47・社長が山を駆け巡ります
俺がサメル村に来て一年、季節は春だ。
「マサル、今日も山へ行くのか」
「そうだ、薬草の注文が姉貴から山のように来ている」
「何でだ」
「一年前、俺がサメル村に来る前に取っておいた上級薬草の在庫が切れたんだ」
「それで大量の発注が来たと」
「そうだ」
「断れないのか」
「出来ない。新しく作ったカエデ製薬の主たる業務の一番は薬草採取だ」
「薬作りではないのか」
「ああ、ズンダダ森で薬草採取をするための会社だからな」
「採取担当はマサル一人だな」
「一人じゃない、ギャもいる」
「あたいは奴隷、一人に数えるな」
「そうだな、じゃあ命令する、ギャ薬草を取って来い」
「奴隷とはいえ、可愛くて清楚な少女に無理な命令はするな」
「ちっ、無駄飯食いが」
「マサルそう言うことは聞こえない所で言え」
「そうだな」
とにかく姉貴に頼まれた薬草は取ってこないとな。
社長自らの薬草採取だ。
春になってボイルさんの森小屋作りも本格的に始まった。
手前から作っているので、今作っているのはズンダダ森の入り口までの中間地点の小屋からだ。
村から峠をすぎて、歩いて一時間くらい下ったところだ。
「村からの道も整備するのか」
「ああ、今作っている小屋まで馬車が行けるようにするらしい」
「その後は歩きか」
「そうだ、だが荷車は通れるようになる。これが出来ないと、ズンダダ森の森小屋作りが大変すぎてうまくいかないからな」
「そうか、早くできるといいな」
「ああ、道が出来れば、俺なら一日でズンダダ森で薬草採取して帰ってこれる」
「それはマサル一人で行け。ギャには無理だ」
「いや、道が出来るまでにギャには自分へのバフがけを出来るようになってもらう」
「無理ではないか」
「日の光からの防御の為に瞳に強化をかけていただろ、出来るはずだ。それにバフかけによる強化には、『パワー(力)』『速さ』『持久力』があるんだ。『パワー』と『速さ』の強化は危険が伴うので習得に時間をかけるが『持久力』ならそれほど難しくないぞ」
「そうか、むやみにパワーアップすると体が壊れるからな。それで持久力アップはどうするんだ」
「身体の周りにある魔力を感じて身体に取り込むんだ。その時にいつまでも動き続ける自分の姿を想いながらやるんだ」
「それでいいのか」
「出来ればイメージに合った言葉を決めると後々簡単に出来るようになるぞ」
「あれか、治療するときに『ヒール』って言うやつか」
「そうだ、ちなみに俺は早く動きたいときは『加速』と言っている。これには早く動くイメージと身体を速さに耐えられる強化のイメージと、動体視力の強化のイメージを込めてある」
「そうか、いくつものイメージを一つの言葉に込めるのだな」
「そうだ、だがまずギャは持久力を上げるから、そうだな言葉は『持久』でいいだろう」
「そのままだな。だがマサルの走りには着いて行けないぞ」
「仕方ない、高速で移動するときはギャをおんぶする」
「恥ずかしいな、ギャも早く走れるようになるぞ」
「そうだなそういう時は『持久高速』だな、短時間の戦いのときなどは『高速特化』とか『パワー特化』そして『パワー高速』を使い分けるんだ」
「『パワー持久』は無いのか」
「パワーと持久力は相反するからな、どちらかが多少なりとも犠牲になる」
「わかった、自分の身体の特性に合わせたイメージを作り上げ、それに合わせた言葉を当てはめるのだな」
「ギャの理解力はすごいな、そう言うことだ」
俺も『加速』の言葉に込めるイメージが固まるまで苦労したな。
「マサル、話ばかりして手がおろかになっているぞ、薬草取りをしっかりやれ」
「ギャの為に説明したんだぞ」
「おお、ありがとうな」
そういう訳で俺とギャは悪天候でない限りの山を駆け巡り薬草を取っている。
「マサル、進入禁止の山が無くなったな。ロマンヌさんが止めに来ない」
「ああ、俺がバルノタイザン家だと村中に発表したからな。村長の娘でも管理者を止めることは出来ない」
「そうか、だがマサル、一年薬師と料理人をやってよかったな。いきなり管理者の家族が来て村を我が物顔で歩き回ったら顰蹙もんだったな」
「ああ、村人の信頼と信用を得ようと頑張った結果だな」
「そうだな、そこでマサル今日はどの山に行くのだ」
「今日は南西の山だな」
「あっちはまだ行ったことが無いぞ、生えてる薬草はわかるのか」
「下調べだ、無いことを確認するの大事だぞ。ほれバフかけの練習もかねて走るぞ」
「おー」
南西にある山の方が北の山よりなだらかなので、ギャの持久力アップの為に走り回る。
とは言っても二十分走っては十分休むと余裕は持たせている。
「所でマサル。ロバの異次元鞄は出来たのか」
「ああ、一つだけだがな。村から王都への薬草を送るの使っている」
「そこで、ギャにも一つ異次元鞄を与えよ」
「だめだな、数を増やせばバレる可能性が増えるだけだ。魔獣兎の異次元小袋で我慢しろ」
「マサル、その異次元小袋もカエデさんに送る分がまだだろ、ギャはその後か」
「そうだったな、しょうがない繁殖実験用の兎を使うか」
「可愛そうだな」
「そう言うな、兎の飼育も手が足りていないだろ」
「そうだった、そうすれば飼育をしているギャが楽になるな、よし兎を異次元小袋にするぞ、そしてお肉を美味しくいただくぞ」
「兎の飼育からの解放は嬉しそうだな。まあサメル村の魔獣率が高いのは環境の為とわかったからな」
「そうだな、サメル村のロバに魔獣が多いが、他の村の牧場のロバにはほとんどいなかったらしいな」
「ああ、そのことはボイルさんも気づいたらしく、サメル村にボイルさんの馬牧場を作りたいらしい」
「そんな話いつ聞いた」
「何だ俺とボイルさんが頻繁に手紙のやり取りをしているを知らなかったのか」
「愛の文通だと思っていた」
「辞めろ、俺は同性に興味はない、ついでに言うがロリでも無いからな」
そう、ボイルさんの計画がどんどん膨らんいる。
村に牧場を作ることになり、これはカエデ製薬を隠れ蓑にする必要はない。
村にスターマイラル家の事務所や社員の住む寮も作られる。
もうじき完成する俺の宿には、事務所や寮を作る労働者の予約がすでに入っている。
人も増えれば食糧も必要になる。
ロバの革で作った魔獣鞄に王都から食材を詰め込んできて、食堂サクラで作り供給するのだ。
こうすればバルノタイザン家の儲けになり、ボイルさんから借りたお金の返済が早くなる。
「良かったなマサル。村に作った食堂サクラと薬屋カエデが役に立っているな」
「役に立つどころじゃないな、これが無ければボイルさんは村ごとスターマイラル家のものにしただろう。ボイルさんも貴族だ、親切なだけの人じゃないからな」
本当に良かった。貴族同士、仲良く見えても気を抜いたら負けだ。




