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十の噺 「インドア派の耐久力って、障子紙よか低いんだぜ。」

とにもかくにも、六人の安土城での生活はそこそこ華麗に始まった。

朝、普段ならあり得ない時間に叩き起こされ朝食を食べる。そして義元による字の読み書き講座を受け、小休憩の後、武術と馬術の鍛練。

 たっぷり死ぬほどいびられた後、特別に昼食をとり二時間の休みを挟む。

 その後は、何故か魔王様とのお話タイムが待っている。充実しまくる日々のスケジュールに、毎日六人は真っ白に燃え尽きてしまう。


 「……何、この濃すぎる日課。」


 ばったりと部屋にぶっ倒れ、彼等は呆然と呟く。

 馬術はともかく、一番辛いのは武術だ。まず最初に課せられたのは、「攻撃を避ける」こと。技を見切る能力を、徹底的に叩き込まれた。

 しかし六人は一般人、パンピー中のパンピーである。

 身体には打撲切り傷擦り傷など、生傷が絶えない。忘れちゃいけないのが筋肉痛だ。訓練初日の次の日なんかは、指一本動かすことすら出来なかった。

 無理が祟って、発熱して寝込むことが何度あったか。

 そんな中、世話係三人と利家以外に、よく彼等の力になってくれたのが勝家と濃姫であった。

勝家は、何処からどう調達してきたのか、よく饅頭だの大福だのを差し入れし、濃姫は気晴らしに城下へ連れて行ってくれたり。

 そんな気遣いもあってか、なんとか六人は地獄のような日々を乗り切っていた。

そんなある日、いつものように武術の鍛練を行っていると、彼等はふと身体の変化に気付いた。


 一兵卒達が繰り出す槍を一心に避けていると。


 (あれ?なんかトロい?)


 やたらと攻撃が遅く見える。


 (み、見える!私にも見えるぞ…!)


 テンションがあがり、某赤い彗星のセリフが浮かぶ。


 「はい、ちょっと休むか。」

 「「「了解です。」」」


 わらわらと六人は集まり、汗を吹きながら視線を交わしあう。


 「……なぁ、何かさ…見えるよな?」


 最初に口火を切ったのは、小川だ。


 「やっぱり?やっぱり見えるよな?」


 続く梅本の言葉に、他もうんうんと頷く。


 「普通、僕達みたいな一般人が、こんな短期間で才能開花するかな?」

 「オレ、なんか反撃出来そうな気がすんだけど。」


 谷中と木下は身体のあちこちを見回す。


 「あの、少し試してみませんか?」

 「試すって何を?」


 山中の提案に、北が尋ねた。


 「槍をぶんどるんですよ。それで反撃してみませんか?」


 にっこりと笑い、山中はそう言う。


 「……え?」


 ポカンと口を開けていると、山中は楽しそうな顔で続ける。


 「試す価値はありますよ?一泡吹かせてやりましょう。」


 久し振りに見る、山中の黒笑。


 「……えーっと、ミナちゃん何かお怒り?」


 恐る恐る木下が尋ねると、山中はフルフルと首を振る。


 「いいえ?ただ……今まで好き放題に扱われていたのを思い出しまして、何だかこう、黒い感情がですね……。」

 「……それを怒りと言わずに何て呼ぶんだ…?」


 薄ら寒くなるような雰囲気を漂わせる山中を、皆は遠巻きに眺めた。




 休憩が終わり、訓練が再び始まる。

 彼等は山中の提案通り、槍を奪い取る隙を虎視眈々と狙う。シュッ、シュッと突き出される槍、そして柄を握り直すその時を、見逃さなかった。


 「もらったぁ!!!」

 「いっただきっ!!!」

 「ゲットだぜっ!!!」


 六人の手が蛇のように伸び、一瞬の隙をついて槍を奪い取った。

 そしてそれを構え、相手の首筋に突き付ける。流れるような動作だった。


「…出来た……。」


 あまりの上出来っぷりに、当の本人達も驚きを隠せない。

 というか、何故ここまでうまくいったんだ?


 「中々見事だ、餓鬼共!!」


 固まる空気を切って、厳めしい声が響いた。


 「の、信長様!」

 「信長様だ!」


 深紫の着物を粋に着こなした信長が、楽しそうに笑いながらそこに立っていた。


 「も、もしかして…さっきの、見てた?」


 六人の背に、嫌な汗がタラーリ流れる。

 魔王様はずかずかと近付いてくると、彼等の頭に手を伸ばした。

 思わず目を閉じるが、頭に感じたのは優しい感覚。


 「へ……?」


 驚いて瞼を開けると、信長が満足そうな顔で六人の頭をそれぞれ撫でていた。


 「あの~、もしもし?」


 どういう状況なのか理解できずに、目を白黒させていると。


 「よい出来であったぞ。」


 つまるところ、褒められているらしい。どう反応していいか困りきって、されるがままになっていると。


 「何だ、気に入らんのか?ふむ……お濃に褒めるときはこうしてみろ、と言われたんだがな。」

 「いや、まさか魔王様に頭撫でられる日が来ようとは、ゴマ粒ほども思わなかったんで。」

 「俺が褒めたのがそれほど意外か。」


 感想をストレートに言えば、信長は顔をしかめて腕をくんだ。


 「信兄も案外、やさしートコあるんだなっ。」

 「バカ、その呼び方は……!」


 慌てて梅本が木下を止めようとするが時既に遅し。


 「……のぶにい?」


 珍しく驚いた顔で、信長は木下の失言を繰り返した。


 「しいぃまったああぁぁ!!!」


 頭を抱えて絶叫する木下。そして一斉にアサッテの方向を向き、他人のフリをする仲間達。


 「信兄とは俺のことか、おい。」

 「ごめんなさいすみません口滑りました殺さんで下さい!!」


 ペコペコ頭を下げて謝りまくる木下。どうなるのかと思いきや。


 「ああ、成程……そう言えば又左が妙な名で呼ばれていたな。俺は「信兄」なのか。」


 何か気に入ったっぽい魔王様がいた。


 「貴様等の兄になる気はないが、まぁ好きに呼べ。」

 「…え、オレ死なないの?」

 「なんで死ぬんだ。」


 木下の頭を再び撫で、信長は残りの五人を手招きして呼ぶ。全員が揃うと、信長はおもむろにこう言った。


 「貴様等、武器が欲しいか?」

 「武器って、神器のことか?」


 北が興味深そうに尋ねると、信長はこくりと頷いた。


 「まだ早いんじゃ……。」


 小川はあまり乗り気ではなさそうだ。

 それもその筈、まだまだ自分達は武器を持って戦えるレベルじゃないと思うからだ。


 「普通の餓鬼共が、数週間の訓練で敵兵の槍を奪い取り、首に突き付けることが出来るとは思わんが?」


 信長はスッと目を細め、ジッと六人を眺める。言われてみればそんな気がしなくもない。


 「あたしは賛成やけどな。武器の使い方も同時に教えてもらおうや。」


 北は武器を持つことに期待しているようだった。


 「明日、朝飯を食ったら城の裏に来い。遅れたら……わかるな?」


 信長は武器を与える気満々のようだ。それだけ言うと、信長はさっさと立ち去ってしまった。




武器がいよいよもらえます。

次回はやっとファンタジーっぽいことが書けるかも・・・・。

いよいよ鍛冶屋に行くお話です。

作者が趣味に走ります、多分。

そしてあだ名についてはぬるい目で見逃して下さい。


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