48・サメル村の歴史
「おいマサル、大丈夫か」
「何がだ」
今日も山に繰り出して薬草採取をしている最中だ。
毎日のように薬草採取をしているが、カエデ製薬の社長でもあるので、たまには丘の上にある『カエデ製薬』の看板を掲げた屋敷に顔を出している。
もっと来てくださいとザエルさんに言われるが、今は薬草採取の方が大事だ。
そんな中ギャが俺に聞いてきた。
「ボイルさんのスターマイラル家にサメル村が乗っ取られるぞ」
「そうだな、ボイルさんが本気になったら俺の力では止めることが出来ないな」
「困った」
「ああ」
本当に困った。
「大丈夫ですよ、マサル様」
「そうなのか」
大丈夫だと答えたのは、以前ズンダダ森に一緒に猪狩りに行ったニトルさんだ。
俺は森や山を自由に入れるようになったが、村長とロマンヌさんが護衛としてニトルさんを付けてきたのだ。
俺は今までも一人で薬草採取や狩りをしてきたと断ったのだが、管理者の御子息を護衛無しで森に行かせるわけにいかないと、強引につけてきた。
「どうして大丈夫なのだ」
「それは、この村が出来た頃の話しになります。長くなりますがよろしいですか」
「長いのは無理」
「ギャは無理か、俺は聞きたいな」
「マサル様はどれくらいサメル村の歴史をご存じですか」
「そうだな、二百年以上まえに出来たのは知っている」
「そうですね、二百年以上前、この村は他国からの侵略を防ぐ為に作られました」
「辺境防衛の為か、でもサメル村の先には人が住んでいないのだろ」
「ええ、十年かけて調べた結果、サメル村を通じて王都に攻めることのできる国が無いことがわかりました」
「敵がいないのなら住む必要はないな、あたいならすぐに王都に帰るぞ」
「それが、此処に派遣された人々は帰れないものが多かったのです。防衛の為に作られた村です。国中から集められたのは、騎士や貴族の三男や四男、または分家の分家で食べていくのが大変の者たちばかりだったのです」
「そうだな、貴族で家を継げるのは長男だけだ、まあよっぽどひどいと次男や三男が継ぐが、どっちにしても一人だ。残りの兄弟は自分の力で生きていく必要がある」
バルノタイザン家も貴族としての家を継ぐのはタカシ兄さんだけだ。
次男のサトシ兄さんは騎士になり、俺は商会を任されたとしても、二人とも貴族では無くなる。
「そうです、王都に帰っても仕事が有りません、そこで村の存続理由として、王都が敵に襲われた時王族が逃げ延びる為の村にしたのです」
「うーん、そんな話聞いたことが有るようなないような気がする。確かに村までは一本道だ、守りには適しているな」
「何だマサル、自分の家のことを知らないのか」
「しょうがないだろ、俺は今を生きるのに大変だったんだ。だがそう言われると納得がいくことが有るな」
「なんだ」
「俺の祖先がロバの飼育と繁殖に成功したことでゴールド爵をもらったことだ」
「それだけの貢献をしたのだろ」
「そうなんだが、多分俺の祖先はそれなりの貴族出身だったってことだ」
「そうですマサル様、私の祖先も元は城に努める騎士だったそうです」
「なるほど、村人の祖先はそれなりの身分だったてことだな」
「はい、そして村長の祖先は・・・」
「まさか王族とか言うなよ」
「・・・そうなんです、まあ王位継承権がもらえるかもらえないか微妙な立場だったらしいのですが」
「それでも王族の子孫か、プラチナ爵のボイルさんでもちょっと手を出し辛いな」
「そうだと思います。バルノタイザン家が爵位を預かってからのことはマサル様もご存じですよね」
「ああ、バルノタイザン家がサメル村を管理することになった。管理と言ってもロバの管理だけで後は村長に丸投げしていたがな」
「いえ、サメル村が今もこうして有るのは、王都でバルノタイザン家が色々やってくれているおかげなんです」
「聞いてないけど」
「それはまだマサル様が若いからです。多分これから教わるのではありませんか」
「そうか、まあサメル村をボイルさんに取られない為に、村長と親父に頑張ってもらうしかないな」
「それじゃあマサル、薬草採取を続けるぞ」
「そうだった、良しギャ走るぞ、ついてこい」
「おー」
ギャの『持久』の訓練を兼ね、移動は走るようにしている。
さすがニトルさんだ、ギャのバフかけ程度なら余裕でついてきている。
そして夕方には村の薬屋カエデに戻ってくる。
「社長、お帰りなさい」
バイトから社員になったマイさんが迎えてくれる。
「今日取れた薬草はこれだ、処理を頼む」
「はい」
マイさんとカルの二人は採取した薬草の下処理を始める。
「マサル、此処には異次元鞄が無いのか。あれが有れば取り立てまま薬草を王都へ送れるぞ」
異次元鞄が有れば、鞄に保管して王都にそのまま送るだけで済むのだが。
「カエデ製薬の異次元鞄は王都に行っている。空いた鞄に食堂用の食材を詰めて明日には戻る。そうしたら薬草を詰めて王都に送る。これの繰り返しをしているだろ。戻ってくるまでに下処理した方が効率が良いんだ」
「そうだったな、村で下処理は必要なんだな。それではギャも手伝うぞ」
「ああ、頼む」
ギャも薬作りを俺から教わっている。腕もマイさんやカルより確かだ。
そして、ギャは同じ年のカルと楽しそうにお喋りをしている。
ギャの友達になってくれたんだな。
こうしてひと月あまり平穏な日々を暮らしていた。




