62・ギャの料理
六月も終わりに近付くと雨期も終わりに近づく。
村では四月から五月に畑に種をまき終わるので、雨期の期間はあまり表に出ない。
冬の二か月と雨期の約ひと月は外仕事は少なくなっている。
その為、暇人が食堂サクラに集まってくる。
「マサル、食堂が忙しいぞ。あたいも手伝わなくて良いのか」
「ああ、手伝っては駄目だ」
「マサルさん、私達は手伝っても良いですよね」
雨で薬草採取に行けないガーネ達だ。
「手伝ってくれるか。そうだな、調理場も広くないから二人お願いしよう」
「わかりました。フェリンと私が手伝いに入ります。ノラバとシャクヤはギャちゃんの相手で良いですね」
「ああ、とにかくギャには料理をさせないでくれ」
「・・・わかりました」
今日も雨、雨の日でも俺は薬草採取だ。
などと雨の度に出かけたら体がもたない。
今日は丘の上の屋敷に有るカエデ製薬の事務部屋に行く予定だ。
「マサルさん、ギャちゃんに料理を指せない理由、ちょっと教えてくれます」
フェリンが小声で尋ねる。
「ギャはな、余分なことをするんだ。 あいつは薬草の下処理も上手いし、薬草づくりもきちんとやる。だが料理になると余分なことをするんだ」
「余分な事とは」
「出来上がり直前のスープに塩を一握り入れたりだな。砂糖や酢を入れることもある」
「あー、料理下手が良くやる。『こうすれば美味しくなると思った』ですね」
「まあ、近いが俺が教えたとおり、小さじ一杯などはきちんと守るんだ。だいたいこれくらいだろうと袋から直接入れることはしない。本当に最後の最後に何か入れるんだ。それも人の料理にまで入れようとしたから、調理場への出入り禁止を言ったこともある」
「それは大変でしたね」
ギャは最後の最後に余分な事さえしなければ、料理もまあまあの腕なんだがな。
そしてギャはノラバとシャクヤに連れられて俺の家の倉庫に連れていかれた。
俺の家に有る何も置いていなかった部屋は、ガーネ達が来てから倉庫と呼ぶことにしたのだ。
決していちいち説明するのが面倒だとは考えていないからな。
ちなみに、丘の上の屋敷は村人たちもカエデ製薬の事務所と呼び、隣の使用人小屋はラバル商事の事務所と呼ばれ、普通にカエデ製薬に行ってくるとか、ラバル商事に配達だとか言われるようになっていた。
掃除を頼んでいる子供たちも、カエデ製薬へ掃除に行くと言うからな。
俺の家は俺の家と言っているが、村人はマサルさんの家と言う。
そして、バルノタイザン家の俺のことはマサルさんと呼ぶ、
様付けは俺も恥ずかしい、一年近くマサルさんと呼ばれていたので、今さら様付は村人も言いづらかったようだ。
「マサル、なにブツブツ壁に向かって説明している。時たまマサルはそれをするな」
「いいだろ、いろいろ説明が必要な時が有るんだ」
「そうか、ガンバレ」
倉庫に行ったと思ったギャが俺の後ろで呟いているのを聞いていたらしい。
気づかなかったな。
ギャが倉庫に行ったので、俺は建築中の宿を見に行く。
カエデ製薬の薬草採取が軌道に乗り、裏にボイルさんの居るラバル商事が忙しくなれば、旅商人や関係業者が泊まる所が必要だと建て始めた宿だ。
宿の建築費用のうち、材料費はボイルさんから借りて俺が出している。
建てているのは村人たちで、人件費は村もちだ。
村も倉庫に有った在庫の革が売れているので、給料の支払いは問題ない。
ボイルさんから借りたお金も、使用人小屋をラバル商事に貸しており家賃が入るので支払いが滞ることは無いだろう。
『うん、誰も作業していないな』
雨の中、見に来たのだからしょうがないな。
それでも、柱が立ち、屋根と壁が張られ、建物らしくなった宿を見ると、ちょっと感動する。
完成予定は来年の春で、まだ九か月有るが、早く出来上がりを見てみたいものだ。
建築中の宿を後にして、俺はカエデ商会へ行く。
そして、カエデ商会のドアをノックして中に入り。
「こんにちは、どうですか」
バルノタイザン家の三男とはいえ、ここでは最年少なので、哀切は丁寧にする。
「いらっしゃいマサル様。特に変わりはありませんが、王都よりカエデ製薬の社員が二名配属になりました」
それって、変わっていると思うのだが。
「ああ、連絡は受けている。たしかザエルさんと同じくバルノタイザン商事をもうすぐ定年になる人ですね」
「そうです。今呼んできますね」
ザエルさんに呼ばれて来たのは、レダンとリルの夫婦だった。
リルさんレダンさんがカエデ製薬に入ると一緒に社員になってもらっている。
「レダンです。よろしくお願いします」
「リルです。あのー、私も社員になっていますが、よろしかったのですか。社員で無くとも夫と一緒にサメル村に来るのはかまわなかったのですけど」
確かにそれでも良いのだけど。
「既に聞いたと思うが、サメル村には秘密が多い。社員には守秘義務がある。社員になってもらう必要が有ったんだ。それに、リルさんは、家庭菜園や花壇の世話をしていたと聞いているが」
「ええ、やっていました。サメル村では王都以上の野菜や花を作れると喜んでいます」
「そのついでに薬草を育てて欲しい。サメル村で薬草の栽培を始めているが、手が足りていないんだ」
「・・・はい」
趣味のついでに薬草を育て給料がもらえる。いいと思うよ。
「リルさん、マサル様はサメル村に常駐するわけではないんだ。マサル様がいなくてもサメル村の業務が回るようにする為に、カエデ製薬の社員を集めているんだ」
先にサメル村に来たザエルさんが説明すると、リルさんも納得したようだ。
俺としても来年の春にはサメル村を出たい。
それまでに体制を作るのだが、一年契約のガーネさん達四人が残ってくれるかが残された問題だ。




