72・姉貴に呼ばれて王都へ帰ります
「マサル、また王都へ行くのか」
「そうだ、王都とサメル村をカエデ製薬の荷馬車が往復している。それに乗って来いってさ」
「カエデお姉さまの命令だな」
「ああ、荷馬車は月に四往復しているからな、もっと帰って来て村の状態を報告しろって」
「あれだな、マサル無しでもサメル村のカエデ製薬が回るように、マサル外しを試しているのだな」
「確かに俺が村にいれば、俺がやってしまうからな」
実際、薬草採取はガーネさん達で十分回っているし、事務はザエルさんとレダンさに任せている。
そして、屋敷の回りに作った薬草畑はリルさんが面倒を見ている。
ズンダダ森に猪狩りに行く村の狩人にも薬草採取の仕方を教えてある。
狩りのついでに取って来てくれるので、王都の姉貴からの注文以上に送ることが出来ていた。
俺の名前で作っている宿も正式にカエデ製薬に名義を移した。
こうすればカエデ製薬で宿専門の社員を雇って任せられる。
ただし借金だけは俺のままだ。
宿は完成間近だが、オープンは来春の予定だ。
冬の間にサメル村に来る人はほとんどいないからな。
従業員の研修もしたいが。
「大丈夫ですよマサルさん。こんな田舎の宿です、誰も期待しないで泊まりますから」
掃除して寝具が用意されていれば文句は出ないだろうとロマンヌさんが言ってくれる。
トイレと風呂は共同なので、掃除は村の子供たちに頼めばいい。
客室の掃除で子供を部屋に入れると、物が無くなった時の対応が難しいからな、これは大人の仕事だ。
食事は食堂サクラで食べてもらう。
行き止まりの村なので、飛び込みの客はまず来ない。
常連の予約客だけになりそうなので、フロントの教育も楽なはずだ。
うーん、これならロマンヌさんに経営を任せた方が良さそうなんだがな。
俺は姉貴に言われた通りギャとカエデ製薬の荷馬車に乗り王都に向かう。
「おう、紅葉がきれいだな」
ギャは荷馬車からの景色に見とれている。
「そうだな十月になれば標高の高いこの辺は紅葉に染まるな」
「そうなると、王都に近づくと紅葉では無くなるのか」
「そうだな、王都の紅葉は十一月だな」
「ひと月も違うのか」
荷馬車にに乗って二日目には紅葉は無くなり、まだ葉は緑色だった。
「なあ、マサル。ボイルさんはズンダダ森で牛狩りをやるのだろうな」
「やるだろうな」
荷馬車の中でギャが話し出す。
「どれが魔獣牛だとわからなければ、手あたり次第狩るのだろ」
「そうなるな」
「嫌だな」
「ああ」
「マサル、なんかいい方法は無いか」
「あるが、ボイルさんは賛同しないだろうな」
「何故だ」
「けがや病気、寿命で死んだ牛のみを異次元鞄の材料にするのでは効率が悪すぎる」
「そうだな、サメル村にあれだけロバが居るのに、異次元鞄になったのはまだ三頭だな」
「サメル村のロバの魔獣率は他の十倍だぞ。それでもやっと三頭だからな」
「三頭とも寿命だったんだよな」
「ああ、魔獣鞄にするのに年齢は関係ない。老いぼれからの革でも性能は変わらないからな」
死んですぐに剥いだ革なら何でもよかった。
「マサルの考えはあれだろう。ズンダダ森にノラバさんに行ってもらい、けがや病気や寿命で死にそうな牛を見つけてもらう、そして死んだら革を剥ぐようにしたいのだろ、そうすれば殺さずに済むし、ノラバさんの牛との信頼関係も崩さないで済むからな」
「そうだ、あれだけの草原が有ると、餌で釣ることが出来ないからな、今は牛と仲良くできるノラバさんが頼りだ」
このやり方をボイルさんが認めるかは怪しい。
だが、ボイルさんが狩りを始めれば牛は遠くへ行ってしまう。
あれだけ広い草原の遠くに行ってしまったら、二度と牛と会うことは出来ないだろう。
そのことをボイルさんに納得させるかだ。
もともと野生のロバや馬を飼育できたのは殺さないからだ。
ロバや馬はとても賢く、いずれ殺されるとわかっていれば逃げ出してしまう。
たぶん牛も初めは殺さずに飼育して、何代も第代わりして飼育される事しか知らなくなってから食用として殺すようにしたのだろうな。
そう考えると牛の飼育と繁殖に成功したスターマイラル家はえらく苦労したのだろう。
サメル村を出て三日目の夕方には王都につく。
ギャと話しながらだとあっという間だ。
俺は王都の屋敷に着くとまず親父の部屋へ行く。
「マサルです。ただいま帰りました」
「ああ、特に問題は無いな」
「はい」
問題が無いので挨拶はこれだけだ。
その後家族で夕食を取る。
上の兄のタカシと下の兄のサトシは寮住まいであり、週末でないと家に帰ってこない。
親父とお袋、姉貴と俺の四人じゃなかったギャもいれて五人でテーブルに着く。
「マサル、明日は薬屋カエデにきなさい」
「はい」
姉貴は俺に一言掛けた後は、ギャと話し出す。
「ギャちゃん、マサルはちゃんとお仕事してる」
「大丈夫です、カエデお姉さま。あたいがしっかり見張っています」
ギャは完全に姉貴の味方だな。
食事が終われば風呂に入り寝るだけだ。
ギャも俺の部屋の隣に有る使用人の部屋で寝ている。
翌日、家族で朝食を取り、姉貴と一緒に薬屋カエデに向かう。
「はいマサル、この書類にサインして、内容は確認してあるから大丈夫よ」
「・・・・・・はい」
王都に呼ばれた理由はこれだ。
「マサル、書類はカエデお姉さまが処理しているのではないのか」
「そうなんだが」
「ギャちゃん、一応マサルが社長なの。だからどうしても社長のサインがいる書類が有るのよ」
俺は姉貴から渡された書類にサインをしていく。
姉貴が確認したとはいえ、書類には目を通していく。
「なあ姉貴、あれだけサメル村から薬草を送っている割には薬の売り上げが少なくないか」
「マサル、そんなこと気にしちゃ駄目よ」
「いや、気にするところだろ。まさか薬草を何処かへ横流ししているのか」
「違うわよ。今度王都に薬師の学校が出来たの。だからそこへ寄付しているのよ」
「薬師の学校って成り立つのか」
「普通なら無理ね。私は老薬師の師匠から教わったし、此処にいる三人と独立した五人は私が教えたでしょ。学校で無くても覚えられる仕事よ」
「なら、どうして」
「さあ、まあ貧乏貴族の私がお金で寄付を払う訳にも行かないし、払わずに敵視されても嫌でしょ。だから薬草を寄付したの」
「なるほど」
薬師の学校の話、何故か姉貴は嫌な顔をした。




