79・一緒の馬車がいます
「ねえガーネ、王都を出発してから、あの馬車ずっと一緒じゃない」
「そうそう、フェリンも気がついたのね」
フェリン シャクヤは並走する馬車が気になった。
「そうだな、御者が知っているか聞いてみるか」
ガーネは手綱を握る御者に隣を走る馬車のことを聞いてみる。
「あれか、あれはバルノタイザン商会の馬車だな。サメル村にロバを取りに行くんだ」
「そうか、でももう一台走っているぞ」
「あれか、あれは知らない」
「そうか」
聞くだけ聴くとガーネはフェリンとシャクヤのところに戻り、御者から聞いたことを話した。
結局、ガーネ達が乗るカエデ製薬の荷馬車とロバを取りに行くバルノタイザン商会の馬車と、もう一台の馬車は同じ日の夕方にサメル村に到着した。
カエデ製薬の荷馬車は、まず食堂で使う食材を卸すために食堂サクラの前に着く。
「ただいま、帰りました」
食堂の前で待っていた俺に、ガーネが挨拶をする。
「ああ、お帰り。王都を楽しんでこれたか」
「はい」
ガーネの後ろで他の三人もうなずいている。
食材を卸すと、荷馬車は丘の上の屋敷に向かった。
俺とギャもついていく。
屋敷の前に着くとガーネ達は王都で買い物した服などをロバ革の異次元鞄から取り出して自分たちの部屋に運んでいく。
「なあギャ、すごい量だな」
「マサル、女の買い物はあんなもんだぞ」
そなのか、姉貴やお袋は王都に住んでいるからなのか、あんなまとめ買いは見たことない。
ガーネ達が荷物を部屋に運んでいるのを見ていた俺に。
「マサル様、ロバの受け取りの馬車と、素材を取りに来た馬車が来ています」
ムサイさんが話しかけてくる。
「そうか、もうそんな時期なんだな」
素材は年に二回、春と秋の終わりごろに取りに来ている
「マサル様」
俺に声をかけてきたのは、素材を取りに来る業者のラルーダさんだ。
ラルーダさんの後ろには護衛の人や素材判定の人がいる。
「こんにちは、ラルーダさん。えっと、魔獣の素材の担当は村長ですけど」
「いえいえ、やはりサメル村の管理者であるバルノタイザン家のマサル様がいるのであれば、まずは挨拶をするのが礼儀ですから」
「そうか」
「マサル、もっと威厳の有りそうな態度を取れ。ラルーダさんの方が偉そうだぞ」
「ギャ、しょうがないだろ人生経験の差だ」
「ははははは、マサル様ならすぐに、それなりの見た目になりますよ」
それなりね、威厳は身に付かないんだな。
俺に挨拶したラルーダさん達は村長の家に向かった。
バルノタイザン商会の事務所にした屋敷や、ボイルさんの関係者が泊まっている使用人小屋は一杯なので、村長の家に泊まってもらう。
今作っている宿が出来れば、そちらに泊まることになるはずだ。
バルノタイザン商会の馬車とカエデ製薬の荷馬車で来た人たちは屋敷に泊まった。
次の朝、ガーネ達四人が俺の家の倉庫に来る。
「「「「おはようございます」」」」
「おはよう」
「オッハー」
取りあえず挨拶をすると。
「マサルさん、二週間の間、何か変わったことはありましたか」
「別になかったな。姉貴の依頼の薬草もきちんと採取した。昨日来た荷馬車で送る」
採取した薬草は異次元小袋に入れてすでにザエルさんに渡してあった。
「そうですか、それでは今日の予定を教えてください」
「王都から帰ったばかりだろ、今日はゆっくりしていいぞ。そうだな、王都でのことをギャにでも話していてくれ。俺はロバと素材の受け渡しの方を見て来る」
そう言い渡すと、ギャは倉庫のテーブルのお茶を並べる。
そして。
「面白い話を期待するぞ」
などと言っている。
俺はガーネ達に言った通り、まずは村長の家・・・じゃなく、素材の倉庫に向かった。
「マサル様、おはようございます」
「おはようございます」
倉庫には村長とラルーダさんがすでに来ていた。
「おはよう」
挨拶をすると、俺は黙って素材の積み込みを見ている。
ラルーダさんと一緒に属性:闇の人が来て、素材が間違いなく魔獣の物か確認していく。
村からもダンさんが来て一緒に確認している。
「間違いなく、すべて魔獣の革でした」
ラルーダさんの属性:闇の人が確認を終える。
ダンさんも『大丈夫でした』の意味を込めうなずいていた。
確認は昼までかかった。
量が多いからだ。
「村長。助かります」
「ラルーダさん。あれですか、まだ魔獣馬の供給が上手くいかないのですか」
「ええ、そのおかげで、他国からの注文を断っている状態です」
新規の異次元鞄の事だな。
「ですが、サメル村でもこれ以上の魔獣猪の革は難しい状態ですね。取りすぎれば、すぐにいなくなってしまう」
「わかっています」
それ以上の事は言わない。
ボイルさんがズンダダ森で魔獣牛を探していたり、サメル村に数頭魔獣牛を持ち込んだことは知らないようだな。
当然、ロバ革の魔獣鞄は知らない、多分この世に存在しているとも思っていないだろう。
それは一般常識として、魔獣鞄に出来るのは魔獣馬と魔獣牛、そして魔獣猪だけと信じ込んでいる為だ。
魔獣ロバの革でも作れることは、サメル村の一部とバルノタイザン家しか知らない。
魔獣兎の革で異次元小袋も同じだ。
そして次の日の朝。
カエデ製薬の荷馬車とバルノタイザン家の馬車とラルーダさんが乗る馬車が帰って行った。
「マサル。馬車の後ろをロバがついて歩くいていくが、盗賊に襲われないのか」
「襲われるぞ、その為に護衛が乗っていただろ」
「冒険者には見えなかったぞ」
「バルノタイザン商会くらいになると、専属の護衛を社員として雇っているからな」
「そうなのか、カエデ製薬はどうなんだ」
「カエデ製薬の護衛も社員だ。予算的には厳しいが、秘密が多すぎて冒険者の護衛を頼めないんだ」
同じようにラルーダさんのところも冒険者を護衛に使っていない。
ガーネさん達もカエデ製薬の社員になってもらったように、実力の有る冒険者はどこかしらの会社が雇ってしまう。
年を取って冒険者を続けているのは、能力不足や秘密を守れない人たちだ。
冒険者と言えば魔獣狩りだが、この世界にはゴブリンやドラゴンのような魔獣はいない。
大人の冒険者の存在価値は薄かった。




