36・猪狩り
ズンダダ森の入り口に建てられた小屋に着いた翌朝。
「朝食が終わったら狩りの六人と荷物持ちの二人は森に入る、残りの二人は小屋にいてくれ、それからボイルさんとマサル君はどうするんだ」
リーダーのニトルさんが聞いてきた。
「私達三人は森の調査に行きたいのですが、よろしいでしょうか」
「ああ、だがあまり遠くにいかにでくれ、この森は奥に行けば行くほど森が深くなる。出てくる獣も多くなるからな」
「ええ、わかりました」
ボイルさん達は森の調査だ。
この森の魔獣率が高い原因がわかるといいな。
「マサル君はどうするんだ」
「俺とギャはこの小屋の回りを探索します。小屋が見える範囲でしか動きませんから」
「そうか、出来れば残りの二人の手伝いで食事を作ってくれるとありがたいのだが」
「はい、それくらいはお手伝いします」
俺も猪狩りに行きたいが、この森の猪は大型が多いそうだ。
俺の持っている異次元鞄では入りそうにないので、今回は様子見にしておく。
「マサル、魔獣狩りだぞ、楽しみにしていたのではないか」
「ああ、そうなんだが、俺の魔剣を見せるのも面倒になるし、バフかけの身体強化も知られたくない。出来れば一人で行きたいんだが、それはさすがに許してくれないだろ」
「そうか、あたいはマサルの狩りを見たかったな、次に期待しているぞ」
「ギャと一緒に狩りに行くのは、もう少しギャが強くなってからだな」
「わかった、一生懸命に剣の稽古をするぞ」
ギャは剣の稽古を始めてまだ数か月だが木剣で兎を倒すまで腕を上げている。
身体が出来てくれば、俺と一緒に狩りに行くことも出来そうだ。
朝食が終わると、ニトルさん達は森に入っていく。
二組か三組に別れるかと思ったら、八人一緒に行くらしい。
「マサル、別れて探した方が早く猪を見つけられるのではないか」
「そうかもしれないが、お互いの連絡方法が無いのだろう。それにこの森の猪は大型だから、安全の為も有るんじゃないか」
「そうか、わかった。それではマサル小屋の周りの探索に出かけるか」
「そうだな」
俺とギャは小屋から見える範囲で探索することにする。
「マサル君、獣が出てきたらすぐに小屋に戻るんだぞ、この小屋は大型の熊でも耐えられるからな」
「はい、わかりました」
小屋に残った村人が教えてくれる。
通りで、見張りを付けないで泊まったわけだ。
俺は異次元鞄から魔剣を取り出し腰に付ける。
「マサル、剣を付けるとかっこいいな、あたいもやりたいから剣を出してくれ」
「うーん、なまじ振り回すと自分が怪我をするぞ」
「大丈夫だ、かっこをつけるだけだ、抜いたりしない」
「そうか、絶対抜くなよ」
俺はギャから預かっている剣を取り出し、腰につけてやる。
小屋から見える範囲では調べると言ってもたいしたことは出来ないが。
「マサル、椎の実が沢山落ちているぞ、これは食べられるのか」
ギャが椎の実を見つける。
昨日は夕方着いたので気づかなかったが、森には椎の木が生えている。
「ああ食べられるぞ、渋みが有るのも有るが、渋抜きをすれば大丈夫だ、それに椎の実は猪や熊の大事な食料だ、森に椎の木が沢山あれば猪が育ちやすいからな」
「そうか、それより椎の実を持っていると手のひらが温かくなるぞ」
ギャに言われ俺も椎の実を掴んでみる。
確かに掌がボワッと火照る。
これは何かあると思った俺は、
「ギャ、椎の実を集めるぞ」
二人は夢中で椎の実を集め始める。
ガサ ガサ ガサ。
しばらくすると、茂みの先から音がする。
『まずい、何かいる。ちょっと椎の実拾いに集中しすぎたか』
小屋の近くという油断もあった。
ギャも何かに気づいたようで、身をかがめおとなしくしている。
「ギャ、動くなよ」
「お、おー」
俺は魔剣を抜き、息をひそめる。
俺たちに気付かず立ち去ってしまえばそれでよい。
しかし世の中物事はまずい方に動くものだ。
茂みの途切れから猪が顔を出した。
俺から五メートルも無い。
そして最悪なことに猪が突然俺たちを見つけたためパニックになってしまった。
「しょうがない、仕留めるぞ、ギャは動くな」
再度ギャに動かぬよう言うと俺は魔剣に魔力を流す。
最大五メートルまで光の刃を伸ばせるが、そこまで伸ばすと小屋にいる村人に見えてしまう。
俺は光の刃は剣の長さと同じにして猪と戦うことにする。
自分へのバフかけは当然最強にする。
まだまだ小柄な俺は、光の刃の切れ味に頼り、身体強化はスピードと動体視力を重視している。
そして、猪狩りを始めて六年だ、猪の動きは熟知している。
猪の動きを読み、一瞬で魔剣の攻撃範囲まで近付く。
スパッ
俺は猪の首にある頸動脈を切る。
首から大量の血を吹き出すが、なかなか倒れない。
まさか、こいつ魔獣猪なのか、確かただの猪より魔獣猪の方がしぶといと聞いている。
仕方ない『もう一撃入れるか』、そう思ったときやっと猪が倒れてくれた。
「ギャ、小屋に行って村人を呼んできてくれないか、俺とギャでは運ぶのは無理だ」
「わかった、呼んでくる」
ギャを小屋に向かわせる。
『なるほど、狩りの日程を一日にするわけだ、森の奥まで行かなくとも猪はいるんだな』
そう考えながら、ギャが小屋にいる村人を呼んでくるを待った。
「この猪はマサル君が狩ったのか」
昼の食事のために帰ってきたボイルさんが、血抜きの為にぶら下げられた猪を見て驚いている。
「ええ、たまたま運が良かったのですよ、なあギャ」
「そうだ、たまたまマサルの振った剣が当たったのだ」
しらじらしい嘘だが、突っ込みは無かった。
そして猪に触れたボイルさんは。
「すごいな、魔獣猪じゃないか」
「やはり、そうですか」
「マサル君もわかるのか」
「いえ、致命傷を負ってからも、なかなか倒れなかったので、そうでは無いかと思いました」
「確かに、魔獣はただの獣に比べて強くてタフらしいからな」
「そうですよボイルさん、俺たち村人も見慣れてくると、何となくですが魔獣とただの獣がわかります」
小屋にいる村人がボイルさんに話すと。
「そうか、うーん、牛牧場ではそんなこと言っていなかったがな」
「ボイル様、それはきっと魔獣牛を見分けようとしていないからだと思います。それに魔獣牛がいる訳ないと思い込んでいるのでは無いですか」
ボイルさんの従者が説明する。
「そうか、属性:闇で無くても何となくならわかるのか、そうすると、そうか、もしかすると・・・
」
ボイルさんは何か思いついたようだ、一人考え込んでいる。
「マサル、ボイルさん達は無視して昼食を食べるぞ、あたいはお腹がすいた」
「そうだな」
考え込むボイルさんを置いといて、俺とギャは昼飯を食べるのだった。




