84・先生と呼ばれます
「おはよう、今日から私の代わりに教えるマサルだ」
「マサルです、よろしくお願いします。
姉貴の命令で王都に有る薬師学校に用務員として勤めることになったが、俺が生徒に薬作りを教えることになった。
俺が教師で無く用務員として学校に来たのは、カエデ製薬の人間だからだ。
薬師学校を経営するダンブロア家は薬草や薬の流通販売の権利を持っているが、薬草を自分で取ってきて、一般販売しかしないカエデ製薬とはあまり仲が良くなかった。
カエデ製薬から教師を雇いたくないのだ。
だが、薬師学校は人手不足のうえ、肝心な薬作りを教える人がいない。
校長が今まで教えていたが、薬の流通販売をしているのに、薬作りの知識が乏しかった。
そこで用務員として学校に来た俺が薬作りを教える。
「それではマサル、後はよろしく」
「・・・はい」
紹介を済ませると校長は教室から出て行った。
「えー、まずは自己紹介だな。俺はマサル。用務員として学校に来ているが、カエデ製薬の社員でもあり薬作りが出来る。なので生徒に教えるよう頼まれた。そして俺の横にいるのがギャだ。生徒に教えると本来の用務員の仕事が出来ないので、用務の仕事はギャがすることになる」
「ギャだ、よろしく」
挨拶をした俺とギャを見る生徒の顔は不安げだ。
「あのー、先生って呼んでも良いんですよね」
五人いる生徒のリーダーらしき生徒が聞いてくる。
今回俺は貴族ではなく庶民として来ている。
生徒はみんな貴族の子供たちだから、マサルと呼び捨てでも良いのだが、やはり言いずらいだろう。
「教室の中では先生と呼んでくれ。外では用務員だからマサルが用務のおじさんと呼んで欲しい」
「はい」
これで俺の呼び方が決まった。
まずは出席を取る、五人なので見ればわかるが、顔と名前の確認のためだ。
男子生徒二人と女性生徒三人の顔と名前を覚える。
歳は十五から十六で学年で言えば俺の一つ下だ。
「では、まずこの本を配る、ギャ渡してくれ」
いきなりギャを一人で用務の仕事に就かせられないので今日は俺の助手だ。
「オー」
薄い本四冊ずつを生徒に配る。
「先生、この本は」
「ああ、この教科書だと難しくなかったか」
校長から渡されている教科書だ。
「・・・はい」
「だろ、だからわかりやすい本を持ってきた」
「あの、また一から始めるのですか」
「そうなるかもしれない」
そう言うと五人全員が不安そうだ。
「安心しろ、此処にいるギャも薬草採取から薬草の下地処理、薬作りまで出来るぞ。なあギャ、一年もかからず覚えたよな」
「オー」
「学校は二年ある、卒業までには立派な薬師に慣れるぞ」
「「「「「・・・はい」」」」」
やはり不安げだ。
「そうだな、ギャが薬を作る所を見れば納得するかな、ギャ取りあえず薬を作ってみろ」
「オー、と言いたいのだが、マサル 薬作りの道具や器具は管理が悪くて汚れているぞ」
「そうだな、予定変更だ、今日は道具と器具を洗うぞ」
「・・・嫌です。俺たち貴族はそんなことやりたくないです、その為の用務員じゃ無いのですか」
リーダーの男子生徒だ、言っているが正しく聞こえるが。
「薬師は貴族でも庶民でも道具と器具の管理は自分でやる、綺麗に洗わず汚れや前に使った薬草が付いた器具を使ったらどうなるかぐらいわかるだろ」
「どうなるんですか」
「それくらいわかってくれ、不純物の入った薬は、本来の効き目が無かったり、最悪の場合は毒になってしまう。薬は病人や怪我人が使うんだぞ、薬を使用して悪化したら大問題だ。そんな薬は誰も買ってくれないぞ」
「・・・別にいいです」
これは困った。薬師になりたくない人間に教えるのは無理だ。
しょうがない、まずは何故学校に来ているか聞いてみる。
「私は親に言われて無理やり来ています」
「私も」
「俺も」
「自分も」
「同じく」
まあそうだな。
まず男子生徒は貴族の三男と四男だった。
女子生徒も長女はいなかった。
ダンブロア家に言われ親が子供を学校に入学させたのは聞いている。
だが貴族の三男四男では勤め先に苦労する。
女子も嫁に行くとき資格が有ったほうが良い所に行ける可能性が高くなる。
そんな思いで学校に入れたはずだ。
「わかった、今日は俺とギャは用務の仕事に専念する。お前らは教科書を読んでいろ。ギャ行くぞ」
「オー」
俺とギャは教室を出て薬作りの道具や器具を置いてある倉庫に向かった。
「ギャ、これは苦労しそうだな」
「オー、だがマサルの言い方も悪いぞ、マサルは庶民としてきている、生徒は貴族だ、もっとへりくだった言い方をした方が良いぞ」
「駄目だな、よけい舐められる」
「難しいのだな」
確かに難しい、身分の低い庶民がやる気のない生徒に教えるのだから。
まあ生徒に用務の仕事をすると教室を出てきたので、ギャと道具を洗いだす。
「マサル、道具だけは良いものがそろっているな」
「確かに」
何と蒸留器まである。
道具を洗い終えると次は薬草の倉庫に向かう。
倉庫番は奥で寝ている。よく一日寝ていられるものだ。
一応、倉庫の掃除に来ましたと声をかけておく。
「マサル、薬草が駄目になっているぞ」
「そうだな、下地処理をして納品したやつも駄目になったいるな」
全く管理していない、これじゃあ次々に薬草を治めろと言ってくるわけだ。
これを校長に報告しても無駄だろう、これから俺とギャでやっていくしかない。
こうして前途多難な学校生活が始まった。




