75・貴族は敵だらけ
「マサル。貴族とは大変なのだな」
「ああ」
俺とギャはサメル村に向かうカエデ製薬の荷馬車に乗っている。
王都に出来た薬師学校を見てきてから、荷馬車が出るまでの五日間、ギャと王都見物でもしようかと思っていたが、姉貴の元、みっちり経営の仕事を覚えさせられた。
俺が社長だからだ。
だが俺はやるつもりはない。
新しい社員を集めるのだ。
「貴族は、お金お金だな」
「ああ」
「足の引っ張り合いだな」
「ああ」
「ボイルさんにも気を抜けないな」
「ああ」
ガタゴトと揺れる荷馬車の中で、思いつくままをギャは言葉にする。
俺は適当に返事をしていた。
「なあマサル。貴族には味方はいないのか」
「いるな。派閥と言って同じ考えや仲のいい貴族同士でまとまっている」
「そうか、一つより集団の方が安心するな」
「力もできるぞ」
「バルノタイザン家は仲間はいないのか」
「一応無派閥だ。貧乏貴族と付き合ってくれる貴族はいないからな」
「『サメル村の会』は派閥じゃないのか」
「協力はしあうが、派閥じゃないな。まあ派閥より強固な集まりではある」
「なるほど、派閥内での裏切りも有るのだな。『サメル村の会』にはそれが無い」
「ああ、そうだ」
荷馬車の中は退屈だ、ギャとのたわいない会話でも無いよりましだ。
三日後無事に荷馬車はサメル村に着いた。
「マサル、家に帰るのか」
「いや、荷馬車と一緒に屋敷に行くぞ」
荷馬車は一度食堂サクラに寄り、異次元鞄に入れてきた食材を下ろす。
俺の家は食堂の裏だから、此処で降りればすぐに家に着くが、王都でのことなど報告することが有るので屋敷に向かった。
「お帰りなさい、マサル様。王都はどうでしたか」
バルノタイザン商会のムサイさんが迎えてくれた。
「ああ、特に変わりは無かった」
「マサル、何かあったぞ。嘘をつくな」
「『特に変わりは無かった』は定型文だ。それに何かはカエデ製薬の方の事だろ」
「そうだな」
「それでムサイさん、ザエルさんとレダンさんを呼んできてくれるか」
「はい」
カエデ製薬の事務所はこの部屋の隣だ、すぐに二人がやってきた。
「「お帰りなさい、マサル様」」
「ああ、二週間あけたが、問題は無かったか」
「はい、マサル様がいない間、問題になることは何もありませんでした」
「そうだな、マサル。此処はマサルがいなくても大丈夫なんだぞ」
「ギャちゃん、本当の事でも口に出さないでください」
「・・・そうなのか」
「マサル様には失礼ですが、レダンも私もバルノタイザン商会で四十年近く努めてまいりました。会社の運営に関してはマサル様よりは上手に出来ると思っています」
ザエルさんの言葉にレダンさんもうなずいている。
「それよりマサル。王都でのこと説明しろ」
「そうだな」
ギャに言われなくても話すつもりだったが、カエデ製薬で使う以上の薬草を姉貴が依頼してきたのは、王都にダンブロア家が作った学校に寄付するための物であること。
そしてダンブロア家は薬師と薬屋の組合を作り組合費で儲けようとしていること。
ダンブロア家が組合を作る前に組合を作ってしまいダンブロア家の計画をつぶすこと。
姉貴が薬師の学校を乗っ取ろうとしていることを話す。
ついでに俺が薬師の資格を貰えたことも伝えた。
「マサル。カエデお姉さまが悪役みたいになっているぞ」
「・・・心の気持ちが言葉に出たな」
「ダンブロア家ですか」
「ザエルさんは知っているのか」
「一応、薬草と薬の流通販売の権利を持っているとだけ」
「それ以外に知っていることは無いのかな」
「「「・・・・・・」」」
それ以上はムサイさんザエルさんレダンさんの三人は知らなかった。
王都でのことを報告し終わると、俺とギャは家に帰る。
「なあマサル」
「なんだ」
「あれだな、ルンドリガンドは魔獣馬で欲を出し、ダンブロアは組合を作り薬師や薬屋をいじめようとする。貴族とは欲深いのだな」
「ああ、だがバルノタイザン家はそうじゃないからな」
「マサル、それは敵を多く作ることになるな」
「そうだな、俺も姉貴のようにたくましく、そして親父のように・・・」
「親父のように、なんだ」
「親父って、何をしているか、よくわからない」
「そうか、今度王都に行ったら聞いてみるのだな」
「ああ」
前にニトルさんがバルノタイザン家はサメル村を守るためいろいろやっていると言っていた。
俺もやらなと駄目なんだろうな。




