67・冷房車両入りました
王都では新機能付き乗合馬車の話題で持ちきりだった。
「おい、トーワ交通の乗合馬車乗ったか」
「ああ夏なのに馬車の中は涼しくて快適だった」
「あれはどういう仕組みなんだ」
「企業秘密だそうだ」
「まさか王族にも秘密なのか」
「そうみたいだ、この前見た馬車から出てきた王子は汗だくだった」
舗装などされず石畳の道では埃がすごく暑くても窓など開けていられない。
町の評判とは裏腹にトーワ交通の社長室は困り果てていた。
「誰だ、馬車の天井に熱交換魔具を付けようなんて言い出したのは」
「・・・あなたですよ」
「畜生、誰があんな便利な魔具を思いついたんだ」
「社長のお仲間のバルノタイザン家の息子だそうです。それよりあれは冷蔵庫や冷凍庫用ですよね。勝手に屋根に付けて良かったのですか」
「・・・良くない。契約違反だ」
「どうします」
「どうと言うか、あれだ。取りあえず王族やプラチナ爵の貴族の馬車に熱交換魔具を付けるんだ」
「すごい数ですよね」
「お前俺の秘書だろ、数えていなのか」
「数えました。五十台ですが、大型なので、熱交換魔具は百二十枚必要ですね」
「うーん、あいつに頭を下げるしかないのか」
「多分ナオト様に下げても無理かと。サメル村に行って直接頼めばどうです」
「お前他人事だと思って、仕方ない行って来るか。お前も来るんだぞ」
「それは無理です。社長の仕事の代わりを私がやらなければなりません。そうですね、トーワ運送のワサイと一緒が良いかと。確かサメル村に娘のノラバさんが行っているはずです」
王都でそんな話が有ったのは、ギャ達とアイスを食べていた十日前の話だ。
「マサル様、お客様が来ております。至急バルノタイザン商会の事務所まで来てください」
もうすぐ夕食の時間だと言うのにムサイさんが呼びに来た。
いい加減にムサイさんは部下を雇えは良いのにとは思ったが口には出さない。
「どうしたのですか」
「トーワ交通の社長、キャメル家の当主様がおいでです」
「ハァ、何でまた」
「マサル、とにかく行くのだ、ギャもついて行ってやるぞ」
ギャと事務所まで行く。
そこでキャメル家の当主から頭を下げられてしまった。
横で当主以上に頭を下げているのはノラバのお父さんだな。何となく雰囲気でわかる。
とにかく話は分かった。
涼しいサメル村にいて馬車を冷房車にすることに気が付かなかった俺にも落ち度がある。
「わかりましたが、あれを作れる人が少ないんです。募集はかけてみますが期待しないで下さいね」
「おお、ありがたい、本当に・・・たのむ」
王族の頼みだからな、直接俺に来なかっただけラッキーかも。
「で、いくらで売るつもりなんですか。まさか王族だからってただで献上するわけ無いですよね」
「・・・考えていなかった」
確かに熱交換魔具はストーブやコンロに使う発熱魔具の魔方式を変換するだけであり、原価は安い。
それに作り方がばれれば属性:闇なら作ることが出来る。
ふっかけるのが難しいのだ。
「うーん、値段はキャメル家で決めて欲しい。それに王族から冷蔵庫や冷凍庫の話も来るはずだし、バルノタイザン家の権利をキャメル家に貸しますから、キャメル家で売ってもらえますか」
ほぼ丸投げだ。餅は餅屋、商売の駆け引きはキャメル家の方が得意だ。
「マサルあれだな、馬車に冷蔵庫や冷凍庫を積めば、野菜や肉を傷まずに運べるぞ。トーム運送で始めれば大儲けだ。それも権利にならないのか」
ギャ、お前はすごいな。
さっきまで不安で不安でしょうがない顔していたキャメル家の当主は急に顔が赤らむ。
「おお、それは素晴らしいアイデアだ。帰ったらさっそく役員会議だ、なあワサイ」
「ええ」
ギャ、お前のおかげで熱交換魔具の製造が大変になりそうだぞ、どうしてくれる。
取りあえず、爺とダンさんにお願いして熱交換魔具を作ってもらい、村長に、サメル村にいる属性:闇がいないか尋ねたのだ。
村長に二人の属性:闇を紹介してもらうと、二人には爺が熱交換魔具の作り方を教える。
秘密保持のため作業場は俺の家の倉庫だ。
爺が初めて作った時は現物が無いのでイメージが定まらず時間がかかったが、現物を見ることの出来た二人は一日で魔方式のイメージを頭に作ることが出来た。
「何だマサル。熱交換魔具は簡単なんだな」
「ああ、暑くて冷たいだけだからな。だが異次元鞄をイメージするのは難しい、イメージできずに作れ無かった人の方が多いと聞いている。はずだが。
「マサルさん、出来ましたけど」
三十歳女性、村長に言われて来た属性:闇の女性だ。
魔獣兎の革で作った小袋を異次元小袋にできるか試してもらっていた。
「マサル、異次元小袋も簡単ではないか」
「ギャちゃん、そうじゃないんだよ。イメージできる人は一発でもできるけど、出来なくて悩みだすと永遠に作れなくなる人もいるんだ」
どうやら爺も一発で作れるようになったらしい。
冷蔵庫も冷凍庫もそして冷房馬車も暑いうちが勝負だ。
王都のキャメル家から送られる発熱魔具の石板を四人総出で熱交換魔具にしていく。
「マサル終わったな」
キャメル家からの発注が落ち着いたのは九月の中頃だった。
「なあ、マサル。馬車の天井に着けた熱交換魔具、冬は逆さまに付ければ暖房だな。もう少し寒くなったらまた注文が来るぞ」
「いや、上から温めるのは効率が悪い、それに馬車の座席の下に発熱魔具が有るはずだぞ」
うんギャは色々思いつくが、現実の知識がまだまだ足りないな。
その頃王都では、
「アイスクリーム売れなくなりましたね」
「ああ、九月も半ばにもなると涼しいからね」
大衆食堂サクラだ。
「でもおかみさん、他の店でもアイスクリーム始めたせいも有りますよね」
「そうだね、冷蔵庫と冷凍庫の販売会社が出来たからね」
「良いんですか、あれってバルノタイザン家が売っていたんでしょ」
「本当の知り合いにだけだけどね、でもかえって良かったんじゃないかな。キャメル家なら王族やプラチナ爵の貴族ともうまく取引できるからね。うちは権利を貸すだけで十分なんだよ」
冷蔵庫と冷凍庫の販売も譲り、アイスの売り上げが落ちても面倒なことが嫌いなバルノタイザン家だった。
そしてキャメル家は冷蔵庫と冷凍庫の販売会社を設立し、トーワ運送にも保冷車が登場していた。
もうかってホクホクのはずの当主だが。
「社長、護衛を頼んだ方が良いですよ」
「そうだな」
熱交換魔具の秘密を探る者たちから身を守るに必死だった。




