83・教科書を作ります
「姉貴、この本を何冊か作りたいんだが、知り合いの印刷所紹介してくれ」
「本って」
俺は薄い本を四冊取り出した。
『優しい薬の作り方』『身体の構造と働き』『病気の原因と治し方』『病気にならない料理のレシピ』の四冊だ。
料理のレシピ本以外はサメル村の薬屋カエデで雇ったカルやマイ、それとジュンとネネに教えるために作ったものだ。
『体の構造と働き』と『病気の原因と直し方』はリサイクルショップで買った医学書を元に書いてある。
ポーションとヒールを覚えているフェリンにはもう少し詳しく書いて渡してきた。
四冊をぱらぱらと見た姉貴は。
「これいいわね。マサルは何冊必要なの」
「確か学校の生徒が五人だから、五冊だな」
元本は俺が使う。
「じゃあ、全部で十二冊刷るわ。カエデ製薬で二冊、独立した店に一冊ずつね。印刷代はマサルもちでいいでしょ」
「会社の経費でお願いしたい」
俺って社長だよな。経費にしろって命令して良いんだよね。
「・・・わかったわ」
良かった、会社で出してくれる。
四冊一組で十二組と言っても、一冊一冊が薄いのでたいしたページ数ではないのだが、イラストが多いので印刷代は思った以上にかかってしまった。
「それにしてもマサル、この本の元になった本が有るのでしょ」
「ああ」
「見せなさい』
「それだけは・・・無理。存在が知れると命が危ない」
「何、そんなに危ないものなの」
「ああ」
姉貴に医学書を見せるのは回避できたが、理由だけは話すことになった。
あの医学書、魔力を流すと教会の紋が輝き浮かび上がるのだ。
魔力は属性:光でなくても光ったので、単なる照明魔具が表紙に組み込まれているだけだが、もともと教会が所有しているものだとわかる。
そんな医学賞が何故リサイクルショップに有ったのか。
これはサメル村でフェリンと話していて想像が出来た。
教会には大きく二つの派閥が有る。
ヒールは神の力で起きる派と、身体の修復力や免疫力を医学的に理解して治す派だ。
神の力派から見れば医学書は邪悪な本となり抹消すべき対象だ。
医学派から取り上げた本が、リサイクルショップに回ったと思っている。
姉貴に一通り説明すると。
「確かに厄介なものね、見ないで正解だわ」
見てしまうと、聞かれた時に『知らない』と言い切るのが難しくなるからな。
料理のレシピ本も、玉ねぎは血液をサラサラにするとか、ブルーベリーは目に良いとか、人参は風邪予防や貧血に良いとか、トマトは身体のむくみを取るとか、そんなことも書いておいた。
そして、俺は出来上がった薄い本五人分を持って薬師学校に向かった。
「おはようございます。今日から用務員として雇われたマサルです」
まずは学校の受付で挨拶をする。
「・・・ああ、聞いている。入っていいぞ」
薬草を届けに来たとき会っているのだが、覚えていないようだ。
ギャは首輪を見せて俺と一緒に学校に入っていく。
銀色の髪と白目を隠す為、帽子をかぶりゴーグルをしているのだが、興味が無いのか気にも留めなかった。
まずは職員室だな。
校長や教師に挨拶しなければ。
職員室に入るが、誰もいない。
しょうがない校長だ。
トン トン トン
「誰だ」
「今日から用務員としてきました、マサルです」
「入れ」
俺とギャは校長室に入る。
「・・・マサル、この前の教師だぞ」
ギャが小声で俺に言う。
「よろしく、マサル。校長のドルンバ:シルラファントだ」
「マサルです。こいつはギャ、借りてきました」
用務員として雇われるのに貴族はまずいと姉貴からバルノタイザン家の名前は外すように、そして貴族でない俺が奴隷を持っているのもおかしいので借りてきたことにしろと言われている。
「そうか、それでカエデ製薬に話した通り、薬の作り方を教えられるのだな」
「はい、薬師の資格も持っています」
持っているが、マサル:バルノタイザンと書かれているので証明書は見せられない。
良く見えないように、ひらひらと動かしながら見せた。
「そうか、頼んだぞ」
良く見えなくても大丈夫だった。
「それで校長、他の教師に紹介して欲しいのですが」
「・・・いない。私が教えている。」
「そ、そうですか」
覗き見した時に校長が教えていたのは、他に教師がいないからだった。
これじゃあ俺の証明書を確認する余裕も無いな。
校長の説明では、学校には校長と受け付け、そして倉庫番の三人しかおらず、何と校長は薬師の資格を持っていなかった。
いくらキャメル家が金儲けの為に作った学校とはいえケチりすぎだろ。
と、思ったが、受付も倉庫番も貴族だ。
縁故採用で給料も高く、教師を雇えたかったと後で知ることが出来た。
「では、まず用務員の仕事を教えてください」
「そうだな、掃除もそうだが事務から何からすべてだ、受付と倉庫番は一日座って何もしないから、出来ればそっちも頼みたい」
「マサル、確か学校が出来て半年以上が立つぞ、今までどうやって来たんだ」
「・・・わからん」
こうして俺とギャの学校生活が始まった。




