の目付きが変わったことに気付かない。

 今までか弱い獲物ばかりを狙い、それで成功を納めてきた連中である。加えて自分達の大将は神憑きで、敗け知らずときた。

 その自信の上にあぐらをかき、ふんぞり返っているのは当然のことだ。


「やっちまえ!」


 蛮声が響き渡り、一斉に男達が襲いかかってくる。黒蜘蛛の他にも神憑きがいるようで、風が巻き起こり、雷が弾ける音がする。


「れっつ・ぱーりぃー!!!」


 YA―HA!と某六爪流の使い手の掛け声を真似して、真っ先に木下が突っ込んでいく。


「こら、勝手に走るなって!」


 慌てて梅本が後を追い、残る仲間も続いて走り出す。


「死ねええぇぇ!!」


 白刃を振り下ろそうとする男の顔面目掛けて、木下が影蜈蚣を叩き込む。

 所々錆の浮いた刀は、しなやかで強靭な打撃に脆くも折れ、男は手加減ナシの一発に引っくり返った。

 さらに影蜈蚣を振り上げると、背後から真っ黒な影がぬうっと立ち上がり。


「ぶっ飛ばせっ!」


 楽し気な指示に従い、そこからドスドス飛び出る影の槍が、次々と盗賊達を突き飛ばす。

 意気揚々の木下だが、その背後を雷の刃が狙う。


「後ろからは感心せんなぁ。」


 雷の神憑きである男の真横から、旋棍・凪鮫の強烈な突きが脇腹に打ち込まれ、同時に水流が放射線状に唸りを上げて飛ぶ。


「さんきゅ、マンボウ!」

「おう。にしても楽しいなぁ、コレ。」


 ニヤーッと二人は口元を歪ませ、次なる獲物を探した。何やらスイッチが入った彼女等を眺めつつ、山中、谷中の二人も問答無用で暴れていた。


「いやぁ、Sモード入っちゃったねぇ……ほいっと!」


 矢を無駄使いしたくない谷中は、腰に吊り下げた小袋に入っているパチンコ玉程度の鉄球をビシビシとぶっ放つ。

 それだけなら大したことないが、放つ玉全てが稲妻を纏って飛ぶのだ、当たればタダではすまない。

 たとえ接近されても。


「まずは何ボルトから行こうか!?」


 大弓・電王がスタンガンよろしく、バチバチと青白い電流を相手に叩き込む。


「目障りですよね、私殺意が湧いちゃいました。」


 山中は鉄扇・舞風を開き、鎌鼬と共に、踊るように盗賊を切り裂いて行く。

 開けば刃に、畳めば鈍器にもなるこの神器は、その可憐な見た目にもよらず、十分に頼れる武器だった。

 巻き起こされた風は多くの旋風となり、吹き荒れる。


「……死なせたりしないだろうな。」

「そこらへんはわかってんじゃないか?あいつらだってバカじゃないから。」


 黒蜘蛛の前に立ち、小川と梅本はやれやれと肩をすくめた。


「な……何だテメェら!な、何者なんだ!?」


 ポイポイ宙を舞う呆気ない子分達の姿を目の当たりにし、先程までの自信が崩れた黒蜘蛛は、上ずった声で叫んだ。


「……何者と言われても、返答に困る。」

「だよなぁ。考古学研究会メンバーですって言っても、わからないだろうし。」


 二人は顔を見合せ、うーんと悩む。


「…それは後に回すか。」

「まずは、コイツの始末からだな。」


 長太刀・陽炎丸と大槌・地国天を構え、黒蜘蛛を見据える。


「ほっ、ほざけ!!」


 余りにも余裕そうな表情に、黒蜘蛛は焦りと意地からか戦斧を掲げ、猪のように突進してきた。

 ブン、と空気を切って戦斧が振り回される度に、炎が勢いよく吹き出す。

 しかし。


「オッサン、大振り過ぎだ。」


 攻撃をかわして、地面に屈み込んだ梅本が、下方から地国天を振り上げ戦斧を弾く。

 金属同士がぶつかる耳障りな音が響き、黒蜘蛛の足下からせり上がる土の壁が彼のバランスを崩した。


「王子、いいぞー!」


 バネ仕掛けの床に引っ掛かったように、宙に放り出された黒蜘蛛。

 そこに同じ手法で飛び上がった小川が、陽炎丸を抜刀して迫る。

 何事か喚く黒蜘蛛から、炎が沸き上がり小川を狙うが。


「威力は……俺達よりも下か。」


 陽炎丸は逆にその炎を刀身に取り込み、黒蜘蛛を一刀の元に切り捨てた。

 鮮やかに着地した小川の後ろに、ドシャッと落下する巨体。


「オレ達の勝ちだっ!!」

「良い出だしやな。」


 うず高く積み上げた盗賊の上に立ち、木下が北とハイタッチを交わす。


「ああ、スッキリしました。」「同じく以下同文。」


 武器の汚れを拭いながら、山中と谷中は晴れやかな顔で笑いあう。

 彼女達の周辺は気絶した盗賊達がバタバタと倒れ、その中でにこやかに立つ女四人は、さぞかしおっかないだろう。


「皆、大怪我させてないだろうな?」

「俺達が言うか、それを…?」


 多分、一番相手に大怪我をさせているだろう自分達を棚に上げて確認をとる梅本に、小川が静かに突っ込んだ。


「大丈夫だって、かるーい切り傷だ切り傷。」


 あっけらかんと梅本は言い放ち、軽い蹴りを黒蜘蛛の脇腹に入れる。


「う……何で…こんな餓鬼が…こ、ここまで高位な…力を持ってる……?」


 身体を苛む痛みよりも、驚きのほうが強いのだろう。黒蜘蛛は呻きながらもそんな言葉を吐き出した。


「あたしらの知ったことか。強いて言うなら、魔王様のお陰かな。」


 冷たい視線で黒蜘蛛を見下ろし、北は鼻で笑う。


「魔王……!?ま、まさか…六武衆ってのは……テメェらのことか…!?」

「ろくむしゅう?」


 なんだそりゃ、と顔を見合せる六人。


「ま、魔王の戦に…いきなり現れて……何人もの敵兵を…叩き潰し…将位の神憑きですら、一撃で倒した……六人の神憑き…!?」

「「「いやいやいや、違うから。かなり無理矢理感溢れてるから、それ。」」」


 物凄く尾ひれが付きまくった話に、六人は手をぶんぶん振りながら否定した。

 だが、当たらずと言えども遠からず。


「多少は当たりですけどね……。」


 山中は苦笑いを隠せない。それもそうだ、まさか自分達に『六武衆』なんて、大層ご立派な通り名が付けられているとは思わない。

 黒蜘蛛と言えば、とんでもない連中に喧嘩を吹っ掛けてしまったと、顔を真っ青にして縮こまっている。


「で、どうするコレ?埋めるか?」

「アホか、埋めてどーすんだよ。」

「じゃあ、狗の餌にしますか?」

「それも却下だ!」


 黒蜘蛛を取り囲み、冗談だか本気だかわからないやり取りを繰り広げる。


「わ、わ、悪かった!許してくれ、頼むこの通りだ!もう足を洗うから、命だけは!!」


 地面に額を擦り付けて、黒蜘蛛は必死に謝りたおした。


「そんなの僕達に言われてもねぇ……じゃ、洗えばいいんじゃない?その方が良いし。」


 興味無さそうに言う谷中に、黒蜘蛛はとりあえず死ぬことはないようだ、と胸を撫で下ろした。


「と、ところで……アンタ達の腕を見込んで、頼みたいことがあるんですが……。」「…はぁ?」


 恐る恐る六人を見上げて、そう切り出す黒蜘蛛に、彼等は首を傾げた。






「あれやな、例の小屋って。」


 藪に身を隠し、六人は草や苔でカムフラージュされた低く小さな小屋を観察する。


「あの中に、得体の知れないモノがいるっていう話でしたよね?」


 山中は藪から少し身を乗り出し、巧みに隠された小屋を眺めた。


「さて伊賀出身の殿下さん、あの小屋は何小屋ですか?」「忍小屋じゃない?」


 木下の問いかけに、谷中があっさり答える。

 忍小屋―――文字通り忍が使う小屋である。

 普通の山小屋のようなものもあれば、この小屋のように隠されたものもある。中には忍の使用する武器や薬なんかが置かれているが、その場所もちょっとやそっとで見つかる所にはない。


 で、黒蜘蛛の頼みとは何なのか?

 それは………。


「ちょっと前に、偶然子分が見つけたらしいこの小屋…その中に入った奴が死体で見つかった、だっけ?」

「……以後、三人の子分が同じ目に遇い、内部を捜索したが誰も見当たらず。」


 梅本と小川が黒蜘蛛に聞いた話を繰り返す。


「で、コレは化け物の仕業やと思うから、強ーいあたしらに、中におる化け物を退治して欲しい、か。」


 最初はめんどくさいと断った六人だが、礼は弾むという言葉にころっと態度を変え、俄然やる気で調査を始めた。

 旅の心得その1、金の執着は貪欲に意地汚く。


「忍小屋ってことは…中にいるのって多分、忍さんでしょうか?」

「化け物ちゃうやん。」


 山中と北は呆れたように言い、盗賊達の意外な臆病さを嘲笑った。


「……まずは中に入らないとな。どうする、梅が先頭を切るか?」

「何で俺なんだよ。」

「お前の武器が一番デカい。忍の武器なら小さいから、十分ディフェンス面では頼りになる。」


 小川はもっともらしいことを言い、ジーッと梅本を見る。

 ところが、谷中が異論を唱えた。


「そうだね。でもはたして武器は本当に小さいかな?神憑きなら、武器の大きさなんて関係ないんじゃないの?」

「「「………あ。」」」


 その不穏な発言に、皆は一斉に彼女の方に顔を向ける。

 うっかり失念であるが。

 

「梅ッ、お前なら出来る!!」

「やれば出来る子だお前は!!」

「うるせぇ!!遠巻きに応援すんなテメェら!!」


 ちょっと離れた場所から、フレー、フレー、と手を振る仲間達に、苛つく梅本は怒鳴った。

 勿論小声でのやり取りだ。で、しばらくの間、行け、嫌だの言い合いが続き、結局「赤信号、皆で渡れば怖くない。」作戦に落ち着いた。

 つまりは、全員でそろそろと近付いて行くということだ。

 余計に危険ではないのか、考研。


「ってかさ、もし忍ならもうとっくに感付かれてんじゃねーの?」

「……もう何も言うな、ワケわからなくなる。」


 木下から目を反らし、梅本は溜め息をついた。

 全員で固まり、そーっと、そーっと……。攻撃、未だ来ず。

 先頭の梅本が、小屋の入り口らしきところの草を細心の注意を払って退ける。やっぱり、攻撃は来ず。

 そこを押し合い圧し合いしながら、覗き込むと。


「怪我人……怪我人!?」


 粗末な壁にぐったりともたれ掛かる黒装束が見え、血の染み込んだ土の床が視界に飛び込んできた。



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