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頼みの神

作者: 十一橋P助

 私たちが結婚したのは5年前のことだ。お互い晩婚だった。だからすぐに子作りに励んだ。2人とも子供がほしいと望んでいたからだ。

 当初は基礎体温を測り、排卵日をきちんと計算し、自然な形での妊娠を試みたものの月日が過ぎるばかりで結果は出ず、話し合いの結果クリニックに通うことになった。たがいの身体に異常がないことを確認し、その上で人工授精にも取り組んだ。だが、何度繰り返しても子供はできなかった。

 私は45歳、妻は39歳。そろそろ限界だ。年齢的にも、金銭的にも。

 それでも妻はあきらめようとはしなかった。私もその願いに応えたかった。

 どうにかして子宝を授かれないかと思案するうち、たどり着いたのは神頼みだった。そういったご利益があると噂される寺社仏閣を全国片っ端から二人で回ったのだ。

 そんな折、私の脳裏にある記憶が甦った。子供のころの話だ。小学生だった私はある昔話を読んだ。少年が寂れた神社の境内を毎日掃除するうち、そこに宿る神様が現れて、働き者の少年のために、どんな願いでもひとつだけ叶えてやると言うのだ。少年は妹の病を治してほしいと願い、それが叶えられてめでたしめでたしとなった。

 その物語に触発され、私も近所の神社の掃除をするようになった。半年が過ぎたころ、私の夢枕に神様が立った。そしてあの昔話と同じせりふを口にしたのだ。

だがそのころまだ純真無垢だった私には願いなどなかった。ただ物語に影響されて掃除を始めたに過ぎないのだ。

なかなか願いを口に出せない私に神様は微笑みかけ、こう言った。

「焦ることはない。願いを思いついたなら、いつでも私の元に来て言うがよい」

 しばらくの間はどんな願いにしようかと思いを巡らせていたものだが、時が経つにつれて神社から足が遠のき、その記憶もどんどん薄れていった。願いを口にしないまま。

 今こそ、その機会が訪れたのだ。妻にその話をすると彼女も乗り気になった。すぐに私の実家へ帰り、近所の神社に足を運んだ。

 翌朝、ベッドから飛び起きた妻は興奮気味に私に言った。

「夢の中に現れたわ!神様よ!」

 私はその神様がどんな容姿をしていたかを訊ねた。妻はその特徴を事細かに説明した。彼女に言ったことはなかったのに、それは私の夢の中に現れた神様と見事に一致していた。

「それで、夢の中で神様はなんて?」

「えっと……、それは……」

 なぜか妻は視線を逸らせて言葉を濁した。

「ん?どうした?」

「なんでもない。とにかく神様が現れたんだから、きっと願いは届いたのよ」

 そうだ。そのとおりだ。30年以上が過ぎていたが、神様はちゃんと覚えていてくださったのだ。

 1ヵ月後、妻の妊娠がわかった。願いが叶ったのだ。改めて神様にお礼参りにいった。

  10ヵ月後には元気な男の子が産まれ、すくすくと大きくなっていった。

  幸せなはずなのに、私の心の中には少しだけ引っかかることがあった。

  成長する息子の面差しが、あの日の夢の中で見た神様の顔に日に日に似てきたのだ。

  この子は本当に私の子なのだろうか?

  そして、妻は夢の中でいったいなにをしたというのだろうか……。

 


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