51・村を案内します
食堂サクラと薬屋カエデの合格をもらった翌日。
「マサル、何処へ行くんだ」
「お袋と姉貴を迎えに行く。今日は村を見たいそうだ」
「観光か、見るところはないぞ」
「取りあえずロバ牧場を見る。バルノタイザン家の使命だな」
「それから」
「ズンダダ森を見たいそうだ」
「往復で二日かるぞ。お貴族様があの小屋に泊まるのも考えものだ」
「貴族の俺は泊まっているぞ。それに行くのは峠の頂点までだ。あそこからズンダダ森を眺める」
「そうか、ボイルさんが小屋作りの為に道を良くしたからな。何と森の中間地点に建てた小屋まで馬車で行ける」
「ギャも付いて行くか」
「辞めておく、行くのはマサルだけで十分だろ」
「そうだな、馬車だから御者のトニーは来るし、護衛のモークは馬に乗ってついてくるな」
「ジルとアンとリンはどうする」
「ジルは丘の上の屋敷に行ってムサイやザエルと打ち合わせだな。アンとリンは村長の家で留守番だと思う」
「なら、あたいは村長の家でアンさんとリンさんと遊んでいる」
「ああ、そうしろ」
俺とギャは村長の家に向かる。
家の前にはトニーが乗った馬車がすでに来ている。
ギャをアンさん達に預けると、俺はお袋と姉貴と一緒に馬車に乗り込んだ。
「こうやってマサルと一緒に馬車に乗るのは何年ぶりでしょうね」
「お袋、多分十年以上前だと思う」
「そうね、そう言えば私もこの旅で久しぶりにお母様と一緒に乗りましたね」
「そうでした。そう言えば、カエデとマサルの三人で乗るのは初めてですね」
「「はい」」
この会話だと俺達家族の中が悪そうだが、決してそんなことは無く仲は良い。
とにかく久しぶりの馬車だ。
まずはロバ牧場の見学をする。
「お母様は、ロバに詳しいのですか」
何を今頃聞くのだと思うような質問を姉貴がすると。
「一応ナオトから説明は受けましたが、よくわかっていません」
ナオトとは親父の名前だ。
「姉貴も聞いているだろ。バルノタイザン家の常識だぞ」
「あら、マサルは覚えているのですか」
「当たり前です」
説明されて覚えたのではない、本を読んで覚えたのだ。
俺は不思議と本で読んだことは忘れない。
ロバ牧場に着くと、一通り当たり障りのない説明を俺がする。
「元気に育ってますね」
「はい」
一生懸命説明した結果のお袋の一言だった。
馬車に戻り、畑の中を進む。
「いい畑ですが、マサル薬草は育てていないのですか」
「まだそこまでは手が回りません」
姉貴に言われるが、気が付いていなかった。
おかげですることが増えたな。
畑を過ぎ、ズンダダ森に向かう道を行く。
ボイルさんのおかげで中間地点の小屋まで馬車で行ける。
ちなみに王都から村への道、特に隣村とその次の隣村との道はボイルさんが格段に良くしてくれた。
峠の頂点に着いたのは、丁度昼飯の時間だ。
「お袋、今用意する」
俺は異次元鞄からテーブルと椅子を出す。
そして、テーブルクロスを敷いて食器を並べ料理を盛り付ける。
当然出来立ての熱々だ。
しかしお袋と姉貴はそんなこと見ていない。
「すごい森ですね」
峠の頂点から見ると、地の果てまで森が続くように見える。
「ええ、マサルの話では上質な薬草が沢山あるそうです」
魔獣も沢山いるよ。
「ふふふふふ、そうですね。今回人のふんどしで相撲を取るのはどちらになるのでしょうかね」
「スターマイラル家とバルノタイザン家の事ですね」
お袋、他の人がいないとはいえ、もう少しきれいな言葉で表現しろ。
「私達が気を抜けば、すべてスターマイラル家に取られるかもしれません、しかし負けません」
「ええ、お母様。真の実力は我が家の方が上なのを、この機会に見せつけましょう」
なんか怖いことを言っているぞ。
「それより、お袋姉貴、食事の用意が出来たぞ」
「そうですね、マサル、食堂のケントさんより美味しいのでしょうね」
「・・・・・・はい」
食後怒られなかったので美味しかったようだ。
今回、カエデ製薬の薬草採取を隠れ蓑にして、スターマイラル家のボイルさんは魔獣探しの拠点をズンダダの森に作っている。
俺名義で作ったカエデ製薬はその小屋を使って薬草の採取が出来る。
ほとんど投資しないで、上質の薬草が取り放題になるのだ。
王都にある薬屋カエデ、名前はそのままだがカエデ製薬の店だ。
何処の系列にも入らず姉貴は薬屋をやってきた。
貴族の姉貴がやっているので何と妨害を免れているが、今回製薬会社を立ち上げた。
この立ち上げに裏でスターマイラル家が動いたことは、情報収集のきちんとできる貴族や大手商会では気づいている。
これでカエデ商会にちょっかいを出す薬屋や薬師はどうなるか、考えると怖くなる。
俺がサメル村に宿を作るために借金をした以外にバルノタイザン家には有利な事しかない。
そして借金とは信用だ。
ボイルさんの紹介でお金を借りたことは今後の取引で有利になることだろう。
馬車の中で。
「マサル。今後魔獣牛と魔獣馬はどうなるのかな」
突然の姉貴の問いだ。
「それって、さっき言ってた勝ち負けにつながるんだよね」
「そう。すでにルンドリガンド家が魔獣馬の繁殖に失敗していること、スターマイラル家でもボイルさんが魔獣牛探しの旅をしていることは噂になっています。ボイルさんからも魔獣牛の牧場を作る話も表向きはバルノタイザン家でやって欲しいとの打診が入っています」
「そうですか、ボイルさんとは手紙のやり取りをしていますが牧場をこちらに頼みたい話は初めて聞きました」
「ええ、それだけボイルさんも慎重になったいます。それにサメル村ではすでに牛を飼っていたのですね」
「はい、ミルクを取るために飼っているそうです。特にロバと関係ないので報告書には書かなかったそうです」
「それは問題ではありませんが、以前から牛を飼ってミルクを取っていたことを広げたいですね」
いきなり牛を飼いだせば『何かあるぞ』と気づかれやすいからだな。
「大丈夫ですよカエデ。ほらマサルが作った冷蔵庫が有るでしょ。あれで王都でアイスミルクを売り出します。きっと流行りますよ」
「なるほど お袋、看板に大きく『サメル村特産牛乳使用』と書けば、サメル村で牛を飼っていることがわかりますからね。牛乳ならボイルさんのスターマイラル家が持っている牛の流通販売の権利にかからない。我が家の一人勝ちですね」
「私はアイスミルクよりミルクシチューが良いです」
「ふふ知ってますよ。カエデは冷たい牛乳を飲むと下痢をするんでしたね」
おーい、商売の話だっただろ。下痢の話はやめてくれ。
そんな事やあんな事を話していると。
「奥様、そろそろ帰りませんと暗くなってしまいます」
「そうでした」
長い話しにしびれを切らした御者のトニーに言われ、村長の家に帰ることにした。
『そうだな、ここはアイスミルクと言わずアイスクリームだ、冷蔵庫をパワーアップして冷凍庫を試してみるか。ただし冷たくする分反対面が超高温になりそうだな』
冷凍庫、出来たとしても室内に置くのは無理そうだが、爺と相談して試作してみよう。
「マサル、何ニヤニヤしているの。お金儲けの話なら説明しなさい」
顔色から姉貴に考えがばれる。しょうがないので説明すると。
「明日さっそく作りなさい」
「はい」
爺に迷惑をかけることになった。
村長の家に着くと疲れた顔のギャが迎えてくれる。
「どうだ、アンさんやキャサリンさんは優しくしてくれたか」
「オー、じゃない。おもちゃにされた」
どうやらロマンヌさんのお古の洋服で着せ替え人形にされたようだ。




