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9・旅は道連れ世は情け いや金だ

「おい、ギャ。起きろ朝だ」

「うーん、眠い。マサル朝早すぎる」


「奴隷のお前が言うな。早起きは三文の得だぞ」

「三文って何、わかった兎に角起きる」


貧乏貴族の俺の朝は早い。

ギルドに早くいけば、良い依頼を見つけられる。

薬草採取も遠くまで行ける。

早起きして損をする事は無いのだ。


朝食は宿の部屋でとる。

いつも通り次元鞄から取り出して食べた。


宿のカウンターにカギを返し厩からロバと荷車を出してくる。


「さあ、出発だ」

俺が言うと。

「今 陽が昇る 希望の星 両手につかみ」

ギャが続けた。


「なんだそれ」

「一緒にいた奴隷に教わった、元気を出すおまじないだって」

まあいい、とにかく出発だ。


ギャをロバの引く荷車に乗せ、ロバの手綱を握りサメル村に向かう。


「あのー」

宿の食堂で隣のテーブルにいたお嬢様だ。


「なにか」

「もし、行く方向が同じでしたら、その荷車に爺を乗せて欲しいのです、今朝起きたら腰が痛くて歩けないと」


「どちらへ」

「サメル村まで」


「マサル、同じ目的地。あたい降りて歩く」

「そうか、ギャがいいなら、お嬢さんそういうことだ、爺とやらを乗せよう」


「ありがとうございます、さあ爺、荷車の乗せてもらえますよ」

「お嬢様、申し訳ない足手まといになるばかりで」


「いいえ、無理を言って連れ出したのは私です」

「・・・・・・はい」

お嬢様に言われ、爺は荷車に乗り込んだ。


「お前たち、荷物は肩にかけている鞄だけか」

旅人なのにやけに荷物が少ない。

「ええ、異次元鞄ですから、これだけで十分です」

すごいな異次元鞄って珍しいはずだ。


「そっか、で。お金払えるのか」

とりあえず聞いておこう。


「お金取るのですか」

「まあ訳次第だな、俺もギャとの二人旅より四人の方が都合がよさそうだから、着いてから相談と言うことにしておこう」

「・・・・・・ええ」

こりゃお金持っていないな、あの宿に泊まるくらいだから有るとは思ってはいなかったが。


「それでどうするギャ、歩くかロバに乗るか」

「乗るぞマサル、そのほうが偉そうに見える」

こいつ本当に生まれながらの奴隷なのか、上から目線が慣れているぞ。


「お嬢様、疲れたら言ってくれ、ギャと交代してロバに乗ってもらうからな」

「はい」


それからサメル村への旅は順調だった。

たまに強盗や獣に襲われるが、バフかけして魔剣を振り回し追い払った。


「マサル様は名のある冒険者なのですか」

お嬢様がキラキラした目で見つめてくれた。


「いいえ、名もなき冒険者です」

「マサルおかしいぞ、ちゃんとマサルという名前がある」

「ギャ、せっかくいい雰囲気だったんだぞ、壊すな」


「ふふふふ、仲の良いことですね、それから私にもロマンヌという名前があります」

「ロマンヌさんですね、綺麗な名前です」


「マサル、ギャも綺麗な名前だぞ」

「いや、それ無理だ」

夫婦漫才のような会話をしながら旅は続いた。


「マサル、どうする人が増えると鞄の中の食糧足りなくなる」

「鞄の中は昼だけにしよう、どうせ彼女らと一緒だ、宿の飯を食べることになるからな」


「マサルの飯のほうがうまいが我慢する、所詮あたいは奴隷暮らしさ」

「どんな奴隷暮らしだ」

奴隷商にいたころはそうだったろうが、俺と会ってからは割とまともだろ。


街道沿いにドライブインやサービスエリアはない。

此処まで田舎に来ると食堂も宿に併設されたものだけだ。

昼は硬いパンと干し肉をかじるくらいが普通なのだが。


「まあ、素敵な昼食ですね」

「俺が作りました、お口に合えば幸いです」

異次元鞄から出来立ての食事を出す。


やわらかいパンと肉入り野菜スープ、それにベーコンエッグだ。


「マサルはロマンヌに優しく話しかける。ギャにもそうしろ」

ギャが焼いているのかな。


「だから、ギャは奴隷だろ、奴隷にしては優しく話しかけているぞ」

「いや、言葉に愛が感じられない」


「お前はアホか、うるさいこと言うと飯抜きにする」

「マサル、うそうそ。ごめん、ギャ我慢する」

「そうだろ、黙って食え」


爺も荷車から降りてきて四人で昼飯を食べる。


食べ終わればまた歩き出す。

今日泊る村を過ぎれば次は目的のサメル村だ。


「マサル様はサメル村へはどんなお仕事で向かわれるのですか」

「ああ、一応こいつを買い主に届けることにしたんだが、ちょっと事情が変わったようだな」


「マサル、やっぱりその設定も無理だったな」

「だから設定言うな。しょうがない本当の理由をお教えしましょう、ギャも良く聞け。俺はサメル村を拠点に魔獣を狩りに行くんだ」


「えっ、マサル様が魔獣狩りですか、まさかサメル村の先の先にあるズンダダ森に魔獣がいることを知っているのですか」

「あれ、それってみんな知らないの」


「当たり前です、サメル村の人以外知らないはずです」

「ということはお嬢様はサメル村の人なのかな」


「ええ、サメル村村長の娘です、それよりそのことを誰に聞いたのですか」

「それは、それはどうしよっかな」

知っているよ、当たり前じゃん、俺は村を管理する貴族の息子だぞ。

うーん、そっか秘密だったんだ。


俺の家はロバの流通販売の権利を持っている。

これはサメル村でロバの繁殖と飼育に成功しているからだ。


そしてその他に村の収入として魔獣狩りがある。

魔獣とは魔力を体内に取り込める獣だ。


人間は満ち溢れる魔力を使うが体内に取り込むことは、ほとんど出来ない。

出来るのは、属性:光の人が治療のために魔力を病人やケガ人に注ぎ込む時と、バフかける時だ。

どちらも体内に魔力を流し込まないとできないからだ。



俺は自分の治療やハブかけのために魔力を体に取り込むが、あくまで治療とハブかけの時だけだ。


魔獣の魔力を取り込んだ毛皮や牙などの素材が魔具に使えるのだ。

魔獣の素材は、希少なことも有り高額で取引される。


「魔獣のことを知っているのは、素材を卸している業者と、この村を管理する国だけです」

「そうだよね、あっ、そうそう、ほらギャの履いている靴、魔獣の皮で出来ているんだ」


「そうみたいですね」

「すり減ってもう見えないけど、メイドインサメルって書いてあったんだよ」

当然うそだ。


「まさか、そんなことは無いはずですが、でも困りましたね、マサル様が魔獣のことを知っているのはまずいです」

「そうですよね、それではこうしましょ、俺は魔獣は知らない。だが村にしばらくいるうちに知ってしまった、ではどうですか」


「それに私が協力しろと」

「ええ、村長の娘さんならできるかと、それに、そこの爺様と一緒に何処かに行かれたようですが、かなり訳ありかと。今回の旅の手助け等々色々合わせて面倒見ますので、どうでしょうか」


「マサル、人の弱みに付け込みながら取引してる、ずるい」

「確かにずるいですね、でも私のほうではお金がかからない取引です。しょうがありません、取引に応じます。爺よろしいですね」


「ええ、お嬢様、爺もそのお方が村の救世主になるような気がします」

「マサル、救世主違う、ただの変態」


「おい変態言うな」

「わかった」


そして翌日の夕方にはサメル村に到着した。

俺とギャは、お嬢様が無理を言って爺を荷車で運んでくれた優しい旅人と紹介された。


「おおこのロバは、まさしくサメル村で生まれたもの。大事の育てられている。ロバを大切にする人に悪い人はいない。どうかゆっくりして行ってくれ」

俺はロバのおかげで村長に気に入られ、しばらく村で過ごすことを許された。

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