31・冬なのに魔獣素材の業者が来ました
「マサル、大変だ大変だ」
「何が大変なんだ」
「広場に馬車が有る」
「そうか、それは珍しいな」
来客のようだ、サメル村にはロバは沢山いるが馬はいないからな。
「マサルさん、いますか」
今度はロマンヌさんが来た。
冬のサメル村は日の暮れるのが早い。
食堂が終わるころにはすでに真っ暗になっている。
そんな時間に馬車が付いたのだ。
そもそも冬にサメル村に他所の人が来ることは無い。
「ええいますよ。それでどうしたんです」
「予定していないのに、素材の業者がやって来たんです」
「それって本物ですか」
「ええ、いつもの人ですし、王国発行の注文書も持っていました」
「そうですか、それで」
「えっと、すいません六人分なのですが食事できますか」
「わかりました準備します」
ロマンヌさんが俺に頼みたかったのは食事だった。
冬の間サメル村に人が来ないのは隣村から来ると日が暮れてしまうからだ。
ただでさえ寒い冬で日が暮れたら移動どころではない。
かなりの急用なのだろう。
俺は異次元鞄から作り置きの料理を出し温め始める。
しばらくすると六人の業者とロマンヌさんと村長が食堂に入ってきた。
馬車を引いてきた馬は厩で暖房魔具で温めている。
ロバ用だが餌も与えているみたいだ。
しかし六人は多くないか。
魔獣猪の素材と言えば革であり、馬車一台に三人も来れば十分だ。
「やあ、マサル君久しぶりだな」
「えっ、ボイルさん」
牛の魔獣を育てている、プラチナクラスの貴族、スターマイラル家のボイルさんだ。
「ああ、旅の途中でサメル村に向かう業者に有ったので一緒に来たんだ」
「一緒に来たって、どんな旅をしているのですか」
ボイルさんの家も魔獣を扱っている。魔獣の素材を扱う業者と知り合いなのもわかるが。
「旅の内容は言えないが、ここに来たのは好奇心だな」
「そんなんで良いのですか、此処に来ても魔獣の牛は見つかりませんよ」
「マサル君、何を勘違いしているのだな、私は決して魔獣の牛を探すために旅をしているのではないのだよ」
「ボイルさん、それってマサルが正しいって言ってるよ」
ギャでもわかるよな。
「それとあれでしょ。サメル村の周辺って魔獣の比率が高いから原因を調べたいとかでしょ」
「ああそうだが、マサル君、あまり賢いと寿命が短くなるぞ」
「他所に行ったら言いませんが、此処でなら大丈夫ですよ」
「そうだな、此処にいるすべての人が魔獣にかかわっているんだったな、まあそう言うことで春までお邪魔することになったのだが、マサル君、住むところを用意してくれないか」
そうだよな、プラチナ爵のボイルさんを泊めるとなると、丘の上の屋敷しかない。
その上接待するのは、村人では無理なのでシルバー爵の俺がやるしかないな。
「ええ、わかりました」
返事をしながら、いつも通り夕飯を食べに来ているムサイに目配せする。
ムサイは軽く頭を下げ食堂を出て行った。
『屋敷にボイルさんたちを泊まれるようにしろ』の合図がわかったようだ。
はっきり言って屋敷には家具が無い。
使用人小屋にベットが二つあるので、ボイルさん用に一つを運ばせる。
ボイルさんの従者と御者の寝床は村長の家から運んでもらう。
客人は村長の家に泊まると聞いていたからベッドくらいあるだろう。
これで何とか泊まれるようになる。
六人分の食事を出し終えると俺も屋敷に向かう。
「マサル、失礼の無いようにするんだぞ」
「ギャに言われなくても当たり前だ」
屋敷に着くと、ムサイさんの他に村長と村の若い衆が数人来ており、村長の家から持ってきたベットを運び込んでいた。
「マサルさん、ベットを運び込むだけでよろしいのでしょうか」
「ああ、村の子供たちの掃除は完ぺきだからな。後は風呂を沸かしておけば大丈夫だと思う」
一応風呂には俺の異次元鞄からサニタリーセットとタオルを出しておいた。
「マサル、お茶の用意くらいできるようにするぞ」
「ああ、頼む」
ギャが気が付いてくれて助かる。お茶の道具一式とお茶菓子をやはりカバンから取り出す。
「これで準備は出来たな」
村長に確認するが、村長は貴族の生活を知らないので答えようが無かった。
「マサル、ボイルさんたちが来たようだ」
「ああ、案内してくれ」
ギャに迎えに行かせる。
此処まで馬車で来たんだ、さすがお貴族様だ。
俺が店の裏に引っ越したのでロバもいなくなり、空いた厩も有る」
「それでは私たちはこれで失礼します」
「ああ、すまなかった」
村長と村人たちは帰っていく。
「おお、なかなかいい屋敷だな」
「そうですか、この前まで雨漏りしていましてけどね」
「使わない屋敷とはそんなもんだよ。だが丁寧に修復したのだろ」
「ええ」
「ボイルさん、マサルは何でも器用にこなす。自分で屋根に上って治していた」
「うーん、マサル君も貴族なんだから危ないことはやめた方が良いぞ」
「そうなんですが、此処では俺は旅の冒険者なんです。村人でバルノタイザン家の息子だと知っているのは、村長と娘のロマンヌさん、それと爺だけなんです」
「そうだったのか、それでは俺もただの旅商人と言うことにしてくれ」
「・・・・・・そうですか、ボイルさんが貴族だと知ったのは村長さんとロマンヌさんだけですから大丈夫だとは思います。あとムサイさんはバルノタイザン商会の社員ですから、気にしないでください」
こうしてボイルさんは春まで旅商人としてサメル村に滞在することになった。




