十七の噺 「旅っていっても、旅行とかじゃないから。」
更に翌日、城に馬が届けられたわけだが、何やらトントン拍子に物事が進んでいく。
それはともかく、戦装束に続く魔王様セレクト第二弾、馬を目にした六人は、目が点になった。
「これ…馬だよな…。」
「馬なんじゃないの?」
小川と谷中はポカンとした顔で「それ」を見詰め。
「かっこいい!!スッゲェ!!」
「ヨーバって、そういう意味だったんですね。」
木下と山中は目を輝かせて。
「何でもアリかよ。ま、もう慣れたけど。」
「あたしは…あの馬がええなぁ。」
梅本と北は感心したように吟味を始める。
期待どおり、馬は普通じゃなかった。
あるものは二本の角が生え、あるものは額にもう一つの目がある。ギラつく鱗のあるものや、明らかに顔が馬とはかけはなれたものもいた。
「これは妖馬。妖の…鬼の血をひく混合種です。なので持久力がとてもあって、長旅には最適なんですよ。」
異形の馬を引き連れた光秀が、化物馬を紹介する。
信長曰く、彼女は妖馬の扱いに長けているらしいのだ。
「人慣れは十分にさせてある筈なので…どれでも好きな子を、選んであげて下さい。」
光秀はそう言い、遠巻きに妖馬を見ている六人を手招きする。
恐る恐る近寄ってきた彼等を、妖馬達はじっと見詰める。
「俺は……こいつがいい。」
最初に手を伸ばしたのは、小川だった。
選んだ妖馬は赤みのある鬣に、口元からは白い牙が覗いている。馬は嫌がることなく、小川に撫でられていた。
「見た目が凄いけど、意外に大人しいんだな。」
その様子に安心したのか、梅本も気に入った妖馬に近寄っていく。
彼が選んだのは、二本角の馬。
「あたしはこれやな。」
北は、鬣の代わりにヒレの生えた馬の首を軽く叩いた。
「僕はこの子にするよ。」
谷中は鱗のある、ワニに似た顔付きの馬を。
「私は、この馬を頂きます。」
山中は白い一本角の馬に歩み寄った。
「オレはこいつが好きだなっ!」
残る木下は、三つ目の黒馬をにこにこしながら撫でる。
旅の相棒が決まり、光秀から妖馬の世話をもう一度教わりなおす。
これで後は荷造りをきちんと済ませれば完了だ。
六人が安土城を発つまで、あと少し。
「これはここに入れるんか?」
「…火打ち石ってどうやって使うんだ?」
「瓢箪!オレの瓢箪はっ!?」
がやがや煩いことこの上ない荷造りタイムである。
お世話係の双子が作ってくれた、ウエストポーチらしきものに必需品を入れ、背負う葛には着替えその他諸々を詰め込む。
ちなみに、それぞれの神器はどうしているのかというと。
「神器って何でもありなんですね。」
「だねー。こんなトコにしまえるとか、僕びっくりしたよ。」
山中、谷中の二人は早々に荷造りを終え、掌から電気と風を出現させる。
すると、そこからあの荷物としては大きさがあり得ないだろう神器が、スッと顔を覗かせた。
それぞれ能力を象徴する『モノ』から、神器を呼び出せるらしい。
「まるで召喚士になったみたいだよ。」
「その内、召喚獣とか喚べたりしますかね?」
のほほんと話していると、梅本から手伝ってくれ、と情けない要請が出る。
それを軽やかにスルーして、慌ただしく動き回る仲間達を眺めていると。
「失礼しますね。」
「「「お濃ちゃん!」」」
ひょこっと襖から顔を出した濃姫は、ごちゃごちゃになった部屋を見て目を丸くした。
「ごめんな、今ちょっとエライことになってるから。」
着物を葛に押し込もうと苦戦中の北が、唸るように言った。
「構いませんわ、すぐに済みますもの。少しだけよろしい?」
散らかった物を踏まないように気を付けて、濃姫は六人に近寄っていく。
作業する手を止めて、彼等は濃姫の周りに集まった。
「どうぞ。これを渡しておきたくて……。」
彼女の手から六つ、小さな巾着が手渡される。
それはずっしりと重く、金属が擦れる音から、中に何が入っているのか容易に想像がついた。
「これ…お金、か?」
木下が巾着を握り、濃姫を見上げる。
「少し重たいけれど……必要なものでございましょう?殿とわたくしからの餞別ですわ。」
にっこり笑って言う濃姫に、慌てて山中が口を開く。
「とんでもないです・・・・!こんなに沢山、頂けません!」
巾着を返そうとするが、濃姫はその手を押さえて頑なに離そうとしない。
「受け取って下さい。わたくしだって、貴方達にはお世話になったんですもの。それに、これは絶対必要になってくるものですから……。」
そこから無理です、受け取れ、というやり取りが数回続いたが、ついに六人が根負けして恐縮しながらも巾着を受け取った。
「どうしても申し訳なく思うなら……いつかまた、わたくしのお買い物にお付き合いしてくださいな。」
濃姫はそう言い残して、部屋を出ていった。
六人は暫く巾着をジッと見詰めていたが。
「ま、貰えるモンは貰っとこか。」
「ちったぁ遠慮しやがれ、このど阿呆!!」
あっさりと巾着をしまおうとする北の後頭部に、木下の拳が炸裂したのであった。
何はともあれ、荷造りも終了していよいよ出立の日が訪れた。
「今までお世話になりました!」
「感謝の言葉もありません!」
信長を始め、城内から多くの見送りが来ていた。
「……精々努力して生き残れ。貴様等は元手がかかってるからな、その辺で死んだら殺すぞ。」
物騒な信長の激励に、引き攣った顔で苦笑した。
そこから口々に別れの言葉が、顔馴染みになっている重臣達や使用人達から送られる。
「…そう言えば、義元さんの姿が見えませんね?」
あの能天気な元・公家の姿が見えないことに気付いた山中が、辺りを見回す。
すると。
「ま、間に合ったおじゃ!」
慌ただしく義元が双子と共に走り寄ってきた。
「「ぎりぎりせぇふですね!」」
双子の手には、何やら小さな包みが六つ。
「どうしたの、そんなにくたびれて。」
谷中が声をかけると、三人は息切れしながら六つの包みを押し付けてきた。中を開けると、大きなおにぎりが四つ入っている。
「…弁当、か?」
まじまじとそれを見て、小川が呟いた。
「お腹が空いたときにどうぞ。」
「特に木下様は必要なものでございましょう?」
双子はくすりと微笑んで言い、丁寧に一礼する。その隣に義元が並んだ。
「まろももう少ししたら、今川家に戻るつもりおじゃ。そちらともここでお別れ……達者で過ごせ。」
差し出された彼の手を六人は握り、妖馬に跨がった。
「「「それじゃ……行ってきます!!!」」」
その言葉を残して、蹄の音も高らかに、妖馬達は一斉に走り出す。
たちまち遠く離れていく六人の姿を見送り、信長は静かに息を吐いた。
「行ってしまわれましたね。」
「……ああ。」
濃姫が信長の顔を見上げ、そう呟いた。
「何故…配下におこうとなさらなかったのです?」
あの六人を手放した理由を濃姫は尋ねた。
もし、彼等がいつか国中に名を響かせるようになるなら…信長の前に立ち塞がるかもしれない。
そうなるなら、いっそ自分のものにしてしまったほうがよかったのではないのか。
しかし信長は首を振り、ニヤリとした笑みを浮かべる。
「彼奴がどこまでやれるか、楽しみではないか。いつか俺と対峙する日が来るかもしれないなら……それもまたいいだろう。その時には容赦せん。」
要するに、彼等の成長を楽しみにしているということだろう。
濃姫はやれやれと溜め息をつき、苦笑しながら六人の走り去った方向を眺めた。彼等の旅路の無事を祈って。
「ちょ、待っ、早い早い早い!!?」
「ストップ、じゃなかった、もっとゆっくりだっつーの!!!」
「はよ走りや、鬱陶しいな……下手くそ。」
「あのさ、何処に行くか考えてる?って聞いてないねー。」
「妖馬さんって、普通の馬に比べるととっても早いですね…!」
「しまった、おやつ持ってくるの忘れたぞっ!?」
六人六色、アホなことを口々に言いながら、気の向くままテキトーに走っていく。
縦横無尽、しかし五里霧中。行く先は駆ける馬の気の向くまま、彼等を乗せて何処へ行く?
やっと旅立てました!
ここまでくるのに結構時間かかりましたね・・・・・。
そろそろペースダウンが目立ちます、多分次があがるのも少し先になる予定です。
でも気長に待ってあげてください、ハイ。
ではまた次回!