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十二の噺 「占いの前ってやたらと緊張しない?」

 手が顔から完全に下り、再び壱目の顔を見た六人は、わあっと悲鳴をあげたいのを必死で抑え込んだ。

 それもその筈、さっきまで普通に二つの目があったのに、今は不気味に光る大きな目がギョロリと動いている。


 「だから言ったろう?わかりやすい名前だってね。」


 壱目は悪戯が成功したようで、ケラケラと笑っている。


 「やっぱ、一つ目じゃないと見えないんだな!」


 何やら木下は納得したような顔で、怖がりもせずに壱目の目を見ている。


 「詳細希望や。」

 「もちコースだマンボウ!」


 北の要望に応え、木下はVサインをきめた。


 「昔はさ、一つ目じゃないと神様のなんたるかは見えないっていう言い伝えがあって、神官がワザと片目を潰して儀式を行ってたトコもあったらしいんだぞっ!」


 嬉々としてそんなことを説明し、他がヘェと相槌を打つ。


 「おや、アンタ人間なのに詳しいんだね。随分的を得たことを言うじゃないか。」


 壱目は意外だというように、単眼を見開いた。


 「オレ、妖怪は昔から大好きなんだ。」


 得意気に木下は胸を張ってみせた。


 「この調子だと、ずっとチロちゃんのターンだね。」


 そんな彼女の様子を見ながら、谷中がそっと山中に囁く。


 「仕方ありませんよ。だって私達、この分野には詳しくありませんし……。」


 山中も苦笑して、そう囁き返すのであった。





 「よし、じゃあ始めるよ。まずはそうだね、アンタにしようか。」


 壱目は小川を手招きして、目の前に座らせた。


 「いいかい、静かに、動かないでおくれよ。」


 小川は緊張するのか、若干強張った顔で頷いた。壱目は一度深呼吸すると、ゆっくりとその単眼を覆う瞼を開き、彼の顔を真剣に見つめ始めた。

 壱目は何やらブツブツと呟き、広げていた帳面に書き込んでいく。見定めとやらはすぐに終わり、彼女は書き記した紙を破りとって小川に手渡した。


 「これを後でコマ公に見せな。今は中を見るんじゃないよ。次はアンタだ。」


 壱目に次々と呼ばれ、同じように何かを書かれた紙を渡される。まるで占いのようだった。全員の見定めは大体三十分程で終わった。


 「何かミョーに緊張したね。」

 「……この紙、気になるな。」


 壱目にお礼を言って部屋から出た後、彼等は手にした紙を開けたそうにしていた。


 「お前達、終わったのか?」


 偉そうな声に振り向けば、蘭丸がそこにいたが、信長の姿が見えない。


 「あれ、信長さんは?」

 「様とつけろ!信長様は奥座敷でゆっくりしていらっしゃる。僕が待っていてやったんだ。」


 心底嫌そうに蘭丸は言い、ぐるりと六人を見回した。むかっ腹を立てたい六人だが、今は自分の武器のことが気になる。

 蘭丸を見ないフリして、化け猫のコマを呼ぼうとすると。


 「終わったかい?六人もいちゃあ、意外と時間がかかるもんだね。」


 グッドタイミングで奥からコマが出てきた。


 「コマさん、これを壱目さんから渡せって言われたんですが……。」


 山中がそう言い、コマに紙を渡す。


 「ああ、そうだね。じゃあ皆のもくれるかい?」


 コマはピンクの肉球のついた手で、次々に紙を受け取っては目を通す。そして何が面白いのか、ニヤニヤと笑った。


 「フフ…皆がさァ、柄にもなく張り切ってるんだよ。ご指名を今か今かって待ちわびてるんだ。」


 コマは鋭い牙を見せ、愉しげに言った。


 「お小姓さん、旦那のとこに行ってきな。後は俺が引き受けるからさ。」


 コマの言葉に蘭丸は嬉しそうに笑うと、振り向きもせずに走って行ってしまった。


 「……多分信長と二人きりになれんのが嬉しいんやで。」


 シラーッとした目で蘭丸を見送った北は、そう呟いた。


 「……だろうな。」


 梅本も同意見のようだ。


 「さて、それじゃあ行こうか。皆がお待ちかねだから。」


 ヒラヒラと手招きするコマに従って、六人は彼の後に続いたのであった。






 コマに案内された場所は、まさに巻物に出てくるような百鬼夜行のような光景だった。様々な妖怪がところ狭しと集まり、爛々と眼を光らせながら六人を眺めている。


 「ど、どこのお化け屋敷だよこれ!」


 梅本は身体を強張らせて、低く呻いた。

 彼等のいた世界では、妖怪なんてお伽噺にしか登場しない存在だった。妖怪よりも、幽霊の方が信じられていただろう。

 それが、この異世界には妖怪が普通に存在しており、今自分達はそれをリアルタイムで感じているのだ。


 「磯女…山姥…土蜘蛛…鉄鼠…ふふ、ふふふ……。」


 木下といえば目に入る妖怪の名前を次々に言い当て、気持ち悪い笑いを溢れさせていた。


 「さて、それじゃあアンタ達の神器を拵える妖を紹介するよ。まずは小川殿だ……紅葉!」


 コマは紙を広げ、百鬼夜行の中に向かって呼び掛けた。(うごめ)く群れから颯爽と歩み出てきたのは、名に負けぬ程の紅い姿。

 紅蓮の髪に白蝋(はくろう)の如き顔、巫女装束を纏った絶世の美女。しかし、その焔のような髪からは、二本の黒い角がにょっきりと生え、袖口から覗く指先には狂暴な鉤爪が見えていた。


 「行きな、くれぐれも不躾(ぶしつけ)なことはしないようにするんだよ。八つ裂きにされちまったって、責任とれないからね。」


 焼けつきそうなオーラを放つ鬼女・紅葉に、完全に腰が退いている小川。しかしコマは更に彼をビビらせることしか言わず、背を押した。

 他の仲間達も、小川の心配をしている暇はない。


 「何か捕って喰われそうや……あたしヤバいんとちゃうかな…。」


 北は自分の腹周りを擦り、流石に青ざめた顔をした。


 「わ、私達……ガラスープにされちゃいます……!」

 「オレもミナちゃんも、骨ばっかだしなぁ。」


 痩せている木下と山中は腕の細さを眺めて溜め息をつき。


 「僕は普通だと思いたいけど……一番食べやすかったり?」


 谷中は冷や汗を流して後退りする。


 「お前等まだマシだろ!俺なんか…俺なんかなぁ!!」


 最近ちょっぴりお腹が気になる梅本は、八つ当たり気味に叫ぶ。

 何か論点がズレているような気がしてならない、とコマは一人思うが、余計なことは言わずにいておいた。


 「どうでもいいけど、次言うよ。梅本殿は……鎖岩(さがん)!」


 同じようにコマが呼び掛けると、今度はズルズルと何か太い蛇のような生き物が這い出てきた。胴回りは電柱よりも太く、身体には鎖のような模様があった。


 「ありゃ野槌(のづち)だなっ。」

 「にしても、どうやって武器を造るんでしょう?」


 山中は野槌の、妙にのっぺりした姿を見て首を傾げた。



まだまだ暴走は続きます。

そして作者の一言、「鳥山石燕はやっぱり偉大だ!」

百鬼夜行っていう言葉の並びがスゲェいいと思うのですよ。


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