66・サメル村は平穏です
「うーん、マサル冷たくてうまいぞ」
ギャはアイスクリームを食べている。
「ほんと、まさか夏にアイスを食べらるなんて思ってもみなかったわ」
「いや、フェリン。冬にアイスは無理だろ」
「ガーネ、そんなことは無いよ。部屋の暖炉をガンガンに焚いて、部屋を暑くすれば冬のアイスは美味かった」
「ノラバは食べたことが有るのか」
「無い、聞いた話」
「それって、貴族やお金持ちでないと出来ないでしょ」
「ギャも経験してないぞ。だが、冬のアイスクリームは貴族でも無理だな」
「いや、王族は食べているらしい。冬の間に大きな氷の塊を作り洞窟にしまっておいて、その氷でアイスクリームを作るって、聞いたことが有る」
「ノラバは、詳しいな」
「ちょっとね、聞いただけ」
ガーネ達四人とギャはサメル村の食堂サクラでアイスクリームを食べていた。
サメル村での俺とギャ、そしてガーネ達の仕事は順調であり、夏の暑い時間は無理せず休むことが出来る。
「マサル、暑いから涼しい山に登って薬草採取をしたいな」
「無理だな。高い山はまだ調査していない。だいたいズンダダ森の調査も終わっていないだろ」
「夏の森はジメジメしてギャは好きでない。冬はサメル村より暖かいから好きだ」
「そうか、じゃあギャの意見を尊重して、森の代わりに山でも調査するか」
「あの、マサルさん、それは難しいと思いますけど」
「そうだった、俺とギャだけで行くと『護衛を付けなさい』ってロマンヌさんが五月蠅いし、護衛としてガーネ達を連れて行くと、さすがに薬草採取に差しさわりが有るな」
「そうです、アカネ様に迷惑はかけられません」
「ははははは、アカネお姉さまは『様』付でマサルは『さん』付けなんだな」
「そう言うギャは呼び捨てだな」
「あたりまだ、マサルはマサルで十分だ」
村人は冒険者のマサルの時からの付き合いで、さん付けに戻ったが、ガーネ達四人も気が付けばさん付けだ
やっぱ、年下のせいかな。
「それでも王都に比べれば涼しいですね」
「それに湿気も少ない。いい所だ」
サメル村は、王都から遠いことを除けば暮らしやすい良いところだ。
「なあ、マサルさん」
「何だガーネ」
姉貴と同い年らしいが、俺はこの村の管理者であるバルノタイザン家の三男だ、たとえ年上でも呼び捨てにする。
「この村って、意外と王都から近いのですね」
「まあ、馬車で三日、早馬なら一日半だからな」
「フェリンもそう言っていたのですが、来るまで信じていなかったんです」
「そうだな、二百年前の歩いて二十日以上のイメージが強いからだろう」
「それって、わざとですか」
「そんなことは無いが、あまりサメル村が有名になりたくない」
「そう、サメル村はひっそりと存在するのが良いのよ」
フェリンも同意してくれる。
「マサル、どういう意味だ。普通の村や町は有名になって発展したいのだろ」
「ギャ、有名でなくても発展しているぞ」
「発展していれば、貧乏貴族と呼ばれなくなるはずだ」
「ギャちゃん、バルノタイザン家が貧乏貴族と呼ばれ続けているのは『わざと』だと思うの」
「・・・・・・ノラバ、どうしてそう思う」
「今、あたしの父親は、トーム運送に努めています」
「トーワ運送ね。まああそこはぼちぼちもうかっているはずだ」
「マサルは、トーム運送を知っているのか」
「ギャちゃん、知っている何も、トーム運送はキャメル家の経営になっているけど、マサルさんのバルノタイザン家との共同経営なのよ」
「マサルから聞いたことは無いぞ」
「ノラバ、あれは共同経営じゃない、運送業の権利を貸しているだけだ」
「マサル、バルノタイザン家は運送業の権利を持っているのか」
「まあな、ロバの飼育と繁殖に成功した後、ロバに荷馬車を引かせて運送業を始めたんだ。それまで荷物を運ぶのは人が担ぐか荷車しかなかっただろ、ロバで荷車を引かせた運送業は画期的だったんだ。まあ初めは運送業で儲けるよりロバを宣伝するために始めたんだけどな」
「そうなのか、だがロバは馬にとってかわったんだよな」
「そうだ、だけどバルノタイザン家の権利は『動物に荷車を引かせ荷物や人を運ぶ権利』なんだ。だから馬が引いても権利は有効なんだ」
「そうなの、キャメル家ではトーム運送と乗合馬車のトーム交通を経営しているの。それでね、この会社がサメル村が遠くて辺鄙なところに有って大変なんだって言えば、みんなそう思うでしょ」
「なんだ、バルノタイザン家とキャメル家はぐるになってサメル村が辺鄙な所にあるようにしているのだな」
「・・・・・・ノラバ、詳しいな」
「ええ、私の家はおじいちゃんの代まで貴族だったの。それで『サメル村の会』に」
「なるほど、それで今はトーム運送か」
「ええ、役員待遇で雇ってもらったから、生活は貴族のころより楽になっています」
「だよね、権利を持っていない貴族って食べていくのでさえ大変だからな」
「マサル、貴族とは大変なんだな。そこで確認なんだが、キャメル家も『サメル村の会』だな」
「そうだ、ノラバは知っていたようだが、ガーネ、シャクヤ、フェリンこれは絶対他言するなよ」
「あの」
「何だフェリン」
「それって私も知っていますし、意外と有名ですよ」
「えっ、そうなのか」
「ただ『サメル村の会』って名前が恥ずかしいから、みんな黙っているんです」
「・・・そうだろうな」
「なあマサル。今の話のトーム運送とトーム交通は儲かっているのだろ、なら共同経営のバルノタイザン家も儲かっているのではないのか」
「だから、権利を貸しているだけだ、それも定額契約だからキャメル家がどんなに儲かってもバルノタイザン家に入ってくるのは同じ金額なんだ」
「おおそれってネズミーランドが失敗したやつだな。東京ネズミーランドが出来るとき、東京が赤字になると思って本社が定額契約にしたら、東京が思いっきり利益を上げて定率にしておけばよかったと地団駄踏んだやつだろ」
「ギャ、それってこの世界の話じゃないだろ、何処で聞いた」
「マサル、奴隷商の中、奴隷たちの住む部屋は魔界だぞ、あらゆる世界のあらゆる事が話されているんだ」
「嘘だろ」
「オー」
嘘だった。
「よし、休憩はこれまでだ、仕事に戻るぞ」
ガーネ達四人は午前十に採取した薬草を丘の上に有るカエデ製薬の事務所に届けに行った。
俺とギャは村長のところへ行く。
「まさる、あれか。村に属性:闇の人がいないか聞き行くのか」
「そうだ」
今俺の副業が忙しい。熱交換魔具の注文が山になりそうなのだ。
そして村長に二人の属性:闇の人を紹介してもらった。
村長いわく。
「決して隠していたんじゃないからね、聞かれなかったから教えなかっただけなの」
こんな風に可愛く言わなかったが、だそうだ。
一人は十歳の男の子、もう一人は三十くらいの女性だった。
村長がすぐに二人紹介できるほどに、サメル村には他所より闇と光の比率が高いんだな。
「女性の属性:闇は珍しいな」
「ええ、そのせいでサメル村からは出ないようにしていました」
「うん、逆じゃないか、誰も女性が属性:闇だとは思わないだろ」
「そうですか」
「そうだ、マサルも・・・」
はい、ギャの口をふさぎました。
まあそれは良いとして。君たちには熱交換魔具の魔法付与の仕方を覚えてもらう。
「それって難しいだろ」
十歳の男の子だ。
「大丈夫だ、爺とダンさんが教えてくれる」
こういう事は、人に投げるのが一番だ。
ついでに異次元鞄の魔法付与も覚えてくれたらラッキーなんだが、さすがにこれは熱交換魔具を作るより難しいらしい。
そして、熱交換魔具の注文が増えたのは、トーム交通が原因だった。




