46・カエデ製薬
サメル村にあるバルノタイザン家の屋敷に。
バルノタイザン商会とカエデ製薬の看板が掲げられた。
「マサル様、これでよろしいのですか」
「うーん、そうだな」
バルノタイザン商会の一部門として製薬会社を作った。
あくまでボイルさんがズンダダ森で魔獣を探す隠れ蓑だが。
そして製薬会社の社長は俺のはずだが、社名はカエデ製薬だ。
「マサルは人徳も人望も無い、カエデさんの方がふさわしい」
「なあギャ、俺もそう思うっているぞ、それは否定しない、でもなはっきり言うなよ」
「そうです、ギャちゃん。これでもマサル様は優秀なんですよ」
「ムサイ、これでもは無いだろ。それより後ろにいる二人を紹介してくれないか」
「はい、ザエルとムンです。今度カエデ製薬に入りました」
ザエルは五十六歳男性でムンは五十二歳女性の夫婦だと紹介された。
「ザエルです。もうじきバルノタイザン商会を定年で辞めなければならない所を新しい仕事を紹介され、サメル村にやってきました。よろしくお願いします」
「ザエルの妻のムンです。サメル村に行くにあたり、私もカエデ製薬で雇ってもらうことになりました」
「どうです、マサル様。この二人なら秘密たっぷりのサメル村に丁度良いですよ」
「ああ、そのようだね」
カエデ製薬に新しい社員は必要だが、少なくともサメル村に来る人は信頼できる人で無ければ駄目だ。
「今まで使用人小屋の方へ住んでいた私も屋敷に引っ越しました。これでボイルさんが送って来る労働者は使用人小屋に住んでもらいます」
「ああ、今来ている十人なら余裕で住めるな」
「ザエルとムンも屋敷に住みます」
「ああ」
「それで、屋敷と使用人小屋の掃除に、村の子供たちは来てくれるのですか」
「それは今まで通り継続してもらう。ただ、屋敷は子供たちの学習塾としても使っていたんだ。これからは学習塾は出来ないな」
「あの、マサル様」
ムンさんだ。
「広い屋敷です。学習塾をやめることは無いと思うのですが」
「いや、それだけじゃないんだ。俺が子供たちに教えていたんだが、カエデ製薬の社長ともなると教えている時間が無いんだ」
「なら、私が教えましょうか」
「頼めるのか」
「はい、私はバルノタイザン商会の社員ではありませんでした。この村へはザエルに着いてきて、屋敷の掃除や料理をするよう言われています。子供たちが掃除をするのなら勉強をする時間くらい取れると思います」
「良かった。お願いします」
お菓子に釣られて来てくれていた子供たちだが、やっと勉強に興味を持ってきた。
これからも続けたかったのだ。
「マサル良かったな、これで薬師と料理人、それと兎の狩人だけですむ」
「すまないだろ、カエデ製薬の社長としての仕事が有る」
「何をするのだ」
「何をって、何かな」
そうだった。カエデ製薬の本社はバルノタイザン商会の中にあり王都だ。
王都での事務処理は役員の姉貴がやっている。
ズンダダ森での森小屋作りもボイルさんがすべて手配している。
宿の建設は村人がやっているし、宿にお客が来るのはまだまだ先だ。
「マサルの仕事は薬草採取と兎狩りだけだ。料理人の仕事もすることは無いはずだぞ」
「確かに」
森小屋作りに来た人に料理人が含まれている。
ボイルさんは俺や村人に負担がかからないよう手配したのだ。
屋敷には、これからバルノタイザン商会やカエデ製薬の社員が増えるだろう。
その面倒を見る為にムンさんが来た。
社長が社員の飯の準備をするわけにはいかないからな。
ギャの言う通り、俺がやるのは薬草採取と兎狩りだ。
「なっ、わかっただろマサル」
「何をだ」
「社名がカエデ製薬になった理由だ。マサルは名ばかりの社長でカエデさんが仕切っているからだ」
「よくわかったなギャちゃん。実は製薬会社を作るにあたってはボイル様が協力してくれたんだが、ボイル様の所の人が持ってくる手続きの書類の全ては、カエデ様がサインしたんだ」
「まさか、それで新しい製薬会社は姉貴のモノだと思われたのか」
「はい、持ってきた書類には社名がすでにカエデ製薬になっていたのです。カエデ様もボイル様を信用していたので、よく読まずにサインをしてしまいました」
「ほらマサル。はやり見る人が見ればマサルは人徳と人望の無いケチなんだ」
「ケチ言うな。まあ王都で人付き合いをしてこなかったから人徳とか人望は無いだろうな」
「マサル様、そこは認めないほうがよろしいかと」
「そうです、ムサイの言う通り、マサル様はバルノタイザン商会では評判がよろしいです」
ムサイとザエルがかばってくれるが。
「ザエルさん、良い評判ってなんだ、正直に話してみろ」
「・・・・・・はい、節約家でお金の執着心が強いお方だと」
確かに会社の経営者としては良いのだろう。
「ほらマサル。みんなケチって知ってるぞ」
「勝手にしろ。それよりザエルさん。春になったら本格的に薬草採取を始める。採取した薬草は下処理をして王都の姉貴に送るが、その為にサメル村の薬屋カエデのカルとマイを社員にしたい」
薬屋カエデの名前は王都の店だけは残すが実質はカエデ製薬に吸収されている。
薬屋カエデの姉貴の弟子はそのまま社員に決まったそうだ。
「わかりました」
ザエルが答える。
ムサイは商会の社員だから、カエデ製薬の事務処理はザエルだ。
「それと、やはりカエデ製薬としても異次元鞄が欲しいな」
「それは無理かと、王都でも品不足で上級貴族でさえ納期待ちです」
「マサル、入れるのは薬草だけだろ。それなら魔獣兎の異次元小袋で良いではないか」
「そうなんだが、あれもギリギリセーフの限りなく違法に近いんだよな」
「ならロバの革ならどうだ。どうせ兎でもぎりぎり違法なのだろ」
「違法じゃないセーフだ。それにギャ、ロバの魔獣はいないぞ」
「それはおかしい、王都へ四日であたいを乗せた荷車を引いたロバはタフすぎるぞ」
「そうなのか、バルノタイザン商会で扱うロバは丈夫で長持ちで評判が良いんだ」
「マサル様、商会で扱うロバがすべてそうではありません。サメル村の牧場で育ったロバに限ります」
「ムサイ、他の村で育てているロバは違うのか」
「はい、ロバが流行り病になった後、被害を分散させるため他の村にもいくつかロバ牧場を作りましたが、サメル村のロバほど丈夫ではありませんでした」
「わかっただろマサル。この村のロバには魔獣がいるぞ。判定していないだけだったんだ」
「まさか、爺もダンさんもいるんだろ。わからないはずがない」
「あのマサル様、これは商会の最高機密なのですが」
「ザエル、俺が知らないことが有るのか」
「ええ、マサル様はバルノタイザン家のご子息であられますが、商会の人間ではありませんでした。ですが、商会の一部門であるカエデ製薬の社長になられましたので、お教えすることが出来ます」
「それは」
「それは、『ロバの魔獣がいると面倒だから黙っていよう』です。そもそも魔獣猪も村に丸投げして扱わなかったのも面倒だからです。あれも在庫の猪の革を出荷して魔獣猪の革だとバレなければ黙っていることだったのです」
「じゃあ、ロバの流行病の前からロバや猪に魔獣が混じっていることを知っていたんだ」
「ええ、バルノタイザン家と商会の役員だけが知ることです」
「そうかムサイ、魔獣ロバの革で異次元鞄を作るぞ。このことは今ここにいる者だけの絶対の秘密だぞ」
「あたいもその一人か」
「そうだ、バレたら俺が国に処刑されるからな」
「わかった、絶対言わない」
魔獣鞄の為にわざわざロバを殺すことはしない。
寿命で死んだ魔獣ロバでも作ることが出来るからだ。
爺に頼んで亡くなった魔獣ロバを手配し、異次元鞄にしてもらう。
爺も秘密を共有してもらうが、もともと爺自体が属性:闇を公にしていないから秘密を漏らすことも無いだろう。
これでカエデ製薬の仕事はうまくまわるはずだ。
後は俺以外に薬草採取が出来る人を増やすだけだった。




