92・雨の六月と入学試験の七月
「マサル、今日も雨だな」
「ああ」
「六月が雨なのはサメル村だけでは無いのだな」
「そうだな、ギャは王都で雨を経験しなかったのか」
「奴隷商の建物の中にいたからな。あそこは一年中ジメジメしていた」
「そうか、悪いことを聞いたな」
「だがある日、天の声が聞こえたのだ」
「なんだそれ」
「ギャの元へ、光の従者が現れるのだ」
「・・・はいっ」
「従者はギャの為の光の剣と光の鞄、そして光の書を持ってくるのだ」
「なんか俺みたいだが、それでどうなる」
「ギャを、新しい世界に連れて行くのだ」
「それで」
「それで、ギャが何者かわかるだが、それが何者かは良くわからなかった」
「そうか、ギャが従者を連れた何者かになるんだな。それで俺が従者だから呼び捨てにしたり上から目線で見たりするんだ。だがギャよ現実をよく見るんだな」
「そこはちゃんと理解しているぞ、ギャはマサルの奴隷だからな」
「そうそう」
ギャは光の剣と鞄と書と言ったが、属性:光でないと使えないのは鞄だけだ。
剣は試しにガーネに魔力を流して貰うと炎の刃になったし、医学書も属性関係なしに魔力を流せば表紙が光った。
六月のひと月はだいたい雨だ。
今日も雨の中学校に行く。
レインコートを着てロバに乗っていく。
生徒たちは馬車の送り迎えなので雨に濡れることは無い。
学校に着くと俺とギャはレインコートを用務員室の壁に掛け。
「じゃあギャ、俺は授業に行くから、倉庫の掃除頼んだぞ」
「オー」
各々の仕事に向かう。
薬草倉庫と薬作りの器具の倉庫の掃除は俺とギャでやっている。
他の教室や職員室などは放課後に業者が来て掃除をしてくれるが、薬草の横流しが有ったし、器具を壊されても困るので、此処は俺とギャが担当する。
俺が来るまでの半年の授業がまともで無かったせいで、教えることが沢山ある。
それでも生徒が五人しかいないのが良かった。
何とか七月末までには一年生のカリキュラムを終了できそうだ。
「先生、学校と言えばテストです。テストは無いのですか」
「やって欲しいか」
「・・・いえ、無くていいです」
生徒を代表してウルキダが聞いてきた。
「五人しかいないから、全員の学力はわかっている。今のままで行けば全員進級は間違いない。だが気を緩めるなよ、もし落第すると来年は定員の生徒が入って来るからな、這い上がるのは難しいぞ」
「先生そうなんですか」
「ああ、リン達は聞いていないか。来年度の募集に定員以上の申し込みが来そうなんだ」
「定員以上ってことは、入試試験が有るのですね」
「有る、はずだ」
あれ、入試問題って俺が作るのか。
校長に確認してみよう。
そして、問題は俺が作ることになった。
試験は七月の初め、あと二週間も無いぞ。
「マサル、なに慌てた顔しているのだ」
昼休み、食事の為に用務員室に行くとギャに言われた。
「入試問題を作ることになった」
「そんなことか」
「そんなことじゃない、何を問題にするんだ」
「そうだな、薬や薬草のことは学校に入ってから教わるから問題に出しては駄目だな。まずは基礎学力だ、読み書き計算だな、次に常識問題だ、王都の歴史や冒険者ギルドの制度なんかどうだ。筆記試験を一次にして二次で面接を行う、これで良いだろう」
「・・・そうする」
一応姉貴や上の兄貴にも相談して問題を作ることにした。
それからは昼までは授業を教え、昼からは学校で問題作りをする。
生徒はギャから薬作りを教わっている。
座学での授業は俺の方が上手いが実技を教えるのはギャの方が上手かった。
なまじ高度な薬草作りの技術が有る俺より、生徒に近いギャの方が生徒はわかりやすいのだろう。
こうして問題も出来あがり、入試が行われた。
入試会場は、学校ではなく、第八区にある会場を借りた。
受験者の半数が平民だったので、第四区迄来ることが出来ないからだ。
会場には三十人の受験者が集まった。
平民の子供が十五人、そのうち十人はお金持ちの子供だが残りの子供はそうではない。
なんとカエデ製薬で『奨学金制度』を立ち上げ、お金の無い平民でも成績優秀なら学校に通えるようにしたのだ。
あとは貴族の子供が十五人の三十人だ。
受験生の中に薬師や薬屋の子供が五人含まれている。
今までは薬師になるには師匠に弟子入りしていた。
それがダンブロア家の策略により薬師に資格が設けられ、薬師をやるには資格が必要になってしまった。
今まで薬師をやっていた者は申請だけで取得したが、これからは試験に受かるか学園を卒業しなければいけない。
そのためなのか薬師の子供たちも受験に来ていた。
「なあマサル、薬師になるための試験とは難しいのか」
「ああ、筆記と実技が有る。この前お試しの試験が行われたが、現役の薬師でも二割が落ちた」
「その落ちた薬師も既得権で申請で資格は持っていたのだな」
「そうなんだ、これを見て国も資格の重要性を再確認したんだ」
「ダンブロア家の面目躍如だな」
「そうなってしまったな」
まあ、薬師全体で見れば良い事になる。
子弟制では薬師の基準がはっきりしていないからな。
そして一次試験の合格者は二十二人だった。
落ちた八人の学力では薬師学校の授業についていけない。
八人のうち五人は貴族の子供で、三人は金持ちの平民の子だった。
お金の無い家は奨学金を当てにしているので、実力の無い子は来ていなかった。
「マサル、二次で二人落とすのか」
「そうだな、結果次第だな」
結果として、教室に新しく二つの机が運ばれた。
「マサル面接の必要はなかったな」
「そうでもないぞ、合格にはしたが問題の有りそうな生徒がわかったからな」
「何だ問題とは」
「秘密だ」
教えられない問題だからな。
そして七月も終わる。
五人の生徒は無事に進級しひと月の夏休みに入って行った。




