61・シャクヤの特技
「マサル、今日も雨だな」
「ああ」
サメル村は六月になると雨期に入る。
ひと月くらいだ。
スコールのような強い雨は降らないが、それなりの量の雨は降る。
「マサルさん、雨ではズンダダ森に行けませんね」
雨で薬草採取に行けないガーナだ。
ギャを連れてズンダダ森に地図を作りに行ってから、二回ほどガーネ達を連れてズンダダ森に行っている。
ズンダダ森にあるサメル村の森小屋はラバル商会の小屋に比べれば小さい。
村の狩人とかち合うと入りきれないので、狩人が泊まらない時に行ってきた。
「ガーネ達から見てズンダダ森はどうだ」
「薬草採取者としても冒険者としても魅力は有りますね。でももう少し開発されてからで無いと私達では奥に入るのは無理です」
「そうだろな、でも、サメル村の小屋から行ける範囲でも十分薬草採取は出来る」
「ええ、村の周辺とズンダダ森の小屋の周辺でカエデ様から来る依頼は対応できると思います」
「それに姉貴も雨期を考えて依頼を抑えてくれたからな」
「素晴らしいお姉さまですね」
「そう、抑えたのはガーネ達の分だけだがな」
「知っているぞ、マサルは雨でも薬草採取に出かけているのだろ」
「別に隠していないからな。それに村から近いところで取れるものばかりだ」
「そうか、そうだな、マサルなら近場だが、普通の人なら遠いぞ」
ハブかけして走って取りに行っている。
ガーネ達なら一日で帰ってこれるかどうかの所まで行っていた。
「マサルさん、私達も薬草採取に出なくて良いのですか」
「ああ、そうだが」
「でも、一年分の依頼料を前払いで貰っています。こうして家の中で一日過ごすのは、なんか悪い気がして」
「そんなこと無いだろ、家にいるときはギャに色々教えてくれる。特にシャクヤが教えている素手での格闘技は俺も教わりたいくらいだ」
雨で薬草採取の出来ないときはガーネ達に俺の住む家の方へ来てもらっている。
丘の上のバルノタイザン家の屋敷は子供たちが掃除に来るし、ムンさんが教師になっての学習塾が行われているからだ。
それに、屋敷で格闘の訓練をして建物を壊せば修理費がかかってしまう。
その点、薬屋の裏に買った俺の家なら壊しても修理費は安いもんだ。(俺が直すからな)
俺の家は、薬屋をやっていた夫婦が住んでいた家だ。
家を買う時に、ついでだからとロマンヌさんに薬屋と食堂の建物も買わされている。
こっちはカエデ製薬の所有にして購入費はカエデ商会に回した。
その老夫婦が住んでいた家は、ダイニングキッチンで一部屋、俺とギャの寝室で二部屋、そして倉庫か作業場にしていたのか、かなり広めの部屋が一つある。
当然、バストイレ付きだ。
俺の荷物はほとんど異次元鞄に入れているので、広い部屋には何も置いていない。
採取してきた薬草は、ガーネ達は異次元小袋から俺は異次元鞄から、丘に上の屋敷で王都から来たカエデ製薬の社員のロバ革異次元鞄に直接移すので、家の広い部屋は仕事に使うことも無く、何も置かれていなかった。
そして、ここがガーネ達が来てからガーネ達とギャの交友の部屋として使われている。
「それじゃギャ、始めましょうか」
「はい、シャクヤお姉さま」
ギャはガーネ達を呼ぶときには、お姉さまと名前の後ろの必ずつける。
どうやら姉貴をカエデお姉さまと呼ぶと機嫌が良くなりお菓子をもらえることを経験したからだろう。
「それじゃあ、俺は出かけるからな」
「「「「いってらっしゃい」」」」
「いってこい」
うん、ギャは夕食抜きだな。
「では、初めにストレッチから。身体をほくさないと怪我をします」
「オー」
準備運動で体が温まると。
「それでは型の練習を始めましょ」
「オー、って。素手の格闘技も型から始めるのか。あたいは剣でさんざんやったぞ」
「剣と素手では型が違いますからね。それでは腰を落として正拳突きから。えい」
「えい」
シャクヤのまねをしてギャは拳を突き出している。
「ねえガーネ、シャクヤは何処まで教えるかしら」
「そうだな、殴る蹴る投げる全部教えるのは無理だろう」
「フェリン、ガーネ。シャクヤはそんな甘くないぞ、この前何か書いているから覗いたら、ギャちゃんの訓練計画書を作っていた。私達の依頼が終わるまでには初段にする予定になっていたぞ」
「初段って、シャクヤの無限新陰流のですか」
フェリンがノラバに聞くと。
「どうもそうみたい」
「まさか、シャクヤはギャちゃんを暗殺者にでもするつもり」
「出来そうって。言ってた」
「ノラバ、お前から殺しの技は教えるなと言ってくれないか」
「それってリーダーのガーネが言ってよ」
「いや、同室で暮らしているノラバが言え。リーダー命令だ」
そんな会話もギャには届かず。
えい えい えい えい
ひたすら正拳突きを繰り返していた。
そして昼からは。
「ギャちゃん、もう少し女の子らしくしましょうね」
フェリンによる、可愛い女の子になる為の勉強が始まる。
男の俺には理解できないことを教えているのだろう。
そしてシャクヤとフェリン以外の二人は。
「なあガーネ。私は何を教えたらいいのか」
「特になさそうだな」
自分に教えられるものが無いと、意外と寂しいものだ
俺は雨の中、薬草採取に向かった走っている。
そして走りながら考える。
ギャにシャクヤが格闘技を教えるているのを見ていただけではわからなかったが、一緒に薬草採取に行くとシャクヤの気配を見失うことがある。
シャクヤは剣も使うが、時にナイフのようなものを投げて兎を取ったりしていた。
あのナイフ『くない』によく似ていた。暗殺者が使うやつだ。
『シャクヤ、まさか無限新陰流の使い手なのか。全員が魔力検査をしていないと言ったのはフェリンの属性:光を隠す為だけだと思ったが、意外と四人とも秘密を持っているのかもしれないな』
もしかして、四人とも王都にいると『やばい』のかな。
聞くに聞けないそんな思いが頭をかすめた。




