49・お袋と姉貴が村に来ます
サメル村の五月は気持ちがいい。
暑くも寒くも無く、新緑の香りが部屋の中まで漂っててくる。
「マサル様にお手紙です」
俺が村の丘にある屋敷に着くとバルノタイザン商会の社員であるムサイから手紙を渡された。
「誰からだ」
「多分、奥様とカエデお嬢様でしょう」
「そうか」
貴族の正式な手紙には封蝋がされるが、この手紙はバルノタイザン商会の封筒に入っていた。
「マサル、家族の手紙が社内便で来たぞ。公私混合の職権乱用だ」
「そんな大げさな事じゃないだろ。だいたいこの村には郵便配達が一週間に一度来ればいい方だぞ、前に俺が手紙を出すのに隣村まで行ったのを忘れたのか」
「そうだった、ボイルさんとの手紙が有るから、社内便は週に三回は来るんだったな。それで何と書いてある」
「えーと、ふむふむ、なんと、そうなのか」
「それではわからないぞ」
「ああ、お袋と姉貴がサメル村に来るそうだ」
「季節が良くなったので観光旅行か、だがサメル村には見るものが無いぞ」
「食堂と薬屋の視察だそうだ。勝手に名前を使ったことは王都に行ったときに怒られたが、名前にふさわしい店か実際に見てみるんだと」
「そうか、それでいつ来る」
「えっと、明日の夕方には着くそうだ、こりゃ手紙が遅れたな」
週に三回社内便が来るとはいえ、一便遅れれば二日から三日遅れになる。
王都からサメル村までは、馬車なら三日だ。
「準備に時間が無いぞ、何処に泊めさせる」
「村長に相談だな、屋敷はバルノタイザン商会とカエデ製薬の事務所になったいる。ボイルさんの関係者も泊まっているからな泊まる場所がない」
「使用人小屋も労働者でいっぱいだな。宿もまだ完成していない。村長の家で大丈夫か」
「ああ、もともと村への客人は村長の家に泊まっていた。ボイルさんクラスの貴族は無理だが、俺の家族なら十分だ」
本来泊まる屋敷に泊まれないのだ、村長の家に泊まれるだけも贅沢である。
俺は丘の上の屋敷を出ると、そのまま村長の家に向かった。
ドアをノックして。
「マサルです」
と言えば、ドアを開け爺が出てきた。
「これはマサル様、どうなされました」
「ああ、お袋と姉貴が明日の夕方来るんだ。此処に泊めてもらいたい」
「では、村長に話してきます。少々お待ちください」
俺とギャは応接室で爺を待つことにした。
村長の家には村長と村長の奥さん、そしてロマンヌさんと爺しか住んでいない。
ロマンヌさんに弟がいるのだが、王都の学校に行っていると聞いている。
「マサル、御茶が出ないぞ」
「我慢しろ」
ギャは御茶よりお菓子が無い言いたいのだ。
「これはこれはマサル様、お話は聞きました。喜んで接待させてもらいます」
村長がお茶とお菓子を持って応接室に張ってきた。
御茶は奥さんがいれたようだが、仕事で手が離せず村長に持たせたんだな。
「ああ、よろしくたのむ」
それだけで用は済んだ、後はギャがお菓子を食べ終わるのを待って村長の家をでる。
「マサルこれからどうする」
「食堂サクラと薬屋カエデのチェックだ」
「おー、なんか保健所の検査みたいだな」
「なんだそれ、とにかく行くぞ」
食堂は昼食が終わるまでは忙しいので、まずは薬屋カエデからだ。
「「おはようございます」」
マイさんとカルが出迎えてくれる。
俺がいなくても二人が交代で店番と薬作りをやっている。
「ああ、おはよう」
「おはよう。カル、検査なのだ」
「おい、ギャ。それじゃわからないぞ。マイさん、明日の夕方にお袋と姉貴が来るんだ」
「サクラ様とカエデ様ですね」
「ああ、二人とも店を見たいと言ってきた」
「それで、店のチェックですね」
「ああ、一応形だけだが見せてもらうぞ」
「はい」
店の中はきれいに掃除されている。
商品の展示も大丈夫だ。
後は薬の品質チェックだ。
「ギャ、薬の品質チェックだ、やってみろ」
「それは駄目だ、此処にはあたいの作った薬も並んでいる」
そうだった、やはり俺がやらないと駄目だな。
日持ちしない薬は俺の異次元鞄に入れている。
日持ちする薬だけを展示しているのだが、古すぎる薬は処分しないと駄目だ。
一通り見ると、劣化した薬はないが、ちょっと危なそうなのが有ったのでそれは処分した。
別に飲んだり塗ったりしても問題はないが、効き目が薄いのだ。
作業場のチェックもする。
これは日ごろから俺が細かく見ているので問題はなかった。
「なっギャ、ギャは俺が五月蠅い五月蠅いと文句を言うが、いざという時にあわてなくて済むだろ」
「いや、いざという時だけ五月蠅くしろ、毎日だと鬱陶しい」
確かにちょっと五月蠅すぎたか、反省しておこう。
薬屋のチェックを終え昼飯を食べ終わると今度は食堂のチェックだ。
「明日お袋が来る。店を見に来るので点検する」
「どうぞマサル様」
ケントは自信満々だが。
「マサル様、店は奇麗にしてありますが、味の方は大丈夫でしょうか。確か王都にある『大衆食堂サクラ』は美味しい店として評判だと聞いています」
メリさんはちょっと心配みたいだ。
「その評判を言っている人たちが、今はこの店に来ているのだろ。何か文句を言っているか」
ズンダダ森に森小屋を作るための職人や労働者が何人も村に来ている。
その中には王都で大衆食堂サクラで食事をした者もいた。
「文句までは言いませんが、ちょっと首をかしげる人もいました」
「それはしょうがないな、何といったもおふくろの料理は俺より全然美味い。俺は俺以上の料理を教えられないんだからな、お前たちに責任は無い」
「そうだ、怒られるのはマサルだ。ケントさんやメリさんが心配することは無いぞ、サイラみたいに堂々としておればよい」
「ギャちゃん、それちょっと違うの。サイラはお料理していないの。何を心配したらいいかもわからないの」
もともとギャの友達候補としてバイトに来てもらった子だ。
料理も教えているが、ケントさんが来てからはあまり料理を作っていなかった。
「サイラは店にいるだけでお客が入る。マサルこういう女の子を何と言うか知っているか」
「看板娘だろ。でもサイラちゃん。君の料理も美味いぞ。今はケントさんとメリさんが作っているが、たまにはサイラちゃんが作って、代わりにメリさんに厨房から店に出てもらいなさい」
「マサル、メリさんが店に出るのか。メリさんなら看板ババアだな」
パッシーン
ギャはメリさんに頭を叩かれた。
まあ店の方は大丈夫そうだ、一応明日は朝から自宅の掃除をしておこう。




