32・素材の業者が来た理由
「マサル、いつもより早起きだな」
「ギャ、起きてしまったか、すまないな。今から屋敷に行ってボイルさんの朝食の準備なんだ」
「わかった。ギャも行く」
「寒いぞ、ちゃんと着ていけ」
「大丈夫だ、魔獣の革で作った靴と上着が有る。魔力を流すと温かい」
「そうだったな」
靴だけではなく、魔獣の革で作った上着もサメル村には置いてあった。
かなりぼられたがギャの為に買っていた。
朝食を用意するのはボイルさん達三人と使用人小屋に泊まった素材業者の三人の六人分だ。
「マサル、ムサイの分は良いのか、あいつ多分いつも朝飯食べていないぞ」
「そう言えば、夕食の時パンを買って帰っていたが、まさか朝飯はパンをかじるだけか。まあムサイさんがそれで良いのならこちらから誘うことは無いな」
ムサイさんの分は作らないことにする。
朝食の用意が終わることのはボイルさん達三人が食堂は言ってきた。
「おはようマサル君、これは君が用意したのかい」
「ええ、サメル村には俺以上の料理人がいませんからね」
「そうだったね、お母さんのやっている食堂サクラで修業していると、タカシから聞いているよ」
「兄に言っておいてください、修行ではなく手伝っただけだと」
六人が食堂で朝飯を食べる間に俺とギャも調理場で朝飯を食べる。
全員が食べ終わると俺とギャで食器の片付けだ。
「マサル君、おいしい朝食だった。どうだ私の所の調理人にならないか」
「お断りします」
「そうか残念だな。まあその話はまたにして、これからみんなで話し合いを持ちたいのだが、マサル君も参加してみないか」
「みんなと言うのは、素材の業者に人とボイルさんの事ですか」
「ああ、それに隣からムサイさんを呼んでくれると助かる」
「わかりました。ギャ、ムサイさんを呼んできてくれ」
「おー」
ギャに呼ばれてムサイも屋敷の食堂に入ってきた。
こうして、俺には何が何だかわからない話し合いが始まった。
「まずマサル君に聞くが、素材の業者が突然にサメル村に来た理由はわかるか」
「えっと、素材が欲しいからでしょうね」
欲しいから来たとしか答えられない。
まさか王都で素材が足りなくて困っているとは言えない。
「そうだ、業者の方もそう言うことだな」
「ええ、此処にいる方々に嘘をついてもしょうがありません。マサル様もこの村を管理するバルノタイザン家の御子息であられます。そちらのムサイ様もバルノタイザン商会の社員ですから」
俺とムサイが貴族だと知っているので、名前に様を付けてくれるのだな。
「マサル様、魔獣の素材は村に一任させております。あまり深入りしないようお願いします」
ムサイが注意してくれる。
「そうだな。ボイルさん、これからの話、聞かないと駄目ですかね」
「いや、これからの話は村の人にはあまり知られたくない。マサル君に聞いて欲しいのだ。それじゃあラルーダ、説明してくれ」
素材業者サメル村の担当のラルーダはボイルさんに言われて説明を始める。
「それでは。まず王都にある工房で魔獣の素材を使って異次元鞄を作っていることはご存じだと思います。異次元鞄の材料には現在、魔獣馬 魔獣牛 魔獣猪が使われおりますが、魔獣馬の革が全く入荷しなくなりました。最低限、他国への契約分だけでも作りたいので、サメル村に素材が無いか確かめに来たのです」
「契約分と言いましたが、猪の革でも良いのですか」
「ええ、大丈夫です」
異次元鞄に使われるのは革は、馬 牛 猪だが、一般的には猪だと性能が落ちると言われる。
実際はそんなことは無いのだが、猪だと鞄が一回り小さくなる。
異次元鞄は鞄の間口の大きさで入れられる物の大きさが決まってしまう。
その為、出来る限り大きな鞄が欲しくなり、猪は敬遠されていた。
「馬や牛より小さい猪だと大きな鞄が作れず、本来なら大丈夫なはずはないのだが」
ラルーダさんは『大丈夫』と答えた。
「マサル君も知っていると思うが、大きな鞄を作るには馬や牛が向いている。だが、最近一緒に生まれた猪の革なら何頭使っても性能が落ちないことがわかったんだ。その代わり、今まで以上に数を集めて選別することになるのだがな」
「そうですね、馬や牛は一回に一頭の出産ですが、猪なら八頭を一度に産むことが出来来ます、魔獣同士で子供を産めば、四頭から六頭が魔獣のはずですから」
兎と同様に猪も一回に四頭から八頭の子供を産む。
兎での実証は取れていないが俺の考えでは四頭から六頭は魔獣のはずだ。
「マサル君はそこまで調べているのか、驚いたな。それにサメル村では国に治めている数の数倍は魔獣を取っているのだろ。かなりの量の在庫が有るはずだ」
「ボイルさんも、サメル村のこと詳しいのですね。でも数量を抑えているのは、スターマイラル家とルンドリガンド家からクレームが付いたからでしたよね」
「ああ、もうかなり以前の話だな。異次元鞄に使える魔獣の革の価値を下げたくなかったんだ。だが今は状況が違う。他国の契約分の鞄を作る必要があるからな」
「国の信用が無くなりますからね」
「そうだ、それでこれから村長に話すのだが、マサル君から話してほしいのだ」
「やっぱそうですよね、予定外の注文なら村長は駄目を言える、ボイルさんは村から見たら赤の他人ですからね」
「赤の他人でもないが、口出しできる立場ではないな」
「わかりました、村長に話してみます。でもうまい具合に一緒に生まれた猪の革が有ると良いですね」
俺は、サメル村にどれくらいの在庫が有るか知らない。
それに一緒に生まれたか調べるかも知らないかったが、とにかく村長に話だけは付けることが出来た。
「マサル、難しい話が長かったぞ」
「何だ、ギャはお茶を飲んではお菓子を食べ、飲んでは食べを繰り返していただろ」
「同じお茶とお菓子だと飽きるぞ、それより誰か扉を叩いているが、ギャが出ても良いのか」
「いや、俺が出る」
玄関を開けると、掃除に来た子供たちが震えていた。
「悪いな、鍵をかけていた」
「うー、マサルさん、お菓子いつもの三倍だよね」
それくらいはしょうがないな。
子供たちを屋敷に入れ、掃除を始めてもらう。
そして、俺たちは村長の家に向かった。




