8・旅の宿にて
「へい、いらっしゃいませ。お二人様ですね。えー御兄妹でいらっしゃいますか、ならばひと部屋でよろしいでしょうか」
おっ、いい風に勘違いしてくれたな。
しかし、ゴーグルも外さず、毛布もかぶったままで、よく妹だと思ったな。
「ああひと部屋で頼む」
「それでは一万円で、前払いでお願いしやす」
料金を払い、カギを預かるとロバを厩につなぎ、異次元鞄からえさの草を取り出し与える。
そしてカギに付けられた番号の部屋に向かう。
「マサル、この宿も靴脱がなくていいのか」
「ああ、大丈夫みたいだ」
俺はギャの靴に気付く、靴は女の子用の赤色だったので妹と思ったのだろう。
しかしギャは靴を脱ぐ習慣を何処で経験したんだろう。
「ねえマサル兄ちゃん、お風呂は別々なんだよね」
兄妹と言われすぐにお兄ちゃんと呼んでくるギャは賢いな。
「ああ、混浴の宿など無いな、別々か時間で分けるの普通だ」
「じゃあギャは入らない。首輪見られたくない」
「そうだな、それじゃ外してみればどうだ」
「だから無理だって、奴隷の首輪は光の魔力を沢山流さないと外れないの」
「そうだな、だがもしかするとギャが自分の魔力は流したら外れるかも」
「そんなことない、でもやってみる」
カチャ
「あれ、外れた、なんで」
「うーん、不良品の首輪だったんじゃないか。まあ風呂の時だけ外しておけ」
「あ、え、お、い、うん」
納得いかないようだが、首輪にはギャの本当の名前が彫られていた。
自分で魔力を流したら外れるかなと適当に思ったことを言ったら本当に外れてしまった。
風呂から上がったギャに
「どうする、まずいかもしれないが、ここの宿の飯を食べてみるか」
「マサル、お金払ってまずい飯はいらない」
「そうか、じゃあ俺一人で行ってくる、ギャの分はこのテーブルに置いておくぞ」
「一人で食べるのもっといや、マサルと一緒に行く」
「そうか」
俺はギャを連れて食堂に行く。
たいていの宿は、食堂に村人達も食べに来る。
此処の食堂も酒を飲みながら騒いでいる客が何人かいる。
「お客さん、何にする」
「ああ、猪肉の生姜焼きと野菜スープとケチャップ味のパスタだ」
「あたいはこれ」
「ああB定食ね、子供にも人気があるんだ」
B定食は、小さなハンバーグ ケチャップ味のバスタ 蒸し芋 サラダが一枚の皿に乗っている。
パンは別皿でバター付きだ。
確かに子供に人気がありそうだ。
「なあギャ、これって言ったが文字は読めないのか」
「ゴーグルで見づらかった、ここのメニューはイラスト付き、絵がおいしそうだった」
「そうか、ならいいが、文字は読めるんだな、得意でなければ教えてやぞ」
「・・・・・・わかった」
気のない返事が返ってきた。
飯がテーブルの届くとギャは黙々と食べ始める。
それを見ながら俺も食べる。
思ったほどはまずくない、それなりに繁盛しているのもうなずけた。
「お客さん、お酒はどうだい」
「いや、成人になったばかりで酒は飲んだことが無い」
「そうか、残念だな、うまい酒があったのに」
「飲めるようになったら来ることにする」
「ああ、ぜひ来てくれ」
儲けの大きい酒が売れず、残念そうに店主が店の奥に入っていった。
「マサル、お酒は駄目、お酒で失敗した人、お店に一緒にいた」
「そうだな」
ギャの言うお店は奴隷商のことだ。
酒で身を落として奴隷になるものがいるんだな。
奴隷になる理由はたくさんある。
貧乏な家が子供を売ることも有るがそれは珍しいことだ。
ほとんどの奴隷は、酒癖 手癖 性格が悪いなどで職を辞め、借金を重ねた者達だ。
手癖や性格は悪いが才能はある、そんな人が奴隷の首輪で縛れられれば、優秀な働き手になる。
だから百万円から五百万円の価値があるのだ。
酒癖 手癖 性格が悪く才能もない奴はどうなるか。
犯罪者になり犯罪者奴隷になって、どこかで穴でも掘っている。
田舎の食堂だが、宿に併設されているので、お客の半数は旅人だ。
そのせいか、ギャの鏡を見ないで自分でハサミで切ったような不揃いな銀色の短髪も、家の中でゴーグルを外さないのも気にするものはない。
スカーフからちらっと見える奴隷の首輪に見える首輪も気にしないかと思ったら。
「あら、爺。あれは奴隷の首輪ではないですか」
「お嬢様、食事中、余所見ははしたないですよ」
「ごめんなさい、でも一般の方と御一緒出来る奴隷には見えませんね」
「お嬢様、人にはそれぞれ訳があるのです、どうか気にせず食事を続けてください」
隣の席の会話が聞こえる。
お嬢様といわれる人の話はわかる。
癖が悪くても才能のある奴隷なら、首輪で縛られて一般人の中で生活することが出来る。
そうでないものは穴を掘っているのだ。
ギャは八歳のやせ細った子供だ、どう見ても才能があるようには見えない。
しかしそう言っているお嬢様もおかしい。
爺を連れているのだから、偽物のお嬢様ではなさそうだ。
食べ方にも品がある。
そんな人が、安い宿の食堂に爺と二人で食べている。
だが、俺は気にしない。さっきそこの爺が言っているが、人にはそれぞれ訳があるのだろう。
食事が終わると部屋に戻る。
「ねえマサル。やっぱり別々に食事をとらないとだめだと思う」
「なんでだ」
「だって、この首輪を、チラチラ見られた」
「気にするな、奴隷が一緒にいてはいけない決まりはない」
「でも初めての宿では、風呂に入るなと言われた」
「あれは、見た目だ。それが証拠に服を着替えたら風呂を使って良いと言ったろ」
「見た目って」
「人は見た目で判断する。だから始めは、能力なしの奴隷に見られたんだ、きっとこのまま穴掘りに連れていかれると思ったんだろうな、それが古着とはいえ綺麗に着替えたものだから能力のある奴隷と思ったんだろう」
「そうか」
ギャは一応納得してくれた。
そして。
「マサル、ベッドが一つだ」
「ああ、クイーンサイズだから問題ない。俺と同じベッドは嫌か」
「あたいマサルの奴隷、言われれば一緒に寝る」
「ああ、一緒だ」
ガリガリの八歳だ。女とはいえ襲う気は起らない。起きたとしたら俺は変態だ。
一日中歩いてきた。
疲れている、ベッドに入ると俺もギャもすぐに眠ってしまった。