54.ボイルさんの想い
「どうだ、計画は順調か」
「サメル村の事でしょうか」
「それ以外に何が有る」
王都に戻ったボイルさんと従者のブリットだ。
「はい、ズンダダ森の森小屋は順調に出来ております。出来た小屋には調査隊を派遣しました」
「そうか、それで」
「それだけです。調査隊には属性:闇の者はおりません」
「むっ、どういうことだ」
「そのままです。属性:闇がいないと言うことです」
「それでは、魔獣を探すのが難しいだろ」
「はい」
「はいだと。すぐに属性:闇のものを派遣しろ」
「・・・はい」
「それと牧場はどうなった」
「そちらの方は細々とですがやっております。ボイル様が国中を回り探し出した魔獣牛をサメル村に送ってあります。数頭ですので牧場ではなく、サメル村で今まで飼われている牛のようにしております」
「そうだな。ルンドリガンド家ではないが、私が見つけた魔獣牛は、まだ国に登録していない。国の要求通りに魔獣牛を出荷出来ているうちに、サメル村で繁殖させないとな」
「ええ、マルマ王国内での異次元鞄の供給さえおぼつかないのに、他国への販売を増やすなど、もともと無理なのです」
「そうだ、だが我が国も外貨を稼がねばならない。難しい所だな」
「どうですか、ボイル様。サメル村をバルノタイザン家ごとスターマイラル家に取り込むのです」
「それが出来れば、すでにやっている」
「バルノタイザン家は税の滞納でシルバー爵に降格した家です。プラチナ爵のスターマイラル家なら簡単に手に入れらるのでは無いのですか」
「だから言っただろ、出来ればやっていると、やってはいけないんだ」
初めから少し不機嫌だったボイルさんがなお不機嫌になっていく。
「・・・申し訳ありません、出過ぎたことを言ってしまいました」
「もう・・・いい」
ボイルさんは部屋の窓際に立ち空を見上げる。
『そうだ、幼いころから父に言われていたな。バルノタイザン家にはかかわるな、特にサメル村には気を付けろと。もしかかわってしまったなら、出来るだけ友好的につきあうのだと』
その時は何を言っているのかわからなかった、そしてシルバー爵に降格しているバルノタイザン家とプラチナ爵の私がかかわるとは思いもしていなかった。
それが。
「プラチナ爵のスターマイラル家のボイル様でいらっしゃいますね。私はシルバー爵バルノタイザン家が長男タカシです」
王都学校の入学式、隣の席にいたのがタカシだった。
席順は入学試験の成績順に並んでいる。
「新入生代表挨拶」
「はい」
呼ばれたのタカシだった。
この時ボイルは父に言われた『友好的に付き合え』が頭をよぎるが同時に『負けたくない』と強く思う。
それから三年間、どんなにボイルが頑張っても、常に主席はタカシだった。
科目によってはボイルが勝つこともあったが総合成績でタカシを抜くことは無かった。
卒業するとボイルは家の会社に入り魔獣牛にかかわっていく。
タカシも家を継ぐためバルノタイザン商会に入るかと思ったら、ちゃっかり官僚になっていた。
ボイルも官僚への夢はあった。
だが属性:闇は魔獣を扱るスターマイラル家にとって無くてはならない存在であり、その意味はボイルも十分に理解していた。
他から見れば恵まれるボイルはタカシに『嫉妬』していた。
そして、スターマイラル家の仕事をするようになり父の言う意味を教えられる。
サメル村とは。
「なあブリット、サメル村とは何だ」
「今さらですか。サメル村とは二百年以上前辺境防衛の為に作られた村です。しかし十年かけ周辺を知れべても敵対国どころか小さな集落さえなく、撤収されるはずの村だったはずです」
「そうだ、それが今でも有る」
「ええ、なんでもマルマ王国が攻められた時に王族が逃げ延びるに適した場所だから、その為に村を存続させたと」
「そうだ、だがマルマ王国が攻められることも無いのにいまだにサメル村が有るのは何故かわかるか」
「サメル村で、野生のロバを手懐けて、飼育と繁殖に成功したからでは」
「そうだ、そしてバルノタイザン家がゴールド爵の貴族になった」
「特に不思議なことは無いかと」
ブリットはボイルの問いに答えるが、なぜこんな当たり前のことを聞くのか不思議だった。
『そうだな、これ以上のことは一般的に知られていないな。辺境防衛の為に集められた人たちがどういう者たちだったか、貴族や騎士の三男四男や、分家で食べていくのが大変な貴族が村に行ったと言われているのも嘘ではないが、それだけではない』
ボイルは心の中で呟く。
ボイルも王都学校を卒業しスターマイラル家の仕事についてからは国の極秘情報を知ることになる。
極秘と言っても、今まではたいした意味を持たない、サメル村に属性:闇が多くいることだ。
それはボイルもサメル村に実際に行って確認できた。
登録されたダン以外にも属性:闇の人間がいたのだ。
何故、サメル村に属性:闇が多いのか。
ボイルは父親からサメル村が作られた時に、その頃気味悪がられていた多くの属性:闇の人々がサメル村に移住したと聞かされている。
多分そのせいだろう。
それが魔獣の革が不足する今、魔獣が多くいるズンダダ森をかかえ、魔獣判別が出来て、異次元鞄の魔方式を付与できる属性:闇が多くいるサメル村がマルマ王国にとって大きな意味を持ってしまった。
『まだ、サメル村に属性:闇の人間が多くいることは誰にもしゃべっていない。他にバレぬうちにサメル村との関係を強くしなければ』
ボイルはそう思うが、サメル村は、どうしても勝てなかったタカシのバルノタイザン家が管理している。
むやみに頭を下げるのは悔しい。
そして、三男四男分家と言っても、大本は王都の貴族だ。
サメル村の住人一人一人が貴族や騎士の末裔でもあり、村長などは王族の血が流れている。
スターマイラル家でも安易に取り込むのは難しいのだ。
前途多難なこれからにボイルの顔は曇って行った。




